第17部
【2023年09月19日12時25分41秒】
~栄長燐視点~
ヒュンッ!
私がテレポーターで指示して瞬間移動させた鉄柵があいつに超高速で向かう。
ガンッ!
しかし、あいつの飼っている人工知能のせいで周辺にあった金属を引き寄せられ、私の攻撃が阻まれる。
「チッ!良い加減・・・・・くたばれぇ!」
学校の屋上。私は例のあいつと戦っている。そう。あの、語尾が気持ち悪くていつも自分の事しか考えていないくせに、私の為に戦おうとしている幼馴染みの蒲生黒矛と。
私達が戦っている理由。そんなもの決まっている。あいつは『私の今の境遇を変える為』、私は『そんなあいつを守る為』に戦っているのだ。
結局の所、私にも何で戦っているのかは分からない。戦っている理由は分からないけど、これだけは分かる。私は『あいつが誰かに傷つけられるのを見たくない』だけなんだ。
「燐よォ。お前が幾らその武器を使ってもオレには届かねぇんだから、諦めろってェ」
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!大体、あんたがあんな事をしようとしてるからでしょ!?それに・・・・・!」
それに、あいつとは1年前にも既に1回戦っている。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
1年前、私はあいつから『彼』、すなわち上垣外次元君を守ろうとした。
何故なら、あいつの所属している科学結社『magnetic technology』が『上垣外次元が結社の大事な資料を盗んだ』と言う濡れ衣を着せて暗殺して取り返す任務をあいつに命令したからだ。
あいつも私と同じく、両親が科学結社の人間だったから、科学結社に入るのに拒否権を与えられていない人間だった。それぞれ、生まれた時から既に一生が不遇な運命だったのだ。
あいつの所属する『magnetic technology』は私の所属する『space technology』とは大きく異なり、その業界でも大して有名ではなく、継続して経営を行うのがかなり困難な状況にある組織だった。
だから、盗まれた資料を必要以上に取り返したかったんだと思う。でも、だからと言って、次元君に濡れ衣を着せるのは許せない。
中学3年生の時に知った、次元君は知らなくて、私は知っている真実。それがあったから、私は次元君がそんな事出来る訳がないと確信していた。それに、もしその真実を知っていなかったとしても私は次元君を守っただろう。
そして、私はあいつを止めるべく戦った。あいつが次元君に近付こうとしている時に呼び止め、なるべく人気の無い場所で全力で戦った。
全2時間以上の死闘の結果、私はあいつに勝った。あいつは地面に力無く横たわっている。私によって全身を痛め付けられ、完全に動けない状態になっていた。どれくらい骨折しているかは分からない。『次元君を守らなくてはいけない』と言う自分自身に掛けた使命を果たす為に手加減する事無く、攻撃していたから。
だけど、私は後悔した。心の底から後悔した。幾ら次元君を守る為とは言え、あいつをそんな姿にしてしまったのだから。
私は重い後悔と異常なまでの疲労感の中、家に帰ろうとした。これで、やっと次元君を守る事が出来て、全てが終わった・・・・・はずだった。
しかし次の瞬間、あいつの持つ人工機能が起動し、近くに放置されていた乗用車が私に向かって勢い良くぶつかって来た。当然ながら、私は乗用車とぶつかった衝撃で大怪我を負って入院した。
更に、連絡も無しにあいつと戦い、その上大怪我まで負った事でリーダーから計1年間の外出禁止を言い渡された。
それが私の今から1年前の出来事。2年前に私と廊下で会い、屋上に助けに来てくれた次元君を守ろうとした私の物語。
その後の事だった。入院生活も段々慣れて来た時、あいつから連絡が入った。でも、私は居留守をした。だけど、あいつはきっかり10分おきに私に連絡して来る。迷惑極まりないあいつからの連絡を私は仕方無く受けた。
あいつによると、次元君が盗んだと思われていた資料は見つかったらしい。全く、人騒がせな奴だ。それじゃあ、私が何で戦っていたか分からないじゃない。
そして、もう1件。それは私の今の境遇についてだ。あいつは自分も似たような境遇のくせに、私の事を心配していた。そして、『私が次期リーダーで現在組織で№2であるにも関わらず、ミスをして謹慎を強いられている事によって私が組織内で嫌われた事』を耳にしたらしい。
その事を知ったあいつは『退院後にお前の組織を解体させて、お前を救う』と言って来た。無理だ。そんな事出来る訳が無い。
私の組織は比較的メジャーで人員も多い組織。あいつの組織はマイナーで人員はほとんどいない組織。真っ向から戦えば、結果はどうなるかは明らかだった。
だから私は、謹慎期間終了後すぐに、あいつを止める決意をした。私の組織と戦えば、あいつは絶対に負けて死ぬ。そんなのは絶対に嫌だ。私はあいつには2度と傷ついて欲しくない。
それがたとえ、再びあいつが大怪我をする事になっても。それがたとえ、私が再び謹慎を強いられる事になっても。必ず。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「燐!ボサッとしてんじゃねェ!」
「っ!」
あいつの声と共に、私は回想から現実に戻った。
次の瞬間、私に向かって鉄柱が飛んで来た。私は瞬時にその鉄柱の質量と座標計算をし、テレポーターに指示を送る。そして、鉄柱は元あったであろう場所に戻る。
あいつが使用しているあの携帯端末、あれにはマグネと呼ばれるあいつが作った人工知能プログラムが入っている。マグネは一定の範囲内の中で磁力を自在にコントロール出来ると言う能力を持つ。
だから、私が幾らあいつに向けて物を投げ付けようと、磁力を持たせる事が出来る物はあいつに当たる寸前でその反発力で停止し、磁力を持たせる事が出来ない物は別の磁力を持たせる事が出来る物でブロックされる。
だから、基本的に私の攻撃はあいつには届かない。でも、それはあいつも同じだ。
あいつも結局は磁力を持たせる事が出来る物を私にぶつけに来ているだけに過ぎない。どちらかに1発でも『物』が命中すれば、おそらくそれで全てが終わる事だろう。でも、『物』の移動に関しては私のテレポーターの方が何段階も上だ。
だから、基本的に私達2人の戦闘は膠着状態が続く。1年前はあいつの持っているマグネが誤作動を起こしてくれたからギリギリ勝てたけど、今回もそんなに上手く行くとは限らない。でも、私は既にあいつの磁石を無効化する策を考えている。
私は近くに見えたビルに取り付けられている看板をテレポーターで座標計算して、あいつに投げ付けた。
「またかァ・・・・・マグネッ!」
『はい!ご主人サマ!』
ガンッ!
私が瞬間移動させた看板はマグネの磁力によって反発して何処かに飛んで行った。その次に、学校の屋上中にある鉄柵を片っ端から瞬間移動で投げ付けて行くも、全てマグネの反発力で受け止められていく。
その時だった。
キュイン!
「ん?何だァ?」
何かの音がした。私は不意を突かれ驚いた。そして、あいつも驚いている。
周りを見回してみると、何もかもが止まっている。まさか、時間が止まっている?私はそんな器用な事は出来ないし、近くには『time technology』のメンバーがいる気配も無い。だとしたら・・・、
「まさか、あんたの仕業?」
私はあいつに問う。
「あァ?オレにそんな事出来ると思ってんのかァ?」
「その磁石使えば出来るんじゃなくて?」
『マグネにそんな力は無イ!そもそもマグネはご主人サマの指示通りにしか働かなイ!』
あいつの仕業じゃないとしたら一体・・・・・?まあ、良いや。これで心置きなく、秘策を使える。あんまり近距離で使用すると私まで焼け死ぬ可能性があるからね。
それから数分間、私とあいつは互いにダメージを与える事が出来ずにいた。私の攻撃は奴の持つあの携帯端末に入っている人工知能のマグネの磁力に阻まれ、あいつの攻撃は私のテレポーターで届かない。
だけど、一瞬だけあいつに隙が出来た。私はその一瞬を見落とさなかった。そして、次の行動に移る。
私は近くにあった学校の屋上と同じくらいの高さのビルの屋上に飛び移り、その後、あらかじめポケットに仕込んであったその『秘策』をあいつに投げ付ける。これでチェックメイトだ。
「あァ?」
あいつがマグネを使用して強磁石の壁を作り出す。かかった!
ボンッ!
直後、私が投げ付けた熱放射爆弾が炸裂した。
熱放射爆弾はその名の通り、周辺を高温にする爆弾だ。マイクロ波の熱放射能力を応用し、それを『投げて物に触れたら起爆』に設定した物だ。
「なるほどなァ。良く考えたもんだァ」
私の熱放射爆弾を寸で受け止めた強磁石の壁だったけど、その後、すぐに地上へと落下して行く。あいつがマグネに指示を送った訳じゃない。『物理法則的にそうなる様になっている』のだ。
「なるほど、なるほどォ。『キュリー温度』を狙ったって訳かァ!」
『キュリー温度』とは。
強磁性体におけるキュリー温度は、その温度以上では強磁性の性質が失われる温度の事を指す。キュリー温度よりも低い温度では次期モーメントは磁区の内部で部分的に整列している。温度がキュリー温度へと上昇するに伴い、それぞれの磁区内での磁気モーメントの整列は減少する。キュリー温度以上では、物質は純粋な常磁性として振る舞い、磁気モーメントが整列した磁区は消失する。
ー〇ィキ〇ディ〇より
そう。私が狙っていたのはこれ。私があいつに熱放射爆弾を投げ付けると、あいつは必ず磁力を使用してそれを防ぐ。それが自分自身を敗北へと導く罠とも知らずに。
そして、熱放射爆弾をあいつから防いだ強磁力を帯びた壁は熱放射爆弾の熱放射により一気にキュリー温度にまで達し、磁力を失う。これがあいつの持つ人工知能マグネの、いや、磁石そのものの弱点であり、私の必勝法だ!
私はあいつを守る為、止める為にあいつを倒す!
私はテレポーターに指示を送り、学校の屋上にあった貯水タンクを磁力を使えなくなり無防備となったあいつに向かって瞬間移動させる。
これで、やっと・・・
「だが少し甘かったなァ。弱点があるのは別にオレだけじゃないはずだろォ?」
「!」
あいつのそんな台詞の直後、私は確かに見てしまった。私がテレポーターであいつに向かって瞬間移動させたはずの貯水タンクが地面に落下して行くのを。
「・・・何をしたの・・・・・!?」
「大体なぁ、考えてもみろよォ。オレにだけ簡単な弱点があって、オマエには無いってのは平等じゃないだろォ?」
あいつの持つマグネの磁力操作は無効化したはず。その一瞬のタイムラグがあれば、あいつに『物』を命中させて気絶させて、全てが終わったはずなのに。何で・・・・・?
「・・・・・まさか!」
「そうさァ。やっと、気付いたかァ」
あいつはマグネの携帯端末の先端部分をこちらに向けている。だが、それは磁力を操っている時の仕草とは完全に異なっている。あれは・・・、
「妨害電波・・・・・!」
「その通りィ!オマエのテレポーターは『オマエの脳波を感知して対象物を粒子レベルにまで分解して瞬間移動させる』だけの物!つまり、その脳波の感知システムをジャミングすれば発動出来ないって事だァ!」
「クソッ!あと少しだったのに!」
あと1手で全てが丸く収まったのに、あいつはまだ私に背くのか。私はあいつには死んで欲しくないだけなのに。
あいつがこんな場面まで妨害電波を使わなかったのはおそらく、マグネの能力最大値の限界のせいだろう。いくら磁力を操れる便利機能持ちなマグネにも機械的な限界がある。
だから、磁力を熱放射による急激な温度上昇で一瞬だけ使えなくなった時に備えて、妨害電波を出せる様にマグネを調整しておいたのだろう。普段は頭悪いくせに何でこんな時だけ用意周到なのよ!
「なぁ、燐よォ」
「何よ」
私が今の状況の分析をしていると、あいつが話し掛けて来た。
「もう1つ、俺はオマエのテレポーターの弱点をしっているんだぜェ?」
弱点が無い、完璧な物なんてこの世には存在しない。でも、あいつがテレポーターの弱点を知っているとも思えない。
「あっそ」
「おやァ?もしかして、このオレに気付かれないとでも思ったかァ?」
「気を緩めていると死ぬわよ」
「まぁまぁ、そんなに焦るなよォ。今は一時休戦だァ。どうせ、オレもオマエも今は何も出来ないんだからなァ」
何が一時休戦よ。馬鹿馬鹿しい。
一応、ポケットにはまだ爆弾や銃がある。でも、あいつが何を所持しているか分からない以上、まだ動く事は出来ない。
「まぁ、オレの気付いたテレポーターの弱点って奴を教えてやるよォ」
「良いからさっさと話しなさい。殺すわよ」
「オマエのテレポーターは『人間を移動出来ない』んだろォ?」
「・・・・・・・」
あいつは的確に私のテレポーターの欠点を言い当てた。
「その様子を見ると、正解の様だなァ。見てて気付いたんだよォ。オマエのテレポーターは『物体を粒子レベルにして瞬間移動させる』。なら、それを人に使ったらどうなるか、所持者のオマエなら分かるよなァ?」
「・・・・・・・」
「人は『1度分解しちまうと、形は復元出来ても命は復元出来ない』んだろォ?だから、オマエは自身をテレポートして移動させねぇし、オレの事も移動させて宇宙に飛ばしたり出来ない。そんな事したら、死んじまうからなァ」
やっぱり、戦いが長期化すると、必然的に弱点や欠点も露呈しちゃうか。あいつごときに気付かれるなんてね。
「オマエにオレは殺せない。オレはオマエを殺すつもりはない。これって、1年前とは違って、決着付かねぇんじゃねぇかァ?」
「・・・・・黙れ」
私はあいつを殺せない。確かにそうだ。私があいつと戦っているのは、少なくとも、あいつの命を守る為なのだから。だから、殺せない。
「あァ?」
「・・・黙れ」
だけど、私は決着を付けないといけない。どんな手段を使ってでも必ず!私はあいつを守る為に!
「あああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
私はテレポーターに指示を送り、最大出力で道端にあったトラックをあいつに向かって瞬間移動させた。どうせ、あいつが妨害電波を出しているのだから全力でしても当たる訳無いから大丈夫。そう思っていた。
「・・・・・あ・・・れ?」
しかし、トラックは粒子状になりあいつに向かって瞬間移動し、その直前で元の形に戻る。そして、大型のトラックがあいつに激突する。
「あぁ・・・・・ぁぁぁ」
トラックが瞬間移動した後には何も残っていなかった。
「ク・・・ロ・・・・・?」
大分久し振りに、私はあいつの名前を呼んだ。正確には、幼い頃呼んでいた呼び方で呼んだ。
しかし、返事は無い。
「え・・・・・?ちょっと・・・・・・ちょっと待ってよ・・・・・・・!」
まさか、私が自分の手であいつを殺した?
でもその前に、何であいつは妨害電波を切っていた?
あいつは、私があいつに致命傷を与える様な攻撃は出来ないと思っていたから?
何であいつは何であいつは何であいつは・・・・・・・!
「ああああああああああ!!!!!」
私は大声で泣き叫んだ。
自分の軽い気持ちでしてしまった、重大な過ちを思って。




