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Time:Eater  作者: タングステン
第四話 『Sn』
78/223

第12部

【2023年09月20日12時21分19秒】


 雨だ。雨の日とは憂鬱な物だ。湿気があるからなのかいつもより体がだるく感じるし、寝難いし、寝辛いし(同じ事か)。なので、ロングスリーパーの俺にはあまり最適な天候であるとは言えないだろう。


「次元ー」

「ん?」


 午前の授業が終了し、昼休み開始直後、音穏のそんな声が聞こえて来る。いつも通り昼飯を一緒に食べようと言いに来たのだろう。最近、とは言ってもまだ2日目だが、栄長も一緒にそうする事だろう。


「今日は教室で良いのか?」

「うん、雨降ってるからね。あ、燐ちゃん『例の物』持って来た?」

「持って来たよー」

「?」


 『例の物』?何か嫌な予感がするのだが、まさか、俺は何かの実験台にされるんじゃないだろうな。


「そう言えば次元、今日お弁当は?珠洲ちゃんに言って減らせて貰えた?」

「あー、いや、そもそも弁当が無い」

「え?」

「昨日、ちょっと珠洲を怒らせたみたいでな。だから、今日は朝飯も弁当も無いんだ」


 原因はおそらく・・・・・いや、絶対に風呂場でのあの出来事だろう。俺としては正論を言っていたつもりだが、そんな台詞が珠洲の気に障ってしまったらしい。


 こんな事、今までで初めてだ。珠洲の機嫌が悪くなる事は多くはないが、少なくもない。だが、それが原因で珠洲が朝食を作らなくなったり、弁当を用意しなくなったりする事は無かった。それに、今朝も俺が起きた時には既にいなかったし。昨日の朝とは違って置き手紙も無し。


 今湖晴はどうしているだろうか。珠洲に起こされなかった為、俺は音穏が呼びに来るまで寝ていた。だから、どちらにせよ朝食はあっても食べられなかったのだが、湖晴はそうではない。まあ、適当に何か食べている事だろう。


「そうなんだ。と言うか、何しちゃったの?」

「まあ、俺の台詞の何かが気に入らなかったんだろうな」


 風呂場で全裸の珠洲に抱き付かれたなんて言うと、音穏がお得意の百合属性を発揮する恐れがあったので、それはあえて言わない。それに、今ここには栄長もいる。栄長も音穏同様に、やや百合みたいだしな。前に珠洲と栄長が会った時には、軽い喧嘩みたいになっていたが。


「後でちゃんとフォローしとかなかったの?」

「それが出来れば苦労はしないさ」


 あの後風呂を出た俺は家中を探したが、どこにも珠洲の姿は無かった。しかも、今朝もいなかったのだから、謝るにも謝れない。電話も繋がらないし。メールの返信も無し。湖晴に聞いても知らないって言っていたしな。


「それじゃあ、今は次元はお腹がかなり空いてるって事だよね?」

「?ああ、そうなるな」

「はい、じゃあ、これあげる。別に、次元の為に作ったんじゃないからね?おかずが余っただけだからね?」

「お、おお?これは?」


 俺が空腹である事を確認した音穏は手に持っていた箱を俺に渡して来た。


「お弁当だよ?」

「弁当?それまた何でだ?音穏の分はあるのか?」

「勿論私の分もあるよ。で、ほらほら、燐ちゃんも」

「栄長も?」


 ん?ちょっと待て。これはどう言う状況だ?


「どうぞ、次元君」

「これもまさか・・・」

「お弁当だよ?」

「・・・・・・・ん?」


 何で2人共弁当を2つ持って来ていて、しかもその内の1つずつを俺に渡すんだ?俺が今日珠洲に弁当を作って貰えていない事を知っていたのか?と言うか、本当に貰っちゃって良いのか?これ。


「まさか2人共、昨日の電話はこれをする為に・・・」

「え!?今やっと気付いたの!?」

「気付けるか!と言うか、どうやって気付けと言うんだ!」


 昨日の電話はその為の物か!やっと話が繋がったよ!全く。道理で2人の台詞の言い回しが妙にくどいと思った。


 それに『弁当を持ってくるな』や『朝飯食うな』と言う台詞は、決して俺を餓死させる為ではなく、俺に弁当を食べさせる為だったのか。それならそうと、素直に言ってくれよ。


「でも、結果的には良かったんじゃない?次元はお弁当作って貰えなかったんだし」

「確かにそうだが。何で急に?」


 つまり、2人は今日俺が珠洲に弁当を作って貰えなかった事を知っていた訳ではないのか。と言うか、逆に知ってたらビックリするぞ。


「昨日、私電話で『これは女の戦いなのよ』って言ってたでしょ?」

「そう言えばそうだな」

「記憶が適当だなー。次元君はー」

「良いだろ、別に」


 記憶力なんてどうでも良いのだ。俺に必要なのは、1に睡眠、2に睡眠、3に睡眠なのだから。


「で、何で俺なんかに?」

「そりゃあ勿論・・・」

「?」


 俺が質問すると、音穏と栄長の2人は少し笑って顔を見合わせ、そして俺に言った。


「次元に私達が作ったお弁当を食べて貰って、評価して貰う為だよ!」

「・・・・・はい?」


 つまり、俺にグルメレポーターになれと。そう言う事ですかい。俺にはそう言う系な才能は無いので、これはかなり困った状況になったかもしれない。と言うか、何で急に弁当を俺なんかに評価して貰うなんて事になったんだよ。


「だから、私と音穏ちゃんがお弁当を次元君程度の人間に作って、しかも食べて貰う挙句、評価をして貰おうって言う計画なんだよね」

「おいちょっと待て。何か今、俺の扱いが非常に酷かった様な気が・・・」


 『次元君程度の人間』って。酷すぎやしませんかね、栄長さん。いや、お2人の手料理を頂ける事に関しては嬉しい限りですが。


「さあ、次元!そんな事気にしないで食べなさい!2つもあるんだから、早くしないと昼休み終わっちゃうよ!」

「あ、ああ、じゃあ、お2人のご好意に甘えまして頂きます・・・・・」

「うん」


 俺は女の子2人がせっかく作ってくれた弁当を前にそんな台詞を言った。まあ、これで空腹のまま午後の授業を過ごさなくても済みそうで何よりだ。2人共、サンキュー。


 補足。さっきから、栄長非公認のファンクラブ『リンちゃん親衛部隊2nd』のメンバーと思われる、クラスの男子生徒数名が俺の方を睨んでいた気がする。取り合えず、目を合わせない様にしておいた。目を合わせるとどうなるか分かったもんじゃないからな。


「そうだ」

「どうしたの?次元君」

「湖晴にも何か貰ってたんだった」

「湖晴ちゃんから?」


 俺は音穏、栄長との電話の後、湖晴と会話したその最後の方で湖晴から袋に入った何かを貰ったのだ。本人は弁当とか言っていたが。ちなみに、今朝も何故か水筒を渡されたし。本人曰く、それが『もう1品』らしい、。


 すると、今の俺と栄長の会話に違和感を感じたのか、音穏が栄長に質問をした。


「あれ?燐ちゃんって、湖晴ちゃんと会った事あったっけ?」

「え?いや、えっと・・・」


 栄長と湖晴は1年前に出会っている。あの過去改変の時だ。だが、音穏はその事を知らない。勿論、タイムトラベルの事も科学結社の事も、だ。


 音穏からの急な質問に戸惑っている栄長に俺は助け舟を出す。


「『古い知り合い』だろ?」

「え?あ、あー、うん。そうそう」


 栄長も俺の考えを察したらしく、適当に相槌を打った。音穏は深く追求する気はないらし、その後、スムーズに話が進んで行く。


「ふーん。そうなんだ。で、次元。湖晴ちゃんからは何を貰ったの?」

「何かは分からんが、本人は弁当だって言ってた」

「凄いタイミングだね、それは」

「確かにな」


 珠洲の料理ボイコット、音穏と栄長からの弁当プレゼント、と言う滅多に発生しない様なイベントに丁度重なるなんてな。ある意味では凄い事だ。


 そう言えば、あの時湖晴は『次元さんは多分気付いていないと思うので、私もそれに便乗してみます』的な台詞を言っていた様な気がするが、もしかして、俺よりも早く音穏達の電話の意味に気付いていたのか?それもそれで凄いな。洞察力が半端ではない。


「何が入ってるのか・・・・・ん?」

「「・・・・・・・」」


 俺は少し期待しつつ、湖晴から受け取った袋を開けた。そして、その中から筒状で発泡スチール製の弁当(?)を取り出す。すると、音穏と栄長が明らかに絶句していた。


「これって・・・・・」

「えっと、お弁当・・・・・だよね?」

「らしいが・・・・・明らかに違うよな」


 それは紛れも無く、カップ麺だった。一応、パッケージを見る限り季節限定商品らしいが、これは弁当と呼べるのか?否、呼べないだろう。と言うか、カップ麺なんて久し振りに見た気がする。


 そこで、嫌な予感がした俺は今朝湖晴から貰って謎の水筒をバッグから取り出してその中身を確認した。中には丁度良い位の量のお湯が入っていた。


「カップ麺とお湯・・・・・」

「何だか私、湖晴ちゃんの食生活が心配になって来た」

「いや、居候を始めてからは栄養管理がされている珠洲の作った料理を食べているから、そんなに心配する事はないんじゃないか?」


 俺の家に居候しに来るまでの湖晴の私生活は一切謎に包まれているが、まあ、大丈夫だろう。流石に、カップ麺しか食べて来なかったなんて事はないはず。


 それに、ある程度栄養が無いと、湖晴の体のあの1部はあんなに発達しないと思うしな。ここではあえて、それが何処とは言わない。


「まあ、取り合えず、湖晴の弁当はここに置いておこう」

「そ、そうだね。じゃあ、私と燐ちゃんが作って来たお弁当を開けて貰える?」

「ああ」

「順番は先に音穏ちゃんで、次に私で良いかな?」

「良いよー」

「では、早速」


 栄長に促され、俺は音穏が作ってくれた弁当を開けた。元々、栄長と一緒に俺に渡すつもりだったのだろう。弁当本体の大きさは小さめだ。


 弁当の内容は・・・・・野菜?と言うか、ここまで来るともはやサラダの盛り合わせ?弁当の90%が完全に森林状態だ。それは、肉類やご飯が無い様にすら錯覚してしまうような光景だった。


「野菜弁当?」

「ベジタブルランチと呼んで頂きたい」

「それって一緒じゃないのか?まあ、良いか」


 お子様ランチみたいな言い方するなよ。


 だが、見た目はそんなに悪くない。むしろ、良い方だ。内容はともかく、野菜だらけとは言っても緑1色ではないからな。大して腹には溜まりそうもないが。


「と言うか、本当に野菜だらけだな。炭水化物がほとんど見当たらん」

「健康には野菜が1番でしょ」

「確かにそうかもな」


 はて、音穏は本来の目的を忘れているのではないだろうか。音穏達は俺に弁当の評価をして貰う為に弁当を作っただけであり、俺の健康なんて気にしなくても良いはずだが。まあ、健康面を第1に考えていると言う事に関しては充分に評価しても良いだろう。


 作って貰っている側がこんなに上から目線ではいけないな。以後、気を付けよう。


「じゃあ次は栄長か」

「どうぞー」


 取り合えず、音穏の弁当に関しての考察を心の中で済ませた俺は、今度は栄長の弁当に手を掛ける。


「・・・・・ん?」


 これは、何だ?弁当と言われれば弁当にも見えなくはないが、どちらかと言うと薬ケースと言った方が良いのかもしれない。つまり、それくらい薬だらけの弁当だった。


「薬ケース?」

「あ、間違えた。それ、私のだった」

「薬多い!弁当のほとんど薬じゃねえか!」

「次元君。栄養補給があまり得意じゃない人も、世の中には沢山いるんだよ?」

「苦労してるなあ」


 特殊体質の栄長は栄養補給があまり得意ではないらしい。だから、普通に飯を食べる以外にもこうして薬でその栄養を補給する必要がある。とは言っても、流石に多過ぎだろ。薬の量が。と言うか、弁当に詰め込むなよ。


 栄養に関する事は珠洲に相談したくもなる所だが、2人は確か、仲があまり良くなかった気がするので止めておこう。


「はい。じゃあ、こっちが次元君用」

「ああ、悪いな」

「大丈夫大丈夫ー」


 改めて、栄長が別の弁当箱を俺に渡して来る。まあ、あの栄長の事だから、きっと普通でまともな弁当だろう。


 そして、弁当箱の蓋を開けて中身を確認する。取り合えず、右端から順に解説して行く。


「肉類、野菜、ご飯全体的にバランスが良い。で、左側は薬薬薬・・・・・って、おーい」

「?どうかしたの?」

「いやいやいや!『どうかしたの?』じゃないって!食べ物と薬の比率が少し違うだけで、こっちもほとんど薬ケースじゃねえか!」

「いやー、次元君は何時でも何処でも寝てるから、てっきり栄養が不足してるんじゃないかと」

「栄養面に関しては、珠洲がかなり計算してるから大丈夫だとは思うが・・・・・」


 結局、そんな感じだ。音穏の作った弁当はほぼ野菜。栄長の作った弁当はほぼ薬。俺も一応男子なので、もう少し肉類とか炭水化物を増やして欲しい所だが、どちらも2人なりに考えた末の物だ。だから、感謝しなければな。


「まあ、ありがとな。2人共、俺の為に・・・」

「じゃあ私達もご飯食べようか、燐ちゃん」

「そうね。あんまり騒いでいても時間が無くなるだけだし」

「おーい。俺の言葉が宙に浮いたままだぞー」


 俺の感謝の言葉を最後まで聞き届ける前に2人は自分自身の弁当を食べ始めた。相変わらず、俺の台詞は宙に浮き易いな。物理的な意味ではなく、比喩的な意味で、だ。


「湖晴の弁当、と言うかカップ麺も食べといた方が良いよな・・・・・。だがこれだと実質、弁当3つ分だからかなりきついよな」


 俺は机に置いてある3つの弁当(内1つはカップ麺)を見て、そんな事を思った。幾ら空腹とは言え、3つは多い。だが、せっかく俺の為に作ってくれた物だ。残す訳にはいかない。


「・・・・・ん?」


 それと同時に俺はある事に気が付いた。ついさっきまでは何も無かったはずの机の空間に弁当が1つ追加されていたのだ。しかも、置手紙付きで。


「『上垣外君へ よろしければ召し上がって下さい。お弁当箱は返さなくても大丈夫です。 S・S』?」


 『S・S』?誰かのイニシャルだろうか?勿論俺は違うし、音穏は『N・N』、栄長『E・R』だ。珠洲は『K・S』だが、珠洲の可能性はそもそも無いだろう。だとしたら、誰がこれを?


「まあ、誰かは分からんが、ありがとな」


 俺は誰かに向かって独り言を言った。


 昼休み、俺はその追加された弁当を含めた4つの弁当を完食した。流石に腹がはち切れそうにもなったが、どれもかなり美味しかったので、充分に満足出来た。


 俺の周りには優しい子が多いいよな。本当に。


 そんな事を考えつつ、俺は午後からの授業を食休み(睡眠)で過ごした。

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