第22部
【2023年09月21日16時26分05秒】
「えい・・・なが・・・・・」
「あー。スッキリした。どう?これでおにぃちゃんも分かった?ワタシを怒らせるとどうなるかって事が」
俺の目の前には返り血を受けて全身が真っ赤に染まっている珠洲と、その珠洲に射殺された栄長の死体がある。その周りの地面には真っ赤な液体がぶちまけられ、一般人が見たら気絶してしまうのではないかと言う様な光景になっていた。
そうだ。今、珠洲は俺の目の前で栄長を射殺した。『俺の目の前』で『俺の数少ない知り合いである栄長を殺した』。
俺はこんな事をした珠洲に対して、押さえきれない怒りが込み上げて来た。
「何でだ・・・・・」
「?何が?」
俺が問い掛けても、珠洲は何を聞かれているのかを理解している様子は全く無く、首を傾げている。その適当な態度が俺の更なる怒りを促した。
「何で栄長を殺したぁぁぁぁぁ!!!!!」
「『何で』って?そんなの決まってるよ。ワタシはただ、おにぃちゃんを元に戻す為にこんな汚い事をしただけだよ」
「前にも言っただろ!俺はそんな事望んじゃいないんだ!それなのに!」
俺は平和に、平凡に、普通な生活が出来ればそれで満足なんだ。それ以上もそれ以外も何も求めてはいない。
だが、珠洲はそんな俺の理想を悉く破壊して行く。俺から大切な人達を奪おうとし、そして、現に奪った。こんな事は兄妹以前に、人間として決して許してはいけない事だ。
俺が珠洲に怒っていると、逆に珠洲は俺に向かって大声を張り上げて来た。
「じゃあ逆に聞くけど、おにぃちゃんはワタシに何かしてくれた!?」
「え・・・・・?」
「いつもいつもいつも何でも全部ワタシに押し付けて、お父さんとお母さんがいないからって適当に生きて、見知らぬ女を家に連れ込んで、居候させて・・・・・そんなワタシの気持ちが分かるの!?」
もしかして、珠洲はただ寂しかっただけだったのではないだろうか?両親が海外勤務で1年の内で夏休みの時期しか帰って来られない。そして、兄である俺はまるで役に立たない為、自分の事もあるのに家事のほとんどをしなければならない。
そんな中俺と言ったら、『平凡主義者』だの『ロングスリーパー』だの言いながら好き勝手に生きていた。そして、湖晴の居候の事もあり、珠洲と一緒にいられる時間は次第に減って行っていた。
今回、珠洲が暴走している原因が俺だと言う事実は変わらない。だが、少し状況が変わった。珠洲はただ『俺に構って欲しかっただけ』だったのだ。
「ワタシはおにぃちゃんに好かれる為に今まで我慢して何でもして来た!おにぃちゃんに恋愛対象として見て貰う為だけに今まで生きて来た!それなのに・・・・・おにぃちゃんはそんなワタシの気持ちになんか、全然気付いていなかった!」
「ごめん・・・・・」
「ワタシは別におにぃちゃんに謝って欲しい訳じゃないんだよ?ワタシはただ、おにぃちゃんに恋愛対象として見て欲しい。そして、何時までも一緒に暮らしたいだけなんだよ?」
「それは・・・出来ない・・・・・」
「そう」
パンッ!
俺が珠洲からの申し出を断ると珠洲は再び拳銃を構え、死体となった栄長の頭部に銃口を当てて、発砲した。
「もう、止めてくれ・・・・・珠洲・・・・・俺はそんな珠洲は見たくない!」
「ワタシだって、そんな風にワタシに謝るおにぃちゃんなんて見たくないよ。だけど、これは全部おにぃちゃんが悪いんだよ?おにぃちゃんがワタシの気持ちに気付かなかったから・・・」
「あらあら。それは随分と自己中心的な考えじゃないかしら?」
「「!?」」
そんな時、何処からかありえるはずもない声が聞こえて来た。驚いた俺と珠洲は辺りを見渡した。数秒後、そのありえるはずもない声の主の姿が俺達の目の前に現した。
「栄長・・・・・?栄長!?どうして・・・」
「あら、この私がたかが一般人に殺されるとでも思ったのかしら?」
その人物はついさっき珠洲に殺されたはずの栄長だった。しかし、見た所怪我なんて全くしていない。ただ、雨が降っているせいか着ている制服が少し濡れている程度で、他には何も変わった所は見当たらなかった。
だが、何で栄長が生きている?栄長なら、今さっき、俺の目の前で珠洲に射殺されたはず。いや、栄長が生きていてくれた事に関しては嬉しい限りだが、その真相が分からない。
「チッ。まだ生きていたか」
パンッ!パンッ!パンッ!
すると、そんな栄長の姿を確認した珠洲が3回ほど栄長に発砲した。だが、その全ての弾丸は栄長の所持するテレポーターによって何処かへとテレポートさせられた。
「だから、私には拳銃なんて効かないのよ」
「栄長!これは一体・・・」
「念には念を入れて、立体映像射影と自立歩行が可能な組織の特殊人工知能ロボットを1台、次元君の後ろに付かせておいたのよ。それで、そのロボットが珠洲ちゃんに壊されて、その事が私に伝達されたからここまで来てあげたって訳」
「そうだったのか・・・・・。良かった・・・・・」
細かい専門用語は全く分からないので一先ず置いておいて、取り合えず今は栄長が生きていてくれて良かった。湖晴が持つタイム・イーターでは人の生死は改変出来ないからな。どうしようかと、ずっと考えていた所だ。
俺と栄長の会話を静かに聞いていた珠洲だったが、どうやら痺れを切らしたらしく、憎々しく栄長に話し掛けた。その表情は俺に話し掛けていた時とは大きく異なり、険しくなっていた。
「さっきからおにぃちゃんと何を話しているんだ、オマエ。おにぃちゃんには近付くな。そして、死ね」
「生憎だけど、それは出来ないわね」
「何だと?」
「私は次元君に幾つか頼み事をされているから。次元君に近付かない訳には行かないのよ」
俺は栄長に音穏と阿燕を守ってやって欲しいと頼んだ。おそらく、今栄長が言った『次元君に幾つか頼み事をされている』の『頼み事』とはその事だろう。
「そう。それなら、仕方ないね」
「珠洲・・・・・?」
栄長に話し掛けたが予想外の返答が帰って来たからなのか、呆れ果てた様な表情となった珠洲は再び俺の方を向いて話し掛けて来た。
「おにぃちゃん。1つゲームでもしようか?」
「ゲ、ゲーム?」
「うん。ゲーム。おにぃちゃん好きでしょ?」
ゲームだと?こんな状況で珠洲は突然何を言い始めるんだ。しかし、珠洲が言ったそのゲームの内容は俺が想像していた内容とは大きく異なる物だった。
「『殺戮ゲーム』」
「!?」
「ワタシは今から茶髪リボン、青髪白衣、金髪ツインテール、赤毛ポニーテールを殺しに行く」
「な、何を言って・・・」
音穏、湖晴、阿燕、栄長を殺しに行く、だって?それはゲームではなく、今まで珠洲がして来た事ではないのか。いや、ロボットが相手だったとは言え、珠洲が1度はした事ではないのか。
そんな事を考えていた俺だったが、珠洲によるルール説明はまだ続いた。
「それで、おにぃちゃんは降参する権利がある。おにぃちゃんが降参してくれたら、ワタシはもう誰も殺さない」
「それなら・・・」
「でも、この時におにぃちゃんには幾つか約束をして貰うよ?」
「約束?」
さっさと降参して犠牲者を1人でも減らそうと考えていた俺は珠洲に降参すると言おうとしたが、珠洲の台詞が横から入った。
「うん。1つ目は、ワタシと結婚する事」
「け、結婚!?い、いや、俺達はまだそう言う年齢では・・・」
「愛さえあれば、法律なんて関係無いよ」
前からそうだったが、珠洲は何でそんなに俺の事が好きなんだ。俺には特徴と呼べる特徴が存在しない。更に、過度なロングスリーパーであり、基本的に大抵の事にやる気が無い。好きになる所なんて何も無い。そんな男を世間一般の評価では品行方正・文武両道・才色兼備の珠洲が好きになる理由が分からない。
確かに、同じ家で2人で一緒に暮らしている時間は長い。だが、それだけでは珠洲が俺の事を好きになる理由にはならないはずだ。何か別の理由があるはずだ。しかし、それが何なのかは今の俺には検討も付かなかった。
「そして、2つ目。それはワタシ以外の全てから関係を断ち切る事」
「ど、どう言う意味だ」
「2人で何処か田舎にでも引っ越してそこで暮らす。勿論、携帯やネットの電波なんて繋がらない所で。お父さんとお母さんやお金とかの心配はいらないよ?全部ワタシが処理・管理するから」
つまりそれは、俺のこれからの人生の全てを珠洲だけで埋め尽くすと言う事なのか?逆に、珠洲もこれからの人生の全てを俺だけで埋め尽くすと言う事になる。
珠洲からの2つ目の条件を聞いた俺は、さっき俺自身が考えていた珠洲が何故俺の事をそこまで好いているのか、その理由を聞く事にした。
「何でだ・・・」
「?どうしたの?おにぃちゃん」
「何でそこまで俺に固執するんだ!」
「前にも言ったでしょ?ワタシはブラコンなの。ワタシにはおにぃちゃんがいれば良いの。だから、ワタシはおにぃちゃんに全てを捧げる。そして、おにぃちゃんもワタシに全てを委ねれば良いよ」
珠洲は本気だ。その根拠は今の台詞を言った時の珠洲の表情・目やこれまでの行動を思い出せば分かる事だ。珠洲は何があっても俺の事を自分のだけの物にして孤立させるつもりだ。
「アハハハハハ!これで万事解決だね!おにぃーちゃん♡」
珠洲はそんな風に大声で笑った。満面の笑みで。俺の方を向いて。
「次元君。聞き入れる必要は無いわ。どうせ、次元君がその用件を呑んだ所でその子は私達を殺すつもりよ」
「俺は・・・どうすれば良いんだ・・・・・」
横から栄長の忠告が入る。俺の中では何が正解で何が不正解なのかが判断出来なくなっていた。俺が珠洲の言う通りにすれば皆は助かる。だが、栄長の言った事が現実になれば結局皆は死ぬ。
しかし、俺が珠洲の言う通りにしなければ皆は珠洲に殺される。俺と湖晴と栄長だけでは守り切れると言う保障も無い。それに、湖晴と栄長は珠洲の殺人予定者の中に入っている。だから、無理をさせる訳にはいかない。
その時、珠洲が俺に忠告を続けようとした栄長に大声を発した。それに、栄長も応えた。
「おにぃちゃんを・・・・・惑わすなぁぁぁ!!!」
「そう言えば、聞き忘れていたわね」
「何をだ」
「このゲーム、流石に不公平過ぎるでしょう?貴方に有利過ぎるものね?」
「・・・・・チッ。気付いたか」
栄長のその台詞を聞いて、俺はふと我に返った。そうだ。このゲームは明らかに珠洲に有利なのだ。冷静に考えればすぐにでも分かる事じゃないか。
俺が降参すれば珠洲の勝ち。俺の知り合い4人が死亡しても必然的に珠洲の勝ち。即ち、このゲームは珠洲の敗北が設定されていないのだ。何があっても珠洲が勝つ様になっている。何人死のうが、そんな事は元々勝敗には関係無いのだ。
その事に気付けて良かった。こんな不公平なゲーム、認める訳にはいかない。
しかしそのすぐ後、珠洲は栄長の質問に答えた。
「良いよ。じゃあ、ワタシの敗北条件も付け加えてあげる。どうせワタシが勝つんだし、そのくらいどうって事ない」
「そう。随分な自身ね」
「黙れ。そして、死ね。それじゃあワタシの敗北条件は『ワタシが死んだら』で良いや。それに、おにぃちゃんがワタシだけの物にならないなら、ワタシが生きている意味なんて無いし」
「す、珠洲!?お前、何言って・・・」
珠洲が死んだら、珠洲の負け?だが、それでは結局最低でも1人が死ぬ事になるではないか。俺は珠洲を見捨てる事は出来ない。だが、俺が降参しても皆が助かる保証は何処にも無い。
「あら。やけに簡単な敗北条件ね。だったら、今ここで貴方を殺せば全てが終わるって訳じゃない」
突然、栄長がそんな事を言い始めた。俺が栄長を見てみると、栄長はテレポーターの先端を珠洲に向けている。この世界の・・・・・過去改変が成功したこの世界の栄長は殺人を犯してはいない。それなのに、こんな事が原因で殺人させてしまうのか?そんな事は絶対駄目だ!
「栄長!止めろ!」
「・・・・・次元君。大丈夫。私は人は殺さないから」
「そ、そうか・・・・・」
「うん。この世界の私は綺麗なんだよ」
栄長は珠洲に向けていたテレポーターの先端を下ろし、笑顔で俺の言う通りにした。栄長にはもう誰も殺させない。それは俺自身が誓った事なんだ。
その時だった。俺の耳に、再び悪魔の囁きが聞こえた。
「それじゃあ、おにぃちゃん?」
「え・・・・・?」
「ゲーム・・・・・スタート!」
珠洲が俺に勝ち目が存在しない、この『殺戮ゲーム』の開始を宣言した。それは、誰かが死ぬまで続けられ、たとえ俺が降参したとしても誰も死なないとは限らない、デスゲームだった。
「さて、最初は誰を殺そうかなー?青髪白衣と赤毛ポニーテールは得体が知れないから、やっぱり茶髪リボンかなー?」
「!?栄長!音穏と阿燕を頼む!俺は湖晴の所へ行く!」
「分かったわ!次元君も気を付けてね!」
「ああ」
俺の恐怖心を煽る様な珠洲の台詞を聞いた俺は栄長に指示を出し、その後、自宅にいるはずの湖晴の元へと向かった。
このゲーム。何としてでも1人の犠牲も出さずに勝ってみせる。今はそんな方法を見付ける事は出来ていないが、その内見付けてやる!絶対にだ!
話し合いの場を離れる間際、珠洲のこんな台詞が聞こえて来た。
「やっぱり、おにぃちゃんはおかしいね♡」




