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Time:Eater  作者: タングステン
第三話 『P』
45/223

第08部

【2023年09月18日16時45分27秒】


 それはともかく放課後、グラヴィティ公園内。今は音穏は軽音部でおらず、俺は1人で帰っている。思えば、結構久し振りな気がする。俺には音穏の過去改変前の記憶があるから、尚更かもしれないが。


 あと、公園内には見渡す限り他に誰もいない。そもそもまだこんな時間だ。クラブに入っている生徒の人数が8割を越える原子大学付属高等学校の生徒はいないし、会社帰りのサラリーマン等もいる訳がない。


 それはそうと、今日は朝から栄長関連で色々とあった。出合った直後に抱きつかれるわ、それをクラスメイト全員に見られるわ、クラス中の視線が冷たいわ、ファンクラブの連中から呼び出しを喰らうはわ。それはもう散々だった。


 あと、栄長が2次元住人である事が発覚した昼休みの後、教室に戻った俺達を待っていたのはクラスメイトの冷ややかな視線だった(勿論、俺にのみ向けられている)。しかも、午前中と同様に俺に突っ掛かって来る『リンちゃん親衛部隊2nd』の連中も後を絶たなかった。


 言い訳をしても、クラス内での信用度が低い俺の言葉はおそらく信用されないので黙っていると、栄長と音穏が上手くフォローを入れてくれた上に誤解を解いてくれた。


 栄長が俺に抱き付いたのは、表向きの理由としては『上垣外と栄長は幼馴染みで、久々の再開を果たした時につい勢いでそんな事をしただけで、それ以上でもそれ以下でもない』と言う事になり、クラスメイトは取り合えずは全員納得してくれた・・・・・はずだ。


 本当の所は俺と栄長は幼馴染みでも何でもなく、ただネトゲの個人トーク内で約束した事をそのまま実行しただけなのだが。まあ、誤解が解けて何よりだ。明日からも学校では平和に暮らす事が出来る事だろう。


 今日は家に帰ったら速攻で寝よう。そうしよう。その方が健康的だ。と言うか、本音はただ単純に眠いだけなのだが。宿題も無いし、あってもしないし問題は無いだろう。


「・・・・・ん?」


 そんな時、俺は数メートル前に『路上に落ちている何か』を見つけた。あれは何だろうか。見た感じ、何か携帯端末の様に見えるが少し大きめだ。ゲーム機だろうか。


 落とし主が探していると可哀想なので、今から駅前の交番に届けに行こうと思う。阿燕の過去に大きな影響を与えたあの警官がいる交番に。まあ、過去改変が成功したこの世界ではその警官は阿燕を傷付けてはいないがな。何となくイラッとしてしまう。


 俺はその『路上の落ちている何か』の近くに歩み寄り、手でそれを取る。さっさと交番に届けて、帰って寝よう。・・・・・と思っていたが、例の如くそう簡単にはいかなかった。


 ガピー!


「うわっ!」


 突然、その『路上の落ちていた何か』が大きな機械音を上げ始めたのだった。俺が不用意に触ったから、何か異常が起きてしまったのだろうか。俺はあたふたしつつもその機械音を止める方法を探す。しかし、その機械音は数秒後には止み、画面を見てみると何か人の様なシルエットが表示されていた。


「何だ?これ」

『何だ、とは失礼ナ!』

「うわ!喋った!」


 その携帯端末が急に喋り始めた。まさか、対話可能とか人工知能内臓とかそんな感じの奴か?でも、あれって実現可能なのだろうか。更に、その携帯端末の画面に表示されていて人の様なシルエットは、アニメタッチの女の子の姿のイラストに変わっていた。


 ・・・・・俺はもしかして、また余計な事に首を突っ込んでしまったのではなかろうか。取り合えず、これを交番に届けないとな。持ち主も困っている事だろう。


『コラ!ワタシの話を聞ケ!』

「うわ!また喋った!」

『ワタシは4-6-24番携帯端末型人工知能プログラム、マグネ、ダ!』

「はあ・・・・・」


 この状況は一体何だ。何故この世界は、一刻でも早く帰って寝たい俺の事を邪魔するのか。


『どうやら、ワタシはご主人サマとはぐれてしまったらしい。このままだとかなりマズイので、大至急探してくレ!』

「・・・・・えーっと、今から交番に届けに行くけど、それで良いか?」

『コウバン!?・・・・・コウバンって何だっケ?』


 意外と馬鹿な人工知能だった。


 その人工知能プログラムのマグネは画面の奥にあるパソコンで何やら調べた後、再びこちらを向いて喋り始めた。と言うか、何で携帯の画面の中にパソコンがあるんだよ。何でもありな世界観も少しくらい自重しろ。


『あ、分かったぞ!検索結果をまとめるとそれは、担当していた役割を辞める事、だナ?』

「それは『降板』な」


 惜しいな。字が違う。『ピッチャー降板』とかの『降板』ではない。変換ミスだろうか。


『そうか。じゃあ・・・・・これか!板金の一種、だナ?』

「それは『鋼板』だ。どうやったらそんなピンポイントで外せるんだよ。いいか?『交番』ってのは、ようは警官が何人かいる所だ。道聞いたら教えてくれたり、落し物を預けたりする事も出来る」

『も、もちろん知ってたゾ!?このワタシに分からない事はなイ!」


 今、分からない事あったじゃん。何なんだよ、こいつ。人工知能なのにプライドとかがあるのか?


「で、今からそこに届ける訳だが、それでも良いか?」

『良くなイ』

「何で」

『そんな降板などと言う未知の場所に連れて行かれるくらいなら、スクラップになった方がましダ!そんな事も分からんのか、このDQN野郎めガ!』


 プチッ!


 俺の頭の中で何かが途切れた音がした気がした。


「仕方無い・・・・・。持ち主の人には悪いが、これはここに置いて行くか。とても俺の手に負える代物ではなかった。じゃあな。適当に自転車にでも踏まれてスクラップにでもなってくれ」


 俺は満面の笑みでわざと無慈悲にそんな事を言って、その携帯端末を元の場所に置いた。


『ま、待て!ワタシをここに置いて行くのか!?最先端技術で製造された人工知能プログラムだゾ!?』

「人様に『DQN野郎』とか言う不良品の人工知能プログラムは、1度スクラップになって新しく作り直された方が良いだろ?」

『・・・・・・・』


 全く。せっかく人が親切にしてやろうと思っていたのに、酷い事を言われた。あんなの2度と助けるものか。さーって、寄り道もしなくて済みだし、早めに家に帰れそうだ。


『グスングスン・・・・・』

「・・・・・ん?」


 俺がそのまま帰ろうとしたら、背後から、正確にはさっきの携帯端末からそんな音が聞こえて来た。俺は流石に言い過ぎたかなと思い、その携帯端末の元へと戻る。


 ・・・・・俺は誰かを助けながらじゃないと生きられないのか?


「おーい。大丈夫か?」


 その携帯端末の画面に表示されているのはついさっきまでと同じ女の子のイラストだが、様子が明らかに違う。イラストのアングルも変わっているし。それに、泣いているのだろうか。しまった、やはり言い過ぎたか。


『ごめんなさい。ゴメンナサイ。ご免なさい。御免なさイ・・・』

「・・・・・・・」


 何か、これだとまるで俺が悪役みたいじゃないか。動くイラストでも人工機能だ。もしかしたら、ある程度に感情くらいは設定されているのかもしれない。


「分かったよ。お前のご主人様とやらを探してやるから、もう泣くな」

『本当ニ・・・・・?』


 そのイラストの女の子は涙ぐみながら、画面の中からこちらを見上げてくる。


「本当だ」

『ありがとウ・・・助かル・・・・・』


 俺的にはもうそろそろ体力の限界な訳だが、落し物を届けるにもその落し物が人工機能持ちならすぐに持ち主も見つかる事だろう。落し物が状況を話してくれるのなら、それほど難しい事ではないだろうしな。早い内に探してしまおう。


「じゃあ、まず、お前はそのご主人様とやらと何処ではぐれたんだ?」

『ココ』

「公園内か。はぐれたのは何時頃だ?」

『さっキ』

「さっき?何分くらい前だ?」

『15分くらいまエ』


 えらく最近だな。と言うか、15分前って俺が学校を出たくらいの時間じゃないか。こんな時間に出歩いていると言う事は、持ち主は社会人ではなさそうだな。『ご主人様』と呼ばれているあたり、女性ではないと考えても良さそうだ。つまり、主婦でもない。そして、俺と同じ原子大学付属高校の生徒である可能性も低い。


『ワタシがスリープモードになっている時にはぐれてしまったらしイ』


 こいつの主人はこいつをポケットにでも入れてたのか?まあ、そんな事はどうでも良いか。今さっき、俺が推測した内容の事柄から推測される答え、それは・・・


「もしかして、お前の主人ってこの近くに来たの初めてなのか?」


 こう言う質問が出るのは自然の流れだろう。15分前にこの公園に来て、こんな人工機能持ちの携帯を落とすなんて普通は一大事だろう。ここら辺をよく通る人ならば、物を落とした場合まずこの公園を探す。でも、こいつの主人はそれをしていない。つまり、この近くに来たのは最近ではないか、と言う質問が出来上がる。


 他にも、さっき言った通り『社会人ではなく』『(多分)女性でもなく』『近所の学生である可能性も低い』と言う事を考えると、別学区の学生と言う事が容易に判断出来るしな。学生では無いとしたら・・・・・無職の方かな。でも、無職の方はこんな人工知能を持つ事が出来るだけのアレがあるのか分からないので、選択肢からは外しておくか。


『ご主人サマは前にここに来た事があル』

「そうなのか?」


 でも、俺の推測ではこの近くには住んでいない様な気がするのだが。もしかしたら、『前に』と言うくらいだから数年前とかそんな単位で前なのかもしれない。


『1年前に1度だけ、ココに来タ』


 1年前に?それなら、ここの近くの地形を忘れていても何ら不思議ではないな。


「お前の主人はその時何しに来たんだ?」

『言えなイ』

「言えない?何で」

『一般人に言える事ではなイ』

「そうか。他に何か手掛かりは無いか?」

『物分りの良いヤツダ』


 流石にプライバシーもあるし、言えない事もあるだろう。まあ、深入りする事でもないしな。追求はしない。


 だが、正直言って、これだけの情報ではどうにもならない。それに俺にはさっぱり検討が付いていない。


『手掛かりかどうかは分からないケド、1つだけ言っても良さそうな事があった』

「ん?言ってみろ」

『ご主人は前にココに来た時に大怪我を負っタ』

「大怪我?」

『そうダ。それで、昨日まで入院していて、退院して後人探しの為にココに再び来タ』


 1年前、大怪我、入院、昨日まで入院?何処かで聞いた事がある組み合わせだな。・・・・・まさか、栄長の事か?こいつが今言った情報を元に俺の知識で考えると栄長以外にはいない。でも、そんな事は流石に無いだろう。


「もしかして、お前の主人って赤毛で長い髪の女の子か?」

『赤毛で長い髪の女?違ウ』

「違うのか」


 まあ、そんなに上手く話は進まないよな。あと、栄長は今頃1年間の入院生活中に学校であった事とかこれからの行事予定とかを聞いているはずだしな。1年間も休んでいて補修が無いのが凄いが。


『でモ・・・』

「ん?」


 そんな時、マグネが再び話し始める。


『ご主人サマは今オマエが言ったみたいな外見の女を捜していル』

「さっき言ってた『人探し』の事か?」

『そうダ』


 栄長もしくは栄長に似ている人をマグネの主人は捜している。その捜している人物が栄長であると仮定すると、栄長とマグネの主人は知り合いと言う事になる。でも、結論を出すのにはまだ早い気もするな。


「あれ?次元君?こんな所に突っ立って何してるの?」

「うわ!」


 突然、俺の背後から栄長が現れた。


「こんな所で何してるの?次元君」

「あ、えーっと・・・」

『あ!』


 俺が突然現れた栄長に今のこの状況を説明しようとしていると、マグネが唐突に大声を上げた。


『オマエ!1年前はよくもご主人サマヲ!』

「あら?お久し振りね、磁石ちゃん?」

「?」


 この2人(片方は人工知能)はやはり知り合いだったのか。でも、何だろうか。場が緊縛している。取り合えず、この緊縛した場を和ませると言う意味も兼ねて、俺は言葉を発する。


「俺が道端でこいつを見つけて、今からその主人とやらを探しに行こうとしてたんだ」

「何ですって!?」


 すると、今度は栄長がかなり驚いた表情をした。普段(と言っても今日しか知らない)の栄長は常に冷静で物事を客観的に判断できる奴だと思っていたが、今の栄長はそんな先入観を一切感じさせない、そんな表情をしていた。


 そして、栄長は少し間を置いて考えた後、俺に話し掛ける。


「次元君。それは絶対に止めておいて」

「何でだ?こいつ困ってるみたいだから、せめて手掛かりでも見つけてやっても良くないか?」


 俺も1回は見捨てたが、あれはマグネが悪い。俺の事を悪く言ったからな。


「駄目よ!こいつの主人は・・・」

「よォー。ったく、手間かかったぜェ?マグネ」


 栄長が台詞を言おうとしている時、何処からかそんな声が聞こえて来た。そして、その声の主の物であろう足音が少しずつ俺達の方へと近付いて来る。


「まさか、この声は・・・・・!」


 栄長が再び驚きの表情をする。そして、その声の主が俺達の前に姿を現す。見た感じ高校生くらいで、トゲトゲしている白髪の男がそこには立っていた。


『ご主人サマ!』

「ご主人様?あいつが?」


 そして、その男は続ける。


「あー疲れ・・・あれェ?もしかして、そこにいるのは『リン』かァ?」

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