第16部
【2023年09月19日12時27分12秒】
「な・・・何が起きてるんだ・・・・・?」
今、俺の目の前に繰り広げられている光景。それは栄長と昨日の夕方に会った白髪の男の戦闘シーンだった。ただ、『戦闘シーン』と言っても範囲が広過ぎるので、もう少し細かくその光景を説明する事にする。
まずは、俺が今捜していた栄長だ。栄長は制服の上にコスプレとも取れるパーカーみたいな赤黒色の少し大きめの服を羽織り、右手にはステッキ状で長さ30cm程度の金属らしき何かを持っている。
そして、栄長がそのステッキ状の何か(以下、金属の棒)を左右に振る度に何処から来たのかは不明だが、ビルに取り付けられていそうな看板やら屋上の鉄柵が白髪の男の方に、言葉通り『見えない速度』で飛んで行く。
あんな栄長の姿を俺は何時か見た事がある・・・・・?だが、それは何時の事だ?これが栄長は覚えていて、俺は覚えていない過去の記憶なのか?
あの栄長の握る金属の棒、それに、栄長のしている事。それはまるで『物体をテレポーテーションさせている』かの様に見えるものだった。いや、あれは間違いなく『テレポーテーション』だ。
湖晴がタイムトラベルを可能にするタイム・イーターを持っているのなら、この世の何処かにテレポートもあるだろう。だが、何でそんな物を栄長が持っているんだ?栄長は表と裏の変化が激しい女の子だったが、それでも、普通の一般人ではなかったのか?
次に、白髪の男だ。服装は昨日の夕方に会った時とほぼ同じ。そして、手には何かの携帯端末があった。もしかして、あれは昨日俺がグラヴィティ公園で落ちているのを見つけた、マグネが住んでいる端末か?でも、この過激な戦闘シーンにそれが必要なのだろうか。
更に、白髪の男は栄長に様々な物体を超高速で投げ付けられているにも関わらず、無傷だった。それもそのはず。栄長が様々な物体を白髪の男に投げ付け、それが本人に当たるまでのほんの少しの時間に、その物体と白髪の男の間に金属製の物体が挟み込まれていたからだ。
さながら、その光景は白髪の男が磁力でも使って、金属製の物体を盾にする為に操作したかの様にも見えた。しかし、そんな都合の良い磁石など存在する訳が無い。そもそも、その防御手段が磁石である保証も無い。
だが、ちょっと待って欲しい。それ以前に何で2人は戦っているんだ?ここは学校の屋上だぞ?何があったらそんな事になるんだ?栄長とあの白髪の男はおそらく知り合いだろうが、喧嘩ごときではこんな騒ぎは起こさないだろう。
それに、この2人はそもそも何者なんだ。片方はテレポーター、片方は磁石使い(?)。明らかに一般人には出来る様な事ではない。まさか、次の過去改変の対象者は・・・・・!
キュイン!
次の瞬間。この世界の全てが時を刻むのを止めた。人の話し声は消え、雲の動きは無くなり、ちらほらと点いていた建物内から発せられる明かりは全て消えた。これはもしや『時間停止』?と言う事は湖晴がここの近くにいるのか?
「ハッハッ・・・次元さん!これは・・・・・!」
俺が屋上の入り口に立っていると、背後から湖晴の声が聞こえて来た。急いで走って来たのか、息が上がっていて頬がほんのり赤く染まっている。やはり、今の時間停止は湖晴がしたものだったのか。
「湖晴!俺にも何がどうなっているのかは分からん!だが、何か大変な事が起きそうなのは分かる!」
ここにいても何も出来ないのは分かっている。だが、今は時間停止中だ。あの2人も時間が止まっているはず。だから、今の内に対策を・・・、
ドーン!
「え?」
俺は階段を駆け上がって来た湖晴の方を向いていた体を屋上側に向け、そして唖然した。そこには時間が停止し、一時行動不能になっている栄長と白髪の男の姿が・・・・・無かった。
2人は今だに戦闘を続けている。しかも、周囲が時間停止している事も分かっているのか、屋上だけでなく、周辺の建物にも飛び移ったりして、戦場を拡大していた。
「お、おい、ちょっと待て!湖晴!時間停止は成功していないのか!?」
「いえ。時間停止は成功しています。なので、次元さんもタイム・イーターから10m以上離れると、時間が止まってしまいます」
「だったら、何であの2人は行動出来ているんだ!良く分かんない武器も使ってるし、危な過ぎるだろ!」
「次元さん」
突然の危機的状況に取り乱す俺に湖晴はささやく様に俺の名前を呼んだ。
「私がここに来ている理由が分かりますか?」
「え?あの2人が危険な事をしているから、それを止める為に時間停止をして、タイム・イーターの時間停止解除範囲に俺を含める為に来たんじゃないのか?」
貧弱な俺の脳ではそれくらいしか考える事は出来ない。他に理由があると言うのか。
「これを・・・見て下さい」
湖晴はタイム・イーターから発せられる立体映像を俺に見せた。そこには様々な情報を示す文字と見覚えのある顔が表示されていた。
「次の過去改変対象者・・・・・それは、栄長燐さんです」
「・・・・・!」
まさか、そんな事が・・・・・!
「何でだ!?今はあんな事になってるが、栄長は何もしていないはずだろ!?」
「いえ。燐さんは既に犯行を終了しており、更に、現在も別の犯行を実行しています」
「何だと!?」
栄長が既に犯罪者だって?俺が知る栄長燐は表向きは皆の憧れの的の美少女優等生。だが、その本性はキャラの固定が困難な二次元住人であったはずだ。そんな栄長が犯罪者?ましてや、次の過去改変対象者だって?
「では、私が知っている情報、そしてここに来るまでに調べた燐さんの情報を次元さんにお話しましょう」
「ああ。頼んだ」
「まず1つ目。何故あのお2人はタイム・イーターの時間停止能力発動中にも関わらず、行動出来ているのか、についてです」
湖晴は俺に、栄長について不明瞭な事柄を説明し始めた。最初は時間停止中にも関わらず、行動出来ている件についてか。確かに、今の状況から近い事柄から話した方が理解しやすいしな。それに、その事は俺もかなり気になっていた事だ。
「その答えは1つしかありません」
「そうなのか?」
「その答えは、あのお2人が『科学結社に所属しているから』に他なりません」
「か、科学結社?」
科学結社って何だ?ドラマとかに時々出て来る悪の組織の仲間か何かか?と言うか、そんな非現実的な組織が実在しているのか。湖晴が俺に嘘を言うはずがないのは分かっているが、そんな事を言われても普通は信用出来ないだろう。
「科学結社に所属しているのであれば、時間停止が聞かないのも納得出来るんです」
「いや、俺は納得どころが、理解が追い付かないのだが」
「科学結社は基本的に時間停止や強制テレポート等の特殊能力を受け付けなくする為の物を所持、または体に埋め込む事が大前提にされている組織なんです」
「か、体に!?」
何かそれは痛そうだな。と言うか、絶対痛いだろ。科学結社になんて入ってなくて良かった。そんな怪しげな組織に入っていたら何されるか分かったもんじゃない。
「いえ。体に埋め込まなくても持っているだけでも構わないのですが、まあ、ここでは詳しい説明は省きます。ようは『時間停止等の特殊能力の影響を受けなくなる物』を常に持っていると思ってください」
「あ、ああ」
「そうすれば、タイム・イーターの時間停止の範囲に入ってしまっていても自由に行動する事が出来るんです」
「そうなのか。だったら、もう時間停止は切っても良いんじゃないのか?」
2人の行動を止める事が出来ないのなら、時間停止をしていても、していなくても大して影響は無いだろう。それに、あんまりタイム・イーターの電力を消費して、阿燕の過去改変の時みたいな事になっても不安だしな。
「そんな訳にはいきません」
しかし、湖晴はきっぱりと俺に言い放った。
「何で」
「あのお2人は既に屋上だけでなく、周辺の建物にまで乗り移って戦闘をしています。この状態で他の人達の時間を元に戻すとどうなるか分かりますか?」
生身の人間が現在の所原理不明の武器を使用して町の一角で戦闘をしていたら、事情を知らない一般人にはどう見えるのか。そんな事、決まっている。
「・・・・・普通に大騒ぎになるよな」
「はい。そうなると、科学結社の方々による記憶の改竄も手に終えなくなってしまうのです」
「なるほどな。じゃあ、あの2人が科学結社とやらのメンバーだったとして、何で戦っているんだ?」
密かに湖晴が言った『科学結社の方々による記憶の改竄』と言う言葉は無視して、俺は会話を進めた。細かい所を気にしていたら、何か大事な事が手遅れになってしまいそうだったからだ。
「科学結社は本来なら、別に悪さをする為だけの機関ではありません。ですが、それぞれの機関は他の機関の事を嫌う傾向にあります。ですから、何か問題が起きてあんな事になったのではないかと思われますね」
「問題・・・・・ね」
湖晴の言う事を俺視点で解釈し直すと、今2人が戦闘しているのはただ喧嘩ではなく、2人が所属する科学結社が関与していると言う事になる。更に、それぞれの科学結社が他の科学結社を嫌う傾向にある、と言う事は、あの2人は別々の科学結社に所属していると言う事実も自ずと分かって来る。
そして、俺の思考を邪魔しない様に暫く黙っていた湖晴だったが、やはり少し急いでいるのか、栄長に付いての次の情報を俺に報告する。
「では、次の報告をしてもよろしいでしょうか」
「ああ」
「次は、何故燐さんが次の過去改変対象者なのか、また、そうなってしまった経緯です」
栄長が過去改変対象者になった経緯。何なんだろう。音穏の時も阿燕の時もそうだった。あの2人にも犯罪を犯していたのには理由があった。つまり、栄長にもそうなってしまった何らかの理由があり、そして、起こしてしまった事件があるのだ。
「その前に、現在ビルの上で戦闘中の燐さんが使用している金属の棒について話した方が良いかもしれません」
「そんな事まで分かってんのか」
最近は情報を集める手段が多いとは言え、どうやってそんな秘密情報みたいなものを集めているのだろうか。これもタイム・イーターのチート的な機能なのか?
「燐さんが使用しているのは『瞬間空間転移装置』、俗に言うテレポーテーション装置です」
「・・・・・何かそんな気はしてた」
「え?次元さん、ご存知だったんですか?」
「いや、あの2人の戦闘シーン見てたらそんな気がしてただけだ」
そりゃあ、非現実的な事でも疑う訳にはいかないだろう。いきなり看板やら鉄柵やらが消えたと思ったら、別の場所に移っている光景を見せられたら。
「意外と次元さんって、直感が良いですよね」
「そうかもな」
今思えば、俺は意外と直感が良い人間なのかもしれない。今みたいに答えを聞く前に、正解を推測出来ている。学校のテストでも出来れば便利なんだがな。
「じゃあ、話を戻します」
「ああ」
「燐さんの持っているテレポーテーション装置は正確にはドラマみたいなテレポーテーションを可能にしている訳ではありません」
「ん?どう言う事だ?」
あの現象がドラマみたいなテレポーテーションでなければ、何だと言うのか。
「正確には、『対象物体を粒子レベルに分解して、それにエネルギーを加える事で物体の超高速空間移動を可能にし、端から見ると約0秒で対象物体が瞬間移動しているかの様に見えている』だけなんです」
「分かるか!」
俺にそんな長くて専門用語だらけで難しい内容が理解出来る訳無いだろ!今の説明中、湖晴が半分を言った頃くらいから眠気が差して来てたぞ!
「まあ、理解する必要もないとは思いますが」
「で?そのテレポート装置が栄長の過去とどう関係があるんだ?」
「これを見て下さい」
「ん?」
俺が質問すると、湖晴は再びタイム・イーターの立体映像を見せて来た。そこには先程の栄長の顔写真は表示されておらず、大量の文字と栄長とは別の写真がびっしり表示されていた。見ようによっては新聞記事にも見える。
「これは『この世界ではなかった事になっている事件』です」
「どう言う意味だ?」
画面には少々表現がグロくなってしまうが、鉄パイプが体を貫通している男子高校生の姿等が映っており、記事には『正体不明の殺人鬼登場』やら『未だに真相不明な難事件』などと言う見出しが書かれていた。
「つまりこの世界、『今私と次元さんがこうして話し、そして、あのお2人が戦闘を行っている世界の時間軸上では無かった事になっている事件』と言う事です」
「それって・・・・・」
俺には全く予想が出来ない。湖晴が次に何を言うのかなんて。だから俺は黙って湖晴の次の言葉を待つ。
「燐さんもしくは燐さんの所属する科学結社によって『過去が書き換えられた』か『事件を知る人物の記憶が改竄されている』と言う事になります」
栄長と白髪の男の戦闘している音が遠くの方で聞こえて来る中、俺は湖晴から情報を聞いて行く。そして、次第に事の全容が判明して行く。




