表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Time:Eater  作者: タングステン
第三話 『P』
46/223

第09部

【2023年09月18日16時50分58秒】


「あれェ?もしかして、そこにいるのは『リン』かァ?」


 人工知能のマグネの主人らしき、その白髪の男はそう言った。


 栄長とこの白髪の男が少なくとも知り合いなのは間違いないだろう。マグネが栄長の事を知っていたのと、栄長がさっきから何かに驚いているのと、今の白髪の男の台詞を総合的にまとめるとその様な回答は自ずと出る。


 俺は黙って2人の会話を聞く。話している内容は、俺にとっては全く分からない物だった。だが、2人のピリピリしている雰囲気が、何か重要な事柄を意味している様に思えた。

 

「久し振り・・・・・って事でもねぇかァ?『あれ』から大して時間経ってねぇしなァ」

「それで、何であんたが『また』ここにいるのかしら・・・・・?」

「あァ?一応言っておくが、まだ俺の目的は果たせた訳じゃあないんだぜェ?」

「また『彼』に何かするつもりなの?」

「『彼』?あー、そっかそっかァ。そう言う事もあったなァ。安心しろ、今回はそれとは別件だァ。オマエも知ってるだろォ?」

「今度は何をしに来たの?また私の邪魔をする気?」

「むしろ、その逆だと俺は思うんだがなァ。感謝されたいくらいだぜェ?まぁ、オマエがオレの邪魔をするのなら、少し考えなくちゃいけないがなァ?」

「こんな時間帯から争う事でもないわ。消えなさい」

「とは言っても、今はオレは単純にマグネを捜しに来ただけなんだがなァ。それに、一般人の目の前で残酷なシーンは見せらんないだろォ?」

「・・・・・あんた、もしかして『彼』の事を忘れてる?」

「いいやァ?覚えてるよォ?だが、かれこれ1年も前の事だァ。わざわざ細かい所までは覚えてねぇんだよォ」

「そう。なら、もう戯言は良いわ。さっさと消えなさい」

「はいはいーっとォ。ほら、マグネ、行くぞォ」

『はい!ご主人サマ!』


 そんな会話の後、マグネとその主人の白髪の男は、俺から手に持っていたマグネが映し出されている携帯端末を受け取り、歩き去って行った。一言くらい礼があっても良いものを。


 俺と栄長はその男が立ち去るのを暫く見ていた。俺は何が起こったのか分からないまま、栄長は何かを真剣に考えながら。


「栄長。あの人と知り合いだったのか?」

「・・・・・」


 俺は栄長に事の経緯を聞こうと思う。幾ら俺が部外者とは言え、目の前であんな意味深な会話をされると、どうしても気になってしまう。


「・・・・・そうね。知り合い・・・かな・・・一応」

「そうか」


 栄長はいつもよりもやや低くて小さい声で俺の質問に答えた。今栄長はさっきの白髪の男を『知り合い』とは言った。だが、とてもではないが仲が良さそうには思えなかった。


 流石にそこまでは俺が首を突っ込んでは行けない所だと思うが、やはり栄長は栄長で何か問題を抱えているのかもしれない。何か俺でも出来る事は無いだろうか。


「困っている事があるのなら、遠慮なく言えよ?少しくらいなら手伝えると思うから」

「うん・・・・・。ありがとう。次元君は『昔から』優しいね」


 栄長はこちらまで幸せになってしまいそうな笑みを浮かべた。


 それにしても、『昔から』ってどう言う意味だ?俺が覚えていない、栄長との過去の事か?音穏ならもしかすると知っているのかもしれないが。


「あ!おにぃちゃーん!おーい」


 その時、俺の背後から再び聞き覚えのある声が聞こえて来た。


 俺はその声が聞こえた後、後ろを向いた。すると、そこには俺の妹の珠洲がいた。買い物の帰りだろうか、右手に重たそうな袋を持っている。それに、服装が制服である事を考えると学校帰りにそのまま寄ったらしい。


 でも、いつもと袋が違う様な気がする。いつも珠洲が買い物をする時はビニール袋で持ち帰ってきていたが、今回は布製の手提げ袋だ。環境保全に目覚めたのか?


 ・・・・・ん?でも、まだ5時くらいだよな?部活はどうしたんだろうか。まあ、休みか何かだろう。試合の次の日だしな。


「よう、珠洲。帰りか?」

「うん!ちょっと『色々と必要な物』を買って来た帰りだよ~」


 そして、珠洲は満面の笑みで俺に答えた後、栄長の方を一瞬見て、俺に質問を投げ掛ける。


「・・・・・で、おにぃちゃん?そこにいる赤毛ポニーテールは誰かな?」

「え?」


 ヤバイ。珠洲から並々ならぬ殺気を感じる。早く適切に答えなければ俺の平凡なこの命が終焉を迎えてしまう。


「ク、クラスメイトだぞ?うん。クラスメイトだ」

「そうなの?でも、おにぃちゃんって、クラスに茶髪リボン以外に友達いなかったんじゃなかったっけ?」


 ぐっ。俺に友達がいないのは誰もが知る紛れも無い事実だが、ストレートに言われると辛い。そう言えば、俺の身近にいる人達に俺の友達と呼べる人はいなかったかもしれない。


 珠洲は俺の妹で、音穏は幼馴染み、湖晴は仕事仲間(?)の様なものだ。とすると、阿燕が唯一の友達と言う分類になりそうだが、阿燕はどう思ってくれているのだろうか。


 もしかすると、『友達の音穏の近くにいる男子』程度にしか思われていないかもしれない。・・・・・辛っ!これ以上は俺の精神力が持たない。あまり深くは考えないようにしよう。


 栄長はどうだろうか、何か微妙だな。友達と言う分類に入れるにはまだ日が浅い、と言うか俺が覚えている限りでは話したのは今日が初めてだ。


 それに、珠洲や音穏と違って別の肩書きがある訳でもない。だから、この場合はクラスメイトと言う大きなくくりに入れる事が適切であろう。


 俺がゴチャゴチャ考えていると、栄長が珠洲の『おにぃちゃんって友達いなかったんじゃなかったっけ?』と言うストレートに俺の心を抉る質問に答え始めた。


「そうね。私は次元君のクラスメイトよ」

「そう。ちなみにおにぃちゃんとは知り合ってどのくらい?」


 何でそんな事を聞くんだ、珠洲よ。俺が覚えているのは今朝からだが、栄長はそれ以前に俺の事を知っていたんだったな。


「うーん。私は中学の頃から次元君の事を知っていたけど、次元君は忘れちゃってるみたいなんだよねー」


 そうか、そう言えば、音穏も『中学の時に同じクラスになった事もある』とか言ってたな。それなら中学の時から俺の事を知っていても納得できる。俺が覚えていなかったと言う事は納得出来ていないが。


「・・・・・プッ。ダサッ。忘れられてやんの」


 すると、珠洲が小声で何かを言った。俺には何を言ったのかは聞こえなかったが、栄長には聞こえたらしく、2人の会話が始まる。


「それで、あなたは次元君の妹さん?で、良いのよね?」

「うん、そうだよ。ワタシはおにぃちゃんの妹の上垣外珠洲。アンタは?」

「私は次元君のクラスメイトの栄長燐よ。音穏ちゃん達とも仲良くさせてもらっているわ。これからよろしくね、珠洲ちゃん」


 それぞれの自己紹介が済んだ後、栄長が珠洲と仲良くしたいと言う意思を表明した。当然、珠洲もそう言うと思っていた。だが、珠洲が言った台詞は全くもってその逆だった。


「い・や・だ♡」

「っ・・・・・!」

「おい、珠洲何言ってるんだ?栄長もこう言ってるんだし、仲良くすれば良いじゃないか」

「えー。ワタシはおにぃちゃんさえいてくれれば、他には何も要らないんだよ?」


 珠洲の幸せって俺がいるだけで良いのか?随分と安い幸せだな。と言うか、ずっと2人・・・今は湖晴が居候してるから3人か。でも、一緒に住んでいる訳なのだが、それでは不十分なのか?


「・・・でも、しょうがないね。おにぃちゃんにそう言われるとワタシも赤毛ポニーテールと仲良くしないといけないか」


 そう言った珠洲は栄長に小さな声で『これからよろしくね』と言った。


 あー、ビックリした。珠洲がいきなりあんな事を言うなんて。珠洲が同世代以外の女子の事があまり好きではないのは知っているが、それでも初対面の人に言う台詞ではないだろう。栄長もかなり驚いていたしな。


「悪いな、栄長。珠洲が変な事を言って」

「別に気にしてないから大丈夫よ。さあ、帰ろう?」

「!」


 そんな事を言って、栄長は俺に腕に手を通してくっ付いて来た。その拍子に栄長の胸が俺の腕に当たった。昨晩も湖晴の胸が俺の背中にあったのだが、何でまたこんな事に。ラッキーイベント・・・・・なのか?


 今俺の腕に当たっている柔らかい『何か』は、大きさ的には湖晴の方が大分大きいと思うが、それなりに栄長も充分・・・・・って、俺は何を暴走してるんだ!?


「いやいやいや、ちょっと待て栄長!何で俺の腕にくっ付いているんだ!?」

「?駄目だった?」

「駄目とかじゃなくてだな、その・・・胸が当たってるから・・・・・」

「え?なぁに?聞こえなーい聞こえなーい」


 絶対聞こえてるだろ。『聞こえなーい』が思いっきり棒読みだったぞ。


「おにぃちゃん・・・・・?」

「ハッ!」


 俺が我に帰って後ろを見ると、そこには唖然としている珠洲の姿があった。


「『ただの』クラスメイトでしょ?なのに、そんな事までするの?」

「いや、ちょっと待て珠洲!俺が望んでした訳じゃ・・・」

「あら、やっぱりそう言う事?」


 俺が珠洲に必死に今の状況について弁解しようとしていると、栄長が何かを理解したらしく、そんな事を言った。何が分かったと言うのか。


「もしかして、珠洲ちゃんって次元君の事が好きなんだ?」

「お、おい・・・栄長・・・」

「そうだけど?何か問題でも?」


 おいおい。栄長も栄長だが、珠洲も珠洲だ。何でこんな所(公園内)で珠洲がブラコンである事を広めなければいけないのか。


「別に。でも、兄妹では結婚出来ないんだよ?それなのに、そんな過度な愛情を次元君に向けていても良いのかしら?」

「・・・・・・・」

「フンッ。馬鹿じゃないの?まあ、アンタの持っている知識ではその辺までが限界だと思うけどね」

「どう言う意味かしら?」

「止めろって・・・2人共・・・・・」


 あれ?何で2人共口喧嘩してるんだ?俺が原因か?それにしても、『結婚』とか『愛情』とかそんな俺とは無縁な言葉が何でそんなに連呼されているんだ?


「そのままの意味だけど?この腐れビッチ野郎。早くおにぃちゃんから離れろ」

「仕方ないわね。珠洲ちゃんのその愛情に免じて、引いておいてあげるわ」


 そうして、栄長は俺の腕から離れた。少し残念な気もしたが、このまま栄長が俺にくっ付き続けていると珠洲の機嫌が悪くなる一方だ。おそらく、栄長もそれを察知してその状態を解除したのだろう。


「そ、そうだ、珠洲。その買い物袋持ってやるよ。重いだろ?」

「ん?大丈夫だよ?」

「女の子だけに荷物持たせる訳にはいかないだろ。それに、いつもとは袋の大きさ違うしな。店変えたのか?」


 俺は珠洲の機嫌を少しでも取る為に珠洲の持っていた買い物袋を預かろうとした。


「じゃあ、この袋はワタシが持っていくから、代わりにワタシのバッグ持ってよ」

「?それで良いのか?」

「うん!ワタシはおにぃちゃんがそう言ってくれただけで幸せだよ?」


 明らかに珠洲の持っている買い物袋と学生鞄では大きさが違うのだが、本人がこう言っているしな。別に構わなくても大丈夫だろう。そして、俺は珠洲から学生鞄を受け取った。


 その後、俺と珠洲と栄長の3人は一緒にグラヴィティ公園内を歩いた。栄長の家もこっち方向なのだろうか、さっきから俺達と一緒に歩いている。


 その間、特に会話は無かった。俺が2人の真ん中を歩く事で、なんとか喧嘩が始まる事はなかったが、それでも不穏な空気が伝わって来ていた。うーむ、息苦しい。喉が詰まりそうだ。


 そして、やっとグラヴィティ公園を抜けた時、この均衡状態の中で始めて栄長が口を開いた。


「じゃあ私、家こっちだから。また明日ね、次元君」

「ああ、またな。気を付けて帰れよ」

「うん。ありがとう」


 そうして、栄長と俺達は分かれた。


「さて、俺達も帰るか」

「うん。そうそう、今日の夜ご飯はカレーだからね」

「お。それは楽しみだな」


 そんな流れで俺の下校中の出来事の出来事は終わった。


 だが、ちょっと待って欲しい。この時の俺は気付く事は出来なかった、もしくは正しい解答に辿り着けなかった問題が幾つかあるじゃないか。


 まず1つ目だ。今の時間帯は本来、珠洲はクラブ活動中だ。なのに、何故このグラヴィティ公園に突然現れた?クラブが休みだったとか、クラブを休んだとかそんな理由でない、と言う事だけ言っておこう。


 次に2つ目だ。珠洲はいつもと違う買い物袋を持っていた。大きさも大きい。だが、珠洲は『夕食はカレー』だと言った。カレーならばそんなに材料を買い込む必要はないし、そもそも上垣外家では冷蔵庫から野菜が尽きた事は無い。


 だったらどうしてだ?答えは1つしかない。珠洲が持っていた袋にはスーパーで買った物なんて入っていなかったのだ。『何か別の物』が入っていたのだ。まあ、その事に俺が気付くのは、この時から約3日後の出来事なのだかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ