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Time:Eater  作者: タングステン
第三話 『P』
50/223

第13部

【2023年09月18日23時10分19秒】


 コン・・・・・。コン・・・・・。


 何処か遠くの方で、ガラスに何か硬い物が当たったみたいな音が聞こえて来る。


「何なんだよ・・・・・」


 深夜遅く。そんな音のせいで、俺は普段は起きない様な時間帯に目を覚ました。何なんだよ、一体。俺の安眠を妨害しよって。


 俺は寝惚けながらもカーテンを開け、窓の外を見る。そこには夜の暗くて静かな通りがあるだけだ。街頭の灯りはあるが、他には何も・・・・・、


「・・・・・ん?」


 よく見てみると、俺の方を見ている人影がある。俺はその人影を何処かで見た事がある様な気がした。その人影は赤毛でポニーテールとノーマルの長髪を合わせた様な髪型の女の子だった。


 ・・・・・て言うか、あれは栄長そのものじゃないか。こんな時間にこんな所で何やってるんだ?もしかして、栄長が石か何かを俺の部屋の窓に投げていたのか?それがさっきの音だったのだろうか。


 その時、俺は栄長が口パクで何かを言っているのに気が付いた。俺は読唇術は得意ではないので、正確に何を言っているのかを把握する事は困難だが、まあ、物は試し用だ。


「えっと、何々?『じ』『げ』『ん』『く』『ん』『お』『り』『て』『き』『て』か?」


 漢字変換すると、『次元君、降りて来て』だな。何度も言うが、こんな時間に何の用だよ全く。と言うか、よく俺の家が分かったな。音穏の家の近くだからか?


 俺は乗り気ではないが、女の子を1人で真夜中の路上に放置しておくのは流石に不味いので、取り合えずパジャマからジャージへと着替え、念の為スマホをポケットに入れて、外で待っている栄長の元へと向かった。


 その途中、湖晴の部屋のドアの隙間から明かりが漏れているのが確認出来た。湖晴はまだ寝てないのか。いや、俺が寝るのが早過ぎるだけか。現代日本の平均的な高校生は11時には完全に寝ている人は多くはないだろう。まあ、俺からしたら全く想像も出来ない事だがな。


 珠洲はもう寝たのか?ドアも閉まっているし、ドアの隙間から明かりも漏れていない。珠洲はかなりの常識人のはずだから、早寝早起きを心掛けていても何ら不思議では無いな。


 そんな事を考えつつ俺は個人の部屋が並んでいる廊下から、玄関へと繋がっているリビングへと向かう。10分ぐらいで帰ってくれば、流石に珠洲も気付かないだろう。・・・・・とか思っていたが、


「おにぃちゃん」


 そんな考えは甘過ぎたらしい。何時の間にか、リビングのテーブルに珠洲が座っていた。しかも、その隣には包丁らしき刃物がテーブルにほぼ90度で突き刺さっている。冷静に考えたら、かなりシュールな光景だ。


「す、珠洲!?」

「おにぃちゃん。どうしたの?今の時間はおにぃちゃんは絶対に起きない時間帯のはずなのに」

「いや、ちょっとな。・・・・・って、え?」


 珠洲が何でこんな時間にリビングにいるのかがまず分かっていないのに、更に1つ問題が出た。今珠洲は何と言った?『今の時間は俺は絶対に起きない』だって?どう言う意味だ?


「今までのワタシの記録によると、おにぃちゃんは夜11時4分16秒から朝6時39分41秒は何があっても絶対に起きない時間帯のはずなんだよ?なのに、どうして?」

「え?何でお前、そんな事を・・・」

「ワタシはおにぃちゃんの事なら何でも知ってるよ?例えば、おにぃちゃんの睡眠時間、1日の平均15時間49分32秒。おにぃちゃんの食事時間、1食あたりの平均34分17秒。おにぃちゃんのトイレの時間、1回あたり平均・・・」

「もう良いもう良い!と言うか珠洲、何でそんな事まで調べてるんだ!」


 これは非常に不味いかもしれない。珠洲に何か変なスイッチが入ってしまっている。まず雰囲気が何か変だし、話している内容もかなり異常だ。何で俺の私生活の平均時間を知っているんだ。俺自身ですら計った事なんてないのに。


「『何で』って?そんなの決まってるよ」

「え・・・・・?」


 そして、珠洲は笑顔で俺に答えた。


「ワタシは・・・おにぃちゃんの事が大好きで大好きで仕方無いからだよ♡」

「す、珠洲・・・・・」


 最近、珠洲は何かおかしい。今の状況もかなり異常だが、夕方の栄長にあった時もそうだった。普段は音穏達にすらあんな対応しないのに。それに、昨日のグシャグシャにされていた表彰状の件もある。この1週間くらいの間に珠洲の身に一体何があったと言うのか。


 そして、珠洲は俺に質問を続ける。普段とは違う雰囲気、声色で。


「それで、おにぃちゃん?本題に戻るけど、何処へ行こうとしてたの?こんな時間に」

「ちょ、ちょっと喉が渇いたから、コンビニにでも行って飲み物でも買って来ようか思ってな」


 ここは取り合えず、誤魔化し通すしかない。俺が真夜中に女の子(栄長)と会うなんて事を珠洲が知ったら、今珠洲の横にあるテーブルに突き刺さっている包丁によって殺されてしまう。いや、これはあくまで比喩的表現なのだが、洒落にならないかもしれない。


「飲み物なら冷蔵庫に沢山あるし、ジュースとかが良いのなら、夏休みに親戚から届いたのもあるでしょ?」

「い、いや、今日新作のコーラが発売されたらしくてな。それを買おうと思ってたんだ」

「そう。なら、ワタシが買って来るよ。だから、おにぃちゃんは部屋に戻ってて?」

「お、俺が行った方が分かりやすいだろ?それに、女の子を夜の路上に突き出す訳にはいかない」


 何で珠洲がここまで俺に突っ掛かって来るのか、俺には分からない。多分、珠洲自身が言っていた『珠洲はブラコン』であると言う事も関係あるのだとは思うが。


 そもそも、俺はこんな夜中に俺の家に何の理由で来たのか分からない女の子を帰らせる為に外に出ようとしてたんだしな。代わりに珠洲が出て行ってしまったら元も子もない。


 それに、今珠洲が外に出たら夕方に喧嘩してたばかりなのに、栄長と珠洲が遭遇してしまうじゃないか。


「おにぃちゃん」

「な、何だ?」


 そんな時、珠洲が静かに俺に言った。


「ワタシ、おにぃちゃんの言う事なら、何でも聞けるんだよ?」

「へ?」


 『何でも言う事を聞ける』って、いきなり珠洲は何を言っているんだ?俺は珠洲に何かを命令した様な記憶は無いのだが。


「おにぃちゃんが言う事なら何でも受け入れられる。恥ずかしい事でも、痛い事でもおにぃちゃんの為なら受け入れられるよ?」

「ちょ・・・・・!珠洲!何で服脱いでんだ!?」


 突然、珠洲が服を脱ぎ始めた。私服だった珠洲の裸体が目の前に晒される。


 珠洲の奴、何考えているんだ?珠洲は世間一般では品行方正・文武両道・才色兼備の自慢出来る完璧な妹じゃなかったのか?何が珠洲にそこまでさせるんだ。


「ワタシがどれだけ言ってもおにぃちゃんが止まってくれないなら、ワタシの体をおにぃちゃんにあげるよ。ほら、好きにして良いから・・・・・ね?」

「お、俺達は兄妹だぞ?近親相愛は法律で禁止されているし、そもそも俺はそんな事はしない!」


 下着姿になった珠洲がピトッと俺にくっ付く。見下ろしてみると、珠洲はやや顔が赤い事が分かった。やはり恥ずかしいのだろうか。体が触れている部分がほのかに暖かい。


 俺はこの突然起きた意味不明かつ意味深な場面に対して、どぎまぎしてしまっていた。だってそりゃそうだろう?


 何で夜中に少しだけ外に出ようとしたら、妹から注意を受けて、しかもこんな状況になるんだ?訳が分からない。と同時に理性の制御が辛い。

 

「おにぃちゃんだって、知ってるくせに」

「何を・・・」

「『ワタシ達が義兄妹』だって事を」

「・・・・・!何でその事を!」


 珠洲が俺達兄妹の秘密をあっさりと口にした。そう。俺と珠洲は実の兄妹ではない。2人共、子供が出来なかった父さんと母さんの養子なのだ。


 これまでも俺が珠洲との関係をやや遠回しな言い方をして来たのもこの為。俺と珠洲が血が繋がっていない。しかも、大抵の義兄妹の関係は片方が養子の場合が多い(アニメ知恵)が、俺達は2人共上垣外家の子供ではない。


 でも、この事はある事がきっかけで中学の時に両親に聞いた事がきっかけで発覚した事だ。両親によると、聞かれるまで言うつもりは無かったらしい。


 と言う事は、珠洲もその事を聞いたのだろうか。でも、両親はここ数年は海外で医師と看護師をしている。だから、唯一両親が帰って来る夏休みくらい聞ける場面は無いのだが、そんな素振りは見えなかったはずだ。


「結構前から知ってたんだよ?おにぃちゃんが先に上垣外家に引き取られて、その後に私が上垣外家に引き取られた。だから、私達は戸籍上は兄妹だけど、本当は血は繋がっていない」

「・・・・・っ!」

「だ・か・ら、良いでしょ?別に。女の子からこんな事言われるなんてこの先一生無いかもしれないよ?ワタシは幾らでも言ってあげるけど。フフッ」


 珠洲は少し笑いながら、そんな事を言った。そうだったのか、珠洲は全部知っていて、自分がブラコンである事を告白したのか。だとすると、それの本当の意味は・・・、


「駄目だ。珠洲」

「え?」


 俺は珠洲に正直に言った。幾ら実の兄妹ではなかったとしても、珠洲が今誘惑して来ている事は、絶対にしてはいけない事だ。これは学生とかそれ以前の問題だ。


 だから、俺は珠洲に正直に言った。『駄目だ』と。


「俺は今は珠洲の気持ちには答えられない」

「そんな・・・・・」


 珠洲が俯いて、悲しそうな声を出す。今のこの場面、ようは俺が珠洲の告白を断ったと言う事だ。珠洲の思いが本物なら確かに辛い事だろう。


 俺だって辛い。もしかしたら、こんな俺を好いてくれるのは俺達の兄妹関係を知ってしまっている珠洲の他にはいないかもしれない。でも、駄目なんだ。


「珠洲が俺の事を好いてくれているのは素直に嬉しい。だから、10分で良い。出掛けさせてくれ」

「・・・・・そう。なら良いよ。行って来たら?」


 珠洲は少し不貞腐れながら投げやりな態度でそんな事を言った。一応、外出は許可してもらえた。後は、10分以内で栄長の用件を聞いてやり、家に送り返すだけだ。


「ああ。ありがとう、珠洲」


 そして、俺はそう言って、大急ぎで栄長の元に向かった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 ・・・その頃[上垣外家リビング]


「あの赤毛ポニーテールめ」


「茶髪リボン、青髪白衣、金髪ツインテールに続いて、おにぃちゃんを盗もうとするなんて」


「許さない。絶対に許さない」


「おにぃちゃんはワタシの物」


「ワタシだけの物なの」


「さっき、おにぃちゃんはあんな事を言ってたけど、気にしちゃ駄目だ」


「多分、おにぃちゃんが言っていたのは『ちゃんと手順を踏め』って事だよね」


「フフッ。そうならそうと、分かりやすく言ってくれれば良いのに」


「ワタシは何処からでも大丈夫だし、何処まででも大丈夫なんだもん」


「その事はおにぃちゃんには伝わってなかったのかな?」


「でも、その内おにぃちゃんもワタシの事を世界で1番大事だって思ってくれるはず」


「それに、ワタシがおにぃちゃんに寄り付くゴミ虫共を全部駆除しちゃえば良いんだよ」


「おにぃちゃんの周りに纏わり付いて、おにぃちゃんを惑わすゴミ虫共は全部この世から抹消すれば良いよね」


「そうだよ。おにぃちゃんに近付く奴らはみーんな、殺しちゃえば良いんだ♡」

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