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Time:Eater  作者: タングステン
第四話 『Sn』
76/223

第10部

【2023年09月19日20時18分13秒】


 いつも通りだった。珠洲はいたっていつも通りだった。


 最近は何かが少しずれて来ている様な気がしていたが、本当はそんな事無い様に思えた。夕食の時はちゃんと家にいたし、その時にした会話もいつも通り。何も不自然な所は無かった。


 流石に、珠洲が昨日今日と学校に行っていないと言う事については湖晴がいる前では少し話し難かったので止めておいたが、今度時間があったら聞いてみよう。同じ家に住んでいるのだから、それくらいの時間は幾らでもある。


 と言う訳で回想(?)終了。今俺は・・・・・聞きたくないかもしれないが、上垣外家風呂場にいる。どうせ風呂を上がったらもう寝るので、この時間も有効に使おうと思う。


 主に、珠洲の事についてだ。先程も言った通り、今日の珠洲は何もおかしな所は無かった。だが、珠洲の兄の俺としては逆にそれに違和感を感じてしまった。これは何でなのかは分からないが・・・、


 ガラッ


 俺がこれまでの様々な事柄についてまとめようとしていた時、突然、風呂のドアが開けられた。


「・・・・・ん?って、珠洲!?今俺入ってるけど!?」


 そこには今丁度話題になっていた珠洲が裸体にタオルを巻いて立っていた。タオルを巻いているとは言え、妹とは言え、女の子の裸(に限りなく近い状態)を見続けるのは人として不味いので、俺は即座に視線を逸らした。


 と言うか、何でだ!?俺はついさっき風呂に入り始めたばかりだぞ!?なのに、何で珠洲も入って来るんだ!?間違えた・・・・・訳ではないよな。俺はいつも念の為、珠洲に一言言ってから風呂に入るからな。


 すると、自身の体に巻いているタオルを恥ずかしそうに指でいじりながら、珠洲が俺に話し掛けて来る。


「え、えっとね、おにぃちゃん・・・」

「お、おお?」

「一緒に入ろう?」


 急にいきなり突然何を言い出すんですか。珠洲さん。俺達高校2年生と中学3年生だよな?兄妹とは言え、流石に不味いだろ。


「え?で、でもだな、流石に兄弟とは言え、年頃の男女が一緒に風呂に入ると言うのは・・・」

「ワタシじゃ、嫌?」

「い、嫌ではないが・・・」


 むしろ嬉しいが。いや、気を使う必要がある、と言う意味では嬉しくないか。


「なら、良いでしょ?」

「・・・・・・・」


 俺は珠洲に背を向けて会話をしているが、そんな風に珠洲が丸い声で聞いて来る。何でそんな風な態度を俺にとるんだ・・・・・。


 こう言う場面ではどうするべきだろうか。兄としてはきっぱりと断るのが良いのだろうが、珠洲はそれをすると悲しむだろうな。念の為に言っておくが、この考えに俺の個人的な意見は含まれていない。それだけは断言しておく。


「・・・・・分かったよ!珠洲の思う通りにすれば良いさ!」

「やった!あ、1つ補足しておくけど、後ろ向いたら駄目だからね♡」

「あ、ああ。一応聞いておくが、向いたらどうなるんだ?」

「殺すよ♡」

「・・・・・・・了解」


 ごく自然な流れで珠洲に殺害予告をされた俺は、ややビクビクしながらも、珠洲と共に風呂に入る事になった。俺の家の風呂場は2人入っても別に狭くはないが、それでもやはり1人の時よりは窮屈だ。それに、互いが互いの体に触れ合わないように注意して調整すると、更に自由なスペースは無くなる。


 ある程度互いの座る位置が固定された時、珠洲が俺に向かって話し掛けて来る。さっきから俺は珠洲に背を向けた状態で座っている為、俺の方を見て話し掛けているのかは不明だ。


「・・・・・でも、おにぃちゃんになら見せても良いかもね♡でも、『その時』はおにぃちゃんがワタシにちゃんと向き合ってくれた時だけだけどね♡」

「珠洲に向き合う?」

「うん。おにぃちゃんがワタシと結婚したくなったら、後ろを向いて襲えば良いと思うよ?」

「だから、そんな事しないって」


 全く、珠洲は俺の事をどんな変態だと考えているんだ。そんなに俺は常識外れの人間だと思われているのだろうか。日頃からはそれなりに気を付けているつもりなのだが、それでも同じ家に住んでいるとそう思われてしまうのかもしれない。


 と言うか、俺が後ろを振り向いたら『結婚』て。それは思いっきり、珠洲にとっての罰ゲームじゃないのか?以前珠洲は自分の事をブラコンであると言う爆弾発言をしていたが、それすらも確かな情報ではないしな。まあ、人に好かれるのは嫌な気分はしないが、それにも度合いと順序って物がある。


 そこで俺はせっかくの機会なので、珠洲に夕食時に聞き忘れていた事を聞く。


「そう言えば、珠洲」

「何?おにぃちゃん」

「今日な、珠洲の友達の垣花さんだったか?が来たぞ?」

「垣花?誰だっけ」

「え?友達じゃないのか?」

「いや、知らないけど」


 あれ?これはどう言う事だ?垣花は珠洲の為に学校の宿題の問題集等を届けてくれた。だから、俺はてっきり仲が良い友達かと思っていたのだが、違ったのだろうか。


「まあ、良いか。で、その子が言ってたんだが、珠洲。昨日と今日学校に行ったか?」

「・・・・・・」


 俺が質問すると、珠洲は暫く無言になった。俺は珠洲の方を向いておらず、向いたら死刑となっている為、その表情を確認する事は出来ない。


「珠洲?」

「行ったよ?勿論。その子は何なんだろうね。優等生のワタシがおにぃちゃんに無断で学校を休む訳ないじゃん」


 珠洲は世間一般の評価では品行方正・文武両道・才色兼備と言う完璧超人だ。そして、それは家にいる時でも当てはまる。医師と看護師をしている為、夏休み以外は海外出張をしている両親の代わりに料理・洗濯・掃除等を文句の1つも言わずにしてくれている。それが俺の自慢の妹の上垣外珠洲なのだ。


 確かに、そんな珠洲が俺に無断で学校を2日も休むなんて事は今まで1度も無かった。俺とした事が、珠洲を疑ってしまった。垣花も何か理由があって家まで来たのだと思うので、特に攻めないでおいておこう。


 だが、最後に念の為もう1つだけ俺は珠洲に聞く。


「なら、垣花さんが持って来た宿題は何なんだ?」

「宿題?あー、そう言えば、持って帰ってくるの忘れてたよ」

「そうだったのか。一応、珠洲の部屋の前に置いてあるから後で確認しておいてくれ」

「うん。ありがとう。おにぃちゃん♡」


 と言う訳で、判決。珠洲は昨日今日は学校には『行った』。だが、宿題を持って帰ってくるのを忘れて、それを垣花が届けに来てくれた。これが事の全容だ。多分。


 暫く、それぞれがそれぞれの行動に没頭していると、珠洲が再び俺に向かって話し掛けて来る。


「あ、お背中流しますよ~」

「え!?い、いや、流石に・・・」

「もー、おにぃちゃんはもっと妹の好意を受け取りなさい」

「はい・・・・・」


 いやいやいや。妹に躊躇される事無く、頼んでもいないそんな事をされる兄と言うのは中々いないと思うので、かなり嬉しい状況だとは思う。思うが、良いのか?これって。俺は構わないが、珠洲の貞操的に。


 あれこれ考えても仕方ないので、ここは珠洲の好意を受け入れておく事にした。だが、珠洲と一緒に風呂に入っていて、しかも背中を流してもらっていると言う状態で、純粋な高校生の俺は平静を保てる訳がなかった。なので、意識を逸らす為に話題も変える。


「大分話が変わるが、良いか?」

「何?」

「今朝は早くから何処に行ってたんだ?クラブの朝練?」

「・・・・・・・」


 また無言。そして、暫くの沈黙の後、珠洲の台詞。


「それはさておき」

「え?さておくのか?」


 何故か俺の質問がスルーされた。もしかして、クラブで嫌な事でもあったのか?今の俺の質問は地雷だったのだろうか。俺もよく地雷踏むよな、本当。


 そして、今度は逆に珠洲が俺に話し掛けて来る。


「うん。さておいといて、おにぃちゃん」

「何だ?」

「さっき、青髪白衣と何してたの?」

「い、いや、最近の調子はどうかってのを話してたんだよ。ほら、前に言ってただろ?ゲームとかだよ」


 急に珠洲がそんな事を聞いてきて驚いたが、ここは冷静に対処する。珠洲には俺と湖晴の関係はゲーム仲間と言う事になっていたはずだ。


 事実、湖晴も自分のパソコンを買って来て、しかもゲームをダウンロードしていたので、あながち間違ってはいないが。


「そう。別にエッチな事してなければ良いんだけど」

「ぶーっ!」


 すると、珠洲がまたまたトンでもない事を行って来た。その台詞を聞いた俺は思わず吹き出してしまった。


「な、何を言い出すんだ、急に!」

「?おにぃちゃんはしないと思うけど、男女があんな狭い空間に2人でいたら何が起きるか分からないからね。一応」

「だったら今も・・・」


 ピトッ


 謎の思考回路で俺を追い詰める珠洲に反論をしようとしていた俺だったが、珠洲のそんな行動によってそれは中止へと追い込まれた。


 珠洲は俺の背中に体を密着させ、腕を俺の体の前に持って来たのだ。そして、その拍子に、と言うか密着しているお陰で暖かくて柔らかい何かが俺の背中にフニュっと触れている。それは紛れも無く、珠洲の胸だった。


 それにしても珠洲って、こんなに胸大きかったのか?小学生の頃、一緒に風呂に入った時には気付かなかったが、かなり・・・・・って、変な事考えるんじゃない!


「す、珠洲!?何して・・・・・」

「ほら、襲いたくなった?」


 そして、珠洲が俺の背中に胸を押し当てたまま、少し上下に体を揺らして来る。


 不味い不味い不味い!これは非常に不味い!何とかしてこの状況を脱しなければ!俺の中の何かが目覚める前に!


「な、何度も言うが、俺は何もしないぞ。う、うん、何もしない」

「そう。まあ、おにぃちゃんらしいと言ったら、確かにそうかもね」

「だから、もう止め・・・」

「ふにふに」


 珠洲に今の行動を止める様に言ったが、どうやらそれは逆効果だったらしい。更に不味い状況になった。


 ガラッ


 こんな状況、誰かに見られたら絶対に誤解される。そんな事を思っていると、再び風呂場のドアが開けられた。


「「「・・・・・・・」」」


 そこには何時か見た様な状態で湖晴が立っていた。例の如くタオル1枚羽織っていない。手に持ってはいたが。


 そして、3人とも数秒間完全に心身ともに静止していた。


「こ、は・・・る・・・・・!?」

「あ、すみません。出直します」

「せめてノックしてから入って来いよ!」

「はーい」


 そう言うと、湖晴はスタスタと何処かへと歩き去って行った。


 終わった・・・・・。妹の珠洲に裸で胸を押し当てられつつ抱き付かれている姿を湖晴に見られてしまった。どうしよう。どう言い訳しよう。詰んだかも。


「おにぃちゃん」

「な、何だ?」


 俺は背後から、今までに感じた事のない尋常な殺気を察知した。それは紛れも無く、珠洲から発せられている物だった。


「ちょっと、ここで待っててくれる?」

「え?」

「・・・・・処分して来たい物が出来たから」

「・・・・・!」


 ヤバイ。珠洲に何かのスイッチが入っている。いつもと声のトーンが違うし、この状況で処分したい物、と言うのはつまり・・・・・!


 明らかに怒りの感情をあらわにして何処かに行こうとする珠洲を止める為に、俺は『後ろを向いて』珠洲の手を掴んだ。


「待て、珠洲!・・・・・あ」

「あ」


 その時、タオル1枚身に着けていない、中学生にしてはそれなりな珠洲の裸体が俺の目に入ってしまった。そして、俺は急いで目を逸らす。


「ご、ごめん!今のは俺が悪かっ・・・ぐわっ」

「やっと後ろ向いてくれたね、おにぃーちゃん♡」

「え・・・・・?」


 俺が良心で目をそらした瞬間だった。俺は珠洲に押し倒された。勿論、2人共全裸。タオルなんて無かった。


「つまりこれはおにぃちゃんがワタシを女として認めてくれたって事だね♡」

「ちょ、ちょっと、待・・・」


 珠洲に、さっきとは別のスイッチが入ってしまっている。今の珠洲は目が虚ろで、息遣いも荒く、顔がほんのりと赤みを帯びていた。


「既成事実、作っちゃう?」

「いやいや、珠洲。そんな事、冗談でも言わない方が・・・」

「どう言う意味?」


 何でそう言う会話の流れになるんだ。何が既成事実だ。俺達はまだ高校生と中学生。そう言うのは早いし、そもそも兄妹だ。それだけは駄目だ。


「どう言う意味も何も、そんな台詞は俺なんかではなく、別の・・・」

「ワタシは本気だよ!それに、おにぃちゃんにしかこんな事言わないし、しないもん!」

「す、珠洲・・・・・?」


 俺の言葉の何に反応したのかは分からないが、俺の顔にかなり近い状態で珠洲が大声を出した。


「ワタシはおにぃちゃんの事が大好きなの!で、ワタシ達は本当の兄妹じゃなくて義理!だから結婚出来る!」

「で、でも、それは・・・」


 確かにそうだ。俺達は義兄妹だ。血は繋がっていない。だが、それとはまた別問題だ。


「何?おにぃちゃんはワタシの事、好きじゃないの?」

「そうじゃない。俺は珠洲の事は好きだ」

「本当!?じゃあ・・・」

「珠洲。いい加減にしてくれ」

「え?」


 俺はついに言ってしまった。そんな台詞を珠洲に。


「俺は珠洲の事は好きだ。だが、それはあくまで『兄妹』としてだ」

「・・・・・・・」

「それ以上でもそれ以下でもない」


 そうだ。俺は珠洲の事は純粋に好きだ。幼馴染みの音穏とは違った、別の『好き』だ。つまりは、兄妹としては好きと言う意味だ。それは今珠洲に述べた通りだ。


「・・・・・・こんなの・・・じゃない」

「珠洲?」


 すると、珠洲が何かをボソッと呟いた。俺が聞き返すと、もう1度珠洲が同じ台詞を言う。


「やっぱり、こんなのワタシの知ってるおにぃちゃんじゃない!」

「お、おい、何言って・・・」

「おにぃちゃんなんて、死ねば良いんだ!」

「珠洲!何処へ・・・・・」


 そして、珠洲は俺の上から離れ、風呂場から出て行った。それも、かなり怒った状態で。


「やってしまった・・・・・」


 俺は知らず知らずの内に珠洲の地雷を踏んでしまっていたらしい。これでは兄失格だな。珠洲の気持ちにも気付いてやれないなんて。だが、兄妹でそう言う関係を持つのは常識的に考えて不味い。それくらいは、理解してもらいたい。


 それから少しの間、俺はあの頃の元気な珠洲と会話する事はなくなった。そう。珠洲が引き起こしてしまった、あの悲惨な事件の結末まで。

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