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Time:Eater  作者: タングステン
第四話 『Sn』
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第19部

【2023年09月21日12時26分08秒】


 昨夜は一睡も出来ないままに次の日となってしまった。結局、珠洲は家に帰って来なかった。・・・・・はずだが、もしかすると1度は帰って来ていたのかもしれない。


 俺がそんな風に考えた理由は勿論ある。今朝は珠洲の姿こそ無かったものの、昨日俺の為に弁当を作ってくれた音穏、栄長と誰かは不明なもう1人の計3人から借りていた弁当箱が、原型を留めない程に大きく破損していたのだ。昨日の事を考えると、おそらく珠洲の仕業だろう。


 プラスチック製の容器の1つはプレスされたのか粉々になっており、1つは熱されたのか表面がドロドロな状態になっており、1つはカッターやらナイフやらが突き刺さって傷だらけになっていた。ちなみに、湖晴から貰ったのはカップ麺と水筒だけだったので被害は無かった。


 そして、今日はその件含めて昨日の事について俺は皆に謝らないといけない。


 昼休み。学校の教室で自分の席に座っていた俺は、トイレから帰って来たのであろう音穏達に声を掛ける。


「音穏、栄長」

「?どしたの?次元」

「えっと、昨日は弁当ありがとな・・・・・」

「あー、その事?良いんだよ、気にしなくて。今日は持って来れなかったけど、大丈夫だった?」

「ああ。昨日の内にコンビニで買って来てある」

「そっか。それなら良かった」


 音穏はいつも通り俺と会話してくれた。それに、見た所全てが普段通りの様に思えた。勿論、音穏の隣にいた栄長も。それはまるで、昨日の襲撃者の件を忘れたかの様に。


「それにしても、何かあったの?次元君。普段よりも更に浮かない顔をして」

「・・・・・まぁ、俺は確かにいつもテンションが高い訳ではないが・・・そうではなくてだな・・・・・」


 俺は何時でも何処でも騒いでいる様な人間ではない。むしろ、その正反対だ。常に睡眠活動に時間を費やしている俺にはそんな時間も体力も気力も無いのだ。


 ・・・・・またいつもの様に話が逸れてしまった。俺の悪い癖だ。今日は2人に2つの事で謝らないとならないのに。その2つとは、さっき述べた通り弁当箱の件と襲撃者の件だ。


「昨日、2人から貰った弁当箱の事なんだが・・・・・昨日の晩に洗ったまでは良かったんだが、今朝見たら壊れてたんだ。多分、不安定な所に置いてたから落ちたんだとは思うのだが。また今度買い直すから、それで許してくれるか?」

「?別に良いのに。そんな事」

「え?」


 ストレートに『弁当箱は粉々になりました』や『弁当箱はドロドロになりました』なんて事を言うと2人が傷付くと思い、俺は嘘を付いた。弁当箱を洗ったのは事実だが、不安定な所に置いてあったから落ちたと言うのは嘘だ。そんな事は無かった。


 だが、俺がそんな風に謝ると栄長は予想外の返答をして来た。続けて、音穏も同様の台詞を俺に言って来る。


「そうだよー、次元。私達はあの弁当箱ごと次元にあげたんだよー?」

「そうだったのか・・・・・?」

「そうそう」


 もしかして、俺が勝手に話を大きくしていただけなのか?そう言えば、俺は『弁当箱を洗って返す』と言ったが、2人は1度も『弁当箱を返せ』なんて事は言って来てはいなかった。そう考えると、やはり俺が考え過ぎだったのだろうか。


 音穏と栄長は本当に優しいな。友達が沢山いて、それなりに人気があるのも納得出来る。


「だが、それでは俺の気が済まない。弁当を作ってくれた事も含めて2人にはお礼をさせて欲しい。何でも言ってくれ。俺が出来る範囲なら何でも構わない」

「んー。急にそんな事言われてもねー」

「困るわね」


 今の台詞通り、俺の気は済まなかった。何故なら、弁当を作って貰った挙句、その弁当箱を壊したから返さなかった、なんて事は恥ずかし過ぎて目も当てられないのだ。勿論、俺にはプライドなんて物はこれっぽっちも存在しないが、こう言う所は譲れない。


 俺が音穏と栄長に聞くと、突然の質問だったからか2人共かなり困った顔をしてしまった。確かに、俺が2人の立場だったらかなり困ると思うしな。無理は無いだろう。


「だろうな・・・・・。まぁ、考えておいてくれ」

「あ!そうだ!」

「何だ、音穏。何か思い付いたのか?」


 すると、何かを思い付いたのか、音穏が急に大声を出した。


「そう言えば次元。湖晴ちゃんって、私服持ってなかったよね?」

「え?あ、ああ、多分そうだと思う。持っているのは白衣とシャツ数枚と下着程度だと本人が言っていた」


 いや、この間の日曜日に俺と音穏と阿燕の3人と一緒に温水プールに行ったから、正確にはそれらの衣服類に水着が足されるとは思うが、決して普段着ではないのでここではあえて言わなかった。ちなみに、湖晴の場合のみ白衣は普段着だけでなく様々な用途に対応して機能する。


「だったらさ、皆で湖晴ちゃんの服を買いに行こう!」

「皆で?」

「そうそう!燐ちゃんも行くでしょ?」

「うん。途中で用事が入るかもしれないけど、大丈夫だと思う」


 科学結社の方は大丈夫なのだろうか。もしかすると、この世界の栄長は意外と暇なのかもしれない。


「よし、決定!次の土曜日は皆で遠出だ!」

「まぁ、俺が言い始めた事だしな。分かった。湖晴にも伝えておく」

「よろしく~」


 そうして、俺と音穏と湖晴と栄長の4人は次の土曜日に買い物へ行く事になった。そもそもこれは俺が2人にしたかったお礼であり、拒否権は無いので何の問題も無い。あと、湖晴にも伝えておかないとな。


 と言うか俺自身、湖晴の為に色々と買ってやりたいと思っていたしな。普段はそれなりに自由人で満足出来ている様子の湖晴だが、それでもやはり年頃の女の子だ。服だって、白衣だけでは飽きるだろう(俺からしたら白衣だけでも充分にOKだが)。


 それに、湖晴の今の部屋はかなり質素だ。言葉通り何も無い。あるのは湖晴が持ち込んだ衣服類と俺が貸している布団とロボットやパソコンくらいだ。とてもではないが、女の子の部屋とは思えない。そんな数少ない服だって、前に湖晴の部屋に行った時は床に放置されてたし。


 家に家具が余っていれば移動してやる事も可能だったが、残念ながら上垣外家にはそんな家具は無かった。空き部屋はあっても、中々大型の家具は余らないものなのだ。流石に現在海外出張中の両親の物を借りると言う事は出来ない。それに、湖晴が居候している事は両親には内緒だからな。


「それで、大分話しが変わるのだが良いか?」

「何かしら?」


 一通り湖晴関連の事柄を考えていた俺だったが、そろそろ話を切り替える事にする。どちらかと言えばこちらの方が本題なのだが、まぁ、そんな事は気にしたら負けだ。内容は、昨日の襲撃者の件だ。


「昨日の放課後の事なんだが・・・」

「「襲撃者の事?」」

「そうそう・・・・・って、あ。そうだった・・・」

「「ん?」」


 俺は2人に話し掛けたのだが、それは結果的には不味かった。そうだ。2人は『自分だけが被害に会ったものだ』と思っているが実際には違う。『2人共被害に会っている』のだ。


 2人共それぞれが何を言っているのかを認識出来たらしく、暫く顔を見合わせた後2人はそれぞれに質問を投げ掛ける。


「え!?音穏ちゃんも襲撃されたの!?」

「『も』って事は燐ちゃんも!?」


 あー、話がややこしくなりそうだ。この話題は1人ずつに聞くべきだった。


「と言うか、次元は私達両方の事件に関わっていたの?」

「う、それは・・・・・」

「次元君。危険だから、あれ程家で安静にしておくようにって言ったのに、守らなかったの?」

「それは、音穏から電話が掛かって来たから・・・」

「何?私のせいだって言うの?まぁ、助けに来てくれたのは嬉しかったけど・・・・・」

「やっぱり次元君。ハーレムを作ろうとしてるんじゃないの?」

「してないしてない!」

「それはともかく、あの後家で例のアレを調べてみたんだけど・・・」

「それはともかく、あの後家で阿燕ちゃんと話したんだけど・・・」


 2人が俺に次々と質問を投げ掛けて来る。俺がまだ完全に答え終わる前に。途中で意味不明な質問をされたりもしながら。


「だっーーー!!!」

「「!?」」


 そんな状態に耐え切れなくなった俺は、ついに大声を出して2人を制止した。2人はそんな俺に驚いて、口を閉じた。教室内にいる10数人のクラスメイトは一瞬俺の方を見て、その後見て見ぬふりをした。


「2人共落ち着け!俺が言いたいのは、そんな事でない!それらの事も大事だが、今話すべきなのはそうではない!」

「だったら、何よ・・・」

「ごめん」

「ちょ、ちょっと!?ど、どうしたの!?次元!?」


 俺は感情を落ち着けて、冷静に2人に頭を下げて謝った。昨日の件全てに関して、心の底から申し訳なく思ったからだ。


 そんな俺を見た音穏は途端に焦り始めた。対して、栄長は普段通り冷静だった。


「全部俺のせいだ。2人には迷惑を掛けた。勿論、湖晴や阿燕にも」

「どう言う事?」

「皆を襲撃したのは珠洲だったんだ」

「!?」


 俺はここで結論を述べた。昨日、皆を襲撃したのは珠洲だ。間違いない。理由は今から話すが、この事は事実であり真実だ。俺が知っているあの頃の珠洲は何処かへと行ってしまったのだ。今の珠洲は完全に狂っている。俺のせいで。


「嘘・・・でしょ・・・・・?」

「嘘でも冗談でもドッキリでもない。昨日俺は音穏達と帰った後、珠洲に気絶させられて拘束された。その時の会話でその事が判明したんだ」

「何でそんな事になったの?」


 衝撃の事実を聞いた2人。音穏は唖然としているが、栄長は大方予想が付いていたのだろうか。あまり動じた様子はなく、むしろ、この件に関して更に話を掘り進めようとしている様にも思えた。


「珠洲は俺と知り合っている女の子全員を殺そうとしている。現在、俺と知り合いの女の子は珠洲を除くと、音穏、湖晴、阿燕、栄長の4人だ」

「ちょっと、待って。湖晴ちゃんも何かあったの?」

「ああ。珠洲は家中にトラップを仕掛けて湖晴を殺し掛けた。そのせいで、今俺の家の中は滅茶苦茶だ」

「そうだったんだ・・・・・」

「だから、ごめん。いくら謝っても謝り切れないと言う事は分かってる。だが、これからは俺が珠洲を何とかする。だから、少し時間をくれ」


 無茶な願いだった事は分かっている。自己中心的な思考だって事は百も承知だ。2人が俺から縁を切りたいと言って来ても、何ら不思議ではない。死ぬよりはましだからな。


 だが、俺はそんな事にはなりたくなかった。皆とはせっかく知り合う事が出来たんだ。これ以上知り合いは増えなくても構わない。だから、今俺と普通に会話してくれている子とは何時までも仲良くしていたい。俺はそんな事を考えて、今の台詞を言った。


 珠洲を更正させる為に。珠洲前の様に戻す為に。皆にキチンと謝らせる為に。


「・・・・・うん。次元なら大丈夫だよ」

「音穏・・・・・」

「そうね。次元君ならそのくらいどうにでも出来るものね?」

「栄長・・・・・」


 2人はやはり優しかった。自分が危険な目に会うかもしれないのに、場合によっては死に至る可能性も否定出来ないのに、珠洲は本気なのに。それなのに、俺の事を見捨てるなんて事はしなかった。


 そして、俺は改めて思った。俺は心優しい子達と知り合えたな、って。そしてこれは全部過去改変が成功したからある事なんだ、って。


「ありがとう。絶対に何とかしてみせる。だから、2人共何かあったら俺に電話してくれ。すぐに助けに行くから」

「分かった。ありがと、次元」

「まぁ、私は助けなんていらないけどね」

「もー、燐ちゃんは素直じゃないねー」

「え!?私は別に・・・」

「分かってるって。燐ちゃんは頭良いもんね。だから、大丈夫だよね」

「そ、そう言う事」


 危うく栄長が科学結社に関わっていると言う事が音穏にバレるのではないかと思ったが、その心配はいらなかったらしい。まぁ、音穏は科学結社そのものの存在を知らないので、バレても問題はなさそうだが。


 それにしても、栄長よ。いくら問題無いとは言え、迂闊過ぎるぞ。見ていた俺でさえ少し焦ったくらいだからな。


 その後、俺は栄長を呼んで、音穏から少し離れた所で頼み事をする事にした。


「栄長。音穏達の事を頼んでも良いか?」

「あれ?電話したら助けに来てくれるんじゃないの?」

「助けに行く。だが、俺は1人しかいない。だから、その時の為に出来る範囲で良いから皆を見ていてくれ」

「・・・・・分かったわ。次元君も気を付けて」

「ああ」


 何度も言う様だが、栄長は科学結社の1人だ。テレポーターと言う瞬間空間移動装置を所持しているだけに留まらず、様々な役立つ(危険な)武器を持っている。


 だから俺は、もしまた珠洲が暴走したその時は音穏達を守って貰おうと考えたのだ。俺だって、すぐに現場に行ける訳ではないし、そもそも俺が珠洲を止める事が出来る保証は無いからな。


 俺と栄長が話し終わり、音穏の元に戻ろうとしたその時だった。背後から何者かに話し掛けられた。


「少し良いかしら?」

「?・・・・・俺か?」


 その人物とは俺の隣の席の転校生、杉野目施廉(すぎのめせれん)だった。どうやら俺に話し掛けて来たみたいだが、何の用だろうか?


「あら?貴方は次元君と知り合いだったのかしら?」

「私は上垣外次元君に声を掛けているのよ」


 すると、栄長がそんな杉野目に問い返した。そう言えば、栄長と杉野目は仲が悪いんだったっけか。栄長が久し振りに登校して来た日も、何か妙な感じだったし。


「・・・・・別に。ここでの私と上垣外君の接点は席が隣だったくらいよ」

「そう。それで、そんな貴方が次元君に何か用かしら?」

「ええ。少しだけ上垣外君を借りて行くわ」

「え?ちょ・・・待っ・・・・・」


 栄長の言葉も無視して、杉野目は俺の腕を引っ張って何処かへと連れて行こうとした。それにしても、外見によらず意外と力が強いんだな。まるで、俺の扱いに慣れているかの様な、俺の腕の何処を掴めば簡単に連れて行く事が出来るのか。その事を把握しているかの様にも思えた。


「・・・・・次元君」

「な、何だ、栄長」


 俺は杉野目に連れて行かれる最中、教室から連れ出される直前に栄長に声を掛けられた。


「最後に1つ忠告しておくわ」

「何を?」

「杉野目施廉は・・・」


 そして、栄長は俺の耳元にそっと、これまででは想像も付かない様な事実を伝えて来た。


「科学結社『Time Technology』のトップよ」

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