第17部
【2023年09月20日17時34分46秒】
「・・・・・ここは・・・・・?」
家に帰って来た早々に何者かによって後頭部を殴られた俺は気を失っていた。そして、今ようやく気が付いた訳だが・・・・・ここは一体何処なんだ?
顔を上げて少し周りを見渡してみると、そこはかなり荒れ果てている事が分かった。大量の物が散乱し、至る所に傷跡が・・・・・と言うか、ここって俺の家じゃないか?荒れ具合、家具の配置からして俺の家の1階のリビングその物だ。
今のこの状況を確認する為に俺は、何故か座らされていた椅子から立ち上がろうとした。しかし・・・、
「あれ・・・・・?」
俺は椅子から身動きをとる事は出来なかった。そう。両手首を椅子の後ろ側に回され、紐で縛られていたのだ。これではまるで、拘束されているか様ではないか。一体、誰がこんな事を。
「おにぃちゃん」
「!?」
その時、部屋に珠洲が入って来た。しかし、そこにいた珠洲は俺が知る珠洲などではなかった。右手には拳銃を持ち、今までに見た事が無い様な笑みを浮かべていたのだ。
「珠洲!これは一体どう言う・・・」
俺はこの状況を作り出したのが珠洲であると確信した。それもそうだろう。ついさっき、音穏達を襲撃したのは多分珠洲だ。
更に、その後俺が家に帰って来た場面で俺の後頭部を打撃する事が可能なのも珠洲だけ。加えて、このタイミングで、しかも全く動じていない珠洲の登場と来たら、それらの犯人が珠洲であると言う事以外は考える事は出来ないだろう。
すると、俺の質問に珠洲が答えた。
「おにぃちゃんが悪いんだよ?」
「え・・・・・?」
「あんな奴等を助けようなんてしたから」
「おい、珠洲・・・それって・・・・・」
やはり、珠洲が全ての犯人だったんだ。それが今判明してしまった。珠洲の、そんな一言によって。
「おにぃちゃんにはワタシだけがいれば充分だよね♡」
「・・・・・栄長や湖晴、それに音穏や阿燕を襲撃したのは珠洲なのか・・・・・?」
「そうだとしたら、どうするの?」
俺は信じたくない事を珠洲に聞いた。しかし、珠洲は俺の事をおかしな物でも見るかの様な目で見つつ、逆に問い返して来た。
「今すぐ止めろ。そんなの間違ってる」
「何で?ワタシはアイツ等のせいでおにぃちゃんがおかしくなっちゃたから、元に戻そうとしてるだけだよ?それなのに、何で止めろなんて言うの?」
「俺はそんな事望んでない。それに、俺はアイツ等のせいでおかしくなってなんかいない。むしろ・・・」
そうだ。俺は珠洲にそんな事を頼んだ記憶は無い。それに、俺はそんな事を絶対に頼まない。俺はただ、平和に平凡に生きて行きたいだけなのだ。争いなんてこれっぽっちも好きではない。
しかも、珠洲はそんな俺の事を『おかしい』と言った。だが、それは違う。俺はおかしくなってなんかいない。
確かに、湖晴と知り合ってからは過去改変と言う非日常な現象が多発し、それまでの俺とは違う様になったかもしれない。しかし、それは良い意味で変われたと言えるだろう。
「おかしくなっているのは、珠洲の方だ」
「!?」
「冷静に考えてみろ。人を殺そうとするなんて間違ってる。闇の組織から拳銃やライフルを盗んで、自分の家を荒らして、こうして俺の事を拘束している。頭の良い珠洲なら分かるだろ?これらの事がどれ程狂っている事なのかが」
「・・・・・・・」
俺はまるで説教するかのように、珠洲にそんな事を言った。殺人なんて、窃盗なんて、拘束なんて。そんな事、俺の何でも出来る妹の珠洲がするような事ではないし、そもそもそれが珠洲ではなかったとしてもして良い事ではない。
だから、俺は珠洲を止めるべくそんな事を言った。しかし、それはむしろ逆効果だった。
「ハ・・・」
「珠洲?」
「アハハハハハ!やっぱり、おにぃちゃんはアイツ等のせいでおかしくなってるよ!そうだよ、そうに決まってる!ワタシが大好きなおにぃちゃんはワタシにそんな事言わない!」
珠洲は俺の台詞を聞いて唖然としていた顔を満面の笑みに変え、そして笑い始めた。
「ワタシの事を『狂ってる』なんて事は!絶対に!」
何でこんな事になってしまったのか。何で珠洲はこんな事をしているのか。ここまで来れば大体予想が付いて来た。
俺がその先を考えようとしていると、再び場に動きがあった。
「おにぃちゃん・・・・・」
「珠洲!?おい、ちょっと・・・待・・・」
珠洲が椅子に拘束されている俺の太股の上に座って来たのだ。更に、手を俺の後ろ側に回し、抱き付く様な格好になった。俺が拘束されて身動きが取れない事を良い事にして。そして、俺の顔に自分の顔を近付け・・・
「次元さん!」
「湖晴!」
「チッ」
その時だった。異変に気付いてくれたのか、湖晴が部屋に入って来た。この状況を打破してくれるかもしれない、唯一の存在。だが、今の状況ではそれは危険過ぎた。
「駄目だ湖晴!逃げろ!」
「次元さん?」
「死ね」
パンッ!
明らかに様子がおかしくなっている珠洲から逃がす為に、俺は湖晴に逃げるように言った。しかし、その直後、珠洲が湖晴に向けて発砲した。
幸いな事にその弾丸は湖晴には当たらず、部屋の入り口のドアからはその弾丸の摩擦で少し煙が出ている。
「おにぃちゃん?何で『逃げろ』なんて言うの?アイツはおにぃちゃんにとっていらない存在なんだよ?それなのに・・・」
「珠洲。お前が今、何してるか分かってるのか・・・・・!」
珠洲は今、湖晴を撃った。当たらなかったから良かったものの、当たり所が悪ければあの湖晴でも命に関わるかもしれない。つまり、今珠洲は湖晴を殺そうとした。
「?青髪白衣を撃っただけだけど?今は偶然当たんなかったけど、もう1回撃てば当たるよ?今度は絶対に外さな・・・」
「珠洲!止めろぉぉぉぉ!!!!!」
再び湖晴に向けて発砲しようとしている珠洲を、俺は大声で制止した。
「何で止めるの?あ、それとも元に戻ってくれた?ワタシと結婚してくれる気になった?」
「逆だ・・・・・」
「え?」
やはり、珠洲はおかしい。狂っている。こんな状況でもそんな思考をしている。何で俺の為に、俺が大好きな皆を殺そうとするんだ。俺はそんな事は望んじゃいない!
「珠洲・・・お前は狂ってるよ・・・。俺は今みたいな状況の珠洲を好きにはなれない。結婚なんてもっての外だ」
「何言ってるの?おにぃちゃん」
「言葉通りの意味だ。俺は今みたいな珠洲は『嫌い』だ」
俺はついに言ってしまった。『珠洲の事が嫌いだ』と。本当は言いたくなかった。本当は皆と同じくらいに大好きだった。だが、今は違う。珠洲は音穏、阿燕、栄長に加えて湖晴までを殺そうとした。しかも、俺の目の前で。許して良い事ではない。許される事ではない。俺が許す訳がない。
「ウッ・・・ゥゥゥ・・・・・!!!」
暫く硬直していた珠洲だったが、俺の言葉を認識したのか、号泣しながら何処かへと走り去って行った。その拍子に、珠洲の手から拳銃が床に落ちた。
珠洲が家の外へと行ったのが確認された後、湖晴が俺の元へと歩み寄って来て、縛られていた俺の両手を縄から解いてくれた。
「次元さん。大丈夫でしたか?」
「ああ、悪いな。俺は大丈夫だ。湖晴は?」
「私はずっと部屋にいましたから、問題無いです。それよりも・・・」
「全部、珠洲の仕業だった。栄長の所属する科学結社から銃器類を盗んだのも、俺と栄長を襲撃したのも、音穏と阿燕を襲撃したのも、俺を拘束したのも」
これまでの不可解な事件には、決して俺の知らない第3者が関与していた訳ではなかった。ここまで来てしまえば、この4つの事柄は推測ではなく、確定事項として珠洲が犯人であると言ってしまえるだろう。
この事を知らない音穏達には悪い事をした。珠洲の兄として、謝らなければ。義理だとしてもそんな事は関係無い。俺と珠洲は家族なんだ。
「そうでしたか・・・・・。あと、おそらくですけど、次元さんの家の中がこんなにも荒れ果てているのも珠洲さんが原因かと」
「だろうな。話の流れ的にそうだと思ってた」
その事なら、珠洲との会話の時に既に気が付いていた。
それに、よくよく思い出してみればこんな事が出来るのは珠洲だけなのだ。窓ガラスが割れていなかったのだから。家の鍵を持っている俺と湖晴と珠洲くらいしかその犯行は不可能だからな。
「一応、その時の状況をお話した方が良いでしょうか?」
「頼む」
「それでは、お話しましょう。私は今朝、朝ご飯が無かったので次元さんが学校に行った後に私はコンビニへ行きました。ついでにお昼ご飯も買いたかったですし」
「コンビニか」
珠洲が聞いたら怒りそうだな、とか言い掛けた俺だったがついさっきの珠洲の状態を思い出し、思い止まった。
「それで、そのまま家に帰るのもアレでしたので、適当な場所でご飯を食べて、暫く街を歩いていました」
「雨は大丈夫だったのか?」
「コンビニで傘を買ったので、なんとかなりました」
「そうか」
流石に無防備に雨に打たれたりはしないよな。湖晴の事だし。
「その後数時間が経ち、そろそろ次元さんが帰る時間だと思い、家へ戻りました。その時はまだ家の中は特に荒れてはいませんでした。ですが、私が家の中に足を踏み入れた瞬間、それは発動しました」
「発動って?」
「いわゆる『トラップ』って奴ですよ。今回は大量の刃物の。そして私はそのトラップを掻い潜って、必死に安全地帯を探しました。そして、何処かの部屋の中に入ってしまえばトラップの範囲内には入らないと思い、一先ず自室へと向かいました」
「その時に怪我をしたのか」
俺が帰って来た時、湖晴は腹部にナイフが刺さった事により、出血多量で死んでしまうのでないかと言うくらいの血を流していた。その事だろう。
そう言えば、今の湖晴は血が足りてるのか?あんなに出血していたのに。回復力だけで無く、血を精製する時間も短いのだろうか。まぁ、今は湖晴が無事だからそんな事はどうでも良いが。
「はい。それは階段を上がる時でした。ですが、私とした事が迂闊でした。まさか階段の3段目からナイフが飛んで来るとは」
「よくそんな状況で怪我がアレだけで済んだな」
「とは言っても、普通の人ならば完全に失血死しているレベルですけどね。そして、腹部にナイフが刺さった私は階段を上がって2階へと着きました。階段と2階にはそれ以外には特にトラップは無く、1階に集中して設置されていた事が分かりました」
「そのすぐ後に俺が帰って来た、と」
「そうなります」
もし、俺と栄長が帰り道に珠洲に襲撃されなければどうなっていたのだろうか。何も知らない俺が、湖晴の様に大怪我を負わされていたのだろうか?いや、違うな。おそらく、そうはならない。
さっきの珠洲の台詞を思い出せば、その答えは自ずと出る。珠洲は『俺の為に皆を殺そうとしている』のだ。おそらく、俺と湖晴の帰宅時間も全て計算している事だろう。
そんな珠洲の唯一の誤算と言えば、栄長が普通の女の子ではなく科学結社の1人だったと言う事だろうか。あの場面で栄長を殺害する事が出来れば、俺の帰宅は更に遅くなる。
そうすると、湖晴用に仕掛けたトラップを回収する事も、荒れ果てた部屋の片付けをする事も、音穏達を襲撃している最中に俺が乱入する事も無かったのだろう。
「湖晴、ごめん・・・ごめんな・・・・・。俺のせいで・・・・・」
俺は湖晴に謝った。いくら謝っても、謝り切れない事だと言う事くらいは分かっている。だが、今の俺に出来るのはこれくらいしかなかった。
「別に、次元さんのせいではありませんよ」
「音穏達にも謝っとかないとな・・・・・」
俺は明日、どんな顔で音穏達に会えば良いんだ。少なくとも、妹が殺し掛けたんだぞ?謝って済む問題ではない。最早、軽く警察沙汰だ。
荒れ果てた家の中、俺と湖晴はそのまま時間が経過するのを待った。結局、10時を過ぎても珠洲は帰って来なかった。
あと、1つの部屋に1人が寝ると何か会った時に危ないから、と言う湖晴の忠告で俺と湖晴は同じ部屋で寝た。勿論、何も疾しい事はしていない。と言うか、俺にはそんな余裕は無かったからな。
何故ならば、湖晴は普通に布団で寝て貰ったが、俺は珍しく上手く寝付く事が出来ず、ドアを押さえ付ける様にして座りながら湖晴の寝顔を見ていたのだから。明日は完全に寝不足だな。
昨日、蒲生が言っていた『TETSUYA』の意味がようやく分かった気がした。




