第02部
【2023年09月19日17時04分30秒】
この俺上垣外次元はつい先程、天然居候白衣少女の照沼湖晴と共に1年前の過去に飛び、そして、過去改変を行って来た。
その過去改変とは、1年前に交通事故で大怪我を負って入院し続けていたとされていた栄長燐と言う、学校中の誰からでも人気のある完璧少女の不遇な過去を変え、この『現在』で発生してしまった『原子市一部地域大損壊事件』を無かった事にすると言う物だった。
俺自身、タイムトラベルは今回で3回目だ。1回目は9月11日にあった、俺の小学生の頃からの幼馴染みの野依音穏の『研究施設連続爆破事件』の過去改変。2回目は9月14日にあった、ソフトボール部の豊岡阿燕の『連続通り魔事件』の過去改変。
2人共それぞれ辛い過去があり、その葛藤の末、この世界に重大な影響を及ぼすらしい重犯罪事件を引き起こしてしまった。だが、俺はその2人の不遇な過去を解明してタイムトラベルをする事によって救って来た。
お忘れかもしれないので、念の為にここで言っておこう。何故、俺はタイムトラベルをしているのか?それは9月11日の学校からの帰り道に俺の目の前で突然起きた事が原因だった。
その帰り道、俺は血塗れで白衣姿の青髪美少女の照沼湖晴と出会い、その後、湖晴がタイムトラベラーだと言う事を知った。そして、その直後に湖晴の持つタイム・イーターと言う時空転移装置の力を借りて音穏の過去を変えてからが今に至る言う事だ。
さて、長話もアレなのでそろそろ今の俺の状況についての話に戻すとしよう。場所は度々登場するグラヴィティ公園だ。
先程説明した通り俺は栄長の過去改変後、湖晴を含めた3人で下校していた訳だが、湖晴は買い物があるらしく途中で別れ、栄長も帰り道が分かれる地点まで歩いた所で別れた。すなわち、今の俺は1人で暇な為、こうして自分の今の境遇について語っている訳だ。
俺は過度なロングスリーパーな為、学校でもそのほとんどの時間を睡眠時間に費やしている。また、これが原因で俺には友達と呼べる友達が1人もおらず、知り合いと呼べる知り合いがかなり少ない。
妹の珠洲、小学生からの幼馴染みの音穏、居候少女の湖晴、過去改変が主な原因で知り合った阿燕と栄長。よくよく考えてみると、男が1人もいない。いや、可愛い女の子のみが知り合いと言う事については一向に構わないのだが。むしろ、純粋な男子高校生である俺としては喜ばしい事この上ない訳だが。
しかし、こんな状況だと俺としても少しばかり不安になって来る。珠洲、音穏、湖晴の3人はそれぞれ俺の妹、幼馴染み、タイムトラベル仲間(?)だから、こんなどうしようもない俺の事を相手にしてくれているのは分かる。と言うか、その事については感謝している。
だが、阿燕と栄長はどうなんだろうか。2人共俺と話す時はそれなりに楽しそうにしてくれているが、本当の所はどうなんだろうか。俺の事が哀れ過ぎて、仕方なく相手をしてくれているのかもしれない。
そもそも、俺が過去改変をしたと言う事以外には密接な関係は無い。しかも、その事実を栄長以外の子達は知らない。
阿燕は音穏と仲が良いらしい(阿燕の過去改変後にそうなった為、俺は良く知らない)ので、もしかしたら俺の事は音穏のオマケ程度にしか考えていないのかもしれない。別に過去改変をして助けたから何か恩返しが欲しいとかそんな事は微塵も思っていないが、せっかく過去改変後の世界でも会話出来る様な関係になれたんだ。嫌われたくない。
それと栄長だ。栄長には1年前の過去ではかなりの迷惑を掛けた。結局、探していた資料は1年前の洗脳らしき事をされていた俺が原因だった。しかも、その資料を探していた蒲生黒矛と言う栄長の幼馴染みと栄長が戦闘する羽目になったのも、そんな俺を守ってくれる為だった。
と、俺はここまで続けて来た自分のネガティブ思考を中止した。これ以上こんな事を考え続けると病気になってしまいそうだ。と言うか、答えの出ない問題は幾ら考えても答えが出ないのだから、続ける必要性も無いだろう。
そして俺は、180度話題を変え、別の事を考え始める。
それは主に『家に帰ったら何をしようか』等。まあ、結果的には『寝る』になるのだが。この8日間は過去改変作業が3回もあったから睡眠時間がろくに取れていないしな。
俺は1日に10時間以上は寝ないと気が済まない。と言うか、世間では高校生は8時間睡眠を取るのが普通とか思われているらしいが、そんだけしか寝ていない人が今までよく生きて来れて来たな、と思ってしまう程だ。
1回だけ、いつもより就寝時間を2時間程度遅くして、1日の睡眠時間を8時間にしてみた事がある。自分の可能性について調べてみたかったのだが、案の定、これはしてはならない実験だったらしい。
その日の俺は誰に起こされても起きる事のない(普段は音穏に起こされれば起きる)、学校の教室の隅でひっそりと佇む石造のオブジェと化したのだった。今思えば、あれは無謀な挑戦だった。
そんな事を考えつつ、ついさっきの過去改変の際の体力消費に伴って発生した強烈な睡魔に耐えつつ、俺は公園内を歩き続ける。
「・・・・・あれは・・・・・」
その時、俺はある2人の人影を見た。正確には公園の外すぐ近くにその2人はいた。1人は俺の妹の珠洲、もう1人は先週転校して来た杉野目施廉と言う女の子だった。
それにしても珍しい組み合わせだな。いや、ちょっと待てよ。幾ら珍しい組み合わせだと言っても、何で珠洲と杉野目なんだ?杉野目はついこの間転校して来たばかりだのはずなのだが、珠洲は実は杉野目と知り合いだったのか?
2人は何かを話しているらしい。今俺のいる公園内の立ち位置からではその会話の内容は聞こえないし、聞きに行くつもりもないが、その新コンビの会話の内容が少しばかり気になったりもした。
まあ、帰ったら珠洲に聞けば良い事だしな。これからの俺は家に直行して、ベッドに倒れ込んで安眠するだけだ。
すると、何者かが俺の方向に走って来る足音が聞こえた。俺はその方向を見る。
「・・・・・ん?」
「あ・・・上垣外先輩。こんにちは」
その足音の主は、音穏が所属していた軽音部の1年生の飴山有藍だった。何やら楽器ケースの様な物を背中に背負っている。あれ?今ってクラブ活動の時間中じゃないのか?忘れ物か?
「ああ、こんにちは。何してるんだ?こんな所で」
「え、えーっと・・・・・」
台詞からも分かる通り(分かるのか?)、飴山は内気な女の子らしい。俺の知り合いには今の所いないタイプだ。いや、もしかすると俺が年上の男だから警戒しているだけなのかもしれないが。
それとも、俺が普段の制服と違って湖晴の白衣を着ているからか?白衣を着ている理由はあまり聞かないで欲しい所だ。説明がし難いからな。
過去改変後、『現在』に帰って来た俺達はすぐに栄長と会った為、着替える時間が無かった。なので、過去改変の際に着替えたままの姿だったのだ。即ち、俺が湖晴の白衣を着ていると言う訳だ。そして、今湖晴は俺の制服を着て買い物に行っているはずだ。
暫く間が空いた後、飴山が俺の質問に答えて行く。
「部活で使う楽器を忘れまして・・・それで取りに帰っていたんです」
「そんなデカいケースに入ってるのに?」
玄関にでも置いておいたら目立つから、忘れる事なんて無いだろうに。意外とおっちょこちょいなのかもしれないな。
「最近、知らない人に付き纏われている感じがしているので、今朝は少し早めに出ようと思っていたんですけど、寝坊しちゃって・・・・・。それで、急いでいたらこんな事に・・・・・」
「『知らない人に付き纏われている』?ストーカーか?」
最近はニュースであまり聞かなくなったが、以前よりも治安が良くなって来た現代日本でもそんな事があるのか。
女の子のそんな悩みは男の俺からすると全く分からないが、やはり誰かに付き纏われると言うのは良い気分ではないだろう。ストーカーなら尚更だ。
「俺で良ければ、何かあったら言ってくれ。何か力になれるかもしれない」
「え?あ、ありがとうございます」
少し驚いた様子で礼を言って来る飴山。俺なんかがそんな事言っても頼りないか。それもそうか。
「それで、何でこんな時間にわざわざ楽器を取りに帰ってるんだ?学校のとかを借りれば済むだろうに」
「一応、それも出来たんでけど、野依先輩が『家が遠くても取ってこーい!』って言ってましたので・・・・・」
「忘れ物をすると大変だな・・・・・」
音穏の奴、何か目的とかプライドがあるのかは分からないが、コンサート(?)が近いんだったらそんな事きにするなよ・・・・・。いや、近いからこそ気にするのか?
「そうだ。もしかして、家遠いのか?」
「はい。同じ学校で知っている人達と比べても多分1番遠いと思います」
「そこの駅の近くか?」
確か、栄長の家が駅の少し奥だったはずだ。俺が知っている1番遠い通学経路はこれだけだが、もう少し遠いのかもしれない。
「いえ、駅3つ分先です」
「電車通学だったのか!?それで楽器取りに帰ってたのか!?」
「え?はい、一応・・・・・」
音穏よ・・・・・。そんなに遠くに住んでいる後輩くらいにはその謎のプライドを押さえ込んで楽器を貸してやれよ。確かに忘れ物はした方が悪いが、電車通学の人になって来ると金銭的な問題や時間が関係して来るからな。いや、定期を買っていれば金銭的な問題は無いか。
そこまで考えた俺は念の為、飴山に本来の目的を忘れていないかを聞く。
「と言うか、それなら尚更大丈夫なのか?」
「?何がですか?」
「いや、こんな所で俺と話していると更に遅れて、音穏に怒られるんじゃないのか?」
「あ!そうでした!それでは、失礼します!」
そうして飴山は学校の方向へと向かって走って行った。俺のせいで遅れてまた音穏に怒られなければ良いが、まあ、こんな事は俺が心配してもどうしようもない問題だろう。
そんな飴山の走っている後姿を見ていると、クラブをすると言う事は大変だなと思ってしまう。多くの人達と接しなければならないし、毎日毎日忙しいし、睡眠時間が大幅に削られるし。
やはり、何事も無理をしない事が重要だ。平凡・普通・平均が全ての原点であり、終着点なんだ。そんな平凡・普通・平均を理想とする俺の様な平凡主義者がもっと世の中に普及すれば良いのだが、そんな世界は無い。過去改変してみたら出来そうだが、それはやはり不味いだろう。
飴山を見送った後、俺はついさっき珠洲と杉野目が会話していた場所を再び見た。
しかし、そこには2人は既にいなかった。もしあの2人が知り合いだったとしても、流石に道端で立ち話は長くはしたくないだろうしな。
と言うか、よくよく考えてみれば、何で珠洲がこんな時間帯にこんな所にいるんだ?今の時間帯はまだクラブ活動中のはずだが。
珠洲は中学3年生で今年は受験生だが、本人曰く、目標高校と比べて自分の偏差値が13超えているらしく、『受験楽勝組』とやらの一員になっているみたいでこの時期になってもクラブ活動を許可されていると言っていた。
事実、この間の日曜日も試合に来て欲しいと誘われたしな。結局の所、俺は音穏達によって連れ去られたのでそれは叶わなかった訳だが。次こそは見に行ってやろう。
その後、俺はつい数分前と同じ様にグラヴィティ公園内を歩き始める。
それにしても、今日は疲れたな。1年前の『過去』で過ごした時間がそれなりに長かったからかもしれないが、1日がとんでもなく長く感じた。学校での昼寝の時間が極端に短かったせいもあるとは思うが。
そう言えば、1日の時間が短く感じる人と言うのは『脳を使っていない人』の事らしい。人と言うのは新しい事に出会うと脳に刺激が与えられて時間が長く感じ、いつもと同じ様な日々ならば脳に刺激が与えられないので短く感じる、と言う事らしい。何処かの偉い学者さんがテレビでそう言っていた気がする。
つまり、今日の俺は普段の俺よりも新たな事に沢山出会い、脳をかなり使ったと言う事になる。そう考えると、こうして湖晴の過去改変作業を手伝うと言うのも悪くない気がする。いや、別に元々嫌でしている訳ではないが。
俺が今日自分がした事について少しばかりの喜びを感じていると、目の前から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「よォ。久し振りだなァ。元気にしてたかァ?」
ただし、俺個人の意見だけ述べるとその人物には2度と会いたくなかった。別に悪い奴ではないのは知っているが、何となく好きになれない人物だ。
その人物とは、つい先程俺が過去改変をした栄長の1歳年上の幼馴染みの蒲生黒矛だった。




