第09部
【2023年09月19日19時04分58秒】
音穏・阿燕の過去改変の影響について湖晴と話した後、その続きとして、つい数時間前に完了したばかりの栄長の過去改変の影響についての話をする。
「最後は栄長か」
「はい。まあ、燐さんはつい数時間前に過去改変したばかりなので、記憶が新しいとは思いますが、一応振り返ってみましょう」
「頼んだ」
「1年前、蒲生さんは自分が所属している科学結社の重要資料を盗んだとされる次元さんを狙っていました。実際には何か別の要因が絡んでいたと思いますが、その事は今は置いておきましょう」
「そうだな」
今でも分かっていない事がそれだ。何で1年前の俺はあんな事を?今の俺にはそんな記憶は無いのに。それに、何やら意味不明な事も幾つか言っていたし。主に、湖晴の名前が出て来た事に驚いた。だが、今の本題はそこではないのでまた今度考えるとしよう。
「そして、燐さんはそんな次元さんを助ける為に蒲生さんと戦い、その結果2人共大怪我をして入院しました」
「で、その間に栄長が組織の仲間から信頼が無くなり、その事を知った蒲生が組織を壊滅させようとした」
冷静に考える、このエピソードはかなり深刻な物だよな。特に蒲生のしようとしていた行動が。社会の裏で活動する大型科学結社を1つ壊滅させようとしていたんだからな。それも、たった1人で。栄長の為に。
蒲生の奴、どんだけ栄長の事が・・・・・・いや、本人は無自覚かもしれないし、この事についての結論を出すのは止めておこう。普通に幼馴染みとして、蒲生はそんな事をしようとしたのかもしれないしな。
「はい。ですが、燐さんはそれを許さなかった。2人共、お互いに傷付いて欲しくなかっただけなのに、戦う運命になってしまったのです」
「それで引き起こされたのが『原子市一部地域大損壊事件』だな」
「その通りです。そして、この事件が解決される事無く時間が経過した場合、世間はどの様に思うと思いますか?」
「『原子市は危ない場所だ』程度には思うんじゃないのか?」
学校の周辺の建物だけとは言え、あれはかなり酷い光景だった。湖晴がタイム・イーターで時間を止めていたから騒ぎにはならなかったが、充分に大事件だった。
被害にあった建物の多くの外壁は大きく破損し、窓ガラスは粉々に割れ、その一部には車が突っ込んでいたりもしていた(栄長の持つテレポーターの能力のせいだろう)。
勿論、被害にあったのは建物だけではなかった。その範囲内に駐車されていた車や凶器になり兼ねない公共の物は2人の戦闘の為の武器として使用されていた。
そう。あの光景はあえて例えるならばそこだけが周りとは違う世界、戦場になっていた。
「そうです。研究機関が大量にある街でそんな事があったら大事件ですもんね。2度と研究を頼まれる事もなくなる可能性もあるでしょう。危険ならば、重要な資料が消失する可能性も高くなりますし」
「流石にそこまでは行かないかもしれないがな」
「そして、更に問題なのが、燐さん達科学結社が『表の世界に知られる事』なんです」
「裏の、闇の組織である科学結社が世間に知られると駄目なのか?」
やはり、アレだろうか?『光は闇を知ってはならず、闇は光に知られてはならない』的な奴か?
「勿論です。もし知られてしまうと、その存在意義がなくなってしまいます。科学結社と言うのは、表の世界に知られてはならず、そして、裏できっちりと仕事をこなす組織の事なんです」
「ちょっと待て。だとすると俺は?」
「?」
今俺が気になった事とは、『今の俺の立ち位置はどっち側なのか』と言う事だ。俺は一般人中の一般人、そして平凡主義者だ。だが、俺は栄長達科学結社の存在を知っているし、そもそも湖晴と過去改変を3回もしている。つまり、俺はどっち側なのか、と言う事だ。
1度俺の言った台詞の意味が理解出来なかったのか、湖晴は可愛らしく首を傾げていたが、暫くすると分かったらしく話を続ける。
「えっと、それは次元さんの立ち位置は何処なのか、と言う意味で良いですか?」
「ああ。俺は表の世界の住人なんだぞ?それなのに、科学結社の事を知っている。勿論、栄長や蒲生の事もだ。これって問題無いのか?」
「無いですね」
「無いんかい」
相変わらず適当だな、おい。
すると、湖晴は更に言葉を付け加えて来る。
「何故なら、次元さんは既に表の世界の住人ではありませんから」
「え?」
俺はもう表の世界の住人ではない、だって?確かに俺は科学結社の存在を知っていて、過去改変をして来た訳だが、超一般人だぞ?平凡主義者だぞ?科学結社に入っている訳ではないんだぞ?それなのに、そうなのか?
「私とこうしてタイムトラベルをして過去改変をしている時点で、たとえ科学結社に所属していなくても、少なくとも表の世界の住人ではありません」
「・・・・・・・」
「ですが、決して裏の世界の住人であると言える訳でもないんですよ」
「何だか、もう訳が分からなくなって来たぞ・・・・・」
湖晴が次々と、事実とそれに伴って発生する結果を話してくれているが、俺にはそのほとんどが理解出来なかった。理論を並べられても俺に分かる訳がない。そっち方面の知識は皆無だからな。つまり、俺はどっち側なのかについて聞きたいだけなのだが。
「過去改変をしている為、表の世界の住人ではありません。ですが、次元さんはこの世界の裏を全くと言っても過言ではないくらい知りません。なので、裏の世界の住人ではありません」
「で、結論としては俺の立ち位置は?」
「その間って事になりますね」
「また微妙だな・・・それは・・・・・」
湖晴の話を要約すると、俺は表の人間ではなく、しかも裏の人間でもない。その中間地点に立つ人間となる。どちらかと言うと、裏の方に近いのかもしれないが。
「ちなみに、湖晴や栄長はどうなるんだ?」
「一応、私も燐さんも裏の世界の住人って事になりますね」
「まあ、そうなるよな」
分かり難いと思うので似た様な例を数直線を代表に挙げると、表の世界を+、裏の世界を-とする。その場合、表の世界の住人の音穏や珠洲は+、裏の世界の住人の湖晴や栄長は-、中途半端な存在の俺は原点O、となるのだ。多分、大まかな理解としてはこう言う感じで合っているだろう。
「で、話しを戻そうか」
「そうでした。一体、何回話しが逸れるんでしょうか」
「さあな」
本題から話がずれて行くと言うのは別に少なくは無いとは思うが、やはり、時間を余計に掛けてしまうのは効率が悪い。時には話がずれる事によって知る事が出来る情報も偶にあるけどな。
「栄長と蒲生の戦闘によって街が危険と判断される事によって、研究機関が命のこの街は機能しなくなる。そして、それに伴って科学結社が世に知れ渡ると問題が起きる、と言うか、存在意義が無くなる。こんな感じか」
「大体はそんな感じですね」
ここまでの内容をまとめた俺は、ある程度の状況を理解した。そして、更に湖晴に質問する。
「そこで、1つ聞いても良いか?」
「何でしょうか」
「科学結社が消滅すると、『どんな問題が起きる』んだ?」
科学結社が世に知れ渡るとその存在意義が無くなる。うん。それは理解した。だが、それだけだと1つ疑問が残る。それが今の俺のした質問だ。と言うか、今回の湖晴との会話はその事を知るのが本来の目的だからな。聞かない理由が無い。
「・・・・・科学結社が消滅すると、世界中のあらゆる科学のバランスが崩壊します」
「・・・・・え?」
「つまりは、『世界の終わり』って事ですね」
「こんな些細な事でも、か!?」
「今回の件は決して些細な事件では無いんですよ。それに、先程も言いましたが、因果関係とは何処でどう繋がるかは不確かな物なんです。ましてや、事件の規模なんて物はほとんど関係ありません」
「だとしても、単位がやばすぎるだろ・・・・・」
たった1回の、ただ1回の幼馴染同士の喧嘩だけで世界が滅亡されては困る。いや、困ると言うか、それはあってはならないだろ。今回はその喧嘩していた2人が2人だったせいもあるとは思うが。
もし、俺があの時屋上に栄長を捜しにいかなかったらどうなっていたんだ?湖晴も異変に気付いて俺の元に来ていたが、それも無かった場合、誰か別の人がこれを解決していたのか?そうなのか?本当に、そう言う物なのか?
「そんな物なんですよ。過去改変、と言う物は」
「成る程・・・って、簡単に頷いたら流石に不味いか」
つい数日前にも湖晴に『過去改変とはそう言う物だ』と言う内容の事を言われた様な気がするが、今回はその時の内容とは少しばかり異なる物だった。
過去改変とは決して確実な物ではなく、何処でどの様に因果が関係しているのかは分からない。だが、冷静に客観的に判断して行く事でそのヒントを得る事は出来る。おそらく、こんな感じだろう。
「一応、これで話は終わりなんですが・・・・・」
「ん?」
話しの区切りが着いた後、湖晴は1度前置きをした後、俺に再び話し掛けて来る。
「さっき、音穏さんと燐さんと電話で何を話していたんですか?」
「いや、大した事は何も」
「な・に・を・は・な・し・て・い・た・ん・で・す・か・?」
「・・・・・・・」
あれ?湖晴さんが怒ってらっしゃる。何処からどう見ても怒ってらっしゃる。何が原因でその怒りの矛先が俺に向いているのかは分からないが、とにかく怒ってらっしゃる。満面の笑顔だけどな。それが逆に怖い。
やっぱり、最初に俺の元に来ていた湖晴を10分くらい待たせて音穏や栄長と話していた事について怒っているのだろうか。でも、その事については湖晴も了承していたよな?だとすると、何が原因だ?
取り合えず、俺の返答を満面の笑顔で待ち続けている湖晴に俺は答える。
「音穏には放課後に何をしていたかを聞かれたり、明日の弁当を持って来ないようにするように言われた」
「お弁当、?」
「栄長には帰り道に遭った蒲生と何を話したのかを聞かれたり、明日の朝ご飯を食べたら爆殺すると脅された」
「朝ご飯?」
「ああ。全く、何の事なんだろうな」
どうやら、湖晴の怒りは収まってくれたらしい。いつも通りの表情に戻っている。良かった、良かった。湖晴には何時でも、怒りではない方の笑顔で過ごしていて欲しいからな、
そして、俺の台詞を聞いた後湖晴は何かに気付いたらしく、呟く。
「・・・・・次元さん。それは・・・」
「ん?」
「まあ、次元さんの事ですから、多分気付いてすらいないと思うので私もそれに便乗してみます」
「何に、だ?」
「はい、これをどうぞ」
話の筋を掴めていない俺に対して湖晴はそんな事を言いつつ、部屋の入り口に置いてあったスーパーのビニール袋を持って来た。そして、その中から何かをごそごそと取り出して俺に渡して来た。
その何かは、筒状の箱らしき形であり、重さはかなり軽かった。ちなみに、色付きの袋に入れた状態でそれを渡された為、それ以外の事は何も分からなかった。
「何だ?これ」
「明日の朝にもう1品渡しますので、取り合えず、それだけ持っておいて下さい」
「お、おお?」
もう1品って?
「念の為に言っておきますけど、明日のお昼まで開けちゃ駄目ですからね?」
「何で昼?」
「?だって、それお弁当ですから」
「何で弁当?」
「次元さん」
「何だ?」
「私と音穏さんと燐さんの台詞を思い出してみて下さい」
状況がイマイチ理解出来ていない俺だが、取り合えず、湖晴の言った通りに3人の台詞を順に思い出してみる。
音穏の台詞『明日さ、いつもよりもお弁当を少なくして貰える様に、珠洲ちゃんに頼んでおいてくれない?』。栄長の台詞『明日、貴方は朝ご飯を食べたら死にます』。湖晴の台詞『だって、それお弁当ですから』。
「昼・朝飯・弁当・・・・・」
共通点は飯くらいか。音穏と栄長の台詞はどちらも、俺を餓死させる為の台詞であり、何故か湖晴は弁当をくれた。
「何だろう。分からんな」
「・・・・・まあ、明日になれば分かりますよ。多分」
「栄長にも似た様な事を言われた気がするのは気のせいだろうか」
一体、明日に何が起きると言うのだ。
「では、そろそろリビングに行きましょうか」
「ん?ああ、もうそんな時間か」
俺がスマホの画面に表示されている時計を見てみると、時刻は既に7時10分だった。そろそろ珠洲が呼びに来る時間だ。だが、俺が湖晴と一緒に部屋で話している状態を珠洲に見られると何が起こるか分かった物じゃないので、早めに行動するに限る。
「おにぃーちゃん♡」
「!?」
いきなり珠洲の声が聞こえたかと思うと、俺の部屋の入り口に珠洲が立っているのが確認出来た。
「そろそろご飯だよ?お皿運ぶの手伝ってね♡」
「あ、ああ」
「青髪白衣も」
「はい」
そして、俺達はリビングに降りた。それにしても珠洲の奴、何時からそこにいたんだ?全く気配を感じる事が出来なかった。俺が湖晴との話に没頭していたせいもあるかと思うが。
珠洲には幾つか聞きたい事があった俺だが、そのほとんどの事は結局、夕食の最中には聞く事が出来なかった。その理由等は次部で説明するとしよう。




