第22部
【2022年08月19日14時39分01秒】
「『コスプレ』ですね」
「・・・・・はい?」
俺が聞いた、湖晴の続きの台詞はそんな予想外過ぎる一言だった。
「何で?」
「『何で』って、それは1年前の次元さんに『現在』の次元さんを認識させない為、ですよ?」
「うん。いや、そうなのは分かるが・・・・・」
「?」
俺は何故湖晴が1年前の俺にこの俺が事情を聞き出す際に、変装ではなくコスプレをチョイスしたのかがかなり気になった。この場合、気になったと言うよりも、逆に驚き過ぎて他の言葉が何も思い付かなかったと言った方が良いのかもしれないが。
いやでも、それはそうとして何でコスプレ?確かに、俺は今までに学校行事等で強制的に衣装を着せられたり、珠洲や音穏に無理矢理普段来た事もない様な服を着せられた事はあるが、自らの意思でそんな事をした記憶は無い。
だから、俺がコスプレ的な何かをしていたのなら、1年前の俺は『現在』の俺の事を上垣外次元と言う人間とは認識しない事だろう。つまり、湖晴の言うタイムパラドックスが発生する可能性も低いと思われる。
・・・・・でも、本当にそれで良いのだろうか。本当にそんな程度の事でタイムパラドックスは回避出来る物なのか?と言うか、コスプレってそんな力があったのか?あくまで変装としての観点から考えた場合のみに限ってだが。
それに、よくよく考えてみると、この場面の場合、別に湖晴が1年前の俺に状況を聞きに行っても問題無いんじゃないのか?
俺がこう考えた理由はもちろんある。その理由とは、俺が1週間前に湖晴とグラヴィティ公園にて『初めて出遭った』と言う事実だ。ようは、道端で一瞬だけ話していただけの相手を覚えていられる様な記憶力は俺には存在しない、と言う意味にもなる。
つまり、この場面の場合わざわざ『現在』の俺が1年前の俺に話し掛けに行かなくても、湖晴が行けば済む話なのだ。俺の理論が正しいのならば、おそらくタイムパラドックスも生じない事だろう。
ここまで考えた俺はこの内容を湖晴に伝える事で、自分が半強制的にコスプレをさせられそうな状況を回避しようとする。
「湖晴。今考えてみたんだが、やっぱり俺じゃなくて湖晴が行っても・・・・・って、何してる!?」
「?」
俺が湖晴に話し掛ける為に湖晴の方を向いた時だった。湖晴はいわゆる『半脱ぎ』状態にあった。詳しく説明すると、既にいつも上に着ている白衣を脱ぎ終えて、その下に着ているシャツを捲り上げている状態だった。
湖晴のその真っ白に輝く綺麗な肌が外気に触れ、その豊満な胸の下の部分がやや露出し掛けている状態で、俺はその湖晴の行動を止めさせた。
「何で急に脱いでんですか、湖晴さん!?湖晴も女の子なんだから、そのくらい恥らいを持てよ!?」
「え?いや、今ここにいるのは次元さんだけですし、早く次元さんにコスプレしてもらって1年前の次元さんに話を聞いて来てもらわないと・・・」
もしかして、湖晴は俺に自分の着ている白衣とかその他もろもろを着させて変装(別名コスプレ)をさせるつもりだったのか?
と言うか、湖晴が本気でそう考えているのなら、普段湖晴は自覚してコスプレをしていると言う事になるのではないのか?
いや、もしかすると、湖晴が着ていると似合っているから問題無いけど、俺が着る事で『あら不思議!コスプレ衣装に大変身!』って事になるのか?少しへこむぞ。
「でもな、俺が行かなくても湖晴が行けば済む話しだろう?」
「何でですか?」
俺が途中で話し掛けたからだろうか、現在湖晴は脱ぎ掛けだったシャツを元の通りに着直して、肌が露出しない様になっていた。少し勿体無かったかな。
もう少し遅くに声を掛ければ・・・・・いや、それだと湖晴が可哀想だ。本人は自分がとんでもない事をし掛けていたと言う自覚症状が無いのだから。
「1週間前、俺は湖晴に初めて会った。だから、1年前の俺に話し掛けても1年前の俺は湖晴の事を覚えてはいない」
「そうですかね」
「そうだろ。わざわざ道端で少し話した程度の相手の事なんて覚えてないぞ、普通は」
湖晴だけは本人曰く、見聞きした物事の全てを記憶しているらしいので違うとは思うが、俺はそんな便利な能力は持っていない。だから、そんな一瞬の出来事なんて普通に時間の経過と共に忘れて行くはずなのだ。
「まあ、そうだとしても、今回も次元さんにお願いしようと思います」
「何でだ?」
しかし、湖晴は俺のそれなり考えた理論を上回って自身の理論、と言うか正論を述べて行く。
「以前も言ったと思いますが、次元さんには過去改変作業の時に『過去』で行動すると、それらのほとんどが理想的な未来へと繋がる様になっていたんです」
前にそんな事も言われた様な気がする。俺自身別に信じてはいない事だがな。
「ですから、ここは私が行くよりも次元さんが言った方が遥かに効率的なんです」
「・・・・・結局、俺が話し合い事に行くんだよな・・・・・」
「そうなりますね」
やっぱりか。いや、話し合いは良いのだが、俺的にはコスプレをあまりしたくないだけなのだ。俺がコスプレをしたくない理由、それは2つある。
まず第1に、湖晴と言う可憐な女の子が今さっきまで着ていた白衣と言う衣装を、俺が着ても良いのかと言う事だ。
湖晴が何も感じないのならまだ良いとして、俺としては女の子が普段着ている服に腕を通すと言うのは初めての体験であり、それに伴って心臓の鼓動が急に高鳴ってしまう事だろう。だから、少し抵抗と言う名の遠慮がある。
第2に、もしこの『過去』の世界でこの『現在』の俺が、『過去』の世界の音穏や珠洲にコスプレ(白衣を着ただけ)の状態を見られたらどうなるだろうか。
顔を隠していれば問題無いとしても、もし気付かれた場合、何か影響が出てしまうのではないだろうか。と言うか、『過去』の俺が何かを言われる事だろう。1年前なら身長も大して変わらないはずだしな。
結論を述べよう。俺はコスプレなんてしたくない。だが、今さっきの湖晴の台詞を考えると、しなければならない。
だから、出来る限り早急に用件を済ませ、本来の目的の『栄長と蒲生の戦闘を中断させる』と言う行動に入る。何時くらいから戦闘が始まったのかは聞き忘れていたので分からないが、少しでも早く現場に到着すればそれだけ対応出来る幅も広がる事だろう。
「仕方無い・・・・・。ほら、そこのビルの裏で着て来るから、服渡せ。あと、悪いが湖晴は俺の制服を着てくれ」
「はい。じゃあ、着替えに行きましょう」
そうして、俺達は互いに互いの服を交換して着替えを始めた。詳細は湖晴の事を思って自主的に省略する。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
数分後。
「どうしてこうなった・・・・・」
「大丈夫ですよ、次元さん。似合ってますから」
俺達はそれぞれの服を交換して着替えた。流石に屋外でスカートやズボンまで脱いで交換するのは不味いので、取り合えずやや不釣合いな格好だが、俺は上が白衣・下が制服ズボン、湖晴は上が制服シャツ・下がスカートと言う姿に。
あと、補足だが、俺は変装も兼ねて近くにあったコンビニでサングラスを買って来て装着している。・・・・・こんなマッドサイエンティスト何処かにいそうだよな。白衣、制服ズボン、サングラスって。
「それでは、頑張って来て下さい。と言っても、『過去』の次元さんの姿がすでに遠くの方に行ってしまっているので追い掛けないといけない訳ですが」
「そうだな・・・・・」
こんな格好で長時間外を歩くのは色んな意味で寿命が縮まりそうだが、これもタイムパラドックスを起こさせない為に必要な事だ。我慢しよう。
「それにしても・・・・・」
「ん?」
俺が歩き始めると、唐突に湖晴が話し掛けて来る。と言うよりは独り言なのかもしれないが。
「胸が少々きついですね」
「・・・・・・・」
止めろ。男の前でそんな事言うんじゃない。湖晴の胸がかなり大きいのは前々から知っている事だが、こんな場面(つまりは男の前)でそんな事言うんじゃない。しかも、湖晴が今着ているのは俺の制服シャツだ。何か、変な気持ちになる。
「ボタンを少し外しますかね・・・・・」
「・・・・・・・」
我慢出来なくなったのか、湖晴が制服シャツのボタンを上から2つ程度を外して行く。そして、湖晴のその大きな胸の谷間が外に晒される。
それにより湖晴は少し楽になったのか、ホッとした様な表情をしていた。
しかし、俺はそんな湖晴の事を見ていられなかった。いや、そんな湖晴を『他の誰にも見られたくなかった』。
「湖晴」
「?どうしたんですか?次元さん」
「苦しいのは分かるが、もう少しだけの辛抱だ。だから、ボタンは閉めておけ」
「え?あ、はい。そうですか?」
「それに、もう少し自覚しておいた方が良いぞ?」
「何を、ですか?」
「湖晴は魅力的な女の子なんだ、って事を」
「・・・・・・・へ?」
・・・・・ん?俺今何かしてたか?あれ?湖晴がボタンを閉め直している。しかも、何か驚いた様な表情でこっちを見ている。と言うか、今の少しの間は何だったんだ?
「どうした?行かないのか?」
「え!?あ、はい。行きましょうか」
「・・・・・?」
湖晴の様子が変だ。何があったのだろうか。何をそんなに驚く事があると言うのか。もしかして、俺が何か無意識に変な事を言ってしまったか?いや、でも、まさかな。
そして、変装を済ませた俺達は1年前の俺に追い付いた。そして、湖晴はビルの柱の後ろで様子を見つつ、俺は1年前の俺に話を聞きに行く。
追い掛けている時にも思っていた事だが、よくよく見てみると、1年前の俺は右手に何かの紙束を持っている。もしかして、あれって例の資料なんじゃないのか?
だとすると、本当に1年前の俺が?うーん、全く記憶に無いな。何でなんだろうか。
そして、俺はついさっきコンビニで購入したサングラスを装着し白衣のポケットに両手を突っ込んだ状態で、1年前の俺に話し掛ける。
「やあ、そこの君」
「・・・・・?俺の事ですか?」
この俺の声を聞いた1年前の俺は後ろを振り向き、この俺の方を向いた。どうやら変装が利いているのか、本人はこの俺が『現在』の上垣外次元である事を全く認識していないようだ。
それにしても、何か様子が変だな。何と言うか一言で言うと『暗い』な。声も低めだし、何よりもテンションが低空飛行している。目に光沢があまり見られないのも不安だ。洗脳されているのなら仕方無いとして(仕方無いのか?)、少し心配になる俺だった。
「君が右手に持っているその紙束は何かな?」
「・・・・・資料ですけど」
まあ、資料なのは知ってはいるが一応手順を踏んで話していかないと、話が通じなかったら困る。余計に時間がかかる。それに何より、疲れる。
「何の、だい?」
「・・・・・何なんですか?一体。その前に、貴方は誰なんですか?」
「ん?私か?」
「それ以外に誰がいると・・・」
どうしたものか、まさか『未来から来た上垣外次元だ!』なんて言う訳にもいかない。それに、そんな事をいってしまうとインパクトが強すぎて1年前の俺の記憶に残る可能性が高くなり、何らかの影響が生じてしまうかもしれないしな。
申し訳ないが、この短い時間で俺は何と言えば良いのか全く思い付かなかったので、取り合えずここは某アニメの主人公の決め台詞を借りるとしよう。ネーミングセンスに関しては触れないで欲しい。
俺は湖晴から借りて着ている白衣をバッと勢い良く払いながら、キメ顔でリズム良く今の短い時間の間に考えた台詞を言った。
「私は狂気のマッドサイエンティスト、時空皇零だ!」
「・・・・・で、そのマッドサイエンティストさんが何の用ですか」
華麗にスルーされました。
しかし、俺はこの程度では屈しない。そもそも名乗る事が目的ではないしな。取り合えず、本名を名乗らなくても済む様に誤魔化せたのなら問題ないはずだ。
「いや、君が右手に持っているその資料が気になってね。少しで構わないから、内容とその利用方法を教えて貰いたいと思ってね」
「・・・・・それじゃあ、俺急いでいるので・・・」
「お、おい!ちょっと待ってくれ!」
1年前の俺は俺(自称:狂気のマッドサイエンティスト、時空皇零)の事を無視して、さっきまでと同じ様に歩き去ろうとする。確かに普通に考えたら当たり前の選択だが、ここは空気を読めよ!1年前の俺!と言うか、1年前の俺ってこんなにノリが悪かったっけか?これも洗脳(らしき事)をされているせいなのだろうか。
「・・・・・何なんですか、一体」
「せめて内容と利用方法だけでも教えてくれないか?」
「・・・・・何なんだよ、一体。・・・・・分かりました。でも、急いでいるので手短に済ませます」
「お、おう」
時期的には夏休みのはずだから、急ぐ必要なんて無いとは思うのだが、何をそんなに焦っているんだ?
「この資料には人体蘇生に関する事が記されています」
「じ、人体蘇生?」
何でそんな物が?と言うか、そんな事出来るのか?いや、世間にそんな情報が公表されるのを恐れたから、蒲生の所属していた科学結社は犯人を殺してでも奪い返そうとしたのか。
ん?でも、栄長達の話だと資料は2人の過激な戦闘の数日後に組織に返されていたはず。つまり、1年前の俺が今持っている資料に書かれている事は嘘と言う事か?まあ、人体蘇生なんて事出来る訳無いしな。
「はい、まあ驚くのも無理はありません。それで、俺は助けないといけない女の子がいるんです」
「助けないといけない女の子が?」
1年前だと、俺が知っている女の子は珠洲、音穏、そして過去改変の影響で増えた阿燕くらいか。となると、阿燕の過去改変の影響でその内の誰かが危険に晒されているって事か?でも、そんな事音穏達は一言も言ってなかったしな。
『誰からも人気がある栄長の1年ぶりの登校』なんて言うビッグイベントがあったら、1年前と言う単語の関連で話題に上がっても良い物を。
「もう絶対に死なせてはいけない。だから、そうなってしまった後でもやり直しが利く様にこの資料を利用するんです」
やり直す?何をだ?1年前の俺が言う様に、俺が知る女の子の事だと言うのは分かるが、それは誰の事だ?
「・・・・・俺はあの子を救わないといけない・・・・・」
そして、俺が言った記憶の無い、1年前の俺の台詞が放たれる。
「俺は絶対に・・・・・『湖晴を救う』!」
そうして、『現在』の俺と1年前の俺の会話は続く。




