第13部
【2023年09月20日16時13分30秒】
「で」
「ん?」
昼休みに結局弁当を4つも食べた事以外には学校では特に何も無く、放課後になった。昼休みの時と比べて、少しばかり雨が強くなっている。風こそないものの、久し振りの雨の為、雨の憂鬱さを改めて痛感させられる事になった。
今は、音穏は屋内で出来クラブである軽音部に所属している為、ここにはいないが、代わりに俺と同じく帰宅部の栄長が俺の隣で傘を差して歩いている。
そして、帰り道であるグラヴィティ公園に入って少しくらいの時に、俺は栄長に何かを話し掛けられた。
「結局どうだったの?私と音穏ちゃんがわざわざ大切な時間を割いて、友達がいなくて彼女もいない次元君の為にしょうがなく作ってあげたお弁当の味は」
「・・・・・何故だろうか。その言い回しにはやや難があるのは気のせいか?」
言い回しと言うよりは、俺の言い様が酷い。友達も彼女もいないのは俺自身が充分に知っている事だが、そんなにストレートに言わなくても良いだろうに。
「普通に美味しかったぞ?と言うか、言わなかったっか?」
「言われてない」
「そうだったか」
昼休みに突然俺に弁当を渡して来た音穏と栄長。俺がかなり空腹だったせいもあるだろうが、2人の作った弁当は異色ながらもとても美味しかった。
個人的にはまた頂きたい所だが、流石に2回目以降は無いだろう。あと、俺はその感想も言ってなかったらしい。せっかく作って貰ったのに、失礼な事をした。帰り際に『弁当箱は洗ってから返す』とは言えたのにな。
「だって次元君ってば、食べ終わった後すぐに寝ちゃったんだもん」
「腹一杯になると眠気が起きるんだよ」
「いやいや、次元君が眠いのは食前とか食後とか全く関係無いでしょ」
「まあな。確かに、それを言われると反論出来ないな」
1日のおよそ3分の2を睡眠活動で消費する俺は四六時中眠い。寝てはいけない時にも気付いたら寝ているのだから、寝ようと思えば何時だって寝れる事だろう。
「それはそうと」
「?」
俺は弁当の話は取り合えず保留にして、栄長に話し掛けて話題を変える。
「さっきから、後ろに何やら大群が付いてきている様な気がするのだが」
「あー、あの人達?」
「そうそう」
俺達の背後数10mの所に傘を差している集団がいる。遠目から見てもよく分からないが、おそらく栄長非公認のファンクラブ『リンちゃん親衛隊(以下略)』の連中だろう。
今日は雨で、しかもそこそこ降水量が多い為、屋外でする系のクラブは全て活動してはならなくなっている。屋内でも出来る事はあるだろうが、学校側の判断なのでそこら辺は逆らえないのだろう。
そして、そんな連中は、分かりきった事だが栄長の後を付けて来たのだろう。だが、その隣で俺の様なぼっちが一緒に歩いている姿を見て近付けないのか、背後からは凄まじい負のオーラを感じる。
「気にしなくても良いんじゃない?結構遠い所にいるから、私達の話している内容なんて聞こえないと思うし」
「まあ、栄長が気になってないのなら問題無いが」
「心配無用なのです」
俺はもう何も失う物が無い為、別にファンクラブの連中に嫌われようが全く関係無い為、栄長が特に気にしていないのなら、俺は後ろは振り向かないようにするだけだ。
「話は変わるけど、次元君」
「何だ?」
すると、栄長がやや真剣な声色で俺に質問して来た。
「湖晴ちゃんとか、タイムトラベルについての事なんだけど・・・」
「それをここで話題に出すか」
「大丈夫でしょ。近くには人はいないし、雨もそれなりに降ってるからね」
「とは言っても、分かれ道まで残り数分だから大した事は話せそうになさそうだけどな」
後ろ数10mにファンクラブの連中がいるのもお構い無しに栄長は俺にタイムトラベルについて聞いて来た。昨日の晩に湖晴の話を聞いている俺としては、あまりそう言う話は外ではしたくないものだが、今の栄長の言い分ならおそらく大丈夫だろう。
栄長には1年前は状況説明をするだけで、大した事は話せていないので、これは良い機会だろう。
「では、第1問」
「切り替え早いな。しかも、何故出題形式?」
「細かい事は気にしない気にしない。では質問入るよ?次元君はどうやって、湖晴ちゃんやタイムトラベルに関わったの?前は超一般人だったのに」
「話せば長くなるぞ?」
普通に話せばざっと10分から20分は余裕で掛かるだろう。だから、帰り道の時間だけでは全ては語れないと思うが、暫くお付き合い頂きたい。
「それなら、1文でお答え下さい」
「1文!?」
10分から20分は確実に掛かるであろうストーリーを1文で!?それは無茶振りにも程がありますよ、栄長さん!
「はい、あと1分~」
「マジかよ!?時間制限もあるのか!?えーっと・・・・・9月11日、学校の帰り道のグラヴィティ公園内で撃たれて血塗れ姿になっている湖晴が突如俺の目の前に時空転移して来て、焦った俺は救急車を呼ぼうとしたが、公園内には誰もおらず、しかもスマホの電源も故障で入らないので、仕方なく俺は湖晴を背負って家に帰り、以前に俺の両親から教育されていた応急処置を施して、取り合えずはその場を凌ぐ事が出来たので、風呂に入って少し休憩してから直接病院に行こうと考えていたが、その時に全裸の湖晴が風呂場に入って来て、始めは幻覚ではないかと思ったがそれは紛れも無い事実で、俺が部屋に戻ると湖晴の怪我は完治しており、何で突然俺の前に現れたのか等の事情を聞いてみると、湖晴がタイム・イーターと言うタイムマシンを所持しているタイムトラベラーである事が発覚し、その後、俺は次の過去改変に向かうと言って去ろうとした湖晴を引き止めて、それを手伝ってみようかと考えたが、それがそもそもの間違いで、次の過去改変対象者は音穏で、俺と湖晴は音穏の元へと走り、そして、着いた先で音穏に会い、その拍子に発生した事故によって怪我をしてしまった音穏を見て、俺は過去改変をする事を誓い8年前に戻り、そこで音穏の両親に様々な事情を話して何とか過去改変に成功し、これからも今まで通りの平凡な生活を送れると思っていた俺だったが、9月13日の朝に湖晴が再登場し、それからが今に至ると言う事だ!・・・・・はー、はー、はー・・・・・」
「乙かれ。掛かった時間は1分5秒かな。思ってたよりも早口言葉得意なんだね」
「・・・・・はー、はー、はー・・・・・」
あー、死ぬかと思った。酸素が、酸素が欲しい。こんなに長い文章を行き継ぎ無しで早口で話していると酸欠になってしまう。と言うか、俺にしてはよくまとめる事が出来たと思う。
あと、今栄長が言った『乙かれ』と言う『お疲れ』の変換ミスについては無視の方向で。
「それで、色々と質問したい事が出来たんだけど良いかな?」
「ど、どうぞ、何なりと・・・・・」
「まあ、湖晴ちゃんが次元君の前に裸で現れた事については深くは聞かないけどね」
「俺とした事が余計な事を・・・・・!」
迂闊だった。勢い余って大変な事を言ってしまった。そしてまた、俺が変態と呼ばれてしまうのか。辛い・・・・・。
「何で今の話の中に音穏ちゃんが出て来るの?」
「え?」
「まさか次元君、『私以外の件でも過去改変してる』んじゃあないでしょうね?」
「・・・・・えっと・・・・・?」
しまった。そう言えば、栄長には俺が音穏や阿燕達の過去も改変している事を言ってなかった。1年前の『過去』では栄長の件についてのみ説明した為、その事に関しては言ってなかったのだ。
それはそうと、どうしようか。今更言い訳なんて出来ないし、説明しようにも更に時間が掛かりそうだ。よく考えてから文章を構成すべきだった。そんな時間は無かったが。
「やっぱりそうか。はぁ、私とした事が何でそんな事で次元君なんかを・・・」
俺が栄長にどう説明するべきなのかを思考錯誤していると、栄長が何かをボソッと呟いたが、自分自身で別の台詞に言い換えた。
「まあ、そんな事はどうでも良いよ。結局の所湖晴ちゃんは何者なのか、と言う質問は最後にするとして、次元君。次元君は今までに何回過去改変して来たの?」
「・・・・・3回と1回」
「計4人分って事?」
「いや、そう言う事じゃない」
「じゃあ、どう言う事?」
話す・・・・・しかなさそうだな。この話の流れだと。過去改変後の栄長がどうなのかは知らないが、過去改変前の栄長は何人もの人を殺して来ていたと言う事実を。トンでもない事を聞こうとしているのは百も承知なので、やはり気が引けるな。
取り合えず、俺は話の流れに全てを任せ、栄長に過去改変の事について話して行く。
「1回目は今言った様に音穏。2回目は豊岡阿燕と言うソフトボール部の女の子。そして、3回目が栄長だ」
「4回目は?」
「栄長の過去は2回改変をしたんだ」
「え・・・・・?」
俺の台詞を聞くと同時に少し驚きの表情を見せる栄長。その表情は普段の小悪魔的な良い意味での笑顔とは全く異なっている物だった。まあ、無理もないがな。
「栄長の過去改変の1回目は1年前のあの時。それは覚えているだろ?」
「う、うん」
「そして、2回目は『栄長が生まれる数年前に行った』」
「それで、何をしたの?」
「栄長の親父さんに会って『栄長には無理をさせるな』と言った」
「何でわざわざそんな事を言ったの?」
「今ここにいる栄長はどうなのかは知らないが、そうだな、ここではっきりさせておこう」
栄長からの質問攻めに俺は次々と答えて行く。答えは既に終了した事柄を述べるだけなので、返答するのには大した時間は掛からなかった。だが、ついにその質問が来てしまった。
俺は台詞と台詞の間に少し間を空けて、過去改変後のこの世界にいる栄長にとっては衝撃の内容であろう事柄を話す。
「俺が知る栄長、つまり、1回目の過去改変前の栄長は何人かの人を殺してしまっていたんだ」
「私が・・・・・?」
「ああ。俺は栄長からどんな返事が帰って来ても、それが終わった事ならば特に追求はしない。だが、今ここにいる栄長はどうなんだ?」
「私は・・・・・誰も殺してない。殺し掛けたのは、1年前にクロと戦うはめになった時だけ」
「そうか・・・・・。なら、良いんだが」
良かった。どうやら、俺の過去改変は2つ共成功していたらしい。栄長は無駄な争いをする必要はなくなり、しかも、殺人者にもなっていない。全てが上手く行っている。全てが俺の思う様に行った。これ程嬉しい事は無い。
「過去改変前の私・・・」
「ん?」
暫くの沈黙の後、再び栄長が俺に話し掛けて来る。
「次元君は過去改変前の私の事をどんな風に見てたの?殺人者である私を」
「別に。俺はいつもと変わらなかったな。それに、栄長の前にも2人の過去を変えているからな。知り合いが殺人者だとしても、変な風には思わなかった。ただ純粋に、上書きすれば良いと思っていた」
「そう。次元君がそう言ってくれて安心した」
そうなのだ。確かに、殺人者が近くにいたり殺人者と話すのは普通は怖い事だろう。そう言う事に関しては、俺は既に狂っているのかもしれないが、問題はそこではない。
今俺が言った通り、俺達にはタイム・イーターと言うタイムマシンがある。タイム・イーターによる時空転移はその性質上、1度しかチャンスは無いがそれでも1回はやり直せるのだ。何も心配する事は無い。勿論、そうだと分かっていても、俺の本心は女の子に人を殺させてはならない、と言う事で固まっているが。
「あと、その事に関して1つ良いかな?」
「何だ?」
「前にお父さんが言ってたんだけど、『燐が生まれる前に白衣を来た男が制服姿の女を連れて、妙な台詞を言って帰って行った』って」
「あー、多分それ俺と湖晴だな。栄長の過去改変1回目のすぐ後にそのまま行ったから」
時期的にもおそらくそうだろう。それに、白衣を着た男とは俺の事であり、制服姿の女とは湖晴の事だろう。あの時は諸事情により、俺と湖晴は服を交換していたからな(上着だけ)。
「やっぱり。で、その時に次元君は何か落し物をしたんじゃない?」
「落し物?」
落とすような物は何も持っていなかったと思うが。いや、そう言えば、コンビニで買ったサングラスが無くなっていた様な気がする。それの事だろうか?
「そう言えば、うっかりサングラス落としてたかも」
「実はそれ、今私の部屋にあるんだ」
「それまた何で」
「お父さんが記念に、って。本当は私は不気味だったから嫌だったんだけど、今次元君の物だって分かったから、大切にするよ」
「お、おお?」
不思議なご家庭なんだな。謎の男が落として行ったサングラスを娘に渡すなんて。俺なら絶対にしないぞ。そもそも結婚するのか、出来るのかが問題だが。
すると、栄長はいつも通りの小悪魔的な笑みで俺に何かを聞いて来る。
「それにしても、次元君」
「ん?」
「話を聞く限り、ハーレムを作ろうとしている様にしか聞こえませんねー?」
「ファッ!?」
栄長は突然何を言い始めるんだ。何で俺なんかがハーレムを作る必要があるんだ。と言うか、例えそうだとしてもハーレムなんか存在してないだろ。
確かに、可愛い女の子が近くにいてくれると言うのは純粋な男子高校生である俺としては嬉しい限りの事だが・・・・・って、今はそう言う事が問題ではなくてだな!
「年頃の男の子だしそんな事を考えるのも仕方ないけど、少しは自重してね?」
「ちょ、ちょっと、待て!何で俺がハーレムなんて物を作ろうとしている事が前提に話が進んでいるんだ!俺はただ、皆が救われれば良いだろうと・・・」
「良いって良いって。ほらほら、女の子にこう言う事して欲しいんでしょー?」
「お、おい、栄長!」
そんな台詞を言うと同時に、栄長は自分の腕を俺の腕に絡ませて来た。そして、その際に栄長の大きい胸が俺の肘を挟み込んだ。
それまでの栄長の台詞と今の、この俺的にはかなり嬉しいが社会的にはかなり不味い状態を打破する為に俺は軽い力で栄長を引き離した。
「ス、ストーップ」
「ふあ!」
「え」
それによって、普通の女の子並みの力しか持たない栄長は俺から引き離された。だが、その拍子に俺が栄長方向に勢い良く突き出した両手が、栄長の両胸を掴んでしまった。感触については栄長の事を考えて、あえて明記しない。
「すみませんごめんなさい申し訳ありません!謝るから許して下さい!」
「も、もぉ・・・私、初めてだったのに・・・・・」
俺は雨の降っている中、傘を放り出して栄長にこれ以上無いくらいに土下座をした。お陰で全身ずぶ濡れだ。ふと栄長の顔を顔を上げて見てみると、あの栄長の顔が真っ赤になっている。
これはもう、俺は死刑かもしれない。ラッキースケベイベントは仮想世界だけの物であり、現実世界で起きても普通に犯罪だからな。ましてや、学校中の誰からにも人気がある美少女の栄長の両胸を掴んでしまったのだから。もしかすると、来世もその次も死刑かも。
「!」
俺が地べたで正座をしていると、顔を赤らめていた栄長が何かを察知した様子で、急に険しい表情になり、辺りを見渡し始めた。
「どうした栄長?まさか、今の拍子に怪我を・・・」
「ちょっと次元君は黙ってて!」
「は、はい!」
何なんだ?一体。怪我をしたのなら、行ってくれれば良い物を。
しかし、俺のそんなどうでも良い考えは数秒後に破綻した。
パンッ!
「!」
「!?」
何処からなのか、そんな銃声が聞こえて来た。俺は困惑していたが、栄長はスカートの中に隠し持っていたテレポーターを取り出してそれを構え・・・、
キュイン!
銃弾であろう何かを何処かへと瞬間移動させた。その拍子に大音量の金属音が辺りに響き渡り、少しばかりの閃光が視界を遮る。
「何だ!?今のは!?」
「気を抜かないで、次元君!まだ来るかも知れない!」
急に現れた謎の襲撃者に、俺と栄長は改めて迎え撃つ体制を整えた。




