第14部
【2023年09月20日16時22分59秒】
パンッ!
キュイン!
何処から狙撃されているのかは不明だが、この数秒間の間に聞こえた銃声音はこれで既に3回目。どれも栄長が持つテレポーターの能力によって回避する事が出来ているが、1発でも当たってしまえば場合によっては死に至る事だろう。
「栄長!取り合えずここから離れよう!何か不味いって!この状況!」
「そうした方が得策かもしれないけど、襲撃者の居場所が分からないとどうしようもないのよ!」
一体、誰が何の目的でこんな事をするんだ。もしかすると、栄長が所属している科学結社関連の何かなのかもしれないが、今はまだ平日の夕方午後4時だ。雨が降っているとは言え、まだまだ明るい時間帯だ。
それに、ここには普通の高校生である俺や栄長のファンクラブの連中も・・・・・って、そうだった!俺は栄長の近くにいるから問題無いとして、ファンクラブの連中は何も対応策が無いじゃないか!
俺は脳裏に過ぎった最悪の光景が現実の物ではない事を祈りつつ、道の後ろ側を見た。
「・・・・・あれ?」
そこには、雨でクラブが休みとなり栄長の後を付けて来たファンクラブの連中が傘を差しているはずだった。だが、俺が見た時には既にそこには誰もいなかった。
「何処へ・・・・・?」
「さっき、私が向こうに閃光弾投げておいたのよ。と言うか、遠くの方で発動されていたとは言え結構眩しかったと思うけど、気付かなかったの?」
「あー、さっきのか」
最初の銃声音の時にあった光はテレポーターの能力発動の光りではなく、栄長が投げた閃光弾が原因だったのか。そして、その閃光弾で脅かす事によって取り合えず、ファンクラブの連中をこの場から避難させたと。流石栄長。やはり、プロのする技は違う。
と言いたい所だが、ちょっと待て。栄長、何でさも当然かの様にテレポーターや閃光弾なんて持って来てるんだ!危な過ぎるし、よく学校でバレなかったな!それに、この調子だと爆弾とか拳銃とか持ってそうで怖い。
「・・・・・そこか・・・・・!」
「どうした?栄長」
すると、栄長が何かに気付いたらしく、そんな独り言を言った。
「次元君は危ないから私に付いて来て!今から襲撃者の所に行くから!」
「場所が分かったのか?」
「弾丸の入射角度や加速度合いから計算すると、襲撃者は多分あの丘の上よ!」
「あの丘?」
栄長が指を差しているのは、俺が最初の過去改変前に音穏を見つけた丘だった。思い出深い場所であり、俺が始めて時空転移した場所でもある。
既にグラヴィティ公園内にいる俺達なら、数分でそこへと着く事だろう。と言うか、これって俺も首を突っ込んでも良い事なのだろうか。栄長の言う通り、俺なんかが1人でいてはかなり危ないのでそうした方が良いのは分かっているが。
「行くよ!次元君!」
「お、おお!」
そして、俺達は走り始めた。専門知識が皆無の俺には全く分からないが、栄長の計算が正しいのなら襲撃犯はあの丘の上にいる事だろう。
走りながらも、俺と栄長は時間を無駄にしない為に今の状況の情報交換をする事にした。
「次元君は怪我してない?」
「ああ、俺は大丈夫だ。栄長の方は大丈夫なのか?」
「取り合えず、銃弾は全部遠くの方に転移させておいたから大丈夫。私自身も怪我は無いわ」
2人共無傷でなによりだ。10日前の俺だったら、こんな意味不明な状況が起きればすぐにでも気絶してしまっていただろう。3回も過去改変をしているからなのか、俺の中のそう言った感覚も狂い始めているのかもしれない。
俺は今の数10秒間に作り出された状況についての謎を栄長に少しずつ聞いて行く。
「それで、その襲撃犯はやっぱり科学結社関連なのか?」
「どうだろうね。普通に考えたらそうなんだけど、やり方が違うのよね」
「どう言う事だ?」
「科学結社の仕業なら、こんな夕方から戦闘に入るなんて事はないのよ」
「表沙汰になってはいけないからか?」
「そうそう」
おそらく、昨日の晩に湖晴が言っていた内容と同義と考えても良いだろう。科学結社は裏の組織であり、表の世界に知られてはならない。その均衡が破られると科学結社が裏からコントロールしていた科学のバランスが崩れ、世界が破滅する。
随分と大胆で大袈裟で非現実的な話だが、専門家の湖晴が言うのだから間違いないだろう。俺にはピンと来ないがな。
それに、栄長自身も過去改変前は蒲生との戦闘によってそんな一大事を引き起こしてしまい掛けていたのだが、今の栄長の台詞から推測するにやはり栄長自身もその事実を知っていたと思われる。
つまり、栄長は世界を破滅させても蒲生を守ろうとしていたのか。蒲生も自分の命を使ってでも栄長を守ろうとしていた。この2人、仲が良過ぎだろ。過去改変が成功してそんな2人がいがみ合う必要性が無くなって、本当に良かった。
「それに、発泡された銃弾はどれも私を狙っていた」
「栄長を?」
「うん。その事も含めて、これは科学結社ではない別の何かの仕業だと思うの」
「そうなのか」
「だって、私を狙うのなら一般人である次元君がいない場所で狙えば良いだけの事だし、それ以前にこんな街中でそれを実行する意味も見当たらないからね」
「そう言われれば・・・・・そうなのか?」
「そうなのよ」
『不意を突く』と言う意味ではセオリーに反する行動もありなのかと思ってしまうが、科学結社間では科学結社ならではのルールが決められているのかもしれない。
科学結社の何かが栄長を狙っているのなら、栄長が『Space technology』の№2である事を知っている人物だと思っていたのだが、そもそも襲撃者が科学結社に関係していないと言う栄長の推測が正しいのならば、それは間違っていると言う事になる。
だとすると、余計に分からないな。雨の日の夕方、平均的で普通の平凡な男子高校生である俺が隣にいる状態の栄長を科学結社のセオリーに反してまで狙撃した理由が。
「やっと着いたわね」
「ああ」
栄長から状況説明を受け、それについての試行錯誤をしているとあっと言う間に目的地であるあの丘の麓まで来た。俺達はそこにある階段を上がり、襲撃者を特定しようとする。
すると、階段の中間くらいに来た時に栄長が俺に話し掛けて来た。
「次元君」
「何だ?」
「取り合えず私が先に頂上に上がるから、次元君は数段手前で待機しておいてくれる?敵が何を持っているか分からないし」
「分かった」
襲撃犯の素性が不明な今なら、どれだけ注意しても注意し切れないからな。最善には最善を、安全には安全を、ってな。少しのミスで死んでしまっては元も子もないからな。
そして、頂上に上がる階段の少し手前まで来た。俺はそこで待機、栄長は先に状況を確認しに行く。
女の子にばかり助けられる男と言うのは、だらしない事だと思うのは分かっている。だが、今のこの場面で俺にどうしろと言うんだ?専門知識も専門機器も何も持っていない俺が栄長よりも役に立つなんて事はないだろう。
「次元君ー。もう来ても良いよー」
数10秒後、頂上から栄長の声が聞こえて来た。もう襲撃犯を発見したのだろうか。取り合えず、あれこれ考えても仕方ないので俺は栄長の指示通りに頂上へと向かう。
「あれ?襲撃犯は?」
「逃げられちゃったみたい」
俺が頂上へと上がった時には、既にそこには誰もいなかった。あるのはスナイパーライフルや弾倉が幾つかあるだけだった。
「まあ、ここの丘は上り下り出来る階段がそれなりに沢山あるから、逃げられていても不思議ではなかったんだけど・・・」
何か不味い事が起きたのだろうか。栄長の話し方に少し違和感がある。
「このスナイパーライフルと弾倉、私が所属している科学結社が管理していた物なんだよね」
「え?それってつまり、栄長が所属する科学結社の中の誰かが栄長の事を狙ったって事なのか?」
いわゆる、内部崩壊とか内部対立とかだろうか。いや、少し違うな。何と表現すべきなのだろうか。反乱?反逆?下克上?どれも少し違うな、うん。
「いや、流石にそれはないと思う。前に次元君が話していた、過去改変前の私と違って今の私は組織の仲間からの信頼性は抜群だから」
「そうか。だったら何で栄長が所属する科学結社のスナイパーライフルや弾倉なんかが?」
「昨日の夜、電話してた時に言ってたんだけど覚えてない?」
「?何をだ?」
蒲生と何を話していたのかを聞かれた事や、朝飯を食ったら爆殺すると宣告された事くらいなら印象深すぎて思い出せるが、それの事ではないよな。
「はぁ。やっぱり、次元君は記憶力に難があり過ぎだよ」
「悪かったな」
記憶力については何も誇れる所はない。精々自慢(笑)が出来るのは、ほぼ全ての授業を寝ていてもテストでは平均点は取れている事くらいか。そう言えば、中学の時は何度か見ていたが、最近では70点を超えた答案用紙を見てないな。今はどうでも良い事極まりないが。
話が逸れた。俺は再度、栄長に質問し返す。
「それで、何の事だ?」
「私が所属する科学結社が管理していたはずの拳銃等が幾つか盗まれていたのよ」
「何だ、それの事か」
「やっぱり覚えていたの?」
「俺の記憶力をなめて貰っては困る」
「だから、多分その窃盗犯と今回の襲撃犯は同一人物だと思うの」
「まあ、普通に考えたらそうなるよな」
冷静にその2つの事柄を見たら、同一犯である可能性はかなり高いだろう。勿論、何らかの組織ぐるみの可能性もあるが、科学結社以外の裏の組織がどれくらい存在していてどれくらいの力を持っているのかなんて事は俺には分からない。
だから、個人、もしくは少人数の犯行であると推測出来る。いや、それくらいしか推測のしようがない。
そこで、俺はふと思い付いた名案を栄長に提供する。
「そうだ。引き金に残ってるかもしれないと思うんだが、指紋とかで分からないのか?」
「雨降ってるのに?」
「・・・・・・・」
俺の考えが甘かったよ、うん。それは認めますよ、はい。
「流石にここで出来る事は何も無いけど、持って帰ってお父さんに調べて貰うよ。指紋とかなら既に拭き取られていると思うけど」
「出来る事はしておいたら良いからな」
「そうね」
そうして、栄長は放置されていたライフルや空の弾倉を次から次へと自分のバッグの中にしまっていった。昔がどうだったのかは知らないが、今時のライフルって分解すればそれなりに小さくなる物なんだな。知らなかった。
凶器を一通り回収を済ませた栄長は立ち上がり、俺の方を向かって話し掛けて来る。
「じゃあ、これからどうする?さっき傘を放り投げてここまで来たから、既にびしょ濡れなんだけど」
「やっぱり、俺は家で安全に(睡眠活動をしながら)過ごして、栄長は襲撃犯の調査って事になるのか?」
「・・・・・次元君の『家で安全に』の後の小声が気になる所だけど、まあ、そんな感じで良いかな」
いやいや、睡眠は大事ですよ?ここぞと言う場面で寝不足だったが為に死んだら、死んでも死に切れないからな。と言うか、今もかなり眠いんだよ。俺は。
「この件は湖晴には言っておいても良いか?」
「湖晴ちゃん?うーん・・・」
ある程度は社会の裏を知っている湖晴なら俺達の力になってくれるだろうと思い、俺はそんな事を聞いてみた。
数秒間考え込んでいた栄長だったが、結論が出たらしく俺にそれを伝える。
「多分、大丈夫だと思う」
「分かった。それじゃあ、伝えておく」
取り合えず、湖晴にはこの件の最初から全てを話すべきだろう。必要であれば過去改変もするつもりでいよう。
「じゃあな。気を付けて帰れよ?」
「次元君もね」
「あと、あんまり体冷やすなよ。女の子は特に体は大切にしないとな」
「私の事を気遣って言ってくれているのは分かるけど、少し卑猥な台詞に聞こえるのは何故だろう」
「え!?俺は別にそんなつもりは・・・」
俺はただ純粋に栄長には風邪を引いて欲しくないと思ってのそんな台詞だったのだが、どうやら栄長には卑猥な台詞に聞こえてしまったらしい。そして、また俺が変態扱いをされるのか。
あと、さっき栄長の胸を触ってしまった件は完全に事故だ!俺が悪くない訳ではないが、それでも謝罪はしているはずだ!そう、あの件は完全に事故なんだ(2回目)!
「分かってる分かってる。また明日ねー」
「ああ。またな」
そうして、俺と栄長は各自で自宅へと戻った。それぞれの目的を果たす為に。
だが、このすぐ数分後、俺の身に幾つもの災難が降り掛かるなど、この時の俺は知る由もなかった。




