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Time:Eater  作者: タングステン
第三話 『P』
51/223

第14部

【2023年09月18日23時22分52秒】


 珠洲による様々なある意味で精神攻撃から逃げて来た俺は、俺の家の前に立っている栄長の元へと辿り着いた。


「どうしたの?随分遅かったじゃない」

「いやいや、こっちも色々あったんだよ」


 主に、と言うか、珠洲の中で何かが制御し切れなくなっていたっぽいからな。まあ、取り合えずは元に戻す事くらいは出来ただろう。ああ言う場面では、『保留』と言う回答が1番簡単で、適切なのだ。異論は認めない。


「で?こんな時間に何の用だよ。女の子が1人で夜道を歩くのは危ないぞ?」

「ん?あー、そっかそっか」

「?」


 俺が質問と注意をすると、栄長は何かを思い出したらしい。おそらく、その事に対して納得したのだろう。今の俺の台詞で思い出す様な事があるのか?


「(そう言えば、私が普通の女の子じゃないって事を『今』の次元君は知らないんだったわね)」

「今、何か小声で言わなかったか?」

「ううん。気のせい気のせいwww」

「だから、『www』は止めろ。イメージ下がる」


 見た目と世間体はかなり良いはずの栄長だが、3次元でしかも面と向かって堂々とネット用語を使われると、俺は大切な何かを失った気分になる。


 はあ・・・・・。本当に俺の前以外ではネット用語使ってないんだろうな。音穏とかに使うと多分『何言ってるか分かんない』って事になりそうだ。まあ、俺が心配する様な事でもないか。


「次元君にとっての私ってどんなイメージなのかなぁ?kwsk。kwsk」

「若干使い方間違ってないか?まあ、そんな事はどうでも良い」

「えー。私の質問の答えはー?」

「あと9分くらいで俺も家に帰らないといけないんだ!だから、さっさと用件を話せ!」


 珠洲との約束は10分以内に帰宅。しかも、今栄長との無駄なトークのせいで1分程度を消費してしまった。早く用件を言ってもらえないとかなり困る。と言うか、焦る。


「あ、もしかして、私が夕方に会った珠洲ちゃん?」

「先程は私めの妹が無礼をしたもので、大変申し訳なく思っております」


 いやもう、夕方の時は本当にすみませんでした。珠洲も珠洲だよな。俺はあの帰り道に栄長についてどう思っているのか、珠洲に聞く様な勇気は無かった。


 だが、少なくとも栄長は珠洲よりも年上である事は間違いない。だから、兄である俺は除いて、年上に対しては年上に対する態度ってもんがあるだろうに。


 ついさっきもそうだったが、今珠洲の身には何か精神的な異常が起きている。俺の知っている珠洲はあんな珠洲じゃない。その内、元の珠洲に戻ってくれる事を俺は望んでいる。


「www。良いよ良いよ。気にしてないから」

「ネット用語も使われ過ぎると流石に馴染んで来るな。で、用件は何だ?」

「昨日、次元君と入れ替わって私と対戦した人と今すぐ連絡取れる?」

「連絡を取る何も、家にいるぞ?」


 栄長が言っているのは、多分湖晴の事だよな?そうか、湖晴と栄長はまだ会った事が無かったな。でも、何で急に連絡なんて取りたがるんだ?


 まさか、リベンジしたいからゲームのID取れとか言いに来たんじゃないだろうな。でもまあ、湖晴は既にIDは獲得してるし、俺よりも強いんだけどね!あははは・・・・・ははは・・・・・。


「そう。じゃあ、今からちょっとお邪魔しようかな・・・・・って思ったけど、珠洲ちゃんがいるんだったわね。だから止めといてあげるわ」

「ああ。多分、俺も1回家に戻ると2度とここには来れないと思うから、スマホで用件伝えるだけで良いか?」


 実は湖晴が俺の家に居候して来てすぐくらいに、湖晴から『携帯電話の番号、交換して頂けますか?』と言われていたのだ。まあ、現代人なら携帯の1つは普通は持っているだろう。俺はほとんど利用していないが。


「ええ。大丈夫よ」

「文章はどうするんだ?」

「『こちらPhosphorus。Cobaltよ、応答せよ。上垣外次元はPhosphorusが捕獲した。』で」

「・・・・・ん?」


 何か、随分と切羽詰った様な文章だな。何かのアニメの台詞か?と言うか、『Cobalt』って何だよ。何処かで聞いた事はある気がするが。


「あれ、駄目?じゃあ、『Cobalt!私はPhosphorus!どうしても君の力が必要なんだ!だから、今すぐ私と契約して魔ほ・・・』」

「おいこら止めろ。それ以上は言ってはいけない」


 その先の台詞は駄目だ。元ネタが分かる人と分からない人がいると思うが、それは駄目だ。しかも、『契約』とかこの場面では全く関係無いだろ。


「『・・・う少女になってよ!』」

「うおーい!繋げなけりゃ良いって物じゃねえぞ!少しは自重しろ!」

「ははは。やっぱり次元君は面白いね。私のボケにしっかり突っ込んでくれるから」

「こっちはかなり疲れるのだが・・・」


 既に俺の体力パラメータはMAX時の10%を切っている事だろう。更に俺の眠気メーターは睡魔発動ラインまだ残り僅かだ。制限時間も大して残っていないし、早い所けりを付けなければ。


 俺がそんな風に少し焦りつつ、一応栄長の言った台詞をメールとして打ち込んでいると、栄長がかなり調子良く話し始めた。


「さて、じゃあ、今から本番行くよー」

「え!?さっきのが本番じゃねえの!?もう打ち終って、送信ボタン押せば良いだけの状態なのに!」

「わざとそのタイミングで言ったんだよwww」

「・・・・・」


 ひでぇ。・・・・・俺のこの気持ちを簡潔にかつ的確に伝える為にあえてもう1度言おう。『こ・れ・は・酷い』。


「準備は良いかーい?いえーい!」

「良くねぇ・・・・・」


 テンションが全く分からない奴だ。本当に。栄長だけは真の常識人だと思っていたのだがな。まあ、この考えも本当は今日の昼休みには破綻していた訳だが。


「ほらほら。元気出して。音穏ちゃんの裸体でも思い出して、目覚めて。覚醒して」

「思いださねえよ!?」


 急に栄長がとんでも無い事を口走り始めた。


「ほー。つまりは裸は見た事はあるんだ~(ニヤニヤ」

「み、見た事ねえよ!そりゃあお互いに子供の時は見てたかもしれないが、少なくとも中学生になってからは見てない!」

「ほうほう。でも、今日音穏ちゃんに聞いたんだけど、『昨日、温水プールに行った時に次元が自ら下敷きになって来たから、試しに胸を押し当ててみたら次元、めっちゃドキドキしてた』って言ってたよwww。これはどう言う事かな~?www」


 栄長に何て事教えてやがる、音穏の奴。てか、そんな事友達に言ってて自分が恥ずかしくなったりしないのか?意外とメンタルが強いのかな、この過去改変後の世界の音穏は。


「そら、男なら普通はドキドキくらいするだろ!そんな場面になったら!あと、俺は自ら下敷きになった訳ではなく、音穏がこけそうになっていたから代わりに・・・」

「言い訳乙。何処からどう見てもHENTAIです。どうもありがとうございました」

「・・・・・」


 止めろって。マジで。俺のメンタルが既に崩壊寸前なんだよ。もう良いから、俺に『栄長=(普通の)美少女』と言う固定観念を植え付けさせてくれ。『栄長=(ゲーマーで2次元住人で良く分からないキャラの)美少女』なんて嫌な固定観念は嫌だ。


「とか言ってる間に、残り6分!さあ、次元君は制限時間内に家に戻る事が出来るのか!そして、次元君の運命は!来週に続く!」

「続かねえよ!てか、来週までこの絡み出来ねえよ!」


 来週までここでゴチャゴチャしていたら、その内変なスイッチの入っている珠洲に殺される。いや、流石に殺されたりはしないとは思うが、説教は喰らう事だろう。


「次回予告!」

「だから、ねえって!」

「お願い、死なないで次元君!あなたが今ここで倒れたら、音穏ちゃんや珠洲ちゃんとの約束はどうなっちゃうの?ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、睡魔に勝てるんだから!次回128話『上垣外死す』。デュエルスタンバイ!」

「スタンバイしてんじゃねえ!次回なんてねえし、そもそも何で俺が死ぬんだ!てか、さっきから某アニメをパロって言うのは止めろ!規制かかったらどうするつもりだ!」


 てか、よくそんな長い台詞覚えていたな!しかも、音穏と珠洲まで台詞に放り込まれてるし!これが俗に言う『友情参戦』とかいう奴か!うん、全く違うな!


「そんな事言ってる間に、残り4分~」

「わあああ!さっさと用件を言え!ガチで時間が無い!」


 残り約4分。秒に直すと残り約240秒。240秒しかないんだぞ?睡眠時間に直してもたったの240秒だ。短すぎる。仮眠にもならない時間だ。もっとも、俺には仮眠などと言う概念は存在しないのだが。


「じゃあ、『私はPhosphorus。あなたがCobaltで良いのよね?ついさっきまで対戦してたのも、昨日次元君の代わりに私と対戦したのも』でお願い」

「今更だが、『Cobalt』って何だ?何処かで聞いた事がある気がするが」

「ほらほら時間が無いんでしょ?さっさとする」

「・・・・・」


 流石に長居は不味いと判断したのか、栄長がさっきまでのちゃらけた態度から、急に真面目な態度になり的確に用件を伝えて行く。


 もしかして、栄長は既に『SFADV』で湖晴と対戦したのか?さっきから『Cobalt』って単語がちょくちょく出て来ると思った。あれは湖晴のゲームアバター登録名だったのかもしれない。


 俺は今度こそ真面目な文章をタッチ画面で入力し、メールにして湖晴に送る準備をする。


「うんうん。良い子良い子。お姉さんが頭撫で撫でしてあげよう」


 栄長のその仕草はまるで『投げたフリスビーを飼い犬が持って帰って来た時』に使いそうな物だった。って、そうなると俺は飼い犬か!?


「送り終わったぞ」

「ありがとー。じゃあ、帰るかな。あ、そうだ次元君の携帯番号教えてくれる?」

「別に構わないが。・・・・・栄長って固定されたキャラがないよな」


 『栄長燐 キャラ判定:不明』と言うか、むしろキャラがありすぎて分類に困る。まあ、固定する必要性は無いが、何となく俺の周りには固定されたキャラの奴等が多いからな。分類したくなる。


「そう?まあ、次元君の前だからね。楽しくしないと♪」

「そうですかい。あ、メール帰って来たぞ」

「あ、そう?帰って来たんだ。文面は?」

「あいつの携帯のアドレス書いてある。多分『番号やるから勝手にメールして来い』って事だと思う」


 意外だな。湖晴が見ず知らずの人に携帯のアドレスを教えるなんて。まさか、湖晴の奴、自分の部屋から俺達の会話を聞いてた訳じゃあないだろうな。


 栄長の質問に答える事無く、携帯のアドレスを送って来たって事は『時間を短縮した事』に他ならない。湖晴が俺達の会話を影ながら聞いていたと仮定すると、これは湖晴なりの優しさなんだろう。俺にはもう、ほとんど時間が残されていないからな。


「へー、意外と気が聞く人なんだね。会ってみたいなー(チラチラ」


 湖晴から送られて来たアドレスを携帯に打ち込み終わったのか、栄長がチラチラとこちらを見たり見なかったりしながらそんな事を言って来た。あと、自分で『チラチラ』って言うのもどうなんだろうか。


「ああ、また今度な。今日はもう遅いし、残り時間もほとんど無い」

「うん。約束だよ?」

「分かってるって」

「でも、一応聞いとこうかな」

「?何を?」

「その人って、どんな人?外見の特徴で良いから」

「外見の特徴ねぇ。青髪で長髪でいつも白衣着てる様な奴だ」


 湖晴は多分、同世代でいつも白衣を着ているってだけでも充分にキャラが固定されいるよな。そう言えば、いつも白衣だよな。私服とか無いのか?白衣と水着と全裸なら見た事あるが。


「『長髪』?女装癖持ち?」

「いや、女だけど」

「だが、男だ」

「いやいや。『男の娘』の真相を説明するかの様な台詞は今は良いから。あと、同い年な」


 俺がそう言うと、暫く沈黙が続いた。


「・・・・・」

「・・・・・」


 そして、栄長が現世に帰った来たのか、突如大声を出した。


「えええええぇぇぇぇぇ!?」

「ちょ・・・!声がでかい!珠洲に気付かれたらどうするんだ!」

「女の子って、えええええ!?確かに友達がいる訳がない次元君の家に男友達が泊まりに来ているってのは何か変だなーって思ってたけど、でも、えええええ!?」

「まあ、普通はそうなるわな。あと、声でかい。もう少しボリューム下げてくれ。マジで」


 確かに、冷静に考えると年頃の女の子が男子高校生のいる家に泊まるってのは考え付かないわな。俺も全く予想出来なかったし。


 あと、これは普通はラッキーイベントだと思うが、泊まっているのは謎天然白衣少女の湖晴だからな。あんまり喜べない。珠洲の事もあるし。


 あと、栄長の声がかなりでかい。学校のチャイムくらいでかい。それで、珠洲だけでなくご近所さんにも迷惑を掛けては申し訳ない。と言うか、俺の立場が無くなる。


「ああ、ごめんごめん(テヘペロ☆」

「はいはい」

「で、何でそんな子が次元君の家に?」

「まあ、こっちにも色々事情があるんだよ。もうタイムリミットが近付いているから、詳しい事はメールで本人に聞いてくれ」


 残り時間は2分を切っているだろうか。早い所済ませなければ、珠洲に八つ裂きにされる。


「あ、その前に次元君のアドレス・・・・・」

「そう言えば、そうだったな。忘れてた」

「次元君は本当に忘れっぽいよね。今も『昔も』」


 そして、俺達は時間短縮の為に赤外線通信で互いのメールアドレスを交換した。


 って、これってよくよく考えてみると、『誰からも人気のある完璧美少女のアドレスを手に入れた』って事になるんじゃないか?・・・・・これが知られると、また栄長非公認のファンクラブの連中に危険に晒される事になりそうだ。


 そして、通信が終了し『登録完了』の文字が画面に表示される。


「よし。これで良いか?」

「うん、ありがとう。じゃあね、また明日」

「ああ。またな」


 やっと終わった・・・・・。これで俺は再び安眠行動に移る事が出来・・・、


「次元君!」

「どうした?まだ何か言い残した事があったか?」


 少し離れた所で再び栄長が話しかけて来る。言い忘れか?もう時間ねえぞ。


「これから、もしかしたら次元君の周りで不可解な現象が発生するかもしれない。でも、それは全部夢だから。起きたらそれが現実世界の出来事ではないって事が分かるから!」

「お、おう・・・・・?」


 何を言ってるんだ?一体。もしかして、栄長って電波少女なのか?それとも邪気眼的な何かなのか?


「だから、死なないで!絶対に!何があっても!」

「分かってるよ。俺が簡単に死ぬもんか」

「うん、分かった!じゃあ、今度こそバイバーイ!」


 少し離れた所から走り去って行く栄長を見送り、俺は軽く手を振る。生きるとか死ぬとかはあまり考えずに生活したいが、まあ、栄長があんなに何度も言うから、少しは気をつけて生活してみるか。


「・・・・・やれやれ」


 そうして、俺は玄関のドアをゆっくり開け、家の中に入る。


 ようやく、長い長い1日が終わった。後はもう寝るだけだ。湖晴から次の過去改変対象者が発表されるまで俺は平凡生活をエンジョイするのだ。


 俺が家に帰って来て階段を上がって自分の部屋に戻ろうとした時だった。ふいに背後から声が聞こえた。


「残り時間4秒。ちゃんと約束守ってくれたんだね。おにぃちゃん♡」

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