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Time:Eater  作者: タングステン
第三話 『P』
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第23部

【2022年08月19日14時55分10秒】


「な・・・に・・・・・?」


 今、1年前の俺は何と言った?確かに今1年前の俺は『湖晴を助ける』と言った。だが、それは何故だ?何故1年前の俺は湖晴の事を知っている?


 1年前ならば、俺はまだ湖晴と出会っていないはず。『現在』の俺自身、湖晴にあったのはつい1週間前だしな。色々と印象に残るイベントは多々あったが、それでも俺は湖晴の事を知ってからまだ1週間しか経っていない。だから、1年前の俺が湖晴の事を知っているのは明らかにおかしいのだ。


 もしかして、音穏や阿燕の過去改変の時に何らかの影響で『過去の俺が前か湖晴の事を知っていた』世界になってしまったのだろうか?


 いや、それはないだろう。湖晴が俺のベッドに潜り込んで来ていたあの朝、その光景を発見してしまった珠洲は明らかに湖晴の事を警戒していた。しかも、『アンタ誰?』等の湖晴の人としての情報を聞き出そうとしていた。つまり、あの朝まで珠洲は湖晴の事を知らなかった。


 だから、この世界が『過去の俺が前か湖晴の事を知っていた』世界になった訳ではないはずだ。


 それに、知り合いが限りなく少ない俺ならば『知り合いが増えた』と言うだけの理由で、たとえ珠洲には言わなくても、音穏達にはその事を報告するはずだ。


 だが、俺の記憶上で湖晴と音穏が初めて会った時、音穏も珠洲同様に驚いていた。だから、あの朝まで音穏も湖晴の事を知らなかった。


 この2つの事柄から結論を述べると、『この世界には何も影響は出ていない。だが、何故か1年前の俺は湖晴の事を知っていた』と言う事になる。一体何でなんだ?


 俺は一通り脳内で推測を続けた。しかし、明確な答えは出ない。


 仕方なく、俺は1年前の俺に少しずつ今の台詞の本当の意味を聞く。もしかすると、俺が忘れているだけでタイムトラベラー天然天才白衣居候少女の『照沼湖晴』以外の何か別の『こはる』の事かもしれないしな。


「何でその子を助けたいんだ?」


 俺はそう聞いた。この辺から入るのが妥当だろう。


 でも、これって聞いてしまっても良かった事だったんだろうか?いやでも、もう聞いてしまった事だ。引き返せない。まあ、これは仕方無い事だろう。聞かずにはいられなかったのだから。


 それもそうだろう?何で1年前の俺が知るはずもない『湖晴の事』を知っているんだ?


 そして、『過去』の俺は小さく、低い声で一言だけ俺に答えた。


「・・・・・守りたかっただけだったのに・・・・・」

「え・・・・・?」

「俺はあの子の事を守りたかった・・・・・だけど、死んでしまった・・・・・だから・・・・・!」


 更に状況が分からなくなってしまった。


 1年前の俺は何故か湖晴の事を知っており、そして、湖晴の事を守りたかった?俺は『過去』にそんな感情を抱いた事はないし、それに何度も言うが、1年前ならば俺は湖晴の事は知らなかった。


 だが、1年前の俺はあの子、つまりは湖晴の事を『守りたかった』だが『死んでしまった』と言った。これは一体どう言う事だ?湖晴に聞いた方が良いだろうか?いや、混乱させては悪いな。


 出来る限り俺の中で結論を出してみよう。それに、これは俺自身の事だしな。と言うか、これは自問自答に近いのだろうか。


 これらの話をまとめると、過去に俺は湖晴と出会っている事になる。しかし、当然ながら俺は湖晴と出遭ったのはつい1週間前であり、湖晴自身も初対面の時に『初めまして』的な台詞を言っていたはず。これでは、まるで原因と結果が結び付かないではないか。


「それで君は、その資料でその子を助けようと考えた訳かい?」


 俺は荒ぶっている1年前の俺に、静かに諭すように聞いた。


 『過去』で『現在』の俺の記憶に無い範囲で何があったかは分からない。だが、これだけは伝えておかなければならない。1年前の俺が今右手に持っている資料の情報は正しくない。


 だから、このまま放っておいても1年前の俺は絶望するだけだ。この俺自身、そんな経験をした事は無いが、この場合はその辺を割り切って考えた方が良いだろう。


「・・・・・はい。もう、そろそろ良いですか?」


 そう短く答えた後、1年前の俺は『現在』の俺から歩き去ろうとする。


「君に1つだけ聞いて欲しい事がある」

「え?」


 しかし、俺はその後ろ姿をもう1回呼び止めて話を続けさせる。


 俺は『過去』の俺が言った数々の謎の台詞の真相を知りたい。だが、今の限られた時間と少ない情報と俺の貧弱な頭脳では真相を導き出すのは困難だろう。


 だから、せめて『過去』の俺を絶望させない為、そして、俺達が『過去』に来た本来の目的である『栄長と蒲生の戦闘を中断させる』事を成功させる為に俺は言う。


「君の持っているその資料の内容は全て偽りだ」

「何を・・・・・?」


 俺が伝えると1年前の俺は驚いた表情をした。まあ、それも仕方無い事だろう。自分が真実だと思っていた情報を偽りだと言われたのだから。


「君はその資料を何処かの研究施設から盗んで来た。そうだろう?」

「・・・・・・・」

「別に俺は君の事を警察に突き出そうなんて思っちゃいない。ただ、君には知っておいて貰いたい」

「俺に?」


 そして、無慈悲ながら俺は1年前の俺に言う。いや、もしかするとこれは、『自分自身に言ったのかもしれない。その程度では湖晴を救えないと言う真実を』。


「『その資料では湖晴は救えない』」

「・・・・・!」

「俺はその資料の事をある程度は知っている。だが、そんな物では君が救おうとしている子は救えない」

「それじゃあ・・・・・!」


 俺が資料についての事を少しずつ述べて行くと、1年前の俺はどんどん表情が険しくなる。自分がして来た事を無駄だと言われたのだ、無理もない。


 と言うか、これって良く考えてみると変な印象が残ってしまうんじゃないか?・・・・・でも、タイムパラドックスは発生していないっぽいしな。どうなんだろうか。意外と時間って物は適当なのかもしれない。


 そして、暫く時間が経った後、1年前の俺は俺に問う。


「それじゃあ、俺はどうすれば良いんですか!どうやって湖晴を救えば良いんですか!どうやって・・・」

「別に方法は1つではないだろう?」

「え・・・・・?」


 そうなのだ。別に『人体蘇生』なんて言う胡散臭い方法を使わなくても、守れるはずだ。それに、何で湖晴が死ぬ事を前提に話しているんだよ、1年前の俺は。


 消極的になるなよ。お前が本気で救いたいのなら、別の方法を考えろよ。


 とは言った物の、俺自身1年前に資料を盗んだ記憶なんて無い訳で、洗脳(?)されている相手にこんな事を言わなくても良いんじゃないか、なんて事は言っちゃいけない。


「そんな資料を使わなくても、別の方法でその子を救えば良い。守りたいんだろ?その子の事」

「はい・・・・・そうですけど・・・・・」

「だったら、そのくらいしてみろ!お前になら出来るはずだ!絶対にその子を守り抜けるはずだ!」


 俺は励ましの意味も込めてそんな台詞を大声で放った。端から見ると、怪しげなサングラスを装着している白衣の男性が奇声を上げている様にしか見えないが、もう暫くでこの場から消える俺からするとそんな事はどうでも良かった。それに、大通りなのに人があまり通らないしな。季節的に暑いからかな。


「分かりました・・・・・貴方が何者かは分かりませんが、助言ありがとうございます」

「分かってくれたら良い。さあ、行って来い!その子を救いに!」

「はい!あ・・・でも・・・・・」


 俺が1年前の俺を送り出す。1年前の俺はそのまま走り去ろうとする。


 しかし、1年前の俺はある事に気付いた様子で、右手を見ていた。いや、より正確には右手に持っていた『人体蘇生』に関する研究資料の紙束を見ていた。


 そうだった。本題はそっちだった。流れですっかり忘れていた。まあ、ここでその研究資料を預かれば、全てが上手く丸く収まる事だろう。


「大丈夫だ。俺があるべき所に返してくる。だから、君は心配するな」

「あ、ありがとうございます!それじゃあ!」


 俺は良い人のふりをして、1年前の俺からその研究資料を預かった。


 これで、第1のミッションはようやくクリアだ。あとは、これを栄長と蒲生の元に渡しに行けば今回の過去改変作業は終了だ。実に簡単な仕事だった。


 俺は走り去る1年前の俺の後ろ姿を見る。


 それにしても、結局何だったんだろうか。まあ、どうせ湖晴が言う様に1年前の俺は洗脳(?)か何かをされていたのだろう。だから、意味不明な単語が意味深な感じに結び付いてしまったのだと思う。


 本当の所は何だったのかなんて分からないし、そもそもこれ以上考えても永久に答えは出ないと思うので、この事は忘れよう。湖晴にも相談はしない。もし混乱させてしまったり、余計に無駄な仕事を増やしてしまったら可哀想だ。


 そんな時、近くにあった建物の物陰に隠れていた湖晴が俺の元に歩いて来る。


「資料は手に入ったみたいですね」

「ああ。一応な」


 それにしても湖晴って服なら何でも似合うのな。現在湖晴は俺が貸した制服シャツを着ている。胸の部分が苦しそう、と言うか本人がきついと言っていたが、その事を抜いて考えてみても充分に似合っている。普段から着ていても全く違和感は無い事だろう。私服も持っていないみたいだったし、また今度買いに行ってやるか。


「それでは、行きますか」

「そうだな。・・・・・って、着替えないのか?」

「え?着替えますか?」


 いやいやいや、俺は別に女の子が普段着ている白衣に腕を通すと言うラッキーイベントが現在進行形で発生している訳だが、湖晴からしたら普段寝てばかりいてコミュ症の男が着ている制服シャツに腕を通していると言うアンラッキーイベントが現在進行形で発生しているのではないのか?


 もしかすると、何も意識されていない?・・・・・何か、こんな俺でも思ってしまう。男としての存在意義が無くなってしまいそうだ、とな。


「着替えよう。そうしよう」

「?何でそんなに?もしかして白衣嫌いでしたか?」


 そうではないのだが。湖晴の為を思って俺はこんな事を行っている訳なのだが。それに、むしろ白衣は好きか嫌いかで言われれば、好きだ。


 俺は元々衣類(コスプレ系な)フェチではないのでおそらく、普段から白衣を着続けている湖晴が1週間も同じ家にいたせいだろう。全く、とんだ迷惑だ。


「じゃあ、着替えて来るから、適当に待っててくれ。その後に湖晴も・・・」

「・・・あれ?次元ー?おーい!」

「!?」


 俺が湖晴に着替えの打ち合わせをしようとしている時、背後から音穏の声が聞こえて来た。いや、正確にはここは俺達からすると1年前の『過去』の世界なので、ここにいる音穏も1年前の音穏のはずだな。


 と言うか、何でバレた!?・・・・・しまった!俺とした事が迂闊だった。湖晴と話す時に、視界が悪かったのでサングラスを外してしまったからか!


「湖晴!ちょっと隠れてくれ!」

「?はい」


 俺は湖晴に急いで指示を出し、迫り来る敵(音穏)に立ち向かう。


 ここ、1年前の『過去』で湖晴と1年前の音穏が会うのは不味い。1年前の音穏はまだ湖晴の事を知らないはずだからな。1年の時間差があるとは言え、同一人物である俺が対応すればまだ問題無い事だろう。


「次元ー?どうしたの?こんな所で。珠洲ちゃんにお使いでも頼まれたの?それに、何?そのサングラス」

「・・・・・・・」


 どうしたものか。一応、サングラスを掛け直したものの既にバレてしまっていては効果が無いか。しかし、何で見つけるんだよ!1年前の俺だって変装した俺を本人だと見抜けなかったんだぞ!


「次元?」

「ふっふっふっ・・・・・」

「何笑ってんの?」

「君は何を言っているんだい?」

「ふぇ?」


 仕方無い。1年前の俺には悪いが、ここは取って置きの作戦で誤魔化す事にさせてもらう。もし誤魔化せなくても、話の流れと勢いで走り去ってしまえばこっちのもんだ。1歳も離れていれば運動能力も全く違うだろうしな。


 そして、俺はついさっき1年前の俺に言った通りに白衣をバッと手で払い、キメ顔でポーズを決めつつ、大声で雑なネーミングの架空名を名乗る。


「私は次元などと言う人間ではない!私は狂気のマッドサイエンティスト時空皇れゴファ!」

「あれー?おかしいなー。次元が変になっちゃったなー。熱中症かなー」


 思いっきり横蹴り、いや、タイキックをされました。『上垣外アウトー』ってか。確かに人としてはアウトだが、それがどうした!


 痛さで地面に横たわっている俺の背中を今だに音穏はグリグリと押して来る。さっきから、この状態の俺達の真横を通って行く通行人の皆さんの視線が痛い。特に、車から感じ取れる視線が。


 しかし、こんな所で時間を浪費する訳にもいかない。俺は痛みを強引に抑え付け、立ち上がる。


「ふっ。どうやら、君は私の事を誰かと勘違いしているようだな」

「ねー、次元本当に大丈夫?特に頭が。病院行く?付いて行ってあげるよ?」


 駄目だ。完全に演技が見抜かれている。と言うか、もはや完全に病人扱いだ。これではらちがあかない。逃げよう。


「と言う訳で、さらばだ!」

「ちょ・・・・・!次元!待てー!」


 背後から俺の名を呼ぶ音穏の声が聞こえて来る。1年前の音穏には悪いが取り合えずここは無視だ。


「湖晴!行くぞ!」

「じ、次元さん!?」


 俺は建物の物陰に隠れていた湖晴の手を取り、そのまま引っ張りながら走っていく。


 何はともあれ、ようやく、俺達が『過去』に来た本当の目的を達成出来そうだ。

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