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Time:Eater  作者: タングステン
第三話 『P』
43/223

第06部

【2023年09月18日12時34分46秒】


 俺は栄長にこれまでの事について質問を続ける。


「次の質問だ。何故、毎日毎日俺に強制対戦を仕掛けて来たんだ?経験値が目的なら、もっとレベルの高いプレイヤーを狙った方が効率が良いだろ?」


 普通はどうでも良い事かもしれないが、この事は俺にとっては結構重要な事だったりする。前から言っている通り、『SFADV』では対戦に勝つと経験値がもらえるのだが、その対戦相手のレベルに応じて経験値は変化する。だから、俺みたいなレベルの低いプレイヤーを狙うよりはもっとレベルの高いプレイヤーを狙った方が遥かに効率が良いのだ。


 だから、俺はこんな事を栄長に聞いた。それに、栄長は中学時代の俺の事を覚えていても俺は栄長の事を何も覚えていないので、思いつく限りの些細な事から聞いて行った方が得策だと判断したからだ。


 そして、栄長は俺の質問に答える。


「それはね、次元君の生存を確認する為なんだ」

「俺の生存?何でまた」


 またさっきの話に戻ったぞ。大丈夫か、本当に。


「強制対戦を仕掛けたら、相手は必ずその対戦に参加しなければならないでしょ?私はそのルールを利用して次元君の生存を毎日確認していた」

「でも、俺がパソコンの電源を入れてなかったらどうするつもりだったんだ?」

「それは大丈夫。私は次元君のパソコンが何時起動しているかを把握しているから」

「ちょっと待て!何で栄長は俺のパソコンが起動している時間帯を把握しているんだ!?」


 まさか、セキュリティに引っかからない方法でハッキングとかしてないだろうな。


「それはまあ、適当に。ハッキング的な何かをしてたからかな?」

「そうだろうね!何か、そんな気はしてた!」


 もう嫌だ。家に帰ったらパソコン投げ飛ばしてやる。あ、でもそれはかなりもったいないか。アカウント変えて、メモリーを全部消せば何とかなるかもしれない。


「もー。そんな開き直らないでよwww」

「え?」

「え?」


 『www』?何だ今の。『w』とは『笑い』をローマ字変換した時の『warai』の頭文字を取った物だ。ようは笑っていると言う事なのだが、何でここでそんなネット用語が出て来るんだ?


 その事が気になった俺は栄長にナチュラルな探りを入れる。


「突然ですが、言語クイズです!俺が言った言葉を一定の法則に基づいて変換して下さい」

「おおー」


 パチパチパチ


 栄長は軽く手を叩いて、そのやる気を表現した。俺のクイズに答えるつもりはあるらしい。まあ、これで栄長がまともで普通な人間なのか、2次元住人なのかがはっきりする事だろう。結論はそれからで良い。


「『来たコレ』」

「『ktkr』」

「『固定ハンドルネーム』」

「『コテハン』」

「『情報源』」

「『ソース』」

「・・・・・」

「・・・・・ん?」


 これは・・・・・酷い。俺の想像以上かもしれない。


「次元君いきなりどうしたの(笑)?今の質問をした理由kwsk」

「」

「次元君草不可避」

「うわあああああ!!!!!」

「いきなりどうしたの(困惑)!?」


 なるほど。俺はこれから会って行く人達を容姿だけで判断せず、その中身は全くの別物として考えた方が良さそうだな。・・・・・だが、今回の件は一種のトラウマとして俺の脳裏に焼き付いたがな。


「何で日常会話でネット用語使ってるんだよぉぉぉ!!!」

「え?」

「『え?』じゃねぇぇぇ!!!3次元では普通に話せぇぇぇ!!!」

「だって、私1年間も入院してて暇だったし特に話す相手もいなかったから、ネット用語の方が使い易いんだもん!(テヘッ☆」


 そんな事を言って、栄長はさながらアニメのキャラの様に片目を瞑り、舌を少し出して惚けた。栄長は誰が見ても美しいと思える容姿だが、今の様なポーズをされると一層その可愛さが強調された。ただし、それまでの高貴な雰囲気はもう既に崩壊していたが。もう何もかもどうでも良いや。


 一応説明しておくと、さっき俺が栄長に聞いたのは『ネット用語』と呼ばれるインターネット内でよく使われる言葉だ。基本的にネットをあまりしない一般人なら知らないはずだが、栄長は俺の質問全てに答える事が出来た。つまり、栄長は見た目こそ高貴で可憐だが、中身は思いっきりネット世界の住人と言う事になる。


「はぁ・・・・・」

「まあ、そんなに思い悩む事ないよ」


 そんな事を言って、栄長は俺の肩をポンポンと軽く叩く。いやいや、俺が疲れ果てたのは主に栄長のせいだからな?その辺を分かってるのか?


「まさか、音穏の前とかでもそんな言葉使ってないよな?」

「大丈夫大丈夫。次元君とネット世界以外では使った事無いから」

「なら、良いんだが。でも、何で俺にはそんな砕けた話し方をするんだ?」


 砕け過ぎな気もするがな。お陰様で皆のアイドル的存在の栄長燐様の初対面の好印象が台無しになりましたよ。それに、俺にもかなり強烈なトラウマが残りましたよ、はい。


「次元君(笑)は特別な人だからね」

「何で、俺の名前の後に『(笑)』を付けるんだよ!俺の名前がそんなに変か!」

「だって『次元』って、ル〇ンの登場人物じゃあるまいし」

「おいこらやめろ」

「射撃の名手だった?」

「違う。『俺は』ただの一般人だ」


 小学生低学年の頃、担任の先生に言われてそれがクラス中に広まった事が結構コンプレックスになってるんだぞ。俺の過去の傷を抉るな。


「そんな話はさておき」

「さておくなよ!」

「でも、そろそろ昼休みも終わっちゃうし、話せる事は早めに話しておいた方が良くない?」

「・・・・・それもそうだが」


 栄長にひたすらディスられた後で、真面目な話をする気にはなれないだろ、流石に。でも、昼休みも残り10分だ。午後からは、またどうせクラス中から冷ややかな視線を集められる事になるのだから、今の内に色々と情報収集はしておきたい。


「それじゃあ、大分話が逸れたが、質問を再開する。良いか?」

「おk」


 自然に3次元でネット用語使うなよ。

 

「栄長が俺のパソコンの電源が入っている時間帯を把握していたとして、『俺が対戦をしない、つまりは不戦敗を選んだり』『そもそも対戦を仕掛けられたりした事に気づいてなかった場合』はどうするつもりだったんだ?」


 よくよく考えてみれば、何で俺はこんな質問をしているのだろうか。ああそうか、栄長が『俺の生存を確認する為』とか言う意味不明な台詞を言って来たからだったな。


 深入りするつもりは無いが、今まで強制対戦で苦しめられて来た者としては是非とも知っておきたい情報なので、一応聞いておいた。回答が得られれば、対策も出来るかもしれないしな。


 湖晴に言ったら、外部からのハッキングをブロックするシステムを作ってくれるだろうか。また今度聞いてみよう。


「いや、実際そう言う事もあったよ?」

「?どう言う意味だ?」

「私が強制対戦を仕掛けても『次元君が参加しないで、私が不戦勝になった事があった』って事」

「そうなのか?」

「うん。それと、次元君。パソコンは付けっ放しにしていると寿命が短くなるから、せめて寝る時くらいは消しておいた方が良いよ」

「あ、そうなのか。気を付けておこう」


 栄長は俺が『パソコンを付けっぱなし』にしていて、尚且つ『寝ている』時にも強制対戦を仕掛けて来ていたのか。そうならば、確かに勝手に俺が不戦敗になるだろう。


 補足しておくと、不戦勝・不戦敗はそもそも対戦をしていないので、経験値の移動はあっても記録には残らない。だから、俺は気付く事が出来なかったのだろう。


「あと、次元君は何か勘違いしてるみたいだけど、別に私は強制対戦を『1日に1回』とか決めてた訳じゃないから」

「え?」

「そりゃそうでしょ。何でゲームで『1日に1回』とか決めないといけないのよ。常考」


 だから、その最後のネット用語良い加減止めれ。見た目は可愛いのに印象が下がる。


 それはそうと、ここまでの話を整理しておこう。栄長は俺の生存を確認する為に『SFADV』で強制対戦を仕掛けて来た。で、俺が寝ていて気付いていない時以外は、常に俺のパソコンの稼動時間を把握して、その電源が入った瞬間に強制対戦を仕掛けていたと言う事か。


 ・・・・・あれ?でも、今の話だとわざわざ強制対戦を仕掛ける必要性が無いんじゃないか?


「一応言っておくけど」


 すると、栄長が俺の心を見透かしたかの様に話を再開する。


「次元君は多分『何で強制対戦を仕掛ける必要があるんだ?パソコンの電源が入ればそれだけで生存確認出来るだろう?』とか考えたと思うけど、それは少し甘い考えなんだ」

「何で」

「だって、『パソコンの電源は誰でも入れる事が出来る』けど『ゲーム開始時の個別パスワードは本人しか入力出来ない』でしょ?だから、強制対戦が通れば次元君がパソコンの前に座っているって事になる」

「あー、そう言う事か」


 俺以外の誰か、この俺の場合は珠洲か。が俺の変わりにパソコンを使ったと言う事も確認する為にわざわざ強制対戦を仕掛けていたのか。確かにその可能性も無くはないな。実際に何度か珠洲に貸した事もあるし。


「ま、お陰で経験値は相当奪えたけど(笑)」

「・・・・・そっちが本命なんじゃないのか?」


 今となっては極めてどうでも良い事なので、特に追求はしない。それに、俺は他にもっと気になる事があった。


「そう言えば、さっきからずっと気になってたんだが・・・」

「ん?何?」

「栄長が食ってる弁当の中身、何か変じゃね?」


 他人の弁当にケチを付けるのは人としてあまり良い行いではないと思うが、俺はさっきから(正確には音穏がまだ屋上にいた時から)ずっと気になっていた。


 栄長の隣に座っていた音穏の弁当が極めて普通だったので更に目立っていたしな。ちなみに、音穏の弁当はかなり野菜が多い。


「何で、弁当に薬みたいなのが入っているんだ?」


 栄長が手に持っているのは、普通の女の子が食べる様な小さめの弁当箱。その中身もご飯や野菜等の一般的な物がほとんどなのだが、弁当箱のおよそ5分の1を薬のようなカプセルが占めていた。正直言って、既に弁当ではなくなっている。もはや非常食だ。


「ああ、これ?」

「それ」

「私、元々栄養の摂取が得意じゃない体質で、しかも1年間も病院にいたから更にそれが悪化しちゃって。だから、こうやって普通の食べ物以外の栄養剤から栄養を補給しないとすぐに栄養不足になっちゃうんだ」

「そうなのか?」

「うん」


 何か、栄長にもそれなりの事情があったんだな。悪い事をした。と言うか、湖晴もそうだったが、意外と特殊体質の人って多いのだろうか。生活面でも色々と不便がありそうで大変だな。


 俺も『ロングスリープ』と言う病を患っているしな。・・・・・多分、これは病気ではなく俺の意思の弱さなのかもしれないが。


「それともう1つ聞いても良いか?」

「なぁに?」


 何故『ぁ』を入れる。


「成績って、大丈夫なのか?」


 俺はストレートな質問をした。だって、普通に考えて『1年間も入院してた』なんて言われたら普通は留年とかその辺の事を真っ先に思い付くだろう。特に成績が平均の極みである俺からすれば1年間と言うのはかなりでかい。いや、俺だけじゃないとは思うが。


「別に問題無いけど?何で?」

「問題無いの!?出席日数とかテストは!?」

「そっか、次元君にはまだ話してなかったか」

「何を」

「1年前に私の長期入院が決定した時に、担任の先生がお見舞いに来たついでに『出席日数が足りない分は定期考査で挽回すれば良いさ』って決め顔で言ってたから。だから、私は次元君とは違って1つも欠点無いよ?」

「マジ?」

「マジ」


 担任の先生が決め顔でそんな事を言っていたのは取り合えず放っておいて、足りない出席日数をテストの点で補うとかどんだけ頭良いんだよ。普段の俺なら恐ろしくて聞けないが、少しでも情報収集をする為に聞いてみる事にする。


「でも、出席日数の点は2年生になってからは0なんだけどね」

「ちなみにテストは何点くらいだったんだ?」

「100点」

「何時のテストの、どの教科だ?」

「私が入院してから行われたテスト全教科」

「え?」

「あ、でも1回だけ99点があったか。数字を書き間違えちゃって」


 俺の目の前にいるこの可憐な美少女は一体何なんだ。何者なんだ。


「何やったらそんな事になるんだ・・・・・」

「特に何もしてないけどね。全教科公式に当てはめて解いてただけだし、何時もテスト時間ギリギリまで使ってたし」

「『全教科公式に当てはめて解いてた』?数学や理科だけじゃなくて国語とか社会も?」

「うん。社会なんて、そんな教科書全部なんて覚えられる訳ないじゃない?だから、少しでも楽しようと思ってたら問題の法則を見つけちゃって」

「天才ですか?もしかして天才の方ですか?」

「むしろ逆だと思うけど?」


 俺の周りには不思議で天才な奴が多いな。栄長とか湖晴とかを見てると、つくづくそう思う。


 キーンコーンカーンコーン


 そんな時、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。結局、軽音部関係で職員室に呼ばれた音穏は帰って来なかったな。


「じゃあ、そろそろ戻るか」

「うん。そうだね」


 そうして、色々と収穫があった昼休みは終わった。

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