第05部
【2023年09月19日17時33分01秒】
突如公園内で蒲生と出遭ってしまった俺は、その蒲生から情報提供を受けた。蒲生が教えてくれた情報はどれも、何を意味しているのかがイマイチ良く分からない物だったが、湖晴の過去について多くを知る事が出来た。
湖晴は1年前に自殺未遂をしている。その後、行方不明となった。おそらく、玉虫先生と言う湖晴が慕っている人物の元へ行ったのだろう。そして、行方不明となった湖晴は戸籍上死亡扱いとなった。
その他にも、湖晴は養子であった事、湖晴の両親は悲惨な死に方をした事、自殺未遂の1週間前まで1ヶ月間に渡って行方不明になっていた事。主にこの様な感じの事が判明した。
蒲生は他にも用事があったらしいが、最後の最後で余計な事(栄長の盗撮写真を俺に渡そうとした)をしてしまったので、こっそりと付いて来ていた栄長に連れて行かれてしまった。俺としては、用件が済んだのならさっさと帰ってもらって結構だったが、珠洲との関係について聞く事が出来ていなかった。
それはともかく、俺はやっと帰る事が出来る様になった。俺自身の疲労と眠気と睡魔は既にピークに達している(やや意味が被っているのは気にしたらいけない)。
一刻も早く帰って体を休めなければ。流石に今日はもう何も起こらないだろう。これまでのパターンを考えると、1日に2回以上の過去改変作業をする必要がある重犯罪事件は起きていない。だから、今日は何も不安に思う事無く睡眠活動に没頭する事が出来そうだ。
別に俺は湖晴の過去改変作業を嫌々手伝っている訳ではない。もちろん、疲れる事・痛い事は極力避けたいが、それでも俺の性格上、困っている人を放って置く事は出来ない。
それに、過去改変がこの世界の平和に繋がるのなら悪い気もしないし、辛い過去を持つ子達を救済出来るチャンスはこれ以外には無い事だろう。タイムトラベルなんてトンでも科学の世界だけと思われている事には、そうそう出会える訳ではないしな。
そろそろ家に着く頃か。これで今日はやっと・・・・・ん?
俺は自宅前に立つ、制服姿で中学生くらいの背の女の子を見つけた。誰だろうか。よくよく見てみればあの制服って、珠洲の通っている私立中学と同じ物じゃないか?もしかして、珠洲の友達だろうか。
取り合えず、あれこれ考えても明確な答えは出る訳ないので、俺はその子に近付いて声を掛ける。
その子は丁度俺の家のインターホンを押す直前だった。
「君、どうしたんだい?」
「・・・・・ああ、私ですか」
俺が声を掛けるとその子は俺の方を一瞬向き、その後周りを見渡して他に人がいない事を確認し、再び俺の方を向いてそんな事を言った。
「そうそう。俺の家に何か用か?」
「・・・・・『俺の家』?・・・・・ああ、そう言えば、お兄さんがいらっしゃるんでしたね」
その子はやや顔をしかめて俺の様子を伺った後、何かを思い出して納得したらしいく、頷いた。それに、この子は今『お兄さんがいらっしゃる』の様な台詞を言った。俺の推測通り、やはり、珠洲の友達だったな。
「やっぱり、珠洲の友達か?」
「ええ。まあ、そんな感じですね」
『そんな感じ』?友達とは少し違うのか?俺の細かい疑問など気付く訳も無く、その女の子は続けて俺に話し掛ける。
「私は垣花彗と言います。上垣外珠洲さんのクラスメイトです」
「そうか。俺も一応名乗っておいた方が良いか。俺は・・・」
「上垣外次元さん、ですよね?」
「え?そうだが、何で俺の名前を?」
俺が名乗る前に垣花さん(?)は先に俺の本名を言った。いや、年下だから『さん』付けはしなくて良いか。
俺が何で俺の名前を知っているのかを聞くと、垣花は首を傾げてさも当たり前の様に言った。
「・・・・・?ああ、そうでした、まだ知らない設定でしたね。別に、表札に書いてありましたので、それでです」
「・・・・・確かに」
垣花は答えながら、俺の家の表札を指差す。確かにその通りじゃないか。別に家の表札くらい見れば、誰の事なのかはある程度分かるからな。特に俺の家の場合は。
そして、垣花はようやく本題に入った。
「それで、今は珠洲さんはいますか?」
「珠洲?さあ。今はまだ学校じゃないのか?時間的にあと数10分で帰ってくるとは思うが」
「いえ。それは無いですね」
『それは無い』だって?何でそう言い切れるんだ?今は平日の午後5時半。普通の学生ならば、今頃はクラブ活動中か、帰宅中のはずだが。
「どう言う事だ?」
「だって、今日は珠洲さんは学校を休んでいましたから」
「何?珠洲が?」
珠洲にしては珍しいな。珠洲は1年中元気で余程具合が悪くならない限り学校を休む事はない。しかも休む日はあらかじめ家族、この数年では俺に一言言ってからだったのだが、今日はそんな事を言われた記憶は無い。と言うか、今朝は珠洲が先に家を出ていたので会っていない。
あれ?でも、そうしたら、珠洲は一体何処へ?誰にも、いや、俺にすら何も言わずに出掛けるなんて。そんなに大事な用だったのだろうか。
「もしかして、お兄さんはご存じなかったのですか?」
「あ、ああ。そんな事一言も聞いてないな」
『お兄さん』て。いや、良いんだけど。
「と言う事は、珠洲さんが昨日も休んでいた事も知らないのですか?」
「昨日も?」
昨日は・・・・・俺の中での時間がタイムトラベルを繰り返した事により、時間軸を行ったり来たりしているせいで随分前にあった事の様に感じるが、まだ1日前の出来事なんだよな。
でも、あの日の珠洲はいつも通りだったよな?少しおかしな点と言えば、夜中に栄長が突然家に来た時に変な事を口走っていた事くらいか。他には・・・・・無いな。少しいつもと変わった事と言ったら、スーパーの買い物袋が変わっていたくらいの物。そんな事、何も関係性はないだろうな。
「はい。それで、私は家が近いので、学校の配布物を渡す様に先生に言われまして、遥々やって来た訳です」
「それはありがとう。珠洲に伝えておくよ」
そして俺は、垣花から大量の紙束と数冊の問題集を受け取った。これは、随分多いな。私立中学って、平日でもこんなに宿題が出る物なのか?俺の高校での夏休みの宿題くらいは余裕であるぞ、これ。それに、問題集の表紙に『高校数学Ⅱ』って書いてあるし。私立中学、恐るべし。
「やはり、今日『も』まだ帰って来ていないのですね」
「ん?帰って来てないって、学校に行ってないのなら流石にもう帰ってきているんじゃないのか?」
流石に1日中何処かをうろつくなんて事は、あの世間一般の評価では品行方正・文武両道・才色兼備と言う珠洲に限っては無いだろう。もしかすると、今はもう家に帰って来て早くも夕飯の支度をしているかもしれない。
「いえ、インターホンのボタンを押す直前にお兄さんに話し掛けられたので、まだ確認出来ていません」
「そうだったのか。少し待ってくれ」
そう言って、俺は俺の家のインターホンのボタンを押し、珠洲が家にいるかを確認する。反応が無いので合計で3回押したが今は珠洲は留守らしく、物音1つ聞こえて来る事すら無かった。
「まだ帰って来てないか。それにしても珠洲の奴、何処に行ったんだ?」
「ちなみに、今朝は珠洲さんに会いましたか?」
「今朝?」
今朝の事はさっき考えた所だ。珠洲とは会っていない。醤油の中にヒ素が入っていたと言う事件もあったが、珠洲とは会えていない。
「いや、会ってないな」
「そうですか」
「わざわざありがとうな。珠洲の為に」
「いえ、私は指示された事をしたまでですので」
「それと、これからも珠洲とは仲良くしてやってくれ」
「?・・・・・ああ、仲良く、ですか。分かりました」
俺は垣花にお礼と、珠洲との友好関係をこれからも続けて欲しいと言う事を伝えた。垣花は俺の台詞がよく聞こえなかったのか、何かを少し考えた後、それを了承した。
用件を済ませた俺は自分の家へと入ろうとする。すると、背後にいる垣花に声を掛けられて、引き止められる。
「そうだ。お兄さん、少し宜しいですか?」
「どうかしたのか?」
「実は私は新聞部に所属していまして、それで、今から話す『ある事件』に関して何か知っているのなら教えて頂きたいのですが宜しいですか?」
「事件?ああ。構わないよ」
ここ1週間で俺は3つの重犯罪事件を解決して来た。その辺の探偵とか記者とかに比べれば、少し上を行けるくらいの情報は軽く持っているだろう。事件解決のスペシャリストとは行かなくても、事件の解決のエリート程度ではあるだろう。
「つい先日、とある学校から大量の危険物が発見されたのはご存知ですか?」
「学校から危険物?その危険物ってのは?」
「詳細を説明しますと、その学校の屋上に塩酸散布爆弾、校内1階廊下に拳銃・火薬・ナトリウムと言った感じですね。他にもありましたが目立ったのはこれくら・・・」
「拳銃とナトリウム・・・・・!?」
何処かで聞いた事がある組み合わせだ。そして、俺は思い出した。それらは、『阿燕の過去改変前に起きた謎の連続殺人未遂』の事だ。
今垣花が言った事を整理すると、屋上にあった塩酸散布爆弾がおそらく阿燕に目掛けて落ちて行った鉄柵を起動させる為の物。拳銃は俺が廊下で当たりそうになったアレ。火薬はその拳銃の弾丸が当たり、発火した物。ナトリウムは廊下にびっしり置かれていた物だろう。
だが、少し待って欲しい。あの事件は『阿燕の過去改変前』に起きた出来事のはず。だとすると、その事を垣花が知っているのはおかしい。現に、過去改変が終了したこの世界ではその事件は無かった事になっていたしな。
真相を確かめるべく、俺は垣花に問う。
「その事件を何処で知ったんだ?」
「?もしかして、ご存知でしたか?」
「いや、その事件については何も知らない。だが、その事件を知った経緯くらいは話してくれないか?何か力になれるかもしれない」
「・・・・・・・」
俺が聞くと、垣花は少しの間黙り込んでしまった。『この子はあの事件について何かを知っている』。俺の直感がそう言っている気がした。
「新聞部、と言うのは意外と情報網が広いんですよ。変な事を聞いてすみません」
「そうか・・・・・いや、大丈夫だ。気にするな」
それで良いのか?俺は今の答えで満足したのか?本当に『新聞だから』と言う理由で、この世界で起きているはずの無い事件を知っていると言うおかしな現象に納得出来たのか?
いや、違う。そうじゃない。
垣花はきっと、俺が知っているあの事件とは別の事件の事を言ったんだ。そうでなければ、話の辻褄が合わなくなるからな。自分にそう言い聞かせて、俺は納得した。
「それでは」
「ああ。ありがとな」
垣花が軽く会釈をして歩いて行く。取り合えず、この件は忘れよう。いや、珠洲の配布物は忘れたら不味いが。
俺もそろそろ家の中に入るとしよう。そろそろ眠気が・・・、
「あ、すみません。最後にもう1つ」
「ん?」
そんな風に少しでも体力消費を抑えようと努めていた俺は、またしても垣花に呼び止められた。
「この1週間で随分お疲れの様ですね。まあ、『1週間で3回はかなりハイペースですから、無理も無いでしょう』」
「・・・・・!?」
垣花彗。この子は何を何処まで知っている?何で俺のこの1週間の事を知っているかの様な台詞を最後に言って行く?一体、この子は何者なんだ。
その後、俺は家の中に入り、自室のベッドに倒れ込んだ。




