第07部
【2023年09月19日18時52分15秒】
「はい」
『もしもしー?次元君ー?』
「どうしたんだ?こんな時間に」
電話を出てみると当然の事だが、栄長の声が聞こえて来る。
よく考えみれば俺は今、学校中の誰からでも人気がある完璧超人少女から電話を貰い、話しているんだよな・・・・・。何か、不思議な感じだ。つい1週間前までは、俺が電話で話すのはせいぜい音穏くらいのもの。それが今ではこんな有名人と会話出来る様になるとは。人生とは分からない物だな。
だが、栄長は実際には科学結社の1人であり、辛い過去があり、悩み苦しんだ事もあったと言う事実を俺は知っている。そして、栄長はネットゲーマーである事も既に把握しており、日常会話でネット用語を使用してくるのも既に検証済みだ。
と言うか、昨日の昼休みの会話中に偶然ながらその事を知ってしまった。あまり、知りたくは無かった事だが。
『こんな時間って、まだ7時前だよ?まだまだ夜は長いんだZE☆』
「・・・・・栄長は多分今、俺に電話を掛けながら何らかの決めポーズを取っているのだと思うが、俺には見えないからな」
おそらく、何故か俺には本性を現す栄長ならそのくらいはしていそうだと思い、俺はそんな適当な憶測を言った。
『あ、バレちゃった?(テヘッ☆』
「あまり人前でそんな事するなよ?」
『だが、既に時遅し』
「え?」
何が手遅れだって?
『私は次元君のせいで今の決めポーズをお父さんに見られてしまったのだった!次元君のせいで』
「おいっ!と言うか、さり気無く何度も俺のせいにするな」
栄長の親父さんと言えば、俺が栄長の過去を過去改変した後に寄った2005年で会ったあの人か。・・・・・自分の1人娘が変なポーズをしているのを見てしまうとは、不運だな。かなり。ご愁傷様です。念の為に言っておきますが、俺は何も関係ないですよ。娘さんが勝手に始めた事ですよ。
『お陰で、お父さんに「何してるんだ、コイツは?」みたいな目で見られて仕舞いましたとさ』
「それって大丈夫なのか?」
主に、科学結社の№2である栄長自身の信頼感的な問題で。
『まー、大丈夫じゃない?』
「適当だな」
『部屋のドアを開けっ放しにして電話を掛けたのがそもそもの間違いだったわね・・・・・これからはドアがキチンと閉まっている事を確認してから電話を掛けるとしよう!』
「それ以前にそんな決めポーズはいらないだろ」
心掛けるべき問題が全く別の所へと向かってしまっている。それはそうと、栄長がどんな感じのポーズをとったのかは分からないが、少しばかり見てみたい気もした。
『冗談はさておき』
「冗談なんかい!と言うか、今の話は全て作り話かよ!」
『もちろん!だが、そうとも知らずに次元君は私のトラップに引っ掛かった・・・・・ぐへへ』
またしても栄長の巧妙なトラップに引っ掛かってしまった俺だった。何時しかもこんな事があった気がする。栄長はごく自然に話していても、それを嘘と見抜けない様な不思議な能力がある。
と言うか、幼い頃から英才教育を受けて来たらしい栄長の事だ。単純に国語力が、いや、話の仕方・繋げ方が上手いのだろう。それこそ、俺の様な平凡を具現化した様な男子高校生とは違って。
それにしても・・・、
「今何か最後に変な笑い声が聞こえた気が・・・」
『気のせいだよ?』
「そうか?いや、でも確かに今・・・」
『気・の・せ・い・だ・よ・?』
「・・・・・はい」
最後の『ぐへへ』とか言う笑い声は幻聴でした。はい。俺の耳が異常なだけです。まさか、栄長がそんな事言うわけ無いですし。
『で、本題に入りますと』
「随分長い前置きだったな」
『夕方、クロと何を話していたの?』
「え?」
『クロ』と言うのは夕方に会った蒲生『クロ』矛の事で、栄長が呼んでいるニックネームみたいな物だ。過去改変前の世界では『あいつ』とか『あんた』とかで読んでいたのに、随分と平和な世界になった物だ。勿論、良い意味で。
しかし、そんな事はさておき、栄長に夕方蒲生と話していた内容を言っても良いのだろうか。栄長は科学結社に所属している為、俺と湖晴がタイムトラベラーと言う事を白状しても簡単に信じてくれた。だから、どんな事を言おうが、栄長は信じてくれる事だろう。
だが、夕方に蒲生と話していた内容はそれらとは少し違う。俺達が話していたのは湖晴の辛い過去についてだ。正確には、その湖晴の辛い過去について、蒲生が教えてくれただけだ。
そんな感じに、湖晴の個人情報を勝手に聞いてしまっている俺だが、ここではあくまでもプライバシーの権利を尊重し、知らぬ振りをする事にする。
「いや、ただの世間ばな・・・」
『嘘付け』
「決め付け早っ!」
俺が言い終わる前に栄長は俺の嘘を見抜いた。流石、と言いたい所だがこれは少し不味い事になった。どうするべきだろうか。
しかし、そんな俺の考えとは全く違う方向へと会話は進む。
『嘘付け(命令形)』
「命令すんなや!」
語尾の『(命令形)』は何だ!?もしかして、別の言い換えも言って行くつもりか!?
『嘘介?』
「違う。俺は次元、上垣外次元だ。嘘介などと言う名前ではない」
『お、それ新しい返し方だねー』
謎の人名が出た所で俺が長めの返答をすると、栄長はそんな風に棒読みで言って来た。それに『新しい返し方』って、他の人にも言ったのか?蒲生とかその辺だろうか。
何時まで続くのだろうか。いや、栄長が俺の台詞に反応したと言う事はもう終わるって事で良いのか?相変わらず、栄長と話す時はその話のペースを掴む事が出来ない。ある意味で苦手だ。
『本当に世間話?』
「あ、ああ。もちろんだ」
『それ以外には何も話していないの?』
「そうなるな」
俺としては『蒲生と喫茶店で世間話なんて誰がするか』なんて事を言いたい訳だが、湖晴のプライバシーを守り切る為にもここは嘘を貫き通す。もしバレても、また別の事を言って誤魔化せば何とかなるだろう。
『ちなみに一応言っておくと、私の中での「世間話」の定義は「最近のニュースで報道されている事」や「新聞に載っている事」を話すと言う事なんだけど、それで合ってる?』
「いやいやいや、全然合ってない!それに、その定義だと、全国の世間話をしている人達が全員政治とかに興味があるみたいになるだろ!」
栄長の中では世間話と言うのは、軽い感じのお話の事ではなく、もっと固定された為になるお話の事を指し示すらしい。そんな世間話はごめんだ。
『そうかなぁ。別にニュースで報道されていたり新聞に載ったりしている事は全部が全部政治な訳じゃないし。芸能とか豆知識とかもあるんだよ?』
「それはそうかもしれんが・・・」
それを言い始めたら、逆に全ての分野が世間話に分類されてしまうだろうに。
『それはともかく、まあ、そんな世間話なら別に良いや』
「何で俺にそんな事を聞いたんだ?」
『そりゃあ、クロが次元君にあんな写真を渡そうとしてたら、どんな話しをしていたかも気になるでしょ。常考』
「あー・・・・・」
学校中の誰からでも人気のある栄長の様々な姿。どれも魅力的なそれらを数枚の紙に印刷してある写真。それを何故か蒲生は俺にくれようとしていた。栄長としては、勝手に盗撮された写真が世に出回る事を防ぎたかっただけなのだろうが、俺としては、もう少し見てみたい気も・・・、
『もちろん、その写真は見てないわよね?』
「あ、ああ・・・」
本音とは恐ろしい物だ。もしここで俺が本音を言ってしまうと、どうなるか分かったもんじゃなかっただろう。少なくとも蒲生同様、1年間は入院させられる羽目になるだろう。
恐らく、蒲生が予め所持していたであろうそれらの写真のバックアップのデータも全て破棄済みなんだろうな・・・・・。少し残念だな。仕事がお早いです事。
すると、栄長が再び俺の予想を上回る一言を言って来る。
『もしかして、見たかった?』
「へ?」
何を?
『見せてあげようか?今度、生で』
「はい?」
『体操服姿とか水着姿とか』
「・・・・・お、おお!?」
何だ、何なんだ、これは。俺は今天界にでも行ってしまったのか?栄長本人からそんな事を言われるなんて。しかも、体操服とか水着と来た。
神。まさに、神。栄長様、神!
『ほーら、また引っ掛かったー』
「!?」
しかし、栄長はそんな俺の心の声を見透かしたかの様に、ネタバレをした。俺の、この信仰心をどうしてくれるつもりだ。
はっ!まさか、『リンちゃん親衛部隊』の面々はこんな感じで栄長に惚れてしまったのか!危ない、俺もあの本人非公認の組織に加盟し掛ける所だった。
『もぉ、次元君はそうやってすぐに人の言葉を信じちゃうから、騙されるんだよ?』
「俺とした事が・・・・・不覚」
『府下区って何処?』
「いや、それは思いっきり変換ミスだ。もはや、変換ミスの変換ミスだ」
と言うか、何処だよ。それ。俺の方が聞きたいぞ。日本の地名っぽいが、地理に弱い俺がそんな事を知る訳が無い。
「もう用件は終わったか?」
『ううん。まだあるよー』
本題は『俺が蒲生と何を話していたかを知る事』だけでは無かったのか?さっきの音穏の時もそうだったが、話が何時まで続くんだと思ってしまうくらい、付け足しの多い会話だな。
話す側としては、終わりが見えない方が聞く側を不安な気持ちにさせながらも、その話を聞き続けなければならないと言う状況に置く事が出来るので便利なのは分かるが。
『明日、貴方は朝ご飯を食べたら死にます。はい、これ確定事項!』
「何故!?」
そして、突然、俺は栄長に死刑宣告をされた。
『私が次元君が座る椅子の下に爆破装置を取り付けておくからさ(ドヤッ』
「いやいやいや、そんな事を自信満々に言われても」
『まあ、そんな事は出来ても流石にしないから安心しておいて』
「出来るんかい」
まあ、空間瞬間移動装置であるテレポーターを自在に操る栄長の事だから、それくらいは朝飯前なのだろうが、物騒な話になり兼ねないので自重して欲しい所だ。
『取り合えずはそう言う事で。アデュー・・・』
「ストーップ!」
『どうしたの?そろそろ埋まっているピ〇ミンが全部花になるから、忙しくなるんだけど。まあ、1日目は時間制限が無いとは言え・・・』
「俺に電話を掛けたのはその間の暇潰しか!?」
もしかして、栄長の中での優先順位は『テレビゲーム>俺との通話』なのか?酷い。酷過ぎる。あんまりだ。
『用件カモン!』
「ついさっきも音穏から似たような事を言われたんだが、何か関係あるのか?」
『音穏ちゃんから?』
「ああ」
弁当を持って学校に来るなと言う、謎の指示を受けた。学食に行くのならそう言ってくれれば良いのに。明日は別に短縮授業とかではないので、午前中に学校が終わった後、放課後に何処かに食べに行くなんて事も無いしな。
すると、少し考えていた長が再び俺に話し掛けて来る。
『・・・・・なるほど、流石音穏ちゃん。手を打つのが早いね』
「明日2人で何かするつもりなのか?俺を空腹にさせておいて、力が出なくなっている状態で」
『いやいや、そもそも次元君は日頃から運動してないから出せるような力なんて持ってないじゃん(嘲笑)』
「・・・・・・・」
確かにそうだが、少なくとも女の子の栄長よりは・・・・・いや、無いな。多分俺は栄長よりも非力だ。主に、栄長の持つテレポーターのせいで大き過ぎる戦力差が開いてしまっている。
『いずれ分かる。いずれ、な』
「そうですかい」
『これは女の戦いなのよ(キリッ』
「何と戦っているんだ・・・」
音穏と言い栄長と言い、やはり俺には女の子の気持ちを理解する事は出来ないらしい。1個1個の台詞の本当の意味が全く見えて来ない。
『明日をお楽しみに~』
「はいはい」
何を楽しみにしておいたら良いのかがそもそも分からないが、取り合えず俺は適当に返しておいた。これで栄長との会話も終わりか。やっと待たせてしまっている湖晴との話に打ち込めそう・・・、
『そうそう』
「どうした?」
すると、いつもの流れ的に栄長が俺に付け足し会話をして来る。もう慣れてしまったぞ。このパターン。
『次元君に一応言っておきたい事があるの』
「随分真剣そうな話だな」
しかし、今の栄長はついさっきまでのふざけた様な、良い意味で明るい感じの声色とは完全に異なり、低い落ち着いた感じで俺に話し掛けていた。そして、今からするこの話が割りと真剣な話である事が、俺でも容易に推測する事が出来た。
『実は今朝の事なんだけど、私の入っている組織の倉庫から大量の銃器が盗まれていたの。勿論、それらの弾丸も』
「何!?それって危なくないのか!?」
大量の銃器が盗まれた?それは大事件だろ。完全に。タイム・イーターでタイムトラベルをする事で犯人を確認する事くらいは容易だろうが、過去改変作業の通知が来たと言う報告が湖晴から無い限り、それを実現するのは困難だろう。
『うん、かなりね。今も組織ではその行方を追っている所』
「そんな時に栄長は部屋でピ〇ミンをしていたのか・・・・・」
『?いや、流石にさっきのは冗談だけど』
「またかい!」
栄長は俺を何回引っ掛ければ気が済むんだ。もう、どれが真実でどれが偽りなのかが分からなくなってくるぞ。
『そうじゃなくて、取り合えず、一応夜道には気を付けてね?もしかしたら、それらを盗んだ犯人はまだ近くにいるかもしれないから』
「ああ、分かった。湖晴にも伝えておくよ」
念の為湖晴にも言っておいた方が良いだろう。万が一の事も勿論あるが、それよりも、今までに何度も過去改変作業をして来た湖晴に意見を聞いてみたりもしたいしな。
俺が電話で湖晴の名前を出したからか、さっきからずっと俺の方を見つめ続ける(何時までそうしているのだろうか)湖晴が不思議そうな顔をしていた。
『あ、あと、湖晴ちゃ・・・』
「ん?」
栄長が何かを言い掛けた。だが、俺はその続きを聞く事は無かった。
『ううん。何でも無い。じゃあ、ごめんね。私達のせいで・・・・・』
「まあ、何かあったらすぐに電話するから、謝るのはそれからにしてくれ」
『うん。分かった。じゃあねー、バイバ~イ』
「またな」
ツーツーツー・・・・・
そして、栄長との通話は終わった。取り合えず、今俺がすべきなのは何故か明日の朝飯を軽くする事と、銃器を盗んだ犯人に出遭ってしまわない様にする事くらいだな。
「悪いな、湖晴。今度こそ大丈夫だ。それで、話ってのは?」
「・・・・・・・」
・・・・・ん?聞こえてないのか?
「湖晴?」
「え?あ、はい、すみません。では、お話しましょうか」
「お、おお?」
何だったんだ?一体。ボーっとしてたみたいだけど、熱でもあるのか?顔も少しだけ普段よりもほんのり赤くなっていたし。
「そろそろ、次元さんも気になっている事かと思いまして」
「何が?」
「この1週間で起きた3回の重犯罪事件。その3つの事件が及ぼすとされていた、この世界への影響についてですよ」




