第25部
【2022年08月19日15時26分34秒】
「な、何!?」
「何だァ?一体」
戦闘を行っていた栄長と蒲生の2人は、俺が突然起こした大声に大爆発を聞き取り、戦闘を中断して俺の方を向いていた。
「チッ。ったく、一般人がのこのことォ・・・・・取り合えず、少しそこでくたばってろォ!」
蒲生のダルそうな一言の後、俺の方に戦場(工事現場)に放置されていた鉄骨の幾つかが向かって来る。おそらく、マグネの能力を使って磁力で鉄骨を投げ付けて来たのだろう。俺が本当に無関係な人間だったらどうするつもりだ。
「ちょ・・・・・!あんた、何やって・・・・・!そこの人!逃げて!」
栄長が俺に注意を呼び掛ける。だが、ここまでの全てが俺の計算の範囲内だ。何も恐れる必要はない。
次の瞬間、俺はさっき湖晴に教えて貰った通りにタイム・イーターを操作した。
キュインッ!
「「!?」」
そんな甲高い音と共に、蒲生が投げ付けて来た鉄骨が空中で静止する。
まあ、これは種明かしをしてしまうと、単純にタイム・イーターの時間停止能力を一時的に蒲生の能力で解除された鉄骨に再び付与しただけの物だが、それを知らない2人にはそれ相応の光景に見えた事だろう。
「何者だァ?こいつはァ」
「これを見ろ!」
「!」
掴みも済んだ所で、俺は本来の目的である蒲生が探している資料を2人に見せ付けた。今の所、俺の正体はバレていないとは思うが、細心の注意を払って行動するとしよう。
「・・・・・!オマエ・・・何でそれを・・・・・!」
俺が見せ付けた資料を認識したのか、蒲生が俺の方に向かって来る。そして、その様子を見た栄長も俺の方に向かって来る。
俺の元へと走って来た蒲生は、バッっと俺からその資料を奪い取ってページを捲って内容を確認すると、俺に話し掛ける。
「オイ、オマエ。何でこれを持っている?」
そして、俺はさっき作った中二病キャラを演じ切りつつ、その質問に答える。
「フ・・・・・私はただ、2人の争いを止める為だけにわざわざその資料を探して来てやっただけだ」
「何ィ?オマエ何で俺達がこれを探しているって・・・」
「その前に、あなたは何者なの?」
「私か?」
栄長もまだ俺の正体には気付いていない様なので、取り合えず、話は上手く進んでいると思われる。当初の予定よりも荒っぽい事をしなくても済みそうだ。
「私は狂気のマッドサイエンティスト、時空皇零だ!」
「「・・・・・」」
俺がいつもの決めポーズで偽名を名乗ると、その場が静まり返った。
え?俺何か変な事言ったか?いや、変過ぎるなのは分かっているのだが、それでもちゃんと名乗るべきポイントで名乗ったのだから、流石に静まり返るのは止めてもらいたい所だ。俺が恥ずかしくなるだろ、全く。
すると、俺の覇気(笑)に気圧されたのか、蒲生がやや詰まった口調で俺に話し掛けて来る。
「ま、まぁ、オマエが何者かはおいておいて、何処でこれを手に入れたんだァ?」
「そんな事は今は特に大きな問題ではないだろう?さあ、君はその資料をあるべき所に戻して来るが良い」
「あ、あァ。そうだったなァ。悪かったな、殺しかけて」
俺は蒲生に、ようは『さっさと帰れ』と言った。まあ、それが本来の目的なのだが、ストレートに言うとまた殺されかねないので少し表現を柔らかくしてそう言った。
「・・・・・あれ?あなた、もしかして・・・・・」
「ん?」
その時、栄長は何かに気付いた様子で俺の方を見つめていた。まだ話は終わっていないのでもう少し後にしてもらいたい所だが・・・、
「次元君?」
「ファッ!?」
「次元君だよね?白衣着て、変なサングラス掛けてるけど」
何でまたバレた!?今は音穏の時とは違ってサングラスもしてると、偽名も名乗れたから、何も問題はなかったはずなのに!
「な、何を言っているのかね?私は上垣外次元などと言う人間ではない」
「別に今私、一言も『上垣外』次元なんて言ってないんだけど?」
「・・・・・」
やってしまった・・・・・。こんな場面で俺のいらない固有スキル『墓穴を掘る』が発動されてしまった。いや、別にゲームの中とかではないのでそんな物は実在しないが、俺にはよくある事なのでそう表現してみただけだ。
と言うか、何か妙にまんまと栄長の策略に嵌ってしまった感があるな。自然な会話の流れにそんなトラップを仕掛けて来ていたとは。
いや、今はそんな事はどうでも良かったんだった。俺の素性がバレてしまった以上、ここからは作戦をやや変更して話を進める必要があるかもしれない。
「ってェ!オマエが上垣外次元なのかァ?だったら、この資料奪って行ったのもテメエじゃねえかァ!」
「ま、待て!早まるな!それには色々と事情があってだな・・・」
元々俺の事を(正確には1年前の俺を)探していた蒲生は、俺の正体が上垣外次元である事を知った瞬間、胸倉を掴む勢いで俺の方に向かって来た。
しかし、次の瞬間。俺達の周りに響いた爆発音でそれらの行動は全て停止した。
ボンッ!
「「「!?」」」
「皆さん。争いはいけませんよ?」
そこには、ついさっきまで安全の為に隠れていた湖晴の姿が。栄長と蒲生が戦闘していないのを確認して来てみたのだろうか。
と言うか、ちょっと待て。そうすると、まさか、さっきの爆発音は湖晴の仕業か?普段から白衣のポケットに爆発物を持ち歩いている湖晴の事だからそのくらいは容易いとは思うが、だとしても流石に危な過ぎるだろう。もし誰かに当たったらどうするつもりなんだ。
「湖晴・・・・・」
「今度は何なんだよォ・・・」
俺は安堵の溜め息、蒲生は困惑の一言、栄長は無言で湖晴の事を迎えた。
そして、湖晴は爆発物を使用した事に一言も触れる事無く、平然とさっきの蒲生の台詞に対する回答を淡々と述べて行く。
「私達がその資料を盗んだ訳ではありません」
「だったらこれは・・・」
「つい先程、それを所持していると疑わしい人物を捕まえた後、様々な方法でその資料のありかを聞き出したんです」
『疑わしい人物=1年前の上垣外次元』だとして、『様々な方法』って何だよ。俺は自分が聞きに行ったから普通に話し合いをしただけと言う事を知っているが、初めてその台詞を聞いたら絶対に勘違いするぞ。拷問や脅迫をしたのかと思われるぞ。
「チッ。まあ、そう言う事にしておいてやるよォ。だったら、1つ疑問が残るじゃねぇかよォ」
「何でしょうか?」
「オマエラは何で、俺がこの資料を探していると分かったんだァ?」
「それは・・・」
取り合えずは納得してくれたらしい。だが、蒲生は残った疑問を湖晴に投げ掛けた。
確かに、俺が蒲生の立場ならその事は絶対に聞いておきたい所だろう。急に出て来た奴が何でそんな事を知っているのか、気になって仕方がないと思う。
だが、ここで正直に答えるべきだろうか?俺達は『現在』から1年前の『過去』に来た。だから、2人がどうしてこうなったのかを『現在』の本人達に聞いたから知っている。だが、それを言った所で余計にややこしくなるだけだ。
ここで何も言い訳を思い付かなかった俺はあえて黙っておいた。おそらく、これが適切な判断だろう。俺よりも頭がキレる湖晴の方がそう言う事を考えるのは得意だろうからな。
「それは、私が超能力者だからです」
「「「!?」」」
湖晴は普通にとんでもない大嘘を言い始めた。
「私の予知能力の導きによってあなた方お2人の争いを止めるべく、その資料を探して来たまでです。それでよろしいでしょうか?」
いやいやいや、そんなの全然よろしくない訳だが、俺には想像も付かない様な秘策で蒲生の事を騙して話を強引に収集するつもりなのだろう。
そして、案の定、蒲生が湖晴に再び質問を投げ掛ける。
「証拠はァ?」
「貴方のお名前は蒲生黒矛さん。そして、そちらの女性の方が栄長燐さん。お2人は幼馴染みであり、今回は今蒲生さんが手に持っている資料が原因で争っていた。こんな感じでよろしいでしょうか」
「マジかよォ・・・・・」
成る程、そう言う方法で蒲生に自分が超能力者であると言う偽りの事実を信じさせると言う事か。
確かに、俺達は『現在』から来たので2人の素性を知っているが、蒲生は俺達がその事を知っていると言う事を知らない。だから、この場合だと普通に信じてしまう事だろう。
「・・・・・超能力者かァ・・・・・。まあ、こんな訳分かんねー世界だァ。何人かはいるかもなァ」
「それはそうと、よろしいのですか?」
「何がだァ?」
「急ぎの用があったのではなかったのですか?その資料を組織に戻すと言う」
「!そうだったァ!詳しい話は今度会った時にしてもらう!」
湖晴に指摘されると、蒲生はかなり慌てた様子でこの場から去って行こうとした。
と言うか『今度会った時』って、また会うつもりかよ。もう嫌だぞ、俺は。疲れる様な事はなるべくしたくないんだ。
「あ、最後にもう1つ」
「何でしょうか」
「オマエラの名前を聞いておいてやる。今度会った時には多分忘れているだろうがなァ」
それなら聞く意味あるのだろうか?何度も言うが、出来る事ならば俺はもう蒲生とは会いたくない所なのだが。疲れるし。
「私は照沼湖晴です。そして、こちらの方が上垣外次元さんです」
「照沼と上垣外ねぇ・・・・・よし、多分覚えたぜェ。(それにしても『上垣外』だっけかァ?何処かで聞いた事があるようなァ。まあ、良いかァ)」
湖晴が俺達の名前を名乗り、蒲生はそれを聞き届けた。そして、何か1人言を言ったらしい蒲生だったが、俺達にはよく聞き取れなかった。
「リン!今回の事は忘れといてくれやァ」
「絶・対・無・理」
「じゃあ、そう言う事でなァ」
そうして、例の資料を持った蒲生は栄長に冷たく当たられながらも、その科学結社の拠点(?)に向って行ったのか走って行った。
「・・・・・で?何で次元君がここに?」
だが、まだ俺の仕事は終わってはいなかった。栄長にもこうなった経緯を全て話さなければならなかったのである。
「まあ、色々とあってな・・・」
「色々って?」
うーん、やはり栄長は『色々』などと言う曖昧な返答では納得しないか。
特に考えが思い付かない俺は湖晴を呼んで、栄長に背を向ける形で相談を始めた。
「湖晴。どうする?」
「おそらく燐さんは私が本当は超能力者ではないと言う事にも気付いているでしょう」
「だよな。あの態度を見ると」
相談の為に栄長に背を向けていた俺達は少しだけ後ろを振り返り、待っている栄長の様子を見た。
「ねー、何こそこそ話してるの?」
こちらの様子を確認しようと栄長が声を掛けて来たのが分かった。
確かに目の前でこそこそとされるのは嫌だと思うが俺はなるべく正解の選択肢を選んで行きたい。もし、何処かでミスって過去改変に失敗でもしたらここまでの努力が全て水の泡になって勿体無いしな。
「ここはもう本当の事をお話した方が良いかもしれません。それに、燐さんには念の為、一応入院してもらわなければなりませんし、その方が話が早いでしょう」
「ん?ちょっと、待て。何で栄長がもう1回入院する必要があるんだ?」
栄長に本当の事情を話すと言う1大イベントはさておき、俺は『栄長がもう1回入院しなければならない』と言う湖晴の台詞が気になった。
俺達がわざわざ1年前の『過去』に来た理由。それは栄長と蒲生の戦闘をその結末が訪れる前に中止させる事。
そうする事で、この戦闘が原因で組織の仲間から嫌われた栄長を救おうとする蒲生の無茶な行動をキャンセルし、学校の屋上やその周辺であった戦闘を無かった事にする。
だが、そんな計画も、結局栄長が入院してしまっては意味が無いのではないだろうか。そんな事を考え、俺は湖晴にそんな事を聞いた。
そして、湖晴は俺の質問に答える。
「少しでも過去改変の影響を確実に且つ、最小限にする為です」
「だがそれだと、結局栄長は組織の人間から嫌われて、蒲生がそんな栄長の境遇を壊しに行こうとするんじゃないのか?」
「それはないでしょう」
「何でだ?」
「その事とこの事では入院の理由が違いますし、それに、燐さんなら何か良い言い訳を考えてくれる事でしょう」
「栄長」
「う、うん?」
その後、俺と湖晴は栄長に、1年前の栄長にとっては『未来』で俺達にとったら『現在』の昼休みにあった出来事を全て話した。何故、栄長と蒲生が戦わなくてはならなかったのか。何故、そんな事になってしまったのか。何故、被害が酷くなってしまったのか。その全てを。
最初は半信半疑の様子だった栄長だったが、俺と湖晴が嘘を付いていないと言う事を確信したのか、少しずつだが信じてもらえた。
流石、普段から科学結社なんて言う非日常的な場所で働いているだけはある。理解が早くて助かる。俺が初めて湖晴から時空転移の事を聞いた時と比べて、その時の3分の1くらいの時間で事の全容を話す事が出来た。
だが、俺達の過去改変作業はまだ終わっていない。俺にはまだやり残した事があるのだ。




