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Time:Eater  作者: タングステン
第四話 『Sn』
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第04部

【2023年09月19日17時17分00秒】


「・・・・・え・・・?」


 蒲生から情報提供を受けていた俺が聞いたのは『湖晴は既に死んでいる』と言う、極めて現実味に欠ける一言だった。


「おい、ちょっと待てよ・・・・・!そんな事無いだろ!湖晴の事は蒲生も1年前に見ただろ?それに、湖晴はついさっきも俺と一緒にいたんだ。それなのに3年前に死んでる訳ないだろ!」


 一体、何がどう言う事なんだ。湖晴は確かに今も生きている。ついさっきも俺と栄長と3人で歩いていた。そして、そのすぐ後に買い物に行くと言っていた。つまり、湖晴が生きている事は紛れもない事実のはずなのだが、それだと今の蒲生の台詞が説明出来なくなる。


 俺がこの意味不明な状況について試行錯誤を続けていると、蒲生が再び話し始める。


「確かになァ。まぁ、この事についてはオレも反論したい所だなァ」

「どう言う事だ?」

「いや、そのままの意味になるが、あの予知能力者が死んだと言う事は正確には『確認されていない』って事だァ」

「『確認されていない』・・・・・?」


 それはつまり死体が無かったとか、心臓が止まった瞬間を誰も目撃していないとかそう言う事だろうか。湖晴の死が『確認されていない』と言う事はそう言う事だろう。


「あァ。予知能力者が屋上から飛び降りて血塗れになった状態を教師が発見したらしく、その後救急車を呼んだそうだァ。だが、その待ち時間の時に教師がふと目を離した数秒間にあの予知能力者の死体は『消えていた』」

「消えた・・・・・?何でだ?」

「さぁなァ。それで、だ。その後行方が分からなくなり、暫く経った後に死亡扱いにされたらしい」

「そんな事ってありかよ・・・・・」

「それがありなんだよなァ、この世界ではァ」


 ここまでの話を聞いた俺は既に、表向きの状況の整理すらが困難になってしまいそうなくらい混乱していた。


 屋上から飛び降りた後の状態を発見された後、目を離した数秒間の隙に湖晴が消えた事。消えた後、行方不明になった事。行方不明になった事によって死亡扱いにされた事。


 どれも何が原因でそうなったのか、何でそんな不運な事が立て続けに起こったのか、全く検討が付かない。俺の貧弱な頭脳では表向きの事実だけを順に追って行く事くらいしか出来ない。


 ・・・・・あれ?でも、それって少しおかしくないか?湖晴ってかなり傷の治癒が早かったんじゃなかったか?俺と初めて会った時も、銃で撃たれていたのに30分程度で完治していた。この事を前提に考えると、屋上から飛び降りた程度では死なないんじゃないか?いや、その時に死ねなかったから、俺に会ったのか?まるで分からんな。


 でも、少しばかり他の男子よりも体が丈夫な俺でも、屋上から落ちた程度では死ななかった。今思えば、あれは何時の事だったか全く思い出せないが、取り合えずはそう言う事だ。


「オマエも気を付けろよォ?オマエがあの予知能力者とどうやって知り合ったかは知らないが、この世界はオマエが考えている以上に黒いぞォ」

「自分が死んだ事になっていると言う事を湖晴は知っているのか?」

「オマエなァ・・・・・オレは何でも屋さんじゃないんだぜェ?それくらい本人に聞けよォ。さっきの両親の変死の事もなァ」

「流石にそんな事聞けないだろ・・・・・」


 そもそも、湖晴本人に聞いてはいけない様なタブーな内容を蒲生を話して来るからついでに蒲生に聞こうとしているのに、それはないだろう。俺に情報提供をするつもりなら、そのくらいは調べて欲しかった。


「そうそう、まだ情報はあるんだぜェ」

「まだあるのか」


 ここまででもかなり有益な情報を得られたので、俺としてはもう充分な訳だが、蒲生はまだ会話を続けようとする。何時まで続くのだろうか。


 ちなみに、ついさっきまで蒲生が食べ続けていたパンやらケーキやらは既に初期状態の20%程度の量になっていた。かなりの量があったのに、食べるのが早いな。


「あァ。とは言っても、あの予知能力者に関する情報はあと2つだけだがなァ」

「聞いてやるから話してくれ」

「オイオイ、立場が逆だろォ?本来はここはオレが感謝される場面だと思うがなァ?まぁ、オマエには借りがあるからなァ、許しておいてやる」


 蒲生に対する借りって何時まで有効なんだろうか?まあ、向こうが気にしてくれているのなら利用させて貰うとしよう。そして、蒲生は残り2つあると言う、湖晴に関する情報を話して来る。


「まず1つ目だァ。あの予知能力者は養子だったって事だァ。知ってたかァ?」

「いや、知らないな」

「だろうなァ。そんな事、普通は話さないだろうしなァ」


 湖晴も俺や珠洲みたいに養子だったのか。前にも言ったが、俺と珠洲も上垣外家に引き取られた養子だ。引き取られた理由は知らないがな。


 確かに、普通は『自分は養子です』なんて事は言わないだろう。俺自身、今まで誰にも言って来なかったからな。義妹の珠洲を含めて。


「あの予知能力者が養子だったと言う件についてはそれだけだなァ。他に何も関連してなさそうだし」

「最後の情報は?」


 取り合えず、残る情報はあと1つだ。これを聞いたらすぐに帰ろう。そして、すぐに寝よう。


「実はなぁ、あの予知能力者は学校の屋上から飛び降りる1週間前まで約1ヶ月間に渡って、行方不明になっていたらしい」

「行方不明?」

「そうだァ。原因は不明だが、取り合えず行方不明だったらしい。担任教師が家庭訪問してもいなかったらしいしなァ」


 次から次へと謎めいた情報が追加されて行くな。それにしても、行方不明とは。しかも、学校の屋上から飛び降りる1週間前まで約1ヶ月間に渡ってとは。もしかすると、その空白の1ヶ月の間に自殺しようと思ってしまう様な辛い出来事があったんじゃないだろうか?


 と言うか、家庭訪問をしても玉虫先生の所に行っているのなら、誰もいないんじゃないのか?いや、その事は学校側には伝えられていない可能性があるか。


「まぁ、オレが教える事が出来る情報は全て出し尽くした訳だが、何か質問あるかァ?オレは食い物も食い終わったし、もうここには用が・・・いや、1つあったか」


 蒲生の台詞を聞いた後、俺は再び考え込む。突然質問と言われても何も思い付かないし、俺は一刻でも早く家に帰って寝たいが、ここで蒲生を帰らせるのは少し惜しい。


 もう少しだけで良いから、有力な情報を聞いて帰って貰おう。・・・・・そうだ、取り合えずアレを聞こう。


「じゃあ、1つ良いか?」

「何だァ?」

「今日蒲生が教えてくれた情報は全て真実か?」


 俺がこんな事を聞いたのは、単純明快で気になったからだ。今日だけで随分と多くの湖晴の過去に関する情報を得る事が出来た。湖晴に無断でそんな事を聞いたのは悪いとは思うが、俺としてはその情報が真実かどうかを確かめる術が無い。だから、念の為俺はこんな事を聞いた。


「それは保証は出来ないなァ。だが、オレはオマエに嘘を付く理由が無い。だから、オレが知る限りの事は嘘偽り無く話したつもりだぜェ?」

「そうか。なら良いんだが」


 まあ、俺としても別に蒲生を疑ってそんな事を聞いた訳ではないのだがな。余りにも現実味の無い内容だったので、そう聞いただけだしな。


 ・・・・・あ、もう1つ質問したい事を思い出した。


「あ、悪い。もう1つ良いか?」

「どんどん付け足し質問してくれて構わないぜェ」

「なら、遠慮なく。今日蒲生が教えてくれた情報ってどうやって調べたんだ?」

『それはワタシがお答え致しましょう!』

「わっ!」


 俺が蒲生に聞くと、テーブルの端に置いてあった蒲生のスマホから急に女の子の声がした。その声は、マグネと言う蒲生が作ったと言う人工知能の物だった。


「何だ、マグネか・・・・・電源OFFになっていた訳じゃないのか・・・・・」

『?アレ?何でワタシの名前ヲ・・・?オマエとは初対面のはズ・・・』


 そうだった。この過去改変後の世界では蒲生はこの地域には来ていない。つまり、グラヴィティ公園内にマグネを落としたりもしていない。だから、この世界では俺はマグネとは初対面なのだ。1年前の『過去』では何故か声が聞こえなかったしな。


「も、もちろん初対面だ。1年前に蒲生と栄長と会った後に、湖晴に予知して貰っただけだ」


 誤魔化す方法が思い付かなかった俺はそんな事を言った。それにしても便利だな。湖晴が自分の事を予知能力者なんて言い始めた時はどうなる事かとヒヤヒヤしていたが、こんな場面でも充分に言い訳として機能している。流石、湖晴だな。


『そうなのカ?まァ、良いヤ!久し振りの長台詞だし、今日は張り切っテ・・・』

「まぁ、オレが頼んで、大体はマグネに調べて貰っただけだァ」


 マグネが何かを話し始めようとすると、それを蒲生が横から入って奪い去った。


『ご主人サマ!?』

「そうなのか。便利なんだな」

『オマエまデ!?』

「じゃあ、そろそろ帰るかァ」

「そうだな」

『・・・・・・・』


 俺も蒲生の台詞の流れに乗ってみたが、これではマグネが可哀想だったか。マグネはどうやら何か言いたい事があったみたいだし。


『もう知りませン!勝手にして下さイ!』


 すると、マグネは泣いている様な怒っている様な大声を放ち、そして、スマホの画面の奥の方に潜って行ってしまった。正確には、スマホの画面が真っ暗になった、と言った方が良いだろう。


 念の為、俺は蒲生に尋ねておく。


「良いのか?」

「何がァ?」

「いや、マグネが・・・」

「コイツなァ、最近何か調子が悪いみたいでなァ。オレも困ってるんだァ」

「そうなのか・・・・・」


 蒲生よ、多分それは違う。おそらく、今マグネが怒っていたのは機器の不具合とかではなく、俺達が冷たくしたせいだろう。可哀想なマグネ・・・・・。


「オオ!そうだ、忘れる所だったァ!」

「何だよ急に・・・・・」


 俺がマグネに対して哀れみの感情を抱いていると、蒲生が突然大声を出した。その大声のせいで喫茶店の店内にいる客の大半の視線が俺達の方に集まる。


「珠洲は元気にしてるかァ?」

「?何でいきなり珠洲の話題に?と言うか、前から気になっていたが、蒲生は珠洲の何なんだ?」

「関係なんて気にするなってェ。それよりも、元気かァ?」

「いや、普通に元気・・・だと思う」

「そうかァ!そりゃあ良かったァ!」


 何に対して喜びを感じているのかは全く検討は付かないが、蒲生は嬉そうにしていた。


 それにしても、意外と珠洲って人脈が広いのか?いや、俺みたいなコミュ障とは知り合いの人数が天と地ほど離れているのは百も承知だが、杉野目に加えて、蒲生とも知り合いとはな。


 家に帰ってみたら聞いてみるか。義理とは言え、妹の友好関係を知っておくのも兄の勤めだろう。俺としては、義理とか義理でないとかはあまり気にしたくはないが、珠洲はもう知っているからなぁ・・・・・。


「何か、久し振りにリン以外の人と話した気がするぜェ」

「それまた何で」

「いやァ、1年前にオマエ等に会った後、資料を持って帰ろうとしたら、リンに不意打ちを食らってなァ」


 そう言えばそうだったな。確か、土嚢に埋もれていたんだったな。お疲れ様です。


「それで、つい3日前まで入院していたからなァ。まァ、入院なんてしなくてもオレは元々会話出来る様な知り合いなんてリンくらいしかいないがなァ!ハハハ!」

「・・・・・蒲生も大変だな」


 何だろうか。今の蒲生の笑いがやけに悲しそうに聞こえた。それに俺は、その蒲生の台詞から、自分と同族の匂いを感じ取る事が出来た。そうだ。これは紛れもなく『ぼっち』だ。


 そして、更に蒲生は何かを思い出した様子で俺に話し掛ける。


「リンと言えばァ!」

「この会話の流れ、何時まで続ける気だ?」


 話題を1つ上げる度に1つの事を思い出して行ったらきりが無いぞ。


「待てってェ。これで本当に最後のはずだから、なァ?」

「そんな、ゲームをしている子供が親に『もう少しでこのステージクリア出来るから、あと10分やらせて!』って言った10分後に、もう1回『もう少しでこのステージクリア出来るから、あと10分やらせて!』って言っているかの様な台詞言われても・・・・・」

「・・・・・ハ?」


 俺が自分でも何で言ったのかよく分からない台詞を放つと、蒲生は驚いた様子で俺の方を見た。


「止めろ!俺の事を『こいつ何言ってるんだ?馬鹿か?』みたいな目で見るな!」

「いや、そうじゃなくてェ・・・」

「だったら何なんだ!」

「早口でよく聞き取れなかったから、もう1回頼む」


 難聴乙。


「・・・・・・・本題に戻ろうか?」

「仕方ないかァ。まァ、聞き取れなかったのは俺のミスだからなァ」


 取り合えず、蒲生には俺の心の傷口を抉るつもりは無いらしい。


 そして、蒲生は自身のポケットから、何かの写真を10数枚取り出して、勢い良く俺に見せた。


「これを見てみろォ!」

「!?」


 その写真には栄長の姿が写っていた。しかも、普段通りの制服姿だけでなく、私服、水着、体操服、パジャマ等々多種多様な姿の栄長が写っていたのだ。


「こ、これは・・・・・?」

「オレ今までに『盗撮』した、リンの写真だァ!」

「なん・・・だと・・・・・?」


 『思いっきり犯罪じゃねえか!』なんて事は少しは思ったが、口には出さなかった。何故ならば、蒲生が持っていた写真はどれもかなり上手く撮れており、とても魅力的な物ばかりだった。


 それに、栄長自身の元々の美しさが作用し、さながらモデル雑誌の数ページをスクラップして来たかの様にも見える。


 それにしても、改めてこう見ると、栄長って本当に可愛いんだな。栄長は赤毛でノーマルな長髪とポニーテールを合わせた様な髪形で、大き目の黒いリボンが特徴的だ。


 それと、男の俺としてはどうしても水着姿の栄長の方に目が行ってしまう。そして、その感想として一言。栄長って、想像以上に胸が大きいな。湖晴程ではないにしろ、『巨』には余裕で入るだろう。この『巨』は何の事を示すかはあえて言わない。


「アイツ、学校でファンクラブか何か出来てるだろォ?」

「よく分かったな」

「やっぱりなァ。それで、だ。特別にこれをオマエにやる」

「何でそうなる!?」


 いや、俺としては嬉しい限りだが、何でそうなるんだ。まさか、これで何か取引をさせるつもりでは・・・・・。


「これらは俺の秘蔵写真だがァ、オマエには借りがあるからなァ。特別にプレゼントしてやる。だが、使い方は自分で考えろォ」

「何勝手に撮ってんじゃー!」

「ウゴファ!」


 そんな時、蒲生が何者かに後頭部を蹴り飛ばされ、テーブルに勢い良く顔面をぶつけた。これはかなり痛い。


「え、栄長!?何でここに!?さっき帰ったはずじゃあ・・・」


 蒲生の後頭部を蹴り飛ばしたのはどうやら、今丁度話題に上がっていた栄長だった。


「忘れ物したから途中で引き返したのよ。そしたら、次元君がクロと歩いているのを見つけて、付いて来てたの。何かを真剣に話しているぽかったからお店の外で暫く待っていたけど、これは何だぁぁぁぁぁ!!!!!」

「リンの盗撮写真だァ!」

「死ね!」

「ゴファ!」


 本日2度目の蹴りを入れられて、蒲生はもう1度テーブルに顔面を強打した。


 その光景を俺を含めた喫茶店内の人達は静かに見守るしかなかった。と言うか、この2人には関わってはいけないと言う事を他の客も察したのだろう。


 蒲生に対するお仕置きが終わったのか、栄長が俺の方を向いて話し掛けて来る。


「次元君、ごめんね。クロが変な物渡そうとして」

「い、いや、大丈夫だ・・・・・」

「何も受け取って無いわよね?」

「も、勿論でございますです!」

「そう。なら良かった」


 俺が変な敬語で答えると、栄長は満々の笑みで頷いてくれた。その笑顔は逆に怖い。


「ほら、帰るわよ。クロ」

「チッ。また出直すかァ・・・」

「言っておくけど、さっきの写真とその類のデータは全て私に渡しなさい。良いわね?」

「何でェ」

「渡さなかったらどうなるか分かってる?もう1年入院しとく?」

「・・・・・・」


 こうして俺は、蒲生が知る限りの主に湖晴に関する情報を聞き終わった。あと、俺は栄長達と喫茶店を出た後、すぐに分かれて家自宅に向かった。


 過去改変前は互いに互いの事を思いつつも、戦う事になっていがみ合っていた2人だが、過去改変後のこの世界ではそうはなっていないみたいで良かった。過去改変のしがいがあるって物だ。


 そう言えば、栄長はその忘れ物とやらは良いのだろうか?言う程急用でないのかもしれないが。

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