第21部
【2023年09月21日16時09分54秒】
杉野目との会話が終わった後、俺は教室に戻ってすぐに睡眠活動に没頭した。そしてそのまま、午後の授業は全て寝かせて貰った。そのお陰もあり今では眠気も・・・・・スッキリとまでは行かないが、そのほとんどを取る事が出来た。
そして、放課後。ついさっき終礼も終わりざわついている教室の端で、俺は帰る準備をしている栄長に声を掛けた。栄長の席は俺の席の1つ前なので、話し掛け易い。
「栄長」
「ん?ああ、やっと起きた?次元君」
「ああ」
俺は杉野目に連れ去られて、解放されて教室に帰って来た後から今の今までずっと寝ていたからな。そんな俺から話し掛けられたのだから、栄長が驚くのも無理は無い。
「てっきり、2度と目覚めないかと思っていたよ」
「いやいや。流石に寝たまま目覚めないなんて事は無いぞ」
いつもの事だが、俺は栄長に何だと思われているんだ。あと、2度と目覚めないなんて怖い事、冗談でも言うなよ。寝るのが少し怖くなるだろ。
「それで、どうしたのかな?次元君」
「1つ頼み事をしても良いか?」
「ヤダ」
即答ですかい。だが、今回は俺は栄長にとやかく言える様な立場ではない。だから、下から下から頼む事にする。
「そこん所をお願いしますよ、栄長さん」
「分かってるって。音穏ちゃんを守っておけば良いんでしょ?」
「何だ、分かってたのか」
「次元君ー、この私を舐めて貰っては困るよー。少なくとも私は次元君よりは勘は良い方だよー?」
「そうだったな。悪かった」
以前までの会話からお分かり頂けていると思うが、栄長は何時でも言葉巧みに話して来る。それは、相手が何を言おうとしているのか、何を考えているのかを大方把握しているからなのだと思う。
それに過去改変前に聞いた話だと、栄長は英才教育を受けていたと言うらしいじゃないか。英才教育なんて物は平凡を具現化したかの様な存在である俺には全く想像も付かない事だが、何か凄い事だと言う事は分かる。
その事も関係して、栄長は勘が鋭いのだろう。何度も俺を引っ掛けて来たりした事もあったしな。流石は完璧超人と言った所だろうか。
その後、栄長が逆に俺に問い掛けて来た。
「頼み事って、それだけで良いの?」
「いや、もう1つある」
「仕方ないからこの私が不本意ながら次元君の願い事を1つだけ叶えてあげましょう」
相変わらず俺との会話では言い回しがかなり酷い栄長だが、気にしないでおく事にする。
「阿燕を・・・・・前に言っていた、俺が過去改変をしたソフトボール部の女の子の豊岡阿燕も守ってやってくれないか?」
「でも、ソフトボール部って事は、今日は雨が降っているからクラブは無くてもう帰っているんじゃないの?」
念の為に補足しておくと、俺が通っている原子大学付属高等学校は雨が降ると、80%の確率で屋外クラブは活動禁止になる。その理由は『雨が降っているからと言って、校舎内で活動すると屋内で活動するクラブやその他の生徒の迷惑になるから』らしい。ちなみに、残りの20%は小雨の時だ。
屋外クラブにとったら迷惑極まりない校則だと思うが、それでも屋外クラブである女子ソフトボール部が県代表になる程強いのだから、大して影響は無いのかもしれない。つまり、その分普段の練習がきついと言う意味だがな。
「いや、雨でクラブが中止になっても、多分阿燕は音穏のクラブの様子を見に行っているはずだ。現に、昨日だってそうだったからな」
「分かったわ。それじゃあ、私は軽音部が活動している音楽室に行っておけば良いって事ね?」
「そうなるな」
「それで、時間になったら2人と一緒に帰る、と」
「ああ」
やはり、頭が良くて、勘が良くて、オマケに人思いの栄長と話していると会話が進み易くて助かる。俺も俺自身の目的に集中出来るしな。
「その間、次元君は何をしているつもり?まさか『何もせずに家で寝る』なんて言わないわよね?」
「まさか。俺は家に帰って湖晴に色々と相談をするつもりだ」
流石に、栄長にだけ仕事を押し付けて俺は家で寝ているなんて事は酷過ぎる。俺には俺の目的があるんだ。今回の珠洲の事件を解決する為に湖晴に相談する、と言う目的が。
「そう。なら良いんだけど。あと、もう1つ忘れない様にね?」
「何がだ?」
「土曜日に、皆で買い物に行くんでしょ?」
「あー。そう言えば、そうだったな」
そうだった。昼休みに音穏が言っていたな。持ち物が少な過ぎる湖晴の為に服を買いに行くとか何とか。
「次元君は寝てたから知らないと思うけど、午後の授業の休み時間、音穏ちゃんはずっと何処に行くかを私と決めていたのよ」
「そうだったのか?」
「だから、音穏ちゃんの為にも今回の件はなるべく早く片付ける事。良いわね?」
「分かった。遅くても金曜日までには何とかする」
俺は皆の為に、そして俺自身の為に珠洲を更正させる。今まで通りの平和で平凡な日々を取り戻すんだ。こう言う時はタイム・イーターが役立ってラッキーだと思う。
「それに、私だって不死身じゃないんだから、不意打ちを喰らったら死ぬからね?」
「でも、勘が良いんだろ?」
「まぁね」
「じゃあな。後は頼んだぞ」
「りょーかい。次元君も気を付けてね」
「ああ」
そして俺は家へと向かい、栄長は音穏と阿燕を保護する為に音楽室へと向かった。だが、この時はまだ誰も知らなかった。このすぐ後に俺に待ち受ける悲劇がある事を。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
『それでは、次のニュースです。昨夜未明、原子市北部にて路上で男性が倒れていると言う通報がありました。警察が現場へと掛け付けた所、その男性は既に死亡していました。その男性の死体の頭部には銃撃された痕跡があり、警察は殺人事件としてこれを捜査する模様です。また、そのすぐ後にも同様に頭部に銃撃された痕跡がある死体が発見され、同一犯の通り魔事件として、警察は近隣の住民に聞き込み調査を・・・』
雨が降る中、飛行船からニュースキャスターを務める須貝輝瑠の声が聞こえて来る。相変わらず、現在時刻なんてお構い無しに酷い事件を放送している。
と言うか、雨が降っているから飛行船を飛ばすのは危ないのではないかと思ってしまうのだが、最近の科学技術の進展には感心する。雨の音にも負けないくらいで、更に、大き過ぎない音量でニュースの内容が耳に入って来るのだから。音の波長を変えているとか、そんな感じだろうか?俺にはよく分からない。
だが、それと同時に俺は嫌な予感がした。と言うよりは、あの飛行船からのニュースが聞こえた後には、絶対に何か不幸な事が起きる。音穏の時だってそうだったし、栄長の時だってそうだった。
だから、俺は迫る何かに身を構えた。直後、俺に向かって迫る足音が雨の音に紛れて聞こえて来る。
「おにぃーちゃん♡」
「!?す、珠洲!?」
その足音の主は珠洲だった。雨が降っているのにも関わらず傘も差していない為、びしょ濡れになっている。そして、右手には拳銃。更に、服には誰の物かは不明だが血が付着していた。
「どうしたの?おにぃちゃん。そんなに怯えて」
「どうしたもこうしたも無いだろ!昨日は何処に行っていたんだ!」
「別に?ストレス発散だよ」
「ストレス・・・発散・・・・・?」
「そう。やっぱり、本物を打ち抜くってのは楽しいよね♡」
「な、何を言っているんだ・・・・・?」
以前珠洲は射撃部に入る理由を『ストレス発散』だと言っていた。そして、今珠洲は昨日何処かへと行っていた理由を『ストレス発散』だと言った。
しかも、『本物を打ち抜く』だって?射撃の本物ってそれは・・・・・人か?人、なのか?まさか、今さっき流れていた通り魔事件の犯人って・・・、
「それはともかく、おにぃちゃん」
「な、何だ?」
俺のマイナスな思考を邪魔するかの様に、珠洲は話し掛けて来る。
「昨日、青髪白衣と寝たでしょ」
「え?いや、それは違・・・」
あれは湖晴が『何かあった時の為に一緒にいた方が良い』って言ったからであり、何も疾しい事はしていない。それに、俺は珍しく上手く寝付けなかったので湖晴と一緒に寝た訳ではない。
と言うか、何でその事を珠洲が知っているんだ。やはり、1度家に帰って来ていたのか。そして、その時に・・・・・湖晴を殺そうと思っていたのか。
「おにぃちゃんの嘘吐き!」
「!?」
すると、急に珠洲は俺に怒鳴って来た。
「おにぃちゃんは今までワタシと一緒に寝てくれた事なんて1度も無かった!」
「い、いや、1回くらいは・・・」
「それは全部、ワタシが勝手におにぃちゃんの布団に潜り込んだだけだよ!だから、おにぃちゃんの意思で一緒に寝た事は1度だって無い!」
「す、珠洲・・・・・落ち着けって!」
やはり、珠洲の中の何かはとうの昔に吹っ切れてしまっている。冷静に考えれば、何が正しくて何が正しくないのかはすぐに分かる事なのに。それなのに、今の珠洲は冷静な判断が出来なくなっている。
「落ち着け?ハッ。馬鹿馬鹿しい。全部おにぃちゃんが悪いんだ!ワタシがこんなに愛してるのに、ワタシがこんなにおにぃちゃんに尽くして来たのに、おにぃちゃんは別の女の所に行くんだ!」
「違う!俺はそんな事・・・」
「うるさいうるさいうるさい!今の狂っているおにぃちゃんの声なんて聞きたくもない!ワタシが聞きたいのは、ワタシに優しかったあの頃のおにぃちゃんだ!」
「珠洲・・・・・」
俺は何も変わっていないはずだ。湖晴と知り合った後に急激に知り合いが増えたが、それだけだ。俺にとったら大きな変化でも、普通の人からしたら知り合いが数人増えるのは日常茶飯事だ。だから、この場合、変わってしまったのは珠洲の方なのだ。最近起きた『何か』が、珠洲を劇的に変えてしまったのだ。
「だから、おにぃちゃん。これで、元に戻ってくれるよね?」
「え?」
すると、珠洲はそう言って、物陰に隠したあった『ソレ』を引き摺って来た。『ソレ』は人だった。『ソレ』は血塗れで力が抜け切っている人だった。
いや、違うな。『ソレ』は『栄長燐本人』だった。
「ほら。見ての通り、殺して来たよ♡」
「え、栄長・・・・・栄長ぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺は栄長に呼び掛けた。だが、返事は帰って来ない。体中の至る所から血が滲み出て、全身にはまるで力が入っていない。
殺されたのか・・・・・?珠洲に・・・・・?科学結社の№2で、しかも完璧超人の栄長が・・・・・?
「これ以上誰も殺されたくないのなら、元のおにぃちゃんに戻ってね?じゃないと、コイツ以外にも犠牲者は増えるよ?」
「珠洲・・・・・お前ぇぇぇ!!!」
「あれ?おっかしぃなー。やっぱり、おにぃちゃんはこれくらいじゃあ元には戻らないか」
俺が叫んでも、珠洲の様子は変わらない。その様子はまるで、こうする事が真実であると信じ切っている様な、そんな風に思えた。
「次元・・・君・・・・・」
「栄長!」
栄長から微かな声が聞こえて来た。良かった。栄長はまだ生きていた。今から治療すれば、まだ死なないはずだ。
しかし、俺のそんな希望さえも珠洲は打ち砕いた。
「チッ!まだ生きてたか。生命力だけは高いな。だけど・・・」
「おい、珠洲・・・・・!止めろぉぉぉぉぉ!!!!!」
「死ーね♡」
そして、珠洲は右手に持っていた拳銃の引き金を引いた。
パンッ!
そんな銃声音とほぼ同時に辺りに血が飛び散った。珠洲の頭部から足元までその血が飛び、雨で濡れる地面は真っ赤に染まった。




