第10部
【2023年09月18日18時17分35秒】
「・・・・・・・」
俺は今良く分からない状況下にいる。出来るだけ具体的に説明したい所だが、さっぱり良く分からない状況なので仕方が無い。
カタカタカタ!
「・・・・・あの、湖晴さん?」
カタカタカタ!
取り合えず、この良く分からない状況を説明する為に、ここまでの経緯を1つずつ順を追って説明して行こうかと思う。
帰宅後、何とか珠洲による監視範囲を逃れた俺は湖晴の部屋に行ってみた。前に湖晴と約束した通りロボ作り(普通に兵器)を手伝う為だ。まあ、本音は純粋に俺がロボ作りとやらに興味があっただけなのだが。
ドアをノックをして湖晴の部屋に入ってみると、そこには横になりながらパソコンをしている湖晴の姿があった。いつも通りの白衣姿だが、うつ伏せに近い状態だった為、その豊満な胸が床に押しつぶされており、俺は少しドキッとしてしまった。・・・・・おっと、今はこんな話はどうでも良い。
湖晴も今日は特にする事が無く暇だったらしい。なので、昨日俺が1度だけ貸したネトゲの『SFADV』をプレイしていた様だ。何時自分用のパソコンを買って来たのか、何時ゲームをダウンロードしたのか分からないが、異様なまでの手際の良さだ。そして、決断力の早さだ。
それに、俺がロボ作りを手伝うと言う用件を言う前にゲームの進行具合を聞いてみた所、既に俺よりも熟練者になっていた。具体的に言うと、湖晴のアバターのレベルは俺のアバターのレベルの軽く倍はあり、特殊アイテム等もほとんど獲得していたのだ。
『俺が教えた側なのに、何で湖晴の方が早いんだ!』とか言いたい所だが、昨晩の湖晴のキーボードテクニックを見てしまった後の為、そんな事はとてもではないが言えなかった。何でも要領良くこなしてしまうのが、照沼湖晴と言う女の子の特性なのだろう。
そして、丁度バトル終了後すぐの時間に俺が来たので湖晴はパソコンを閉じ、俺の用件を聞いてくれた。
その後、今に至るのだが、何故こんな事に?ロボ作りを手伝うとは言ったものの、その方面にほとんど知識が無い俺に手伝える事なんてたがが知れているもので、結局湖晴が1人でプログラムを組んでいる。
俺は湖晴になるべく兵器っぽくない物を作る様に言ったのだが、今現在俺の目の前にあるプログラム中のロボットは何処からどう見ても探査ロボットだった。うん、カメラ(らしき物)とかが付いていたので、おそらく探査ロボットの分類で大丈夫だろう。
カタカタカタ!
「・・・・・・・」
この様にさっきから湖晴はキーボードでひたすらロボットのプログラムを書いて行っている。数分前に1度だけ画面を見てみたのだが、良く分からない記号やら数字やらが画面中にびっしり書き込まれていたので、解読するのは諦めた。知識の無い俺にとったらそんな光景は異世界文字と同義だ。
それにしても、本当にキーボード叩くスピードが俺なんかとは違うよな。『キーボード早打ち選手権!』とかあったらそれなりの結果が残せそうだ。まあ、世界中の何処かでは開かれている事だろう。暇な時間が出来たら調べてみるか。
カタカタカタ!タンッ!
すると、プログラムを書き終えたのか、湖晴が手を止めた。そして、湖晴はその可愛らしい顔を俺の方に向けて、話し掛けて来た。
「次元さん。一端休憩しますか」
「そうだな・・・・・って、俺は何もしてないんだが」
「いえいえ。さっきロボットを組み立てたではありませんか」
「99%完成してた奴をね!」
俺が仕事をしたと言えば、先に湖晴がほとんど組み立て終わっていたロボットに1つだけパーツを付けるだけと言う、悲しい仕事だけだった。大量生産をする工場の流れ作業で働く人も『え?そんだけ?』と言ってしまいそうな仕事量だった。
「まあ、それはそうとして」
「それはそうとするんですか」
何か湖晴に話を変えられたぞ。まあ、今の話題を長く引き摺っていると俺の心が痛んで行くので、切り替えてもらえるのは嬉しいのだが。
「今日は特に何も以上は無かったですか?」
「異常って?」
「次元さんが気付いた範囲で良いので、『過去改変前と違う部分があったかどうか』と言う事です」
過去改変前と違う事と言っても、特に無いよな。音穏の過去改変の時は、研究所連続爆破事件が無くなり、爆風による音穏の大怪我は捻挫に置き換わった。阿燕の過去改変の時は、学校内で発生した謎の現象(鉄柵とか銃とか)が無くなり、阿燕の目の視力は戻り、ソフトボールが出来る様になった。
だが、最近は他に変わった所は無いと思う。と言うか、阿燕の過去改変から既に3日は経っている。今更何か過去改変前と違う事なんて見つかる訳無いだろう。
いや、ちょっと待てよ。そう言えば、クラスに転校生が来てたな。阿燕の過去改変が終わった次の日に、金曜日にも関わらずいきなり転校して来た文学少女の杉野目施廉が。
普通に考えたら、転校してくるのはキリが良い月曜日だろう。これももしかして過去改変の影響だろうか。俺が阿燕の過去改変の時に過去で動き過ぎたせいで、杉野目の過去を変えてしまったのかもしれない。
「金曜日にクラスに転校生が来たな。ちなみに俺の隣の席」
「・・・・・次元さん?子供が親に『今日あった事を話せ』と言っている訳では無いんですよ?」
「いや、知っているが。何か不自然でな」
「不自然?」
俺がそう言うと、湖晴は頭の上に『?』マークを出して不思議そうな顔をした。あ、ちなみに『?』マークは一種の表現方法なので、実際にはそんな物は出ていない。
「ああ。普通転校とかって、事前に連絡あるだろ?だが、クラスの誰もその事を知らなかった。しかも、何故か金曜日に転校して来たんだ。何か不自然じゃないか?」
「まあ、不自然と言ったら不自然ですけど・・・」
あれ?やっぱり検討違いだったか?確かに、主観的な意見ではこの事は不自然なのだが、客観的に見ると『転校生が来た』と言うだけだもんな。
「悪い。どうやら見当違いの様だ。忘れてくれ」
「いえ。何か変だと思った事は全部調べて行った方が良いですよ。一応、念の為に私が調べておきますのでその転校生の方の名前を教えて頂けますか?」
「名前か。杉野目施廉とか言ってたな。俺とか音穏並みに珍しい名前だよな」
俺の周りには一般的な苗字や名前の人が少ない。とは言っても、杉野目はその中でも特に珍しい。日本中を捜してもそう人数はいないだろう。
「杉野目・・・施廉さん・・・・・ですか?」
「ああ。そうだが」
湖晴が何かを考えている様な難しい表情をしている。もしかして、これまでの過去改変の時に知り合った事がある奴だったのか?それとも知り合いか?
「湖晴?どうしかしたか?」
「・・・・・いえ。杉野目施廉さん・・・何処かで聞いた事がある様な気がしまして」
「そうか。まあ、その内思い出すだろう」
「それもそうですね。他には何かありましたか?」
他は・・・・・特に無さそうだな。湖晴にはちょくちょく現状報告してるし。謎の不自然な転校生の事も話し終わったしな。
「いや。特に無いな。今話した件と前に報告した事意外には、な」
「そうですか。なら、私からの話はこれで終わりです。次元さんからは『過去改変前と違う部分があったかどうか』以外で何かありますか」
「それ以外か・・・・・」
つまり、俺が個人的に湖晴に聞きたい事があれば、この場で聞けるって事だよな。でも、俺が湖晴に聞きたい事って何だ?全然考えた事無かった。湖晴の『タイムトラベラーになった経緯』を是非とも詳しく聞きたい所だが、おそらくそれは湖晴の過去に関わって来る。
俺は音穏や阿燕の事が会った後なので、そう言う事に対して敏感になってしまっているだけなのかもしれないが、それでもやっぱり湖晴だけには辛い思いをして欲しくない。だから、俺は湖晴に過去の事を聞かない。今も、これからも。
「?」
俺が暫く黙っていたからだろうか、湖晴はキョトンと首を傾げてこちらを見つめている。今更ながら、よく俺はこんな可愛い子が屋根のした1つ、今は同じ部屋で2人きりなのに、よく理性を保っていられるな。意外と男と言う生き物は理性が強いのかもしれない。
・・・・・そんな事より、俺が黙り続けているからか、何か既に湖晴が泣きそうな顔になって来た。早く話題を提供しなければ。
俺と湖晴に共通の何かはほとんど無い。趣味関連では『SFADV』が唯一被っていると言って良いとは思うが、俺よりも湖晴の方がレベルが上になってしまった今では、尚更俺の惨めさを晒す事になりそうなので、『SFADV』の話題は止めておく事にする。
さて、これで趣味関連の話題提供は困難となってしまった。となると、やはりタイム・イーターや時空転移について聞く事になるのか。うん、何となくそんな気はしてた。と言うか、こうなる事しか予想出来なかった。
でも、何を聞けば良いんだ?聞きたい事は山程あるが、なるべく今までには無い質問をしたい。だが、過去改変以外には・・・・・ん?『過去』改変?
そうだ、何で俺は今まで俺は気付かなかったんだ。『過去』があれば、『未来』もあるだろう。これまでは考えもしなかった。過去改変ばかりに気が取られて、タイム・イーターが時空転移装置である事を忘れていた。ちょっと、この事を湖晴に聞いてみよう。
「よし。湖晴、話題が思いついたぞ」
「はい。どうぞ」
「タイム・イーターって未来に行け・・・」
「いけません」
「えっ!?」
即答かい!と言うか、未来に行けないんかい!時空転移じゃなかったんかい!
「何で?」
「そもそも、『未来』なんて物は存在しません」
夢も希望も無いって事か?そんな寂しい事言うなよ。
「厳密に言うと、これから出来る、と言う事なんです」
「詳しく頼む」
「この世界の時間軸上では私と次元さんがここで話している『今』が最終地点なんです。1番新しくて、1番遅くに出来た『今』なんです」
「うん?」
『今』がこの世界の時間軸の最終地点?湖晴さんは一体何を言ってらっしゃるのでしょうか?それが、『未来』が無いって事に繋がるのか?
「タイム・イーターはこの世界の時間軸上で時空間に歪みが出来ている場所になら何処にでも飛べます」
「最初に言ってたな。そう言えば」
音穏の過去改変の時に聞いた。過去改変のルールとか範囲とかその辺の事も一緒に。
「ですが、私達が時空転移の際に出発したのはこの世界の時間軸上で最も遅くに出来た時間の『今』である為、まだ存在していない『未来』に行く事は不可能なんです」
「なるほど・・・・・って、これは簡単に頷いちゃいけないよな」
現代科学では表向きは時空転移は不可能とされている。なのに、湖晴の持つタイム・イーターはその常識を覆している。だから、この事は簡単に納得してはならないだろう。多分。
「いえ、分からないのも無理ありません。大抵の人は完全には理解出来ませんから」
「つまり、『今』はどんどん上書きされて行くって事で良いのか?」
上書きと言うよりは、横に広がっていると言った方が湖晴に伝わりやすかったかもしれないな。
「まあ、そんな感じですね。簡単に言うと」
「でも、それだと俺達が過去改変をする為に過去に行っている最中も『今』が上書きされて行っていると言う事になるよな?」
「ええ。そうなります」
「つまり、俺達が過去に行っている時に『今』では俺達が存在していないと言う事になるんじゃないか?」
「そうなりますけど、何か問題が?」
「問題だらけだろ。人2人が行方不明になっている時間があるって事だろ?不味くないか?」
現代日本では年に10万人以上が行方不明になっているのを聞いた事がある。その内の何割かは後になって見つかったり、遺体で見つかったりしているのだろうが、そんな事件が自分の近くで発生したと考えるとそれはかなりの大事だ。
だから、たとえ存在感がほとんど無い俺でも『今』で行方不明になっている時間があるのなら、事件になってしまう事だろう。
「まあ、不味くないからこうして私は存在しているのですけど?」
「そうかもしれないが・・・」
「確かに、人2人が行方不明になるのは大事件です。でも、過去改変の決まりにあった通り、『過去に長時間滞在してはいけない』と言うのがその答えを導き出すヒントとなります」
「ヒント?」
過去改変のルールが今の問いの答えに繋がるのか。でも、どうやって?
「はい。この『過去に長時間滞在してはいけない』と言うルールは『過去』で会う事によって影響を与えてしまう人を少なくする為、と言う事もありますが、別の理由もあるんです」
「ほう」
「それが今次元さんが言った、人2人が行方不明になって大丈夫な結論になります」
「ん?」
「つまり、人が2、3日も行方不明になるのは大事件ですが、2,3時間ならなんら問題は無いと言う事です」
「まあ、そりゃあな・・・」
それを言ってしまうと、その通りだが、それで良いのか。随分と雑な処理方法だな。と言うか、思っていたより適当だな。もっと何か重大な意味が隠されていると思っていたのだが。
「なので、何の問題も無いんです」
「そうか。じゃあ、俺からの質問は終わりだ」
まあ、俺の聞きたい事は聞けたしな。これ以上は何も思い付かないな。それに、思い付いたらその場で聞けば良い事だしな。
「それなら、そろそろ作業を再開しますか」
「まあ、俺は見てるだけなんだがな」
カタカタカタ!
あーあ。湖晴が集中モードに入っちゃったよ。俺は適当にスマホでもいじって時間を潰す事にしよう。
そうして、俺と湖晴のロボ製作作業(99%以上は湖晴が担当)は続いた。完成された探査ロボットは取り合えず、何も無い湖晴の部屋に飾られる事になった。
仮にも女の子の部屋に、流石に家具類が全く無いのは可哀想だな。余っているのを見つけたら分けてやろう。部屋にパソコンと布団しかないのは質素すぎる。




