第07部
【2023年09月18日12時58分36秒】
色々と収穫があった昼休みは終わったが、実はまだその続きがあった。そう、その昼休みが終わったすぐ後、午後からの授業が始まるまでの時間の事だ。
一通り栄長に聞くべき事を聞き終わった俺は、屋上から出る為に屋上と校内を繋ぐドアを通り、教室に向かおうとしていた。栄長は既に階段を降り始めている所だ。
その時、俺は何かの物音、この場合は轟音の様な物を聞き取り後ろを向いた。すると、真っ青な空に雲と共に浮遊している飛行船が俺の目に入った。
そして暫くすると、その飛行船に取り付けられているモニターに、今人気のアイドル須貝輝瑠の芸能人として充分なスペックを持ち合わせているその容姿が映し出された。
須貝は俺と同じ原子大学付属高等学校に通っている高校2年生だ。だが、須貝は入学当初から既に芸能人として活動しており、登校する事は稀にしかない。
また、剣道部の主将も任されているらしく、本人の負担は相当な物だと思うが、それなりに周りからの信頼度は高いと言う事が伺える。
今もニュースキャスターとしての仕事中のようで、浮遊している飛行船のモニターにその姿が映し出されている。
本職はニュースキャスターではないはずだが、飛行船によるニュース放送が盛んに行われている為、本職がニュースキャスターであると思われている節もある。
外見は芸能人としてのスペックは充分に揃っていると思う。鮮やかな色のポニーテールでスタイルも良く、同世代の男子からも同世代以外の男子からもかなり人気があるらしい。
別にファンと言う訳ではないが、俺も素直に『美しい』と思ってしまう。そんな話はさておき、須貝はニュースキャスターとして『今日のニュース』を読み上げ始める。
『それでは、今日のニュースのお時間です。先日発生した原子市第5研究施設の火災事件についてです。市の警察の調査によりますと、その研究施設の建てられている地域、及び火災後の現場の様子から推測すると外部からの放火の可能性は極めて低く・・・』
そう言えば、音穏の過去改変の時も、こんな風にあの飛行船が俺に異変を感じ取らせてくれたんだったけ。
相変わらず、放送する時間帯や場所を考えずにとんでもない内容の事を放送しているが、それが逆に良く働いたんだもんな。
それに、研究施設放火って音穏の件とはまた別に起きたのか?確かに、ここ原子市は研究所等の研究施設がかなり多く存在している為、事件が発生しやすいのも分かる。
だが、その分重要な施設が多く存在する為、他よりもかなりセキュリティ能力は高いはずなのだが。もしかすると、内部からの攻撃だったり、そのセキュリティを掻い潜って犯行をしているのかもしれない。
セキュリティシステムを考える人も大変だな。
・・・・・そう言えば、俺が初めて栄長(当時はまだ『Phosphorus』)とネット上で個人トークをした時に『研究所が襲撃された』とか言ってた様な気がする。
気になった俺は一応、その事を栄長に聞いてみる事にした。
「なあ、栄長」
「ん?なぁに?」
既に屋上から校舎内へと通じる階段を降りようとしている栄長は足を止めて、そんな風に生返事をした。
そして、階段から戻り、俺の方に歩み寄って来る。
「あのニュースって、前に個人トークで俺に言ってた事か?」
「?あのニュース・・・・・?」
俺の言葉を聞いた栄長は暫く空を見回した。その後、飛行船を見つけた様子で、飛行船のモニターに表示されている研究所火災事件の記事を読むと、再び口を開いた。
「あー、あれか」
栄長にしては歯切れの悪くて、適当な台詞だ。
「うん。そうだね。前に言ってたのはあの研究所の事」
「そうか。悪かったな、呼び止めて。ちょっと気になってな」
聞く必要なんて無かったかもしれないが、時間はまだ少しだけあるので構わないだろう。今から教室に戻れば余裕で午後の授業に間に合う。
用件を済ませ終わった俺が階段の方に向かっていると、栄長は少し驚いた表情をして俺に話し掛けた。
「あれ?それだけ?」
「え?ああ、それだけだが」
「他に私が言ってた事は聞かないの?」
「他に言ってた事?」
栄長が他に言っていた事?何だったっけ?
俺が始めて栄長と個人トークをした時に、栄長が言っていた事は『死んではならない事』『もうすぐ会える事』そして『研究所が襲撃された事』の3つだけじゃなかったか?
他にも他愛のない雑談は多々あったが、大きく話題になったのはその3つだけのはずだ。他に何があったと言うのか。
「すまん。思い出せない。何言ってたっけ?」
「・・・・・」
俺が質問すると栄長は少し考え込み、数秒後、普段通りの笑顔で俺の方を向き答えた。
「何でもないよ。気にしないでね♪」
「そうか?」
「そうそう」
その栄長の態度は明らかに何かを誤魔化している物だったが、そもそも俺が話した内容を覚えていない為、特に追求はしなかった。
何か聞いた方が良かった事があったのだろうか。でも、それなら栄長は正直に言うはずだし、重要な事なら俺も忘れる訳はないだろう。
忘れていると言う事は『大して重要ではない事』に他ならないだろう。まあ、この事ももう忘れても良いかもしれない。さて、教室に戻るか。
そんな感じで俺と栄長は屋上を出て、校内へと向かう事の出来る階段を降りて行く。
背後からは、今だに世間のニュースを放送している飛行船の機械音と、そのニュースの原稿を読み上げる須貝の声が響き渡っている。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
校舎の屋上を出て、階段で校舎内に降りる俺と栄長。さっき、昼休み終了のチャイムが流れたから午後最初の授業である5時間目が始まるまでにはあと10分程度ある。
この昼休みは栄長の様々な事情を聞けて良かった。『俺の生存を確認する』と言う栄長の目的の意味が未だに分からないままだが、どうやって俺の行動を把握していたのかが分かったしな。
さっきから考えている事だが、湖晴に相談してパソコンのセキュリティのロックを強化してもらおう。あの湖晴ならそのくらい簡単に出来そうだしな。
しかし、俺としては栄長が2次元住人もといネットゲーマーであった事がややショックだった。ネトゲでランキングトップになるくらいだから、それなりだと思っていたがまさか日常会話にネット用語を持ち込んで来るとは思ってもいなかった。
全くの予想外。と言うか、普通は考えもしないだろう。『学校中の人気者の性格・容姿・その他ステータス抜群の美少女が、ネット用語を日常会話に自然に取り入れている』なんて事は。普段の生活に使用していなければ問題は無いと思うが、なんとなく心配だ。
そして、俺と栄長は屋上を出てから特に話す事もなく、黙々と2年2組の教室へと向かう。そして、その途中、職員室の前を通りかかった時に聞き覚えのある声が俺の耳に聞こえて来た。
「あ!次元ー、燐ちゃーん!」
職員室前であるにも関わらず、音穏が俺達に向かって大声で話し掛けて来た。俺は出来る限り目立ちたくないタイプの人間なのに、何て事しやがる。
それと、俺は見た事無いが、音穏のすぐ隣には長めのツインテールの女の子が立っていた。身長とか雰囲気的ににおそらく音穏の軽音部での後輩とかその辺だろう。
「よう。もう集まりは終わったのか?」
「うん!今から帰ろうとしてた所ー」
まあ、昼休み終了のチャイム鳴ったしな。話の途中でも終わらないと顧問の先生も大変だろう。顧問の先生も午後から授業があるはずだしな。
すると、栄長が音穏の横に立つ長めのツインテール女の子を見つめていたと思ったら、口を開いて話始めた。
「それで、音穏ちゃん。この子は?」
「この子はねー、飴山有藍ちゃん!軽音部の後輩。可愛いでしょ?」
「こ、こんにちはー・・・」
何か、音穏のテンションに付いて行けてない感が半端じゃないのだが。まあ、多分この子は元々静かな子なのだろう。
それにしてもこの子、小さいな。音穏もそこまで大きくないはずだが、かなり小さく見える。今俺が言っているのはもちろん『身長』の事だ。それ以外の何物でもないぞ。
そして、音穏は俺と栄長の事を音穏の軽音部の後輩の飴山へと紹介し始める。
「有藍ちゃん。こっちの綺麗な女の子が栄長燐ちゃん。で、こっちのボサッとしているのが次元」
誰がボサッとしてるって?いくら後輩に紹介するだけとは言え、酷すぎるだろう。別に弁解するつもりもないが。
「もしかして・・・噂の・・・・・?」
「噂?俺が?」
何時噂になったんだ?音穏が話したのだろうか。
「前に野依先輩が好ムゴッ!」
「有藍ちゃん?それ以上は言っちゃあいけないよ?」
「「・・・・・」」
飴山が何かを言いかけた時、音穏が急いでその口を手で塞いだ。これがクラブ内における格差社会と言う物か。後輩は先輩の言う事に絶対服従なのか。
・・・・・クラブ入ってなくて良かった。俺は格差社会は嫌いだ。全員全部が平均平凡平等であればそれで全てが丸く収まると俺は信じているからな。
音穏が飴山に制裁(口押さえ)をしている様子を俺と栄長は見ていたが、栄長が話始め、それから女子トーク(?)が開始されてしまう。
「本当に可愛いねー」
「あ、ありがとう・・・ございます・・・・・」
飴山は明らかに怯えてる。それもそのはず、さっきから栄長が怪しい目付きで、飴山の事を舐める様に見渡していたからだ。その2人の様子を見ていただけの俺でも少しゾッとしてしまった。
「今日集まったのって、2人だけなの?」
「ううん。違うよー。さっきまで皆いたけど、次は有藍ちゃんも出る事になったからその打ち合わせみたいな感じで残ってただけ」
「へー。軽音部って何だか楽しそうだよね。ギターとか弾けて」
「燐ちゃんって確か帰宅部だったよね?暇なら試しに入ってみる?」
「え?私?」
音穏に軽音部へと勧誘された栄長は、まるで『予想外の返答をされた』かの様な表情をした。そして、少し間が空いた後再び会話が再開される。
「私は・・・良いよ・・・・・。放課後は色々忙しいから」
「そう?まあ、気が向いたらまた来てみてね。基本的に音楽室で練習してるから」
「うん。ありがとう」
・・・・・何か、栄長のテンションが下がっている。もしかすると、エリートにはエリートなりの事情が存在するのかもしれない。
やはり、平凡こそが最強だな。平凡・平均・普通ならば悩む事なんて何も無いからな。特色なんて無い方が自分の為なのだ。
キーンコーンカーンコーン
そんな時、5時間目開始のチャイムが鳴った。
「え!?もうそんな時間!?2人共早く行こう!有藍ちゃんもごめんね!」
「うぅぅぅ・・・・・。私、教室北館なのにぃ~」
そんな事を言いながら飴山が泣きながら走り去って行く。可愛そうな事をした。それはそうと、俺達も早く行かないと。
その時、俺はある事に気が付いた。
「・・・・・って、栄長もういねえし!」
「え!?燐ちゃん早っ!」
そこには既に栄長の姿は無かった。どうやら栄長は既に教室に向かっているらしい。つまり、遅刻は俺と音穏の2人だけだった。
バタバタしていたが、昼休み終了から午後の授業の開始までにあった2つの事が終わった。
今回の話は特に意味が無いと思われても仕方がないだろう。だが、その甘い考えが後になって2つ悲劇を生むなどとは、この時はまだ誰も知らなかった。




