第18部
【2012年06月15日15時48分21秒】
~?????視点~
ワタシの名前は『蒲生珠洲』。ワタシにはおにいちゃんが1人いた。名前は『蒲生黒矛』。ワタシはおにいちゃんの事が大好きだった。そう。ワタシはいわゆる『おにいちゃんっ子』なのだ。
でも、最近は何かが変だ。おにいちゃんはワタシだけの物なのに。あいつはワタシからそんな幸せを奪って行く。
ワタシはおにいちゃんに話し掛ける。
「ねぇ。おにいちゃん。おにいちゃんってば!」
「何だよ・・・・・」
ワタシが声を掛けると適当にダルそうに答えるおにいちゃん。おにいちゃんは何時でも何処でも適当に振舞っているから、この答え方だけはいつも通りだ。この答え方だけは。
「おにいちゃん、最近冷たくない?」
「気のせいだろ」
「違うよ!絶対冷たいもん!」
「そんな事ねぇって」
優しかったおにいちゃんは何処へ行ってしまったのだろうか。ワタシに対する態度は今まで通りでも、何かが変だ。ワタシの事を鬱陶しがっている様な、迷惑そうに思っている様な。そんな感じだ。
それもこれも、全部『あいつ』のせいだ。
「クロー!」
「ん?なんだ、燐か。どうした?」
歩いていると何処から湧いて来たのか、突然『あいつ』がおにいちゃんに声を掛けて来た。赤毛でポニーテールの栄長燐が。何処のどいつか知らないけど、こいつがおにいちゃんをおかしくしたんだ。
「クロ。遊ぼー」
「仕方ねぇなぁ」
「・・・・・・・あれ?」
あれ?何で?何でなの?おにいちゃん。
何でワタシが声を掛けた時は面倒臭そうにしていたのに、赤毛から声を掛けられた時は少し嬉しそうなの?実の妹のワタシよりもそんなよく分からない奴の方が好きなの?意味が分からないよ。
「どうした珠洲。お前も一緒に来るか?」
「・・・・・いい」
呆然とするワタシに気を遣ってくれたのか、おにいちゃんがワタシに声を掛けて来てくれた。でも、もう遅い。
ワタシは『おにいちゃんと一緒にいたいだけ』なのに。別に『ワタシとおにいちゃんと赤毛の3人で遊びたい』訳ではない。赤毛なんてどうでも良い。消えて欲しいとさえ思う。いや、消えろ。
「クロー。早く行こうよー」
「あー、分かった分かった。待ってろって」
「お、おにいちゃ・・・」
赤毛の声でおにいちゃんが何処かへと言ってしまう。ワタシはそんなおにいちゃんに声を掛けようとしたが、おにいちゃんにはその声は届かなかった。
「何であいつばっかり・・・・・」
何であいつばっかり。何であいつばっかり。何であいつばっかり。何であいつばっかり。何であいつばっかり!
ワタシは心の中で『赤毛死ね!』と何度も唱えた。呪いを掛けるかの様に、念じ続けた。
すると、そんなワタシの強い意志が神様に認められたのか、歩いていた赤毛が急に倒れた。そして、そのままおにいちゃんに倒れ掛かった。
「おい!燐!大丈夫か!?」
「クロ・・・・・ごめん。いつものみたい・・・・・」
確か、赤毛は生れ付き栄養を吸収する能力が低いらしい。だから、時々こんな感じで倒れる。このワタシからおにいちゃんを奪おうとした罰だ。ざまあ見ろ。そして、そのまま栄養失調でおにいちゃんに捨てられて倒れて死んどけ。
「よし、ちょっと待ってろ!俺が今薬取って来てやるから!」
「ありがと・・・・・」
倒れて辛そうにする赤毛を見て、おにいちゃんが急いで何処かへと走って行った。何でおにいちゃんはそんなに優しいの?誰にでも。そして、特に赤毛に。
「持って来たぞ!これで合ってたか?」
「うん・・・・・助かったよ」
おにいちゃんが薬を持って来て(何処から持って来たんだろう)、それを赤毛が飲んだ。そして、赤毛はおにいちゃんに微笑んだ。そして、何だか良い雰囲気になっている。いや、ワタシにとっては嫌な、奇妙な、不気味な雰囲気だ。
「・・・・・うぅぅぅ・・・」
「どうしたんだ?珠洲」
死ね死ね死ね死ね死ね!赤毛なんて死ね!
ワタシはおにいちゃんに付き纏う赤毛に暴言を吐きまくる。それに、赤毛も応えて来た。
「何でお前ばっかりおにいちゃんと!」
「何?私がクロと一緒にいたら駄目なの?」
赤毛はワタシの事を、それはまるで変な物でも見ているかの様な目付きで見て来る。そんな目でワタシを見るな。
「駄目!絶対に駄目!そして、死ね!」
「なっ・・・・・!死ねって言った方が死ね!」
「うるさい!とにかく、おにいちゃんには2度と近付くな!分かった!?」
「あー、聞こえなーい。聞こえなーい」
赤毛はわざとらしく耳を押さえて、聞こえないふりをした。絶対聞こえているくせに。
「黙れ黙れ黙れ!お前なんか勝手に死んでおけばいいんだ!」
「そっちこそ、寂しさのあまりに消えれば良いと思うよ!」
「うぅぅぅ・・・・・」
その言葉は、今のワタシにはかなり堪えた。ワタシはおにいちゃんが近くからいなくなる事によって、自分がどうなってしまうのか。その事が不安で怖かったのだ。
「それに、私の方が年上なんだから!そのくらい、気を付けなさい!」
「ワタシはおにいちゃんの実の妹だぞ!ワタシの方が偉いんだぞ!」
こんな奴なんかよりも、ワタシの方がおにいちゃんの事を良く知っている。それだけは間違いないんだ。
「兄妹とか関係無い!」
「ある!」
「無い!」
「ある!」
「おい!2人共止めろって!」
「「!?」」
すると、おにいちゃんが日頃は出さない様な大声を出してワタシと赤毛の口喧嘩を制止した。
「2人共、止めろって・・・・・。燐は年上なんだから、少しは手加減しろ。珠洲は今日はもう良いんだろ?だったら、大人しく家で待っててくれ」
その一言がワタシに衝撃的な何かを与えた。ワタシはおにいちゃんに嫌われているのではないか。ワタシはおにいちゃんにとっていらない存在なのではないか。そんな嫌な考えさえも浮かばせる程に。
「おにいちゃんなんてもう知らない!そこの赤毛と勝手にくっ付いて死んでいれば良いんだ!」
「お、おい!珠洲!?どうしたんだよ!」
「知らない知らない知らない!」
ワタシは走り出した。今は何処までも走って行きたい最悪な気分だった。何処か遠くへ。あの2人が一緒にいる光景なんて見えないくらい遠くへ。あの2人が一緒にいるのを見ていると吐き気がする。
「あれで良かったの?」
「さぁな。でもまぁ、夕飯時になったら勝手に戻って来るだろ」
「それなら良いんだけど」
「それで、これからどうするんだ?」
「何しよっか」
「・・・・・相変わらず、何も考えずに俺に声を掛けて来たのか・・・・・」
「別に良いじゃん。いつもの事なんだし」
「まぁな」
背後から、おにいちゃんと赤毛のそんな会話が聞こえて来る。やっぱり、おにいちゃんはワタシなんてどうでも良かったんだ。
赤毛と知り合ってから、それまではワタシに向けられていた笑顔は赤毛に向けられ、それまではワタシに向けられていた優しさも赤毛に向けられた。
何でこんな事になっちゃったんだろう。
「・・・・・・・死んじゃえ」
ワタシは背後にいる妙に仲が良い2人に、小声でそう呟いた。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「もう知らない!おにいちゃんなんてあの赤毛みたいに栄養不足で死ねば良いんだ!」
赤毛がよく栄養失調で倒れるのをワタシは今までに何度も見て来た。だから、おにいちゃんには絶対にそうはなって欲しくなかったから、たまにワタシがおにいちゃんにご飯を作ってあげる時も、栄養値(だったっけ?)を計算している。
おにいちゃんは栄養を吸収するのが苦手な体ではない。勿論、ワタシもだ。だけど、日頃からあんなに赤毛がバタバタと倒れているのを見せられると、やっぱり少しくらいは気になってしまう。
でも、それももう終わりにしよう。ワタシはおにいちゃん離れを決意した。もう、おにいちゃんには頼ってはいられない。だから、ワタシはこれから1人で生きて行くのだ。
ワタシは涙を流しながら街中の横断歩道を歩いていた。随分遠くまで来てしまった。ここは何処なんだろう。感情に任せて適当に走ってきたのが仇になった。
あと、その時の信号は青だった。でも、それは決して安全を指し示す物では無かった。
次の瞬間。
「危ない!」
「え?」
ドンッ!
何処からか、誰かがワタシに注意を促すような声が聞こえた気がした。でも、それは既に手遅れだった。ワタシは青信号にも関わらず突っ込んで来たその車に撥ねられた。
ここまでが『記憶喪失になる前のワタシの記憶』だ。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「・・・・・あれ?ここは・・・・・」
ワタシが目を覚ましたのは何処かの病院のベッドの上だった。一面真っ白の世界。あるのは一般的な病室のセットと・・・・・白衣を着た医師と看護師が1人ずつがいた。
「あ。起きたかい?」
「誰・・・・・?」
ベッドで寝ているワタシにその人は話し掛けて来た。この人は誰なんだろう。そして、ここは何処なんだろう。あれ?そう言えば・・・・・ワタシは誰なんだっけ?
「君は車に撥ねられたんだよ。幸いな事に目立つ様な怪我は無かったけど、ご両親には話しておきたい。君の名前とお家の場所を教えてくれるかな?」
そうか。ワタシは車に撥ねられちゃったんだ。自分で言うのもなんだけど、よく生きていたな。本当に。これで、あの人にもまた会いに行け・・・・・って『あの人』って誰だっけ?ワタシにとって大切な人だったと言う事は分かる。でも、思い出せない。その人はワタシとどう言う関係だったんだろう。
「お父さんとお母さん・・・・・?」
「どうしたんだい?」
「分から・・・ない・・・・・」
「え?」
ワタシはその医者みたいな人に聞かれた通り、自分の名前と家の場所を言おうとした。でも、思い出せなかった。さっきから、自分の中でもやもやして思い出せなかったのはこれだったのだ。
ワタシは自分の事もお父さんの顔もお母さんの顔も、そしてワタシにとって大切な存在だった人の事も全部忘れてしまっていた。
唯一覚えていたのは、自分が『珠洲』と言う名前である事くらい。苗字なんて、元々無かったかの様に思い出す事は出来なかった。
そしてワタシは、その医者みたいな人に聞いた。
「私は・・・・・誰?」
「・・・・・成る程。事故の衝撃で記憶が一部飛んだ可能性があるね」
「記憶喪失・・・・・?」
記憶喪失?あのテレビとかで時々見る、記憶を忘れちゃう病気みたいな奴の事?ワタシはそんなのになっちゃったの?車に撥ねられた衝撃で?
そんな事って・・・・・あるんだ・・・・・。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
数日が経った。車で撥ねられたとは言え、記憶以外には特に問題が無かったワタシは今日で退院だ。
でも1つだけ問題があった。それは、ワタシの本当の両親が今だに姿を現さないと言う事だった。ワタシ自身も記憶喪失で苗字とか、家の場所とか、知り合いとかを思い出せない状況なので、退院後の行く当てに困っていた。
だけど、そんなワタシをあのお医者さんの上垣外さん2人は引き取ってくれるらしい。2人の事は良く知らないけど、これからはあの2人が新しいお父さんとお母さんだ。とは言っても、本当のお父さんとお母さんの事なんて覚えていないんだけどね。
そして、ワタシは上垣外家に来た。そこには上垣外次元と言う人がいた。彼がワタシの新しい『おにいちゃん』、いや『おにぃちゃん』だ。
ワタシは心の底で自分の中にある大切な何かを思い出して、それが蘇って行く様な感覚になった。記憶喪失前にもワタシにはおにいちゃんはいたらしい。でも、そのおにいちゃんは第3者に盗られてしまったみたいだ。
だけど、今はそんな事はどうでも良い。
この時のワタシはただ純粋に、これからはこの人を独り占め出来る。何時までも何処までも一緒にいられる。そんな嬉し過ぎる事を考えていた。
その数年後にワタシのそんな幸せが再びアイツとアイツ等に奪われるなんて知る由も無く。




