第03部
【2023年09月19日17時08分32秒】
「・・・・・・・」
「あれェ?人違いかァ?いや、合ってるよなぁ・・・・・?オーイ、無視すんなよォ」
・・・・・よりにもよって、こんな時にこんな奴に出遭ってしまうとは。どうにかしてやり過ごさなければ。今の俺に蒲生に構っている時間は無い。俺は一刻も早く家に帰って昼寝をしたいんだ。
「・・・・・どちら様でしょうか」
「オイオイ、流石にそれは傷付くぜェ?1年前は殺し掛けちまって悪かったってェ」
いやいやいや、『殺し掛けて悪かった』なんて台詞は普通は言えないはずだが、事実、俺は蒲生に殺され掛けている。と言うか、湖晴が所持しているタイム・イーターが無かったら、多分今ここに俺はいなかっただろう。
だが、この場合どうすれば良いのだろうか。いや、選択肢は1つしか無さそうだな。仕方無い、会話が進まない事には恐らく俺はこの道を進む事は出来ないだろう。だから、適当話してさっさと帰ろう。
「何でまたここに来てるんだよ・・・・・」
「『また』ってェ?俺はこの地域に来たのは初めての筈なんだがなァ」
そうか。そう言えば、俺の記憶の中で以前蒲生がこの地域に来たのは過去改変前の出来事だったか。そして、今の蒲生の台詞から推測するに、おそらく過去改変後のこの世界では蒲生はまだこの地域には来ていない。だから、今の会話が変な風になってしまったのか。
「いや、何でも無いから気にするな。それで?何でここに来てるんだ?」
「オマエなぁ、一応俺の方が年上なんだから少しくらい敬えってェ」
「俺を殺し掛けた奴に、か?」
「・・・・・まぁ、俺は別に上下関係なんて気にしないから適当に話してくれれば良い」
「で、何でここに来たんだ?」
ここまで来るともう上下関係とか年上年下とかなんて言ってられないぞ。流石に。と言うか、俺的にはこれ以上会話を長くしたくないし、蒲生とはあまり関わりたくないのでそんな事は無視だ。
「そりゃあもちろん、オマエに用があるからに決まっているだろォ?」
「そうですか。それではまた」
そう言って、俺は蒲生の元から去ろうとする。用事なんて知った事か。
「オウ。じゃあなァ・・・・・ってオイ!俺はオマエに用があったから来たんだって言っているだろォ!?」
「それは確かに聞こえたが、何で俺なんだよ」
「オマエとあの予知能力者の事を調べていたら面白い事が分かってなァ。聞きたいとは思わないかァ?」
「いや、別に。それじゃあ・・・」
蒲生が予知能力者と言っているのは湖晴の事だ。1年前の過去で栄長の過去改変の際に、蒲生に対する言い訳として湖晴が放った台詞のせいで、今だに蒲生は湖晴の事を予知能力者だと思っているらしい。実際には湖晴は予知能力者などではなく、正真正銘のタイムトラベラーだ。
「だから、勝手に帰ろうとするなってェ!今日はあの予知能力者はいねぇのかァ?」
「湖晴は今は買い物中だ。用件があるならば俺が聞く」
蒲生の奴、湖晴にも用があって来たのか?蒲生は湖晴の事を予知能力者だと思い込んでいるから、『俺の科学結社に来い』とかを言いに来たのだろうか?そんな事はこの俺が許さない。
「そうかぁ、分かったァ。まぁ、オマエだけでも情報提供するならば充分かァ」
「俺はなるべく早く帰りたいんだ。早く用件だけを言えよ」
「悪い悪い。まぁ、そう怒るなってェ。取り合えず、場所を変えようぜェ?」
「何で」
情報提供をしてくれるのなら立ち話でも構わないだろうに。まさか、科学結社に所属している蒲生しか知り得ない社会の裏の事情について教えてくれるのか?俺は別にそんな事を知りたいとは思わないし、そんな事を知って命が危険に晒されるのも困るのだが。
しかし、蒲生から情報を貰う必要性は無いが、もしかすると掘り出し物的な情報を持っているかもしれない。聞いておいて損は無いかもしれない。
「こんな道端でする様な内容でもねぇからなァ」
「長くなるのか?」
「いやァ?数分で済むんだろぉなァ。何処か良い場所ねェのかァ?」
「良い場所?」
その単語だけ聞くとやや卑猥なので自重して欲しい所だ。
「ゆっくり話せる場所の事だァ」
「『ゆっくり』って、お前絶対長話するつもりだろ!」
「いやいや、そんな事は無い。オマエが俺の情報をどれだけ知っているかによって多少使う時間が変わるかもって事だァ」
「こんな所で何時までも話していても仕方無いか・・・・・分かったよ。付いて来い」
確かに、公園の道中で長く話していても会話が一向に進まない。これでは何時まで経っても俺は家に帰れそうにない。そう考えた俺は、蒲生からの情報提供を受ける為、何処かの店に入る為に歩き始めた。
「あ、出来れば、ファストフード店か喫茶店でよろしく~」
「・・・・・・・」
こいつ、絶対話をする事だけが目的じゃないだろ。絶対何か注文するつもりだろ。
そんなこんなで俺と蒲生は情報交換の為、場所を変える事にした。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「で?喫茶店に来たのは良いが・・・」
「ン?」
特に行き着けの店が無い俺は取り合えず、俺の知識の範囲内でグラヴィティ公園に1番近い喫茶店を選んだ。
その喫茶店とは、グラヴィティ公園から徒歩約5分、音穏が友達とよく行くらしいごく普通の喫茶店だ。一応言っておくが、ス〇バ等の有名な喫茶店とは違う。もっとマイナーな喫茶店だ。
「何で思いっ切り食べ物ばかり頼んでんだよ!あと飲み物も!」
「上垣外は食わねェのかァ?上手いぞォ?」
しかし、蒲生はそんな喫茶店に入ると同時にショーケース(?)に並べられているパンやらケーキやらを大量に注文し、今はこうしてそれらをガツガツと食べまくっている。
こう言う喫茶店では通常よりも食べ物や飲み物の値段が高い為、そんなにガツガツと食べるのは経済的に宜しくないとは思うが、どうでも良いので特に注意はしないでおいた。
「いやいやいや!俺がここに来たのは蒲生が何か重要な事を知ってそうだから、と言う理由で話しを聞く為であり、決して喫茶店でケーキを食ったり、コーヒーを飲む為ではない!」
俺は必死の反論をする。
「さて、本題に入るがァ・・・」
「唐突だな!と言うか、もっと早く切り替えしろよ!俺はさっさと寝たいんだ!」
最近は特に睡眠時間が極端に短くなって来ている俺だ。今日は数時間は昼寝をしなければ、明日は1日中行動不能になってしまう。
「何だ、オマエ。寝不足かァ?徹夜は流石に体に悪いぜェ?」
「徹夜?何だそれは」
『TETSUYA』だったか?初めて聞く単語だな。某レンタルビデオショップに名前がそっくりじゃないか。
「・・・・・いや、知らないなら良いがァ。今朝は何時に寝たんだ?」
「『今朝』?」
何で就寝時間が『昨晩』ではなく、『今朝』なんだ?言い間違えか?それとも蒲生の頭がおかしいのか?
「エ?違うのかァ?俺は大抵今朝なんだがァ」
「昨日は11時くらいに寝たが、いつもはもっと早いぞ?10時くらいには遅くても夢の中だ」
「ハ!?」
「何だ!?」
俺が事実を述べると蒲生はかなり驚いた様子で、しかもテーブル一杯に並べられている食べ物を食べる手を止めて大声を上げた。
「9時ィ!?オマエ、それじゃあ、深夜アニメ見れねぇじゃねぇかァ!」
「何で俺が深夜アニメを見る事が前提なんだ!」
俺の事を蒲生と同じにするな!それに、深夜アニメと言うと午前1時とか2時とかに放送しているアレの事だろ?そんな時間帯は俺にとったら未知の領域だ。異世界だ。
と言うか、蒲生って見た目に寄らず、そう言う趣味があったのか。だから、マグネのイラストが思いっきり萌え絵だったのか。・・・・・あれ?そう言えば、今日はマグネはどうしているんだろうか。端末の電源がOFFなのか?
「いや、普通だろォ?俺は今シーズンは1週間に深夜アニメ12作品全て放送時間に見てるぜェ」
蒲生はキメ顔ともドヤ顔とも取れる様な表情で俺にそう言った。
「そんなキメ顔で言われても・・・・・それに、それって別に何も誇れる事じゃないぞ?」
「それはそうとォ・・・」
「はっ!また話が逸れてしまった!さっさと話せ!俺を睡眠不足にさせる気か!」
ついつい蒲生の放つ変な台詞に突っ込んでしまった。これでは何の為に場所を変えてまで蒲生の話を聞こうとしたのか、その理由が分からなくなってしまう。
「本題に入る前に1つ良いかァ?」
「何だよ」
何の前置きだ。さっさと話せよ。
「流石に9時就寝は早過ぎるぞォ?健康的かもしれないが早過ぎるだろォ。せめて11時就寝にしろォ」
「何でオマエにそんな事言われないといけないんだ・・・・・」
一体、蒲生は俺の何なんだ。と言うか、11時就寝とか遅過ぎる。俺としては8時就寝にしたいくらいなのに。11時とか不可能だ。
「それじゃあ、今度こそ本題に入るぞォ?」
「おう」
やっと本題に入る事が出来たらしい。あとはある程度情報が手に入るまで適当に相槌を打って、適当な所でさっさと帰ろう。
「オマエはもう知っている事かもしれないがぁ、一応俺が調べた限りで面白い事を述べて行く」
さっきから気になっていたが、『面白い事』ってどう言う意味だろうか。蒲生の主観でその辺りの線引きは決められていると思うが、おそらく珍しい情報と言う意味で良いだろう。
「あの予知能力者の事だァ。照沼だっけかァ?」
「ああ」
「あの予知能力者、今学校どうしているか知ってるかァ?」
「え?飛び級卒業したって聞いているが、それがどうかしたのか?」
「その様子だと知らねェみたいだなァ。情報持って来たかいがあったぜェ」
確か、以前湖晴は『14歳の頃に高校3年生のクラスに飛び級していた』と言っていたはず。そして、湖晴は現在17歳。つまり、もう卒業しているはずなのだが、そうではないのか?
「まぁ、その前にもう1つ。話を少し変えさせて貰う。あの予知能力者の両親について何か聞いているかァ?」
「何で話が変わったんだ?まあ、良いか。いや、両親については何も聞いていないな」
そう言えば、湖晴の両親については今まで1度も話題に上がらなかったな。その事について話す機会が無かったのと、理由が無かったのが主な原因だが、よくよく考えてみれば気になる。自分達の娘がタイムトラベラーになっていると言う事を、湖晴の両親は知っているのだろうか?
俺が湖晴の両親について様々な想像と推測をしていると、蒲生は話しを進める。
「実はな、あの予知能力者の両親は既に『死んでるんだ』そうだぜェ」
「何?」
しかし、蒲生の口から発せられたその台詞は俺の想像を絶する物だった。しかも、『死んでいる』だって?湖晴の両親が?事故か何かだろうか?
「多分、この事は本人は知っているとは思うがなァ。それともう1つ」
「まだあるのか」
「その両親の死体の状態についてだ」
「喫茶店でよくそんな話題出せるよな・・・・・」
夕方の時間帯の為、店内には学生以外にも一般客が数人いる。人数は多くはないが少なくはない。席の半分程度は埋まっていると言った所だろうか。そんな所でよく『死体の状態』なんて話題を出せるよな。
「気にするなってェ。どうせここは店の隅っこだァ。誰にも聞こえやしねぇよォ」
「で、どんな感じだったんだ?」
「かなりヤバい状態だったらしいがぁ、その辺は大丈夫かァ?心構えは出来ているかァ?」
「いや、心配されなくてもかなりの修羅場は通って来たつもりだ」
俺的にはこの1週間でかなり悲惨な光景を見て来たつもりだ。主に、阿燕の過去改変直前の『現在』の出来事だ。あれは正直言ってかなりグロかった。俺が状況を何も知らない一般人ならば、絶対に気絶していたな。
「そうかぁ、じゃあ言うぜェ。その状態ってのはァ・・・・・」
蒲生は台詞と台詞の間に少しだけ間を空けて、その情報を俺に教える。
「2人共四肢が無い状態で、更に体中の臓器が綺麗に無かったって言う状態だったらしい。心臓は勿論、肝臓、脳、胃、腸ってな感じにな」
「それって・・・・・」
「まぁ、腕とか足ってのは自分から外れる物じゃねぇからなァ。ましてや、内臓なんて尚更だァ。誰かにやられたのは間違いねぇとは思うがァ」
それはつまり、湖晴に両親は誰かに殺されたと言う事になる。しかも、四肢が無く臓器も全く無かったと言う事は、何か裏社会が関係していそうだ。まさか、その体のパーツが何処かに売り飛ばされたりはしていないよな。
「その事を湖晴は知っているのか・・・・・?」
「知っているんじゃねェのォ?俺が調べた情報によると、両親の死を発見・通報したのはあの予知能力者だったらしいし、それが確認された後、あの予知能力者は何処かの施設に移る事も可能だったらしいが、自らその道は選ばなかったらしいしなァ」
湖晴にそんな過去があったとは知らなかった。これからは湖晴と会話する時は、なるべくその事は話題にしない様にしよう。これはおそらく、俺が前から薄々感付いていた湖晴が抱えている聞いてはならない過去だと思うからな。
すると、蒲生は何かに対して勘付いた様子で、少しばかりニヤニヤしながら俺に話し掛ける。
「それにしても不自然だよなァ?」
「何がだ?」
「何で『両親が死んだ』のに、あの予知能力者は今まで『生活出来て来た』んだァ?」
「それは・・・・・」
確かに、普通は両親が死んだら生活は出来なくなる。他の親族がいれば、音穏達の様に引き取って貰う事も出来るだろうが、『何処かの施設に移る事も出来たが、そうしなかった』と言うさっきの蒲生の台詞を聞く限り、おそらく湖晴には頼れる親族がいなかったのだろう。
だが、俺には1つ心辺りがあった。
「それは多分、玉虫先生と言う人物が関係しているんだと思う」
「玉虫ィ?」
「ああ、湖晴が前から言っている人物の事だ。多分、その人が湖晴の事を助けてくれたんだろう」
以前から、湖晴は度々玉虫先生と言う未知の人物の事を会話に混ぜて来ていた。それも、まるでその玉虫先生の事を命の恩人と思っているかの様に敬っていた。
おそらく、俺のこの推測は合っている。両親が死んだ後、湖晴は玉虫先生の所に頼った為、頼れる親族がいなくても何処かの施設に入らなくて済んだのだろう。
「なるほどねェ。じゃあ、俺のこの仮説は間違いかァ」
「仮説?」
「いや、別にオマエは聞きたくないだろうから、これは言わないでおいておくぜェ」
「?そうか?」
蒲生は言い掛けていた事を引っ込めた。それにしても、何か違和感がある台詞だったな。『仮説』って。『オマエは聞きたくないだろう』って。
「そして、さっきの話しに戻るぞォ?」
「湖晴が今学校をどうしているか、だったか?」
「そうそう、それだァ」
結局、元の話題に戻った。
「資料によるとな、あの予知能力者照沼湖晴は飛び級してたみたいだが、14歳高校3年生の時に『退学』扱いになってんだよォ」
「は?」
退学?あの湖晴が?
「一応言っておくが、この情報はあの予知能力者が通っていた学校の資料漁ってみたら分かった事だから、間違いねェぜェ?」
「いや、流石にそれはありえないだろ」
「何でそう言い切れるんだァ?」
「湖晴は滅茶苦茶頭が良いんだ。しかも、難関校で飛び級出来る程に。そんな奴が高校3年生の時に退学なんて喰らう訳ないだろ?」
退学なんて物は滅多に喰らう物でもないはずだ。しかも、頭が良くて、しかも比較的大人し目の湖晴の事だ。おそらく、蒲生の調べたその資料はミスデータか何かだったのだろう。もしくは、蒲生の見間違いだろう。
「確かに、その退学の理由が普通ならそうかもしれないなァ」
「どう言う意味だ?」
「あの予知能力者の退学の理由は『普通じゃない』としたらァ?」
『普通じゃない』?退学の理由なんてたかが知れているだろうに。単位不足や問題を起こしたら高校では退学になる場合があるが、『普通じゃない』と言うからにはそう言う事ではないはずだ。それに、湖晴はそんな事はしそうにないしな。
だとすると、何だろうか?自主退学は・・・・・比較的、普通に分類される退学の理由だよな。全く想像が付かん。
そして、蒲生は俺に湖晴の秘密について暴露する。その衝撃の事実を平然と。
「3年前、照沼湖晴は学校の屋上から飛び降りて『自殺している』」




