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Time:Eater  作者: タングステン
第三話 『P』
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第24部

【2022年08月19日15時16分55秒】


 俺は不意に出遭ってしまった1年前の音穏から逃げ出し、湖晴の手を引っ張って走った。一応、途中からは湖晴の持つタイム・イーターのマップ表示機能を利用して、湖晴の指示通りに栄長と蒲生が戦闘したと言う場所へと向かって走った。


 その後、俺と湖晴はその栄長と蒲生が戦闘したと言う、街外れの未開発地域に到着した。そして、今日は工事の業者は休みなのか、大量の鉄骨等の工事の機材が放置されていたままになっていたり、大型トラック等の工事に使用する車も放置されたままだった。


「次元さん・・・・・どうしたんですか、一体・・・・・」

「いや、あのまま1年前の音穏と会話をし続けていたら、時間がどれだけあっても足りなさそうだったからな」


 俺が突然湖晴の手を引っ張って走り出したからか、湖晴はやや息を切らしながら俺にそんな事を聞いて来た。流石に長距離を走って来たからか、どうやらあの湖晴でも疲れているらしい。


 まあ、この事は正直悪かったと思ってはいる。だが、今さっき言った通り、あのまま1年前の音穏と話し続けていてもらちがあかない。むしろ、きっぱりと損得で言って仕舞えば100%『損』に分類されるであろう。主に、俺の体力と時間的に。だから、俺はあの場面を『突然逃げ出す』と言う方法で解決したのだった。


 急に逃げ出した事については、1年前の音穏には悪いがな。と言うか、結局俺は何回『悪かったと思っている』的な台詞を言っているのだろうか。そもそも俺が謝らないといけない事か?この2つの事は。


 それはそうと、途中まで俺達の事を追って来ていた音穏だったが、俺が狭くて複雑な路地を選んで抜けて行くとどうやら見失ったらしく、現在は近くにはいない。と言うか、今俺と湖晴がいるここは街外れの未開発地域であり、こんな所に逃げるなんて思ってもいないはずだしな。


「・・・・・少し休憩しましょう・・・・・」

「おう、そうだな。俺も疲れ・・・・・!」


 やはりかなり疲れていたらしい湖晴が近くにあった鉄骨らしき物に座り込む。そして、季節的な問題と今の急な運動が作用して汗を掻いたのだろうか。湖晴が制服シャツのボタンを2個程外し、制服シャツの胸元をバタバタと扇いで服の中へと空気を送り込む。


 そして、汗でやや濡れている湖晴の胸の谷間が外に晒され、湖晴が胸元をバタバタとして扇いでいる為、その豊満な胸が見え隠れしている。


「こ・・・こは・・・・・」

「・・・・・?どうかされましたか?」


 俺がその普段は見る事は出来ない様な光景に愕然としていると、湖晴はキョトンとした表情で小首を傾げて聞いて来る。


 いや、さっきの大通りの時とは違って周囲には俺達以外に人がいないとは言え、これは流石に無防備過ぎるぞ。もし、俺が野獣か何かだったらどうするつもりなんだ。まあ、今は俺以外の誰も、湖晴のこの芸術的な光景を見る事は出来ないので特に追求はしないでおいておくが。


「次元さん?」

「はい!?」


 唐突に湖晴が声を掛けて来る。あー、びっくりした。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。大丈夫だ。走ったから多少は疲れたが、俺は至って健康体だ、そして健全だ」

「?」


 大丈夫。俺は何も疾しい事は考えていない。俺は何も疾しい事はしようとはしていない。俺は健全な男子高校生、そして平凡主義者だ。何事も平均・普通・平等である事を理想とする人種だ。そんな俺に雑念など不要!


 ・・・・・不味いな。現在の湖晴の行動のせいで、さっきから湖晴の事が気になって仕方無い。主に、その大きな胸が。意識してしまうとこんなにも変わるものなのか。俺の中の野獣よ静まれ!そして、働け理性!・・・・・よし。収まったか。


 だが、この状態も長くは続かないだろう。俺の中の野獣が目覚める前に今の内に話題を変える事にしよう。と言うか、よく考えてみると、これって本題からかなり逸れてしまっているのではないだろうか。どうしてこうなった。


 話を本題に戻そう。


「それはそうと」

「はい」

「思いっきり戦闘始まってるよな・・・・・」

「そうですね」


 ここまでで1度も描写がされていないのでお分かり頂けていなかったとは思うが、実は今俺達は鉄骨やトラックの物陰で身を潜めつつ、栄長と蒲生の戦闘を観戦していた。まあ、何となくは予想出来ていた事だが、まさか、本当に始まっているとはな。


 栄長と蒲生はこの未開発地域に大量に放置されている鉄骨等の重量系な機材を利用して戦闘を行っていた。


 栄長はテレポーターで蒲生に向けて機材を瞬間移動させる、それを蒲生が磁力で防御する。また、その逆のパターンで、蒲生が磁石の反発力で鉄骨を栄長に投げ付ける、それを栄長が何処か遠くの方に瞬間移動させる。ただ、その2つと他幾つかの別の行動の繰り返しだけだった。


 この光景だけ見ているとどうやって勝負にけりが付いたのかが全く分からない訳だが、タイムトラベルする前に栄長達に聞いた情報だと、蒲生の持っているマグネが暴走したせいで栄長が勝ったらしい。


 でも、それってつまり、マグネが暴走していなければ戦闘はまだ続いていたって事になるんだよな。・・・・・まあ、俺にはそう言う系な話は理解出来ないし、考える必要も無いか。


「それで、どうするよ」

「まずはあのお2人にどの様に説明して、どの様に資料を渡すかを考えた方が良いかもしれませんね。出来る限り早急に、安全に」


 そうなのだ。俺達はさっきから暫くその2人が戦闘している光景を物陰から見ている訳だが、この戦闘が何分前から始まったのかは分からない。もしかすると、5分前に始まっただけかもしれないし、既に1時間以上が経過しているのかもしれない。その正確な時間なんて分からない。


 だから、出来る限り早く資料を渡しに行かなければならない。別に普通に渡しに行けば問題無いとか思われるかもしれないが、そうはいかない。


 その理由は2つある。


 まず1つ目。もし俺が例の資料を普通に歩いて蒲生に渡しに(返しに)行ったとする。これで全てが解決しそうだがそうはいかない。何故ならば、蒲生は『資料を奪ったと思われる俺の事』を探しているのだ。


 つまり、俺が渡しに行った所で事が収まる可能性も無くは無いが、その後に俺に蒲生からの何らかの制裁が下される事になるかもしれない。栄長はもしかするとそんな俺の事を助けてくれるかもしれないが、そもそも2人の戦う理由を作ってしまったのは、記憶に覚えが無くても紛れも無くこの俺なのだ。そう簡単に許してもらえる訳がない。


 と言う事は、湖晴が行けば良さそうなものだが、それは絶対に駄目だ。湖晴はタイム・イーターを持っているし、それなりに知識があるので、問題無さそうだが、2つ目の理由が俺にそれを許さなかった。


 次に2つ目の理由だ。よく考えてみてもらいたい。栄長と蒲生は軍事兵器並みの威力を持つ武器を使用して、工事用の機材やトラック等を瞬間移動させたり、投げ付けたりして戦闘している。


 そんな所に入ろうなんて、誰が考えるだろうか。誰も考えないだろう。どう考えても危険過ぎる。さっきから俺が湖晴と会話している間も何回か鉄骨とかが飛んで来ていたしな。だから、こんな危ない所に湖晴と言う女の子を向かわせる訳にはいかない。


 結論を述べると、『俺が俺である事を隠しつつ資料を蒲生の元に届ける』と言う事が最善の策であると言えるだろう。他には特に思い付かなかった。


 俺が行けば良いんだ。どうせ、いつもの如く俺が行った方が過去改変の影響が良い方向に進むだろうしな。その理由は分からないが、湖晴がそう言っていた以上それは事実だろう。


 だから、俺は湖晴に自分の中でまとめた結論を述べる。


「俺が行って来る」

「え?」


 俺がそう言うと、湖晴は驚いた表情をした。


「俺が行けば、過去改変の影響が良い方向に進み易いんだろ?」

「それはそうですけど・・・・・」


 何か、歯切れが悪いな。さっさと済ませた方が良いって事は湖晴だって分かっているはずなのに。しかし、湖晴は俺にとって予想外の返答をした。


「・・・・・それは駄目ですよ」

「何でだ?」


 何故、ここまで来てそんな事を言うのか。俺には分からなかった。


「私は次元さんよりもこう言う事に知識があります。それに、タイム・イーターもあります。だから・・・」

「別にタイム・イーターは湖晴がある程度の使い方を教えてくれば、俺が持って行っても問題ないだろ?」

「でも、次元さんに万が一の事があったら・・・・・!」

「湖晴・・・・・」


 そうか。湖晴はこんな俺の事を心配してくれていたのか。例えそれが、俺の事をタイムトラベラーにした張本人であるからと言う理由で心配していたとしても、俺は素直に嬉しかった。


 だが、俺が言いたいのは違うぞ、湖晴。別に俺は湖晴に心配して欲しい訳でも、過去改変の影響を確実にしたい訳でもない。ただ・・・、


「俺だって同じなんだ。俺は湖晴には絶対に傷付いて欲しくない」


 俺の思いはそれだけだ。その事だけだ。俺はどうなっても構わない。いや、流石に死にたくはないが、湖晴に怪我を負わせるくらいならそうなる方がましだ。


 念の為言っておくが、俺は別に湖晴の事がそう言う意味で好きな訳ではない、はずだ。だが、俺の本能的な何かが湖晴を守れと言っている様な気がしたのだ。


「次元さん・・・・・」

「それに、ここまで来ておいしい所だけ持っていかれるのは嫌だしな」


 俺は冗談交じりに笑顔で湖晴にそう言った。


「ズルいですよ・・・次元さんは・・・・・」

「ん?何がだ?」

「分かりました。それではタイム・イーターの簡単な使い方だけはお教えします」

「おう。頼んだぞ」


 そして、俺は湖晴からタイム・イーターの簡単な説明を受けた。流石に、時空転移の仕方は万が一の事を考えて教えて貰わない様にした。もし、俺が時空転移を発動させてしまうと、湖晴が『過去』から『現在』に帰れなくなるからな。


 そして、俺はタイム・イーターとその他の機材を用意し終え、戦場へと向かおうとする。


 さっきの会話では湖晴は自分が行っても構わないと言っていたが、そんな事が許される訳が無い。いや、俺が許さない。その理由は今さっき述べた通りだ。それ以上でもそれ以下でもない。


「本当に大丈夫ですか?」

「任せろ。多分だが、大丈夫だ」


 湖晴が心配そうな顔をして聞いて来る。まあ、俺みたいな凡人が今からとんでもない事をしようとしているのだから、作戦も失敗する確率が高くなるだろう。湖晴が行った方が成功確率はおそらく高い。だから、その事を湖晴は心配しているのかもしれない。


 それ以外の要因で、俺の事を心配してくれているのなら嬉しい限りだが、そんな事は考えないようにしておく。今は目の前の目的を果たす事だけに意識を集中すれば良い。


「じゃあ、行って来る」

「・・・・・いってらっしゃい。次元さん」


 俺はさっきまでと同じ様に『サングラス+白衣』の姿でタイム・イーターを首から提げて戦場へと向かった。変装コスプレしておけば栄長達には流石にバレないだろう。音穏には感ずかれたが、あれは俺のミスが原因だ。つまりは、ノーカウントだ。


 俺が戦場に歩いて行っているのを、現在戦闘真っ最中の栄長と蒲生は気付いていない。だが、俺は戦場の中心と場外の間に立ち止まると、2人の戦闘を止めるべく、大声を発した。


「愚かな超能力者共よ!静まれ!」

「「!?」」


 厨二全開な俺の大声と共にタイム・イーターが作動して、俺達4人以外の時間が停止し、更に大声を発した俺の周りで大爆発が起きる。


 一応言っておくとこの大爆発は湖晴が常備しているらしい爆薬を適当に撒いて、タイム・イーターの時間短縮で反応速度を加速させて瞬間的に爆発させた物なので、本来の化学反応とは異なるので注意だ。


 と言うか、何で湖晴はそんな物を携帯しているんだよ。ガチで危ねえぞ、全く。『現在』に戻ったら一言だけ注意しておこう。


 それはともかく、当然起きた3つの事柄に戦闘中の2人はこちらの事を見ている。明らかに驚いており、これから何が起きようとしているのかが全く予想出来ていない様子だった。


 これでようやく、俺達の過去改変作業が本格開始だ。

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