第21部
【2022年08月19日14時13分18秒】
俺と湖晴は栄長と蒲生が起こしてしまった『原子市一部地域大損壊事件』を無かった事にする為に、その事件が起きた『現在』から1年前の『過去』に来た。
何故、1年前なのか。その理由は、1年前に起きた栄長と蒲生の戦闘の結末を回避する事が出来れば、『原子市一部地域大損壊事件』を起こさせる事が無くなると考えたからだ。
1年前に栄長が蒲生によって大怪我をさせられる事が無ければ、入院する必要も謹慎生活を強いられる事も無かった。
つまり、その無駄な期間が存在しなければ栄長は仲間達から信頼を失って嫌われる事も無く、蒲生が仲間達から信頼を失って嫌われた栄長の事を救おうとも考えないはずだ。だから、俺達は1年前の『過去』に来た。
そして、俺達がここですべき事はただ1つ。『蒲生の所属する科学結社から消失した研究資料を探す事』だ。元々、栄長と蒲生が戦闘した理由もこれが原因らしいからな。
だが、それと同時に俺には幾つか引っかかる事もあった。何故、俺が2人の戦闘した理由である『蒲生の所属する科学結社から消失した研究資料』を盗んだと言う、全くもって意味不明な濡れ衣を着せられているんだ?
俺はそんな事をした記憶は無いし、そもそもそんな事をする理由も無い。つまり、俺は犯人ではない。だから、俺が犯人ではない事を証明すると同時にその資料を探し出して2人の下に行き、戦闘を中断させる。これで、今回の過去改変は終了のはずだ。
「じゃあ、そろそろ行くか」
一通りここまでの経緯に関する解説を済ませた俺は、隣で何やらタイム・イーターを弄っている湖晴に声を掛け、過去改変の為の行動を開始しようとする。
本題はこの1年前の『過去』での過去改変だけなのだが、俺にはもう1箇所よって行きたい『過去』がある。湖晴が許可してくれるかどうかは別にして、取り合えず今は少しでも体力を温存し、その『過去』に行けるだけの体力を余しておきたい。
「そう言えば俺、今回は気絶しなかったな」
「そうですね。慣れて来たのではないでしょうか」
「かもな」
時空転移も既に3回目。1回目は音穏、2回目は阿燕、そして3回目が今回の栄長だ。流石に体も謎の重力(?)に耐えれられる様になって来たのかもしれない。そんんな、非日常的な現象に体が慣れて来てしまっている事が良い事なのか悪い事なのかは一先ず置いておく事にしよう。
どの事件も、それぞれに事件を起こしてしまった理由があり、それぞれに辛過ぎる過去があった。俺は既に2回過去改変に成功している。今回も計画通りに事が進めば、上手く行くはずだ。いや、計画通りならば失敗する訳が無い。
湖晴が言うには、俺が無意識の内に行動した事がそのままあるべき良き方向に過去改変を成功させる助けになっていたらしい。無意識の内、と言うか俺には単純に自覚が無いだけなのだが、まあ、これからも無意識無自覚に過去改変をしておく事にしよう。
「それで?まず俺達はどうすれば良いんだ?だが、大体の見当は付いているんだろ?」
「はい。これを持って来た甲斐がありましたよ・・・・・っと」
俺がそんな事を聞くと、湖晴は自身が着ている白衣から昨日俺達が作った探査ロボットを取り出した。なるほど、まさかこんな所であの時の俺の活躍(本体にパーツを1つ装着)が発揮される時が来るとは。
・・・・・ん?いや、でも、ちょっと待て。その探査ロボットは明らかに白衣に収まる様なサイズの代物では無いぞ?何でそんな物がごく自然に白衣から登場しているんだよ。湖晴の白衣の内側は4次元ポケットか何かなのか?
「と言うか、何でそんな物持って来てるんだよ・・・・・重たくなかったのか?」
「まあ、それは確かに重たかったですけど、私が初めて『誰かと一緒に作ったロボット』ですから、何かに役に立つだろうと思って持って来ちゃいました」
「・・・・・・・」
何か、アレだな。可愛い女の子に『私が始めて何々した人』と言われると何となく嬉しくなれそうなものだが、今回はそうはならないな。何故かって?
それは、作った物が『明らかに軍事運用出来そうなロボット』だからだ!何で女の子と初めて一緒に作った物がそんな物騒な物なんだよ!もう少し何か配慮があっても良いだろうが!畜生!
まあ、俺のそんな心の叫びはさておき、湖晴は黙々とロボットの起動準備をしている。ここは人通りが全く無いただの路上の様なので出来る事だが、湖晴は道のど真ん中でロボットを設置し、腰を下ろして作業をしていた。
せめて道路の真ん中からは避けて作業しろよ、とか思ってしまうが、本人が大丈夫なら気にする必要も無いだろう。幸い、さっきから一度も車は通っていないしな。
「・・・・・ん?」
今さっき言った通り、湖晴は現在腰を下ろして俺の正面で作業をしている。うん。そして、湖晴はいつもかなり短いスカートを履いている。うん。
さて、問題です。この2つの事から導き出される答えは何でしょうか?
俺は正解を導き出す為に、湖晴の前でやや前傾姿勢を取った。そして、ごく自然に少しだけ首を曲げる。
「見え・・・」
「どうしたんですか?」
「!?」
俺の不審な行動に気が付いたのか、唐突に湖晴が俺に声を掛けて来た。
驚いた俺はピンと背筋を伸ばして直立姿勢で立ち上がった。
「いいいいや、何でも無いぞ!」
「そうですか?でも、何でそんなに焦っているんですか?」
「べ、別に!?俺は別に何も疾しい事は考えていないし、実行しようとも思っていないからな!?」
「?」
湖晴が小首を傾げている。その姿はとても可愛らしい物であり、普段ならば何時までも見ていたいと思っていたと思うが、今は例外だ。
俺が見えそうになっていた湖晴の未知の領域を覗き込もうとした事が、湖晴本人にバレていないかだけがただただ気がかりで、そんな場合ではなかった。
俺が様々な思考をしていると、ロボットの起動準備が済んだのか湖晴が俺に声を掛けて来る。
「次元さん。準備出来ましたよ」
「お、おう。じゃあ、行くか」
「はい。ではまず、このロボットに付いて行く事にしましょう」
「ん?どんなプログラムを設定してあるんだ?」
付いて行くと言っても、人探しをしている訳ではないはずだから、ある程度は限度があるはずだが。まあ、あの湖晴の事だ。それなりに便利な物を作ってしまっているに違いない。
「一応、蒲生さんが探していたと言う資料の情報ですね。1年前の『過去』のネットワーク上でその資料を検索し、その検索結果と共にその資料のありかを導き出すと言った形ですね」
「万能ですなー」
結局、湖晴が作ったそのロボットは探査ロボットではなかったのだろうか?でも、資料を『探せる』のだから、少なくとも探査系なロボットである事は確定事項だな。
湖晴がロボットの上側に付いているスイッチの電源をONにする。すると、そのロボットは数秒間止まったままだったが、その後自ら動きは始め、俺達を例の資料の元へと案内し始める。
あれ?そう言えば、タイム・イーターには『何かを追跡する様な能力』が備わってはいなかったか?それを使えば、このロボットをわざわざ使う意味はないはず。だとしたら、何でだ?
淡々と進んで行くロボット追い掛けて歩いて行く中、俺は湖晴にその事を聞く事にした。
「なあ、湖晴」
「はい。何でしょうか?」
「タイム・イーターを使えば、このロボットを使わなくても良いんじゃないのか?」
俺がこの質問をした理由はさっき述べた通り。
まあ、湖晴がタイム・イーターではなくロボットを使用している理由が『タイム・イーターの電力温存』や『ロボットを試運転したかったから』等ならまだ理解出来るとして、他の理由があればどんな内容なのだろうか。
俺の質問の後、数秒間考えをまとめていたのか湖晴は黙っていた。しかし、その後、歩きながら俺の方を向いて俺の質問に答える。
「一応、タイム・イーターの電力を温存する為なのですが、本当はこの仕事はこのロボットにしか出来ないんです」
「そうなのか?」
今までの俺の経験上、タイム・イーターよりも便利な機械なんて見た事ない。もしかすると、湖晴の作ったそのロボットが有能過ぎるのか、それともタイム・イーターの能力使用には電力以外にも制約があると言う事なのだろうか。
「タイム・イーターは設定した対象人を時空上での動きを監視するシステムですので、そもそも誰が今私達が探している資料を盗んだのか断定出来ない以上、使用する事は出来ません」
「そんな制約があったんだな。知らなかった」
前に言っていた様な気もするし、そうではなかった様な気もするが、まあ今はそんな事はどうでも良いだろう。
取り合えず、タイム・イーターの追跡能力は『人』にしか対応しておらず、資料を盗んだ犯人が不確定な今はそれを使用する事は出来ない。つまり、今はタイム・イーターは役には立たないと言う事か。
まあ、そんな理由があるのなら、有能な機械のタイム・イーターを使用せずロボットを使用した理由も、まだ納得出来るな。と言うか、今になって思えばそんな理由しか思い付かないな。事情を知った後だからだとは思うが。
「・・・・・あ。次元さん」
「ん?どうした?」
唐突に湖晴が俺の名前を呼ぶ。まさか、もう資料のありかが分かったと言うのか?流石に早過ぎるだろう。
「ロボットが路地裏に入って行きました。そろそろかもしれません」
「随分早いな」
と言うか、ロボットが路地裏に入っただけでそろそろかどうかなんて分かるのか?まあ、あの湖晴の事だ。何か別の要因もあっての推測だろう。ロボットに取り付けられているランプが光ったとかその辺の理由だろう。
俺達はロボットの後を追い掛けて路地裏に入って行く。そして、その路地裏を抜けて大通りに出た所で足を止めた。何故なら、そのロボットが動きを止めていたからだ。
「おい、湖晴。ロボット止まってるが、故障か?」
「いえ、そんな事はないはずです。タイム・イーターに検索状況が送信されて来ていますが、この近くに例の資料があるではないかと思われます」
「ここに?」
まだ歩き始めて10数分だがそんな事はさておき、こんな普通の大通りに例の資料が?流石に1つ1つ建物の中まで探すのは手間と時間が掛かるぞ。
ん?ちょっと待てよ。ここの大通り、何処かで見た事が・・・・・あ、そうだ。ここってもしかして、グラヴィティ公園の近くの通りじゃないか?と言う事は、ここって意外と俺の家の近所なのか。思いの他時空転移してなかったな。時間的にも空間的にも。
「どうする?手分けして探せばすぐにではなくても見つかると思うが。大体の場所も分かっている事だしな」
女の子を1人で歩かせるのは少々抵抗があるが、まあ今回は仕方無いだろう。出来る限り早く見つけて湖晴と合流しよう。さて、まずはあのビルから・・・、
「いえ。その必要は無さそうですよ、次元さん」
「え?」
俺が何処に探しに行こうかを心の中で決めていると、湖晴がそんな事を言い始めた。『その必要は無さそう』ってどう言う事だ?まさか、例の資料が運良く道端に落ちてた、なんて事は無いだろうしな。
「見て下さい」
湖晴が俺にその見つけた者を指す。俺はその指された方向を向く。そこには、例の資料を所持していると疑われていた人物が立っていた。
「お、俺・・・・・!?」
そこには横断歩道が青に変わるのを待つ、男子高校生としては平均的な背丈で、よくある一般的な髪型をしている男性、つまりは『俺』が立っていた。
「はい。取り合えず、物陰に隠れましょう。『現在』と『過去』の次元さんが遭遇すると、タイムパラドックスが発生する恐れがありますので」
「あ、ああ」
驚きつつも、俺は湖晴の指示により物陰(近くにあった建物の影)に隠れた。
「どう言う事だ?俺はそんな資料を持ち出した記憶なんて無いぞ?」
「もしかすると、何者かに利用された後、記憶が改竄されたのかもしれませんね」
「マジかよ・・・・・」
何時の間にそんな事を・・・・・。と言うか、結局これって俺が資料を盗んだ犯人と言う事になるんじゃないか?覚えていないとは言え、真犯人は俺だったか。何か、心がむず痒いぞ。
「まだ1年前の次元さんが犯人であるとは決め付けてはいけません。念の為に本人に事情を聞いてから、結論を出しましょう」
「そうだな・・・・・」
俺は自分が無意識の内に栄長達の過去に干渉していたかもしれないと考えるて、もどかしくなった気持ちの中、湖晴の意見に賛同した。
「でも、どうやって聞き出すんだ?もちろん、俺が1年前の俺と接触するのは危険だろうし、俺はついこの間まで湖晴の事を知らなかったんだぞ?湖晴も1年前の俺に接触するとタイムパラドックスが起きるんじゃないのか?」
俺はタイムパラドックスの発生のメカニズムを具体的に知っている訳ではないが、それでもこの程度の事柄なら容易に判断出来る。
「まあ、確かにそうですね。今の私や次元さんが1年前の次元さんと接触するのはかなり危険ですね」
「だろ?」
「でも・・・」
一端俺の意見を肯定した湖晴は、その後、この場面の解決策を提供して来た。
「でも、1年前の次元さんが『現在』の私や次元さんを『現在』の私や次元さんであると認識出来なければ、問題無いですよね?」
「?」
湖晴の言った台詞の意味が理解出来ずにいた俺だったが、その言葉の意味を知ったのは湖晴の次の台詞を聞いたすぐ後の事だった。




