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Time:Eater  作者: タングステン
第四話 『Sn』
82/223

第16部

【2023年09月20日17時11分46秒】


 突然、何かに追われていると言う音穏から電話が掛かって来て、助けを求められた俺は大雨の中傘を差す事もなく、グラヴィティ公園へと走って来た。


 そして、さっきの電話の音穏の台詞を思い出す。確か、音穏は公園内の中心部分に属する時計塔の近くにいると言っていた。取り合えず、そこに行ってみよう。


 それにしても、何故急にこんな事が立て続けに起きるんだ。俺が知る限りは、1つ目が俺と栄長を射撃、2つ目が俺の家を荒らした挙句湖晴を刺し、3つ目が音穏を追い駆けつつ射撃。


 関連性は無い様にも見えるが、俺には1つだけ心当たりがあった。それは『この3つの事柄全てに俺が関係している』と言う事だ。理由は何故なのかは分からないし、そもそもこれは単なる偶然なのかもしれないが、俺はそんな事を思い付いた。


 だが、何で俺なんだ?前から言っている通り、俺は平凡・普通・平均を理想とする程の一般的過ぎる男子高校生だ。


 裏では、湖晴と一緒に過去改変を3回もしてしまっているが、その事を知っているのは俺と湖晴と栄長の3人だけのはず。湖晴や栄長がそんな事を誰かに言うはずもないし、勿論俺が言った記憶も無い。


 つまり、俺を基点として皆が狙われているのは過去改変は関係無いと思われる。襲撃の理由は何か別の所にあるのだろう。その真相はこれからゆっくりと確かめれば良い。今は音穏を助ける事が先決だ。


 俺はようやく時計塔がある公園の中心部分に着いた。本来ならば家からここに来るには徒歩で10分程度の時間が掛かるが、全力疾走をしたからか大分時間を短縮する事が出来た。


 さて、音穏は何処にいるのだろうか。何者かから逃げている最中に時計塔の近くから移動してしまっている可能性も否定は出来ないが、早く見つけ出さなければ。取り返しの付かない事になる前に。


 取り合えず、今の所は銃声も聞こえて来ないので比較的安全ではあると思う。しかし、何時また襲撃者が来るかは分からない為、大声を出して音穏を探すのは諦めよう。


 俺はポケットから取り出したスマートフォンの電源を入れ、その中に入っている電話帳に登録されている音穏の名前をタッチした。数秒後、音穏と電話が繋がる。


「音穏か?取り合えず時計塔の下には来たが、今何処にいるんだ?」

『次元!?はぁ・・・・・良かった・・・・・』

「大丈夫か?何処か怪我はしてないか?」


 音穏との電話が繋がった。俺の声を聞いて安心したのか、早々に音穏が安堵の溜め息を漏らした。余程怖かったのだろう。無理も無い。


 俺はここ1週間でそう言う事には疎くなってしまったが、この世界の音穏は普通の女の子だ。爆弾で研究所を爆破なんてしていない、俺の幼馴染みで活発少女の野依音穏だ。


『うん、怪我はしてないよ。でも、逃げてる時に少しだけ膝を擦り剥いちゃった』

「そうか。まぁ、無事で何よりだ」

『えっと、今次元は時計塔の真下にいるの?』

「ああ」

『あ、見つけた。今次元が向いている方向から右斜め後ろの草叢に隠れてるから、来てくれる?』

「意外と近かったな」


 俺から見て右斜め後ろの草叢って、かなり近いじゃないか。早く見つかった事に関しては嬉しい限りだが、逃げるのならもう少し遠くの方に逃げた方が良かったのではないのかと思ってしまう。


 俺は音穏に指示された方向の草叢を見た。よく見ると、手が見える。おそらく、音穏が合図代わりに出しているのだろう。分かり易いが、襲撃者に見つかったらどうするつもりだ。相変わらず、考え無しに行動する事が多い奴だ。


「分かった。すぐ行く」

『うん。ありがと』


 俺がそう言うと、音穏は呟く様に俺に礼を言った。その後、俺は歩いて音穏の指示通りにその草叢へと入って行った。


 そこには音穏と一緒、俺にとっての2人目の過去改変対象者の豊岡阿燕もいた。過去改変後のこの世界では音穏と阿燕は仲良しだからな。一緒に帰っていたのだろう。


「なんだ、阿燕もいたのか」

「そうよ。悪かったわね」

「別に悪いなんて言ってないが、今日クラブは無かったんじゃないのか?」


 阿燕はソフトボール部に入っている。過去改変前は右目の失明で出来なくなっていたが、過去改変後はそんな事も無くなり、音穏並に普通の女の子となった。そして、俺の事をやや嫌っている(のだと思う)。今みたいにトゲトゲした喋り方をするのが阿燕なのだ。


「クラブが雨で無くなったから音穏と一緒に帰ろうと思って待ってたのよ。それで、音穏のクラブが終わったから一緒に帰っていると・・・」

「こんな事になったんだよ」

「・・・・・成る程な。さっぱり分からん」


 音穏と阿燕による説明の連携プレーだったが、知りたいポイントがさっぱり伝わって来ない。何で帰っている最中に襲撃されたのか、襲撃者は誰なのか。その事を知りたいのに。


「逃げる事も重要だが、ここはまず状況を整理したい。状況が分からないと退路も考えられないからな。2人共、今の状況について分かっている事を全部教えてくれ」

「良いけど・・・」

「上垣外?何か落ち着いてない?妙に慣れている感じがすると言うか」

「!?」


 状況整理の為に情報収集をしようとした俺だったが、阿燕のそんな言葉に戸惑ってしまう。確かに、過去改変を3回もしている俺は音穏や阿燕よりもこう言う状況に慣れてしまっている。だが、2人にその事を知られる訳にはいかない。


「な、何を言っている。俺だって怖いに決まっているだろ!?」

「それもそうね」

「そ、そうだ」


 何とか誤魔化せたらしい。危ない危ない。


「えっと、何から話せば良いんだろ」

「誰から追われていたんだ?」

「分からない」


 分かれば苦労はしないか。


「何時頃から追われていたんだ?」

「15分くらい前だっけ?阿燕ちゃん」

「多分、それくらいだったと思う」

「15分くらい前か・・・・・」


 15分前。俺が怪我をした湖晴に包帯を巻きながら話していたくらいの時間か。襲撃者が個人で行動しているのなら、俺と栄長を狙撃した後に音穏と阿燕を狙撃する事も可能だろう。時間的にも空間的にもそれくらいの余裕はある。


「次は、えっと・・・・・ここに逃げ込んでから何分くらいだ?」

「次元が来る少し前だったから・・・・・2,3分くらい前?」

「襲撃者は2人を狙っていた。だが、2人が物陰に隠れた事で見失った。と言った所か」

「そうね」


 雨が降っていたのが幸いした。雨が降っていると、物音が聞こえ難くなり視界が悪くなるので逃げる側としては利益になる可能性がかなり高い。晴れていたらこの2人がどうなっていたのかなんて事は絶対に想像してはいけない。そんな結末はこの俺が許さない。


「そう言えば音穏。何で俺に助けを求めたんだ?」

「え!?べ、別に良いでしょ!?携帯の電話帳に次元が1番上に登録されてるから、次元に掛けただけなの!それ以外は何も無いから!」

「音穏。言い訳になってないわよ?」

「ふぇ!?」

「50音順なら栄長の方が上に来ると思うのだが。まぁ、良いか」


 音穏が言っている栄長は『誰からも人気がある完璧超人の少女』だ。だが、その認識だとまだ一般人に過ぎない。しかし、本来の栄長は『科学結社に所属しているネットゲーマー』だ。栄長の本当の顔を知らない音穏なら、女の子に助けを求めたりはしないだろう。


「状況は大体分かったから逃げるか。このまま草叢や花壇を通って行けば、外に出られるルートもあるからな」

「私、そっちは家の方向と逆なんだけど・・・・・」

「それに、雨でかなり濡れちゃったもんねー」


 俺は傘を差さずにここに来たからびしょ濡れなのだが、どうやら音穏と阿燕も逃げている最中に直接雨に当たってしまっていたらしい。


 阿燕は制服を着ている為外見的には特に問題は無いが、音穏はカッターシャツを着ている為、やや透けてしまっている。本人は気付いてないみたいだが、俺からすると・・・・・もう少し自覚して欲しい所だ。


 ・・・・・そうではなく。阿燕の家は俺達の家とは逆方向にあるらしい。行った事が無いので知らないが。1人で帰らせると危ないし、それ以前に雨に打たれ続けると風邪を引いてしまうだろう。どうしようか。


「じゃあ、俺の家に・・・」

「私の家に来ると良いよ!うん!そうしよう!」

「?あ、うん。ありがとう。音穏」

「良いよ良いよー」


 一先ず俺の家に来て貰って適当に時間を潰して貰おうと思っていたのだが、俺の台詞よりも先に音穏が同じ内容の台詞を言った。


 そして、音穏は何やら俺に言いたい事があるらしく、阿燕に背を向けた状態になって少し離れた所でこそこそと俺に話し掛けて来る。


「こら、次元!何で阿燕ちゃんを連れ込もうとしてるの!」

「え?俺は別に・・・」

「ともかく!阿燕ちゃんは私の家で預かります!」

「音穏は阿燕の保護者か・・・・・」


 取り合えず阿燕は音穏の家に避難して貰おう。でもまぁ、これはこれで良いだろう。よく考えてみれば今俺の家はかなり大変な事になっているからな。そもそも人を呼べる様な状態ですらないのだ。


「おーい、2人共どうしたのー?こそこそ話して」

「ああ、悪い。じゃあ帰るか」

「うん」

「そうね」


 そうして、俺達は公園内の裏道を周って家に戻ろうとした。


「あ。見ーつけた♡」

「「「!?」」」


 しかし、突然背後からそんな声が聞こえて来た。驚いた俺達は真後ろを見る。そこには俺の妹の珠洲が立っていた。俺が今まで見た事もない様な笑みを浮かべながら。


「す、珠洲・・・・・!?何で珠洲がここに!?」

「あれ?おにぃちゃんこそ何で・・・」

「それに珠洲。その手に持っている物は何だ?」

「あ」


 珠洲も俺がここにいる事に驚いていたみたいだが、そんな事はどうでも良い。今珠洲が右手に持っている物は何だ?それは明らかに『拳銃』だよな?何でこの場面で拳銃なんか・・・、


 そこで俺は頭に今まで考えた事も無かった仮説が浮かんでしまった。その事を口に出そうとするが、その前に珠洲は走って何処かへと逃走した。


「おい、珠洲!待て!」

「次元。今のって・・・・・」

「珠洲、だったわよね・・・・・?」


 動揺を隠せない俺と音穏と阿燕。


 何で珠洲がこのタイミングでこんな所に拳銃を持って現れるんだ。単なる偶然なのか?いや、違う。ここまでの事柄を総合的に客観的にまとめて推測すると、音穏と阿燕の事を襲撃したのは珠洲だ。それ以外には考えられない。


 何が珠洲をそんな風に変えてしまったのか。今の俺には全く想像が付かなかった。


「どうしたって言うんだよ・・・・・珠洲・・・・・」


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 真相が分からない以上、普通に帰るのは危険だ。なので予定通りに俺達は公園の裏道を通って俺は自宅へ、音穏と阿燕は音穏の家へ行く事になった。


 俺は音穏達と別れ、家に入った。相変わらず、悲惨な光景がそこには広がっていた。片付けとか修理とかをするのはかなり大変そうだな。


「湖晴ー。帰ったぞー」


 取り合えず、今は湖晴に珠洲の事を相談するべきだろう。空き巣の件もあるし、ここは湖晴の頭脳を借りるとしよう。


 それよりも、珠洲に早く連絡を取らなければ。さっきのは何だったのか。その事の真相を確かめなければどうしようもない。俺は靴を脱ぎ、家に上がった。


 その時だった。


 ガンッ!


「グハッ!」


 俺の後頭部に硬い何かで殴られた様な強烈な痛みが走った。何が当たったのか、誰がしたのかを確認する事も出来ずに、俺の意識は闇の中へと堕ちて行った。

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