第15部
【2023年09月20日16時39分26秒】
下校中、謎の襲撃を受けた俺と栄長。その犯人を確かめるべくあの丘の頂上まで登ったが、犯人は既に逃走していた。なので、俺達は各自家へ帰り、俺は自宅で安静に、栄長は組織の力を使って現場に放置されていたライフル等から犯人を割り出す事にした。
そして俺は、自分の傘を栄長を追い駆ける際に何処かへ投げてしまった為、びしょ濡れの状態で走って自宅に帰って来た。今日はもう風呂に入って、さっさと寝よう。これでは風邪を引いてしまう。
玄関の鍵を開け、中に入る。
「ただい・・・・・ま・・・・・!?」
俺は珠洲や湖晴に向けて帰宅時の挨拶をした。しかし、その台詞を最後まで言う前に、俺は今自分が見ている光景が大変な事になっている事に気が付いた。
俺が見たその光景。それは、玄関を含めて家の中が酷く荒らされていると言う光景だった。玄関に立って見るだけでも、その被害が尋常では無い事がすぐに分かった。
壁には無数の切り傷、ガラスは割れ、床には大量の物が散乱している。この光景はまるで、強盗でも入ったのではないかと思ってしまうくらいに悲惨な光景だった。
そこで、俺はある重大な事に気が付いた。
「そうだ・・・・・珠洲と湖晴は・・・・・!」
珠洲は多分学校に行っているはずなので、まだ問題は無いと思うが、湖晴はどうなんだ。湖晴はこの光景を知っているのか。湖晴は無事なのか。それだけが今の俺には気掛かりだった。
「珠洲ー!湖晴ー!」
今だ玄関に立ち竦んでいる俺は2人の名前を家中に響き渡る様な大声で呼んだ。しかし、返事は帰って来ない。聞こえるのは外から聞こえる雨音だけだ。やはり、2人共外出中だったのかもしれない。
取り合えず、この惨状が家の中のどれくらいの範囲まで存在しているのか、それを確かめなければ。そう考えた俺は靴を脱ぎ、床に散乱するガラス片に気を付けながら家の中を探索して行く。
1階にあるリビングも玄関から見る事が出来た光景とほぼ同じだった。とてもではないが、俺の記憶上で今朝まで人が住んでいた空間とは思えないくらいに。
そんなリビングを見ていると、俺は再びある事に気が付いた。
窓ガラスが割れていなかったのだ。正確には、家の外と中の境となっているガラスが割れていなかったのだ。
この事から推測して、これが強盗の犯行だと仮定すると、強盗は礼儀正しく玄関から入ったと言う事になる。しかし、強盗はそんな律儀な事はしないだろう。するとしたら、窓を割ってそこから入って来るはずだ。
つまり、これは強盗の犯行ではない?だとすると、一体誰の仕業なんだ?まさか、ついさっき俺と栄長を狙っていたと言う襲撃犯かその仲間の仕業ではないだろうな。
目的は不明だが、どうやらその謎の襲撃・強盗グループは俺と栄長の事をどうにかしたいと思われる。それにしても、何で俺なんだ。俺は表向きはただの平凡な男子高校生であると言うのに。
場所を変更して、階段手前廊下。やはりここも同じだ。元々存在する物が少ない分、床に散乱している物はほとんど無い。
あと、ここまでの3つの場所で共通する事が1つ見つかった。それは散乱している、違和感のある物の事だ。
本来の上垣外家の間取り的に、そこには存在していないはずの物がそこには存在していた。元々配置されている物が少ない廊下でさえ、それは存在していた。
それは『刃物』だった。包丁、ナイフ、カッター、ハサミ等多種多様な刃物がどの場所にもあったのだ。これは偶然などではないはずだ。別の何かが関係していると考えられる。
「・・・・・ん?」
階段を上がろうとした時、俺は大量の赤い液体が床にぶちまけられているのを発見した。近付いて見てみると、それは正真正銘の血だった。珠洲や湖晴はここにはいないので、おそらく2人の物でない事は確かだとは思うが。だとすると、誰の血なのだろうか。
1段1段階段を上がっていくと、その血が上の階へと引き摺られて行っているのが確認出来た。時には壁に、時には床に。これだけ血が出ていると、並の人間では命に別状が出てしまうだろう。それくらいに大量の血だった。
よくよく考えてみると、何で俺はこんなに冷静に物事を判断出来ているんだ?家が荒らされていたんだぞ?床中に刃物が落ちているんだぞ?大量の血がすぐそこにあるんだぞ?何で、落ち着いていられるんだよ。
2階に上がった。謎の血は今だに引き摺られていっている。しかし、その引き摺られている先が、俺の心に大きな動揺を生み出した。
「湖晴・・・・・!」
そう。その血は湖晴の部屋へと向かって引き摺られて行っていたのだ。明らかに失血死はしてしまうであろう量の血を家中に残しながら。
俺は脳裏に過ぎった良くない考えを必死に振り切り、急いで湖晴の部屋へと入った。
「湖晴!」
そこには湖晴がいた。いつも通り白衣を着ている。しかし、その姿は少しもいつも通りではなかった。
床には血が付いたナイフが放置され、湖晴の腹部からは大量に血が出ている。その血によって白衣と部屋の床は真っ赤に染まってしまっていた。髪で隠れている為に湖晴のその表情は確認する事は出来ないが、俺は湖晴の元へと駆け寄って湖晴の事を抱き締めた。
「湖晴!大丈夫か!おい!」
「次元・・・さん・・・・・?」
俺が湖晴の名前を呼ぶと、返事があった。出血はかなり酷いが、どうやら命に別状はないらしい。
「誰がこんな事を・・・・・!今救急車呼ぶから、少し待っててくれ!」
「大丈夫ですよ・・・・・。私、怪我の治りは早い方ですから・・・・・」
「でも湖晴、声に力が入っていないじゃないか!」
湖晴自身がいくら大丈夫だと言っても、意識があっても、これでは出血が多過ぎる。現に、今も声に力が入っておらず体もぐったりしているしな。
「本当に大丈夫です・・・・・。もう血も止まって来ましたし・・・・・」
「良くない!湖晴は良くても、俺が良くないんだ!」
「次元さん・・・・・?」
そうだ。俺はただ、理由は何であれ湖晴には、湖晴だけには傷付いて欲しくなかった。湖晴が良くても俺が良くない。それは今言った通りだ。
俺が大声を出すと、湖晴は少し驚いた表情をした。
「何で、湖晴がこんな目に会わないとならないんだ!何で湖晴なんだ!」
「・・・・・次元さん・・・・・」
「畜生!湖晴をこんな目に会わせるなんて、絶対に許さねえ!」
「ありがとうございます・・・・・優しいんですね、次元さんは・・・・・」
俺の台詞に少しだけ礼を言うと、湖晴は横になっていた体勢から体を起こし、床に座った。湖晴の体を抱き締めていた俺もその手を放し、湖晴の前に座る。
そして、湖晴は少し腹部を摩りながら俺に話し掛けて来る。さっきよりは大分具合が良くなったのか、その声にも力が戻って来ていた。
「ほら、最初に会った時もそうだったでしょう?私は怪我が治りやすい体質なんです。銃弾ならまだしも、ナイフで刺された程度なら10数分で完治します」
「だが・・・・・」
「それよりも、何故こんな状態になったのかを考える方が先ではないですか?」
確かに、この状況についての情報交換は大事だろう。俺と栄長が襲撃された事、俺の家が荒らされていた事、湖晴が何者かによって刺された事。どれも不思議で不自然で不可解な事だ。
だが、俺にはそんな事はどうでも良かった。俺は純粋に湖晴の事が心配で心配で仕方が無かったのだ。酷い出血をしていて、大怪我をしている湖晴を目の前にそんな事を話していられるほど、俺のメンタルは強くはない。
数秒間考えた俺は自分の考えを実行に移す。
「・・・・・湖晴がそこまで言うなら救急車は呼ばないが、傷口は消毒して包帯を巻く程度はしとかないと別の病気にかかる可能性があるから・・・・・だから、少し待ってろ!」
「はい・・・・・」
俺は湖晴の為に包帯を取りに行く為に、そんな台詞を言った。湖晴も静かに、少し笑顔で頷いた。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「次元さん」
「ん?」
「包帯を巻くのは馴れているから、と言う理由で次元さんにお願いしている訳ですが・・・」
包帯を取って来た俺は、怪我人である湖晴本人に包帯を任せる訳にもいかないので、こうして医師である俺の両親からの教えを活用して湖晴の怪我の治療をする。
やはり、湖晴の言った通りだ。俺達が最初にあった時にも既に知っていた事だが、湖晴は怪我の治りが早い。一般的な人とは比べ物にならないくらいに。
「あんまり、素肌に触れないようにして下さ・・・ひゃあ!」
「わ、悪い!滲みたか?」
俺が湖晴の横腹の傷口に消毒液をかけると、湖晴がそんな珍しい声を上げた。言葉では心配している俺だったが、そんな湖晴も素直に可愛いと思ってしまうのであった。俺って、変だな。
「そうではなくですね・・・・・はぁ。まぁ、良いですよ別に」
「?」
湖晴は俺に何かを気付いて欲しかったのか、そんな良く分からない台詞を言った。だが、残念ながら俺にそれを気付く様な勘の良さは無かった。
「あと、さり気無く胸を触ろうとするのも止めて下さい」
「してないぞ!?」
すると、急に湖晴が俺に濡れ衣を着せて来る。
「お尻?」
「してないしてない!」
何故追撃するんだ。冤罪も良い所だ。
「うっかり抱き付こうなんて事は・・・」
「しない!たとえしたくてもしない!濡れ衣だ!冤罪だ!」
「そうですか・・・・・」
そりゃあ俺みたいな純粋な男子高校生は、湖晴みたいなナイスバディな女の子が服を半分くらい捲り上げてその真っ白い素肌を露出させて目の前にいたら抱き付きたいとか思ったり、思わなかったりするが、少なくとも今はしない。
湖晴のその豊満な胸が治療中の怪我のすぐ上にあると思うと、やはりドキドキしてしまう訳だが、己の理性で押さえ込む。うっかり触れてしまわない様にも細心の注意を払う。って、俺はさっきから何を言っているんだ。
その時、湖晴が小声で何かを呟いた。
「(次元さんになら、別に良いんですけどね・・・・・)」
「何が?」
「な、何でもありません!出来ましたか!?」
「何をそんなに焦るんだ。まぁ、良いか。一応、血はもう止まっているみたいだったから、消毒して包帯巻いただけだ」
「ありがとうございます」
「ああ」
湖晴が俺に何を許してくれたのかは不明だが、取り合えず包帯は巻く事が出来た。既にうっすらと血が滲み出ている部分もあるが、これは仕方ないだろう。湖晴には我慢して貰うしかない。
「まぁ、無理はするなよ?」
「はい」
俺が一言釘を刺しておくと、湖晴はいつも通りの可愛らしい笑顔で俺に返事をした。
「それでは、話に入りましょうか」
「体はもう大丈夫なのか?まだ全ての傷口が閉じた訳ではないだろ?横になっておけよ」
「時間が経てばその内治りますよ」
「そうか」
湖晴の怪我の回復力は超人的に高いが、それでもさっきのぐったりしていた湖晴を思い出すと、やはり痛みは遮断出来ないのだと思う。つまり、回復スピードが異常なだけで神経は普通に通っているのだ。
俺は話をする前に最後の忠告をしたが、やはり湖晴はそれを拒んだ。何度も言うと、逆に怒らせて仕舞うかもしれないのでこれ以上は何も言わない様にする。
「ではまず・・・」
プルルルルル!
湖晴が話し始めた瞬間、タイミングぴったりで俺のスマホから着信音が聞こえて来た。
「電話だ・・・・・。タイミング悪いな・・・・・」
「どうぞ」
「悪いな。・・・・・音穏からか。何だろう」
電話を掛けて来たのは音穏だった。湖晴との会話を優先したい所だが、まぁ、音穏の事だ。用があっても数分で済む事だろう。多分、学校にノートを忘れたから貸してとかそんな感じだろう。
「はい、もしもし音穏か?どうし・・・」
『次元!?今何処!?』
「え?家の中だけど?」
俺の想像とは異なり、いつもの明るくて無邪気な音穏の声はそこからは聞こえて来なかった。聞こえて来たのは、そんな切羽詰った様な音穏の声と背後からの激しい雨音だけだった。
『ちょっと今何かに追われ・・・・・きゃっ!』
「音穏!?どうしたんだ!?」
音穏が何かを言い掛けた時、その背後から銃声音が聞こえて来た。まさか、さっき俺と栄長を狙った襲撃犯か!?まだ近くにいたのか!
『次元!助けて!』
「何があった!?場所は何処だ!?」
『グラヴィティ公園の時計塔の近く!何か、さっきから追われてるみた・・・』
ツー、ツー、ツー・・・・・
そして、音穏との通話が切れた。残るのは通話終了の電子音と俺の中の新たな嫌な予感だけだった。
「音穏さんがどうかされたんですか?」
横で俺の通話中の声を聞いていた湖晴が心配そうに俺に尋ねて来る。
「悪い。話はまた後でする。だから、湖晴はここで少し待っててくれ」
「はい?良いですけど・・・」
「ちょっと、音穏を助けて来る」
そして、俺は荒れ果てた家に怪我人の湖晴を残し、大雨の中傘も差す事無く、音穏がいるはずのグラヴィティ公園へと走った。




