第20部
【2023年09月19日12時29分07秒】
「おい!栄長!聞こえてないのか!」
さっきから何度呼んでも栄長の返事が無い。もしかしたら、さっきのトラックが何処かに突っ込んで言ったのが原因だろうか?だが、さっきのトラックなら湖晴がどうにかしてくれたはずだ。だから、問題は無いはず。
「栄長!俺はお前を救う!お前の・・・」
俺が思いついたままの事を栄長に叫んでいると、栄長は全く聞こえていないのだろうか、ポケットから拳銃を取り出した。
「おい・・・栄長?ちょっと、待て!それは・・・・・!」
そして、栄長が自身のこめかみに銃を当て、そして、引き金を・・・、
「燐ーーーーー!!!!!」
その時、さっきトラックが突っ込んで行った所からそんな大声がした。
「燐!何やってるんだァ!お前はァ!」
「ク・・・ロ・・・・・?」
その声の主はあの白髪の男の物だった。栄長も白髪の男の声を聞いたからか、手に持っていた拳銃を地面に落としてしまった。
「次元さん!」
「湖晴!どう言う状況だ!?これは」
「私にも良く分かりませんが、あの男の方は自分でさっきのトラックを回避された様です」
「ん?そもそもあのトラックって、あの男の方に向かって行っていたのか?」
「え?あ、はい。気付かなかったんですか?」
逆にどうやって気付けと。
その時、俺達とは別の方で何かを叩く様な音がした。
パーンッ!
「燐!何するつもりだったんだよォ・・・・・」
「だって・・・だってぇ・・・・・クロがぁ・・・・・」
その音は白髪の男が栄長のほおを叩いた音だったらしい。栄長の頬が赤く腫れている。そして、栄長はおそらくその叩かれた痛みとは別の理由で泣いていた。
すると、湖晴が俺に話し掛けて来る。まあ、今の状況から察するに、内容は大体分かっている訳だが。
「次元さん」
「ああ。そうだな・・・・・」
かなり気まずい雰囲気ではあるが、状況を整理しないと何も始まらない。2人に今回の事の経緯を聞き出さなければな。
「悪いな。そこのお2人さん。こっちに来て、事情を話してもらえるか?」
「次元君・・・・・」
「あぁン?お前は昨日のォ・・・」
「上垣外次元だ」
そうして、2人は俺と湖晴がいる学校の屋上に来た。そして、取り合えず、俺と湖晴は栄長の過去を改変する為の確定的な情報を得る為に、栄長とその白髪の男と会話をする。ちなみに、その白髪の男は蒲生黒矛と言う名前らしい。
「んでェ?何でお前がここにいるんだァ?と言うか、今は時間停止中じゃねえのかァ?何で動けてるんだよォ」
「今俺の隣にいる湖晴がさっきから時間停止をしているんだ。だから、俺は時間停止しない様な設定にしてもらっている」
正確には、タイム・イーターが時間止めていて、俺もタイム・イーターから半径10mの範囲から出てしまうと時間が止まってしまう訳だが。
ん?でも、そう言えば、さっき湖晴にトラックの事を頼んだ時に、うっかり俺がタイム・イーターの時間停止が適用されない範囲から出なかったか?まあ、あの湖晴の事だ。おそらく、時間停止が適用されない範囲を拡大したに違いない。
すると、栄長が湖晴を見て話し始める。さっきまでは号泣状態の栄長だったが、今はもう泣き止んでいる。少し目が赤く腫れていて、テンションが低いのが気になるが、栄長なら大丈夫だろう。
「あなたは昨日の・・・・・」
「はい。顔を合わせてお話しするのは初めてですね。燐さん」
「あァ?お前ら知り合いなのかァ?」
栄長と湖晴の『旧友と久し振りに会った』みたいな会話に、蒲生が口を挟む。それに栄長は軽く答える。
「まあね。それにしても、次元君・・・・・。こんなに可愛い子を居候させているなんて。何もいやらしい事してないでしょうね?」
「してないしてない!俺はそんな事はしない!」
何故か俺は周りの女の子達から『HENTAI』扱いされている節がある。何でだろうか。俺は何もそんな『HENTAI』行為はしていないはずだし、そんな言葉を発した記憶も無い。いや、もしかすると、俺が男である時点で変な風に思われているのかもしれない。困ったものだ。
・・・・・ん?何か話が逸れまくっている様な気が・・・、
「って、俺は雑談をする為にここにいる訳じゃないぞ!」
「そうですね。あまり時間停止にタイム・イーターのエネルギーを使いたくありませんし」
「タイム・・・イーター・・・・・?」
俺が本題に話を戻そうとすると、湖晴もそれに同意した。しかし、栄長は湖晴が言った『タイム・イーター』と言う単語に気が付き、それについて聞いて来る。
「ああ、そうか。まだ2人には言ってなかったな。湖晴が持っているその円盤型の金属はタイム・イーターと呼ばれる時空転移装置なんだ」
「「・・・・・!?」」
俺が簡単にタイム・イーターを説明すると、栄長と蒲生の2人は言葉通り目を丸くして驚いた。『そんなに驚くのか?』ってくらい驚いていた。
まあ、無理もない俺の事はただの一般人だと思っていたであろう2人だ。そんな俺がいきなりタイム・イーターなどと言う、時空転移装置の事を語り始めたのだから。逆に驚かない方が不思議だ。
「で、俺は湖晴の仕事を手伝っていて、湖晴は俺の家に居候しているって訳だ」
「ねえ、クロ・・・・・」
「あ、ああ。こいつはァ・・・・・」
「どうかしたのか?2人共・・・」
栄長と蒲生の2人は顔を見合わせて何かを話し合っている。それにしても、この2人。もう仲直りしたのか?ついさっきまではかなり過激な戦闘を繰り広げていたのに、今では隣合わせになって座っているしな。
もしかして、本当は仲が良いけど何かの理由、多分科学結社関係で止むを得ず戦っていただけなのだろうか。それならば、この2人が普通に話し合っているのも、栄長が蒲生の事を『クロ』と言うあだ名で呼んでいるのも頷ける。
そして、話がまとまったのか、蒲生が湖晴に話し掛ける。
「おい、そこの青いのォ」
「私の事でしょうか?」
『青いの』って何だよ。ちゃんと湖晴って呼べよ。まあ、湖晴が良いのなら構わないのだが。
「オマエ、『time technology』の人間かァ?」
「『time technology』?何だそれ」
「『time technology』ですか?」
また何やら意味不明な英単語が出て来たぞ。俺は英語は苦手なんだ。なるべく日本語でお願いしますよ、本当に全く。
「・・・・・いいえ違いますね。それが何かの組織である事は容易に推測出来ますが、私はそんな組織には所属していません」
「・・・・・そう。じゃあ、何でそんな時空転移装置を?」
「私は先生からの使命の元、過去改変によって歴史の改竄を行っているのんです」
「歴史の改竄・・・・・?」
湖晴が栄長の質問に淡々と答えて行く。前に湖晴は『過去改変の事を過去改変対象者には言わない方が良い』みたいな事を言っていた様な気がするが、大丈夫なのだろうか。まあ、今回は相手が科学結社に所属していると言う、異例の事態だ。その辺は湖晴の計算の内なのかもしれない。
「もちろん、俺の既に2回手伝・・・」
「そう言えば、聞き忘れていたわ」
「何でしょうか」
「俺の事は無視ですかい!」
「まあ、オマエは黙ってろって」
「・・・・・」
女の子2人の会話に混ぜてもらえなかった俺を、蒲生が肩を叩いて慰めて来た。何か、虚しい気持ちになるのは何故だろうか。
それはそうと、蒲生も会話に入れていないじゃないか。いや、そもそも混ざる気が無いのかもしれないが。
「あなた達は『どれくらい私達について知っている』の?」
「おそらく、全てに限り無く近くは把握しているつもりです。出来れば、燐さん達から情報を提供して頂ければ、事がスムーズに進むのですが」
「え?もしかして、私達の過去を・・・」
「はい。申し訳ありませんが、少し改変させて頂く事になります」
「え、ちょ、ちょっと待って!何で!?何で私の過去が変えられないといけないの!?」
湖晴が栄長に過去改変の事を告げると、栄長は途端に態度が変わり、焦り始めた。まあ、当然といえば、当然の事だろう。
普通は自分の過去を変えられるなんて事はされたくないし、そんな事は起きないはずだ。しかも、そんな事を面と向かって言われると、辛くなりそうだ。実際、俺も音穏の時に少しばかり心が痛んだからな。
湖晴は無駄と分かっていても、栄長に説得を試みる。ここで栄長に過去改変を了承してもらえないと、情報が聞き出せなくなり、過去改変の成功確率が下がる恐れがあるからな。俺も何か言っておいた方が良いだろうか。
「ここから街を見てみて下さい」
湖晴が栄長達に街の現在の様子を確認させる為に、学校の屋上から見える景色を指で指す。
そこにはいつもの街の風景があった。しかし、栄長と蒲生の過激な戦闘の結果で大きく損壊した建物が多々存在していた。まあ、2人共色々投げ飛ばしたりしていたからな。物が壊れているのは当然だ。
トラックがビルの屋上に突っ込んでいたり、建物に鉄柵(多分学校の屋上にあった奴)が突き刺さっていたり、タンクみたいな物が路上に放置されていたり。それはもうシュールすぎる光景だったが。
「大きく破損しているのが分かりますよね?これはもう科学結社の方々による記憶の改竄の限界レベルを超えて・・・」
「そんな事ない!お父さんに言えば、何とかなるはず!それに・・・・・!」
栄長はやはり焦っている。過去改変の後、何が起きるか分かったもんじゃないので当然と言えば当然の事だ。
それに、栄長は今『お父さんに言えば』とか言っていたよな。もしかして、栄長の親父さんも栄長と同じ科学結社に所属しているのだろうか。それならば、事件の概要を少しは消せるかもしれないが、今回は規模が規模だからな。
「燐!」
「クロ・・・・・」
すると、蒲生が栄長の事を怒鳴り付けて、栄長の言い訳を止めさせた。おそらく、蒲生はもう自分に出来る事は何も残されていないと分かっているのだろう。
「オレ達はやり過ぎたんだ、1年前と違って今回は思いっきり街ン中で戦っちまったァ。俺達がどうこう言えるもんでもねえよォ。それに、オマエの親父さんも時期にここを特定して来るだろうなァ」
「でも!でも私は・・・・・クロや次元君と話したりした記憶を失いたくない・・・・・」
「その辺はお任せ下さい。私達が過去改変するのは、あくまで『今回の街の損壊を無かった事にする』程度ですので、燐さんの中の次元さんやクロさん?の記憶は無くなりません」
蒲生の説得と、湖晴の上手なフォローのお陰で栄長は静かになった。そして、湖晴のそんな言葉の後、栄長は俺達に聞いて来る。
「本当・・・・・?」
「はい」
「ごめんね・・・次元君、湖晴ちゃん。迷惑掛けて」
「俺はまあ、世界があるべき方向に進むのを見届けているだけだからな。ほとんど湖晴がしている訳だし」
俺に謝られても困るのだが。まあ、言っても言いのなら、事件を起こさないで欲しかったとだけ言っておこう。
そして、俺と湖晴は栄長と蒲生から今回の件の経緯、1年前の出来事、それまでの様々な事情を聞いた。幾つか不明瞭な点があったが、湖晴は必要最低限の情報を聞き取ると、タイム・イーターをセットして時空転移の準備をし始めた。
何故、栄長と蒲生がこのタイミングで戦い始めたかと言う事も一応説明しておこう。それはこんな経緯だったらしい。いつも通り、普通に学校で授業を受けていた栄長だったが、その最中に蒲生から『今日、オマエを救う』と言うメールが届いた。
そして、蒲生の事を止めたかった栄長は蒲生の事を話し合いの為に一端学校の屋上に呼び出した。しかし、双方の価値観の違いにより話し合いは決裂。だから、あんな風に互いに相手を力ずくで止めるしか方法は無かったらしい。
まあ、そんな感じで栄長達から得た情報を整理したのは良かったが、俺には1つ引っかかる事があった。
何で1年前の件に俺が登場しているんだ?俺は蒲生の所属しているナントカって言う科学結社の資料なんて盗んだ記憶なんてないしな。栄長が言っている通り、濡れ衣だな。それに、蒲生もその件の対象者が俺である事を栄長に言われるまで覚えてはいなかった。
湖晴がタイム・イーターの設定を終わったらしい。そろそろタイムトラベルをする事が出来そうだ。これで、過去に行って2人の過去を変えてこの事件を無くす。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「そうですね。時間も大分経ちましたし」
「次元君!」
出発間際、栄長が俺の名前を呼んで引き止めて来る。何か言い忘れた情報でもあったのだろうか。
「栄長?どうした?」
「あ、あの!私・・・・・」
「?」
栄長にしては珍しく、はっきりしない口調だ。言い難い事ならば、無理して言う事はないのだがな。
「ごめん・・・やっぱり何でもない・・・・・」
「そうか?まあ、言いたくなったら言ってくれ、って言っても過去改変したらこの出来事は無かった事になるんだけどな」
俺はふざけてそんな事を言った。まあ、あまり緊縛し過ぎている場面も心臓に悪い。そんな風に考えた俺は場の雰囲気を少しでも和ませる為にそんな事を言った。
「おい、オマエ。最後に良いかァ?」
「ん?」
今度は蒲生が話し掛けて来た。あまり、タイム・イーターの電池を使いたくないのだが。まあ、栄長と同じく何かの言い忘れなら出来る限り早急に簡潔に話してもらいたい所だ。
「オマエ・・・・・どっかで見た事ある様な気がするんだよなァ・・・・・。まあ、良いかァ」
「?何なんだ?」
「あと、もう1つゥ」
「そろそろ時間がヤバイかもしれないのだが?」
「『上垣外』って言ったよなァ?お前の名前ァ」
「あ、ああ。そうだが。それがどうかしたのか?」
何で俺の名前を確認して来る?そんなに珍しいか?俺の苗字。まあ、俺はいつも使っている名前だからあまり感じた事はないが、日本では珍しい名前かもな。と言うか、『蒲生』って名前も珍しいだろ。俺は始めて聞いたぞ。
「妹いるだろォ?『珠洲』って名前のォ」
「ん?いるけど・・・・・って、何で珠洲の事知ってるんだ!?」
うわ。何だ、こいつ。まさか、俺の妹の珠洲のストーカー野郎か?生かしてはおけん・・・・・。いや、蒲生は栄長との件で忙しかったはずか。なら、その可能性は無いと考えても良さそうだ。ああ、良かった。
「まあ、今はそんな事はどうでも良いんだよォ。あいつは元気にしてるかァ?」
「元気過ぎるくらいだな」
「そうかァ・・・・・。なら、良いかァ。ま、そう言う事だァ。あいつの事、これからもよろしく頼んだぜェ」
「お、おう?何故アンタによろしく頼まれないといけないんだ?」
相変わらず、訳が分からん奴だ。もしかして、珠洲と知り合いだったりするのだろうか。また今度機会があったら、珠洲に聞いてみるか。
その時、湖晴が雑談に無駄な時間を費やす俺に急ぐ様に言って来る。
「次元さん。そろそろ燐さん達の組織の方々がここに到着しそうです。もう行きましょう」
「ああ。じゃあな、2人共。あとは、俺達に任せろ」
「あァ。頼んだぜェ」
「ごめんね。本当にごめんね、次元君」
そうして、湖晴がタイム・イーターの時空転移機能を発動し、辺りが眩い光りに包まれた。いつも通りの、あの光りだ。
俺は栄長と蒲生の事を救う。今回の原子市大損壊事件を無かった事にして、2人の未来を救う。出来る事ならば栄長の過去も変えたい所だが、栄長の幼い頃からの人生は俺ごときでは捻じ曲げる事は出来ない。
だから、せめて2人があんな風に争わなくても住む様な世界にする為、俺は過去に行って歴史を改竄する。




