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Time:Eater  作者: タングステン
第四話 『Sn』
67/223

第01部

【2022年06月06日08時03分20秒】


~?????視点~


 ごく自然な平日の出来事。


「おにぃちゃーん!いってらっしゃーい!」

「ああ、行って来る。珠洲も遅れないようにな」

「うん!」


 ワタシはいつもの様に、学校に行くおにぃちゃんを笑顔で手を振りながら送り出す。


「珠洲ちゃーん。行って来るねー」

「茶髪リボンは勝手にしてろ」


 そして、いつもの様におにぃちゃんの側にくっ付く茶髪リボン。そんなにおにぃちゃんにくっ付くな。今すぐ離れろ。ワタシのおにぃちゃんが汚れるだろ。


 ワタシはおにぃちゃんの事が大好きだ。おにぃちゃんの事なら何でも知っているし、その内の全てが平等に好きだ。世間一般で評価される、おにぃちゃんの良い所・悪い所全部好きだ。


 でも、そんなワタシから、いつもこんな感じにあの茶髪リボンはおにぃちゃんの事を横取りして来る。学校に行く時も、学校でも、それ以外でも。


 茶髪リボンなんて消えれば良いのに。あいつがいるとワタシとおにぃちゃんの理想の未来が築き難くなる。


 ただ単純に家が近いから、おにぃちゃんと同年齢だから、おにぃちゃんと同じ学校に通っているからと言う理由であいつは昔からワタシ達に付き纏う。面倒な奴だ。いや、面倒な害虫だ。


 何時かは駆除してやるとは思いつつも、やはり本当に存在を消してしまうのは日本の法律上不味い。私が警察に捕まって、おにぃちゃんとの未来が築けなくなる。流石にそれは困るので、今までそんな事をした事は無い。


 でも、そこまでは行かない程度には別の方法も考えて今までも幾つか実行して来たけど、どれも茶髪リボンは簡単に交わして来た。


 数種類の脅迫メールを送って茶髪リボンの精神状態を不安定にさせようとしても、どうやらおにぃちゃんに相談したらしく解決。


 郵便物の中にそっと血塗れの人形の写真が入っている封筒を忍ばせておいても、その写真が入っている事に気付かなかったらしく効果無し。


 公衆電話から無言電話を1日に20回も掛けても、丁度外出中だったらしく繋がらない。


 運が良いんだか、悪いんだか。それにしてもここまでワタシの嫌がらせを交わしてくるなんて。何処まで嫌な奴なんだろうか。


 そんな事を考えつつ、ワタシはおにぃちゃんを送り出した後家に戻って、今度は自分が学校に行く用意をする。


 ワタシはおにぃちゃんの前ではあんな感じだけど、世間一般では優等生に分類されるのだ。それくらい自覚しているし、もちろん狙ってその域まで達した。だから、学校に遅れる訳にはいかない。


 その途中。ワタシはリビングでテーブルに『ある物』が置き去りにされていたのを見つけた。


「あ・・・お弁当・・・・・」


 それは毎朝ワタシがおにぃちゃんに作ってあげているお弁当だった。


 ワタシが毎朝おにぃちゃんにお弁当を作ってあげているのは、ワタシがおにぃちゃんのお嫁さんになる為の予行練習の一貫だ。だから、表向きは『仕方なく作ってあげてる感』を出しているけど、本当はワタシが作りたくて作っているのだ。


 それにしてもおにぃちゃんってば、今朝は茶髪リボンが迎えに来るのが少し早くて急いでたからバッグに入れ忘れたのかな?


 そして、ワタシはその置き去りにされたお弁当を持って玄関を出て、おにぃちゃんを追い駆ける。さっきおにぃちゃんを送り出してからまだ大して時間は経っていないから、走って行けば全然間に合うと思う。


 1分程度走った後、おにぃちゃんの後ろ姿が見えて来た。そして、ワタシはおにぃちゃんに声を掛ける。


「おにぃーちゃ・・・ん・・・・・?」


 ワタシはありえるはずの無い、その光景に遭遇してしまった。


「・・・・・これは・・・」


 ・・・・・これは、何?ワタシが今見ているこの光景は幻?それともこれは夢?何でおにぃちゃんは茶髪リボンなんかと『抱き付いている』の?


「す、珠洲!?何でここに!?ち、違う!これは、音穏がこけそうになっていたから、それで・・・・・!」


 おにぃちゃんが何かを言っている。でも、そんな事どうでも良い。茶髪リボンめ、今度こそは許さない。よくもワタシの許可無しにおにぃちゃんと抱き付きやがったな。2度と人前を歩けない様な姿にしてやる。


 ワタシは既に茶髪リボンと抱き付いた状態から分離しているおにぃちゃんの元に歩き、忘れ物のお弁当を渡す。


「す、珠洲・・・・・?」

「おにぃちゃん。お弁当忘れてたよ?」

「え?あ、ああ。悪いな。今朝は急いでいたから・・・」

「それとおにぃちゃん」

「ん?」

「2,3分ここで待っててくれる?まだ学校には間に合うでしょ?」

「ま、間に合うとは思うが・・・って珠洲!?どうした!?」


 ワタシはおにぃちゃんの台詞を聞き届ける前に走り出した。先月開かれた全校生徒短距離走学年第2位のワタシからすれば、2,3分あればここから家に戻ってアレを取りに帰り、また帰って来る事くらいは容易い。


 ワタシは、朝っぱらから何故か猛ダッシュしているワタシの事を不思議そうな目で見る通行人の事など気にも留めず、全力で家にアレを取りに戻る。


 家に戻って来たワタシはすぐさま台所へと向かい、アレ、すなわち『料理包丁』を手に取って再びおにぃちゃんと茶髪リボンの元へと向かう。


 茶髪リボンめ、覚悟してろよ。どう痛め付けてやろうか。取り合えず、死なない程度に殺す。つまりは半殺しにしてやる。


 普段は多めに見て来たけど、今回はもう我慢の限界だ。絶対に許さない。殺しはしないけど、少なくとも誰とも結婚出来ない程度には痛め付けてやる。


 そして、全速力で走って来たワタシは、ワタシの言葉通りにさっきの場所で待っているおにぃちゃんと茶髪リボンを発見した。


「死ね死ね死ね死ね死ね・・・・・」

「・・・・・ん?何の音・・・って、うわぁ!何持って来てるんだよ、珠洲!取り合えず、逃げるぞ音穏!」

「え?じ、次元!?」


 料理包丁を持って走って来るワタシの姿を発見したおにぃちゃんは茶髪リボンの『手を握って』逃げ始めた。


 何で『手を握って』逃げる必要があるの?おにぃちゃん。そんなの放っておけば良いのに。ワタシは別におにぃちゃんの事を傷付けたりはしないし、そもそも今ワタシが狙っているのは茶髪リボンの方なんだよ?なのに何で?


「音穏は先に学校に行ってろ!俺は珠洲に事の経緯を話してから行く!」

「分かった!次元も気を付けて!」


 2人は何かを相談したのか、2手に分かれた。おにぃちゃんは道を曲がって、学校とは別の方向へ。茶髪リボンは公園に入って行き、学校の方向へ。


 ここから茶髪リボンを追い掛けて痛め付けるのは簡単だと思うけど、それだと根本的な解決にはならないかもしれない。おにぃちゃんは誰にでも優しいから、茶髪リボンが怪我をしたらそっちに傾く可能性もある。


 つまり、今ワタシが追い駆けるべき相手はおにぃちゃんだ。おにぃちゃんに『2度と茶髪リボンと関わらないように』と言って約束させよう。そうすれば、ワタシが無駄な罪を被らなくて済むし、邪魔者も排除出来る。


 まさに一石二鳥。これで万事解決だね!おにぃちゃん!


 ワタシは茶髪リボンと分かれたおにぃちゃんを追い駆けて走る。おにぃちゃんはどうやら人通りの多い、大通りに向かおうとしているらしい。


 人通りの多い所に行かれると、刃物を持ち歩いているだけで警官とかに職務質問されたりするので困る。前も、射撃部の帰りにうっかり拳銃を出してしまった時に来ちゃったし。


 それはそうと、別にワタシが今持っている料理包丁はおにぃちゃんに向ける為の物ではないんだけど、まあ、さっき思い付いた約束を無理矢理にでもさせる為の材料としては優秀かもしれない。いわゆる、脅迫材料的な?


 すると、走りながら後ろのワタシに少しだけ首を向け、おにぃちゃんがワタシに話し掛けて来る。


「珠洲!さっきの状況の説明はするから、その包丁仕舞えって!」


 出来る事ならばそうしたいけど、どうせ優しいおにぃちゃんの事だ。これくらいしてないと、茶髪リボンとの関係を絶とうなんて思いもしないだろう。


「おにぃちゃんが悪いんだ!おにぃちゃんが茶髪リボンなんかとくっ付くから!」


 ワタシはそんな台詞を言った。


「だから違うって!」


 走りながら後ろを向いておにぃちゃんがワタシに弁解する。


 そろそろ大通りに入る頃か。気を付けてさえいれば問題無いけど、ここは車の通りがそこそこ多いから少し危険だ。まあ、少しだけその辺に気を配っていれば全然問題無い。


 そして、おにぃちゃんがワタシの方を向いて大通りに入った、次の瞬間。


 プーーーーーッ!


 ドンッ!


「え・・・・・?」


 何?今の音は。それにさっきまでワタシの目の前10数m先にいたおにぃちゃんは何処?


 ワタシは今のこの状況を確認する為、ゆっくりと歩いて大通りの歩道に入り様子を確認する。そして、ワタシが左斜め先を向いた時その惨状はあった。


 大型トラックがスリップしたのか、車道から大きく逸れて停車している。他の車も同様に全て停車していた。しかも、そのトラックの正面部分は真っ赤に染まっていた。


 正確にはそのトラックの目の前全てが真っ赤。これでもかと言うくらいに真っ赤な液体がそこにはぶちまけられていた。それは、長時間見ていると吐き気を催しそうな光景だった。


「あれ・・・・・?」


 その時、ワタシはある事に気が付いた。その大量の真っ赤な液体の中心に『人の様な大きさ形の何か』が沈んでいる。あれは、何?


 その何かを確認したすぐ後、全身から力が抜けるのを感じた。そして、右手に持っていた料理包丁がカランと地面に落ちる。


「嘘・・・・・」


 その物体は紛れも無く『おにぃちゃん』その者だった。ついさっきまでワタシから走って逃げていたはずのおにぃちゃんその者だった。ワタシが大好きなおにぃちゃんその者だった。


 だけど、おにぃちゃんは既に力無くぐったりと横たわっている。


「何で・・・・・?嘘・・・こんな事って・・・・・!」


 ワタシが必要以上におにぃちゃんを追い駆けたから?だから、おにぃちゃんは大通りに入り掛けている事に気が付かなかった?だから、トラックに撥ねられた?だから、死んだ?


「嘘だ・・・・・」


 つまり、これって、ワタシの、せい?


 ワタシがおにぃちゃんを殺した?世界で1番大好きなおにぃちゃんを?こんなつもりじゃなかったのに、こんなはずじゃなかったのに・・・・・。


「嘘だぁぁぁぁぁ!!!!!」


 ワタシはその場にへたり込み、大声で泣き叫んだ。喉が枯れそうになるまで叫び続けた。溢れ出る自分への怒りの感情を押さえ付ける為に、力の限り自分の頭を抱えた。


 おにぃちゃんは死んだ。ワタシのせいで死んだ。もう帰って来ない。もうこの世界におにぃちゃんはいない。つまり、ワタシがこんな世界で生きている意味なんてもう無くなった。ワタシの生きがい、いや、ワタシの全てはおにぃちゃんだったから。


 幼い頃に急に上垣外家に引き取られたワタシに優しく接してくれたおにぃちゃんは死んだ。何時でも何処でも優しいおにぃちゃんは死んだ。妹のワタシの事を大事に思ってくれていたおにぃちゃんは死んだ。


 『ワタシのせいで死んだ』。


「そうだ・・・・・」


 頭の中でぐるぐると回るマイナスな思考の中でワタシは考えた。


「ワタシも死んだら、あの世でおにぃちゃんに会えるかも・・・・・」


 何の根拠も無いけど、ワタシはそんな事を思い付いた。ワタシは何時までも何処までもおにぃちゃんと一緒にいたいだけなのだ。方法なんて関係無い。

 

 そして、ワタシはついさっきまで自分が手に持っていた料理包丁を拾い、その先端を自分の首に突き付ける。


 ここで死ねば、おにぃちゃんにまた会える。そう信じて、私は自分の首をその料理包丁で掻っ切・・・、


「珠洲」


 その時だった。自分の首を料理包丁で掻っ切ろうとワタシの手を、背後の何者かが止めた。ワタシは涙で真っ赤に腫れた顔で後ろを振り返り、その何者かの正体を確認する。


「おにぃ・・・ちゃん・・・・・?」


 そこにはさっきトラックに撥ねられて死んだはずのおにぃちゃんが立っていた。私は驚きと嬉しさで頭が混乱した。


 数秒間考えた後、ワタシはこの光景に1つの結論を出した。


「何だ・・・幻覚か・・・・・」


 おにぃちゃんはさっきワタシの目の前で死んだ。血塗れになって死んだ。だから、これはワタシの深い深い愛情と言う名の願望が見せた幻覚なのだ。


 ワタシはその幻覚を振り払い、元の様に体を正面に向けてさっきの行動の続きをする。しかし、その行動の続きが行われる事は無かった。


「あれ?」


 ワタシは正面を向いた時、ある事に気が付いた。ついさっきおにぃちゃんが血塗れになって倒れていたはずの場所を見た時に気が付いた。


 『おにぃちゃんの姿が無い』。いや、それどころか、道路にぶちまけられていたはずの大量の血も全く無く、トラックがスリップした様な痕跡は無かった。そこは普段通りに自動車が走る大通りがあるだけだった。


「どう言う事・・・・・?」


 もしかして、さっきまでワタシが見ていた光景の方が幻覚?でも、さっきの音や目に映った光景は紛れも無く現実だったはず。だったら何で?


 すると、背後にいるおにぃちゃんが困惑し続けるワタシに話し掛ける。


「珠洲、心配掛けて悪かった。でも、あれは事故なんだ。音穏がこけそうになっていたからこけない様に支えたらあんな状態になっただけなんだ。だから、もう大丈夫だぞ?」

「え?う、うん・・・分かった・・・・・」


 おにぃちゃんは淡々とそんな台詞を言って来る。ワタシはそんなおにぃちゃんに頷く事しか出来なかった。


 そして、その台詞の後おにぃちゃんが元の様に学校に向かった後、取り残されたワタシはその場でへたり込んだまま10数分間過ごした。


 結局その日、ワタシは学校を休んだ。


~・~・~・~・~・


「ただいまー」

「あ、お帰り。おにぃちゃん」


 夕方。おにぃちゃんが学校から帰って来た。


「あれ?珠洲、今日は早いんだな。短縮授業か?」

「え?う、うん。そうだよ?」

「そうか」


 朝の『あの件』が頭から離れなくて学校を休んだなんておにぃちゃんには言わない。いや、言えない。もしかしたら、ワタシだけがみた何かの怪奇現象だったのかもしれないし。


 それにしても、おにぃちゃんはいつも通りだ。やはり、ワタシが朝見た光景は幻覚だったのだろうか。いや、でも、もしかすると・・・・・。


「す、珠洲?」

「?何?」

「朝の事怒ってないのか?」

「朝の事?」


 その言葉を聞き、ワタシは急に背筋が寒くなった。おにぃちゃんが血塗れになって倒れて死んでいる光景。それを思い出して、吐き気がした。


 でも、おにぃちゃんにその事を勘付かれてはいけない。だからワタシは、今朝の事は忘れた設定にしておにぃちゃんに返答する。


「何かあったっけ?忘れちゃった」

「そ、そうか。なら良いんだが・・・・・」

「どうしたの?変なおにぃちゃん」


 ワタシは笑顔でそんな事を言って誤魔化した。

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