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Time:Eater  作者: タングステン
第三話 『P』
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第04部

【2023年09月18日08時24分26秒】


 登校中の音穏との会話の後、現在俺は自分のホームルーム教室である2年2組にいる。


 教室で窓際1番後ろにある自分の席に、俺はある事に気が付いた。教室内が少しばかりいつもよりざわついている様な気がする。あと5分くらいで1時間目の現国の授業が始まると言うのに、だ。まあ、そんな事を行っても俺には関係無いし、そもそも授業中は俺は寝るけどな。


 その時、俺は更に別の事にも気が付いた。


「あ、現国の教科書忘れた・・・・・」


 俺は現国の教科書を忘れてしまっていた。ノートやプリントは持ってきていたが、教科書だけ鞄には入っていなかった。学生鞄をどれだけ探しても無い。


 授業中はどうせ寝るから別に無くても大して困らない訳だが、やはり教科書を机に置いておいた方が『勉強してますよー。でも頑張り過ぎて疲れたんで、少し寝てるだけでーす』感が出てカモフラージュになっている・・・・・はずだ。


 たとえそうだとしても、どうしたものか。まだ少しばかり時間があるとは言え、俺は他クラスに友達がいない。もちろん、当然の事ながら同じクラスの音穏には借りに行けない。と言うか、借りてしまったら音穏が授業を受けられなくなって、迷惑を掛けてしまう。


 阿燕に借りに行くと言う選択肢もあるが、その光景を誤解する輩も少なからずいる事だろう。例えば、次の様な光景を想像して頂きたい。『他クラスの男子がクラスの女子に教科書を借りに来ている』と言う光景だ。


 どうだろうか。何となくだが、友達以外の何かの関係を持っていると誤解されそうだ。だから、残念ながら阿燕に借りに行く事は出来ない。俺が必死に頼めば人の良い阿燕の事だ、たとえ俺の事が嫌いでも貸してくれそうだ。


 俺がそんな風に考えた後、他の選択肢が無いと言う現実を逃避する為、うつ伏せになって睡眠活動に時間を費やしてどうにかやり過ごそうとしている時、何かが俺の視界に微かに入った。


 それは赤色の表紙のB5くらいの大きさの紙束だった。と言うか・・・


「・・・・・現国の教科書?」


 見てみると、それは現国の教科書だった。更に、それは俺の隣の席から左手でこちらに向けられている事が分かった。


 俺の隣の席はさっき登校中に音穏との会話で話題にもなった、金曜日に転校して来たばかりの大人しめで長髪の女の子の杉野目施廉だ。そして、俺は隣の席の杉野目の方を向いて話し掛ける。


「えっと、これは・・・・・?」

「忘れたんじゃないの?教科書」


 杉野目は右手で本を支え、左手で教科書をこちらに向けて、自身の視線は本の方に向けていると言う、高度な格好で本の方に視線を向けながら俺にそう言った。


 それにしても何で俺が教科書を忘れたと言う事が分かったんだ?俺は別に挙動不審になってはいなかったはずだが。


「え、ああ、忘れたけど。借りて良いのか?」

「いらないの?」

「でも、俺が借りたら杉野目が授業受けられなくないか?」

「大丈夫よ。私、教科書は全部暗記してるから」

「え!?マジで!?」

「ええ」


 俺の周りって記憶力の良い奴が多いのだろうか。湖晴も驚異的な記憶力の持ち主だったしな。と言うか、そもそも教科書丸暗記とか本当に出来る奴いたんだな。現実には何があってもいないと思ってた。


「じゃ、じゃあ、遠慮なく」

「はい」


 俺は少し情けない気持ちに駆られつつも、杉野目から現国の教科書を借りた。この場合は借りたと言うよりは、貸してくれたと言った方が正しいのかもしれないが。


 せっかくの機会なので少し話しでもしておこうと思う。どうせ音穏にまた聞かれるだろうし、隣の席だからまた助けてもらう事もあるだろうしな。


「えっと、金曜日に転校して来た杉野目施廉だよな?」

「そうよ」

「俺は・・・」

「上垣外次元でしょ?知ってる」

「あ、知ってた?」


 何か、テンポが全くぶれない奴だな。俺が勇気を出して話し掛けているのに、さっきから手持ちの本から視線が全然移動していない。


 それに、意外な事に俺の名前も知っていた。もしかしたら、クラスに馴染む為にクラスメイトの名前を先に覚えるタイプの人間なのかもしれない。単純に俺が隣の席だから、と言う理由で偶然にも知っていただけかもしれないが。


「ええ。『何年も前から』ね。特異点さん」

「え?」


 『何年も前から』?どう言う意味だろうか。俺は杉野目を知ったのは金曜日が初めてで、話したのは今日が初めてのはずだが。それに、『特異点』だって?ブラックホールの終着点のアレの事か?でも、俺とは全く関係無いよな。何なのだろうか?まあ、良いか。


 俺は無理矢理会話を繋げる為に、杉野目に話し掛ける。


「さっきから何の本読んでるんだ?」

「『新粒子の発見。その応用方法《2》』」


 『新粒子』とか言う単語を聞くと、それまた難しそうな内容だと思ってしまう。それに、さっき俺が席に着く時にチラッと見えたのだが、杉野目が読んでいる『新粒子の発見。その応用方法《2》』と言う本はかなり文字が小さい。具体例を挙げると、紙辞書並みに小さかった。


 しかも、ページ数にしてざっと400ページはありそうな厚みだった。俺は普段はあまり読書はしないし、読むとしても漫画とかその辺だ。なので、その膨大なページ数(俺の推測した数値)は想像を絶する物だった。


 それに、さっき杉野目はその本を『新粒子の発見。その応用方法《2》』と言っていた。まさか、何かのシリーズになっていてそれを全部読む気なのではないだろうか。シリーズ全体で何ページあるのか全く想像出来ないが。


 俺が次の話題を提供する為に試行錯誤していると、急にクラスがさっきよりも騒がしくなった。そして、クラス中から様々な声が聞こえて来る。


「あ、栄長さんだ」

「燐ちゃんおはよー」

「栄長さん、退院おめでとう」

「「「燐さまぁぁぁーーー!!!お帰りなさいませぇぇぇーーー!!!」」」


 ・・・・・最後のは何だ?教室内の複数人の男子から聞こえた様に思うが。そんな事よりは今はどうでも良い。俺はそこに教室に現れた女の子に目を向けた。


 その女の子、栄長燐は赤毛で大きめのリボンを付けたポニーテールとノーマルな長髪を合わせた様な髪型をしていた。それと、何やら身に纏っているオーラが違う。何処かの王宮のお嬢様みたいな高貴な雰囲気、そんな感じのオーラを纏っていた。


 そして、クラス中の生徒が今教室に来たばかりの栄長の元に歩み寄る。そんな中、既に話し終えたのか、音穏が座っている俺の方に歩いて来た。


「次元ー」

「ん?」

「あの子が燐ちゃんだよ?」

「まあ、そんな気はしてた」


 何人かのクラスの生徒が『栄長』とか『燐』とか言ってたしな。


「人気者だよねー。クラスの皆も燐ちゃんが帰って来るのを待ち遠しくしてたもん」

「何であんなに人気があるんだ?」

「それは、燐ちゃんは頭良いし、運動も出来るし、何よりも誰とでも打ち解けられる不思議な力があるからだよ」


 はい出ました、完璧超人。俺なんかとは違って、別世界に住む人種だ。ほぼ同じ時間しか生きていないはずなのに何でこんなに差が出るのだろうか。インタビューして参考にしたいくらいだ。いや別に、インタビューも参考もしないけどな。


 それに、今音穏が言った『誰とでも打ち解けられる不思議な力』って何だよ。随分とメルヘンチックな能力だな。ようは、誰とでも話せると言う事だろう。反対に俺はコミュ障(コミュニケーション障害者)だがな。


「最後の『不思議な力』って、具体的にどんなのだ?」

「うーん・・・まあ、多分次元には一生分からないと思うよ」

「?」


 音穏は俺に哀れみを掛けるかの様にそう言った。何か、コミュ障の俺にはそんな能力を理解する事は不可能とでも言うのか。

 

 その後、音穏は俺に問う。


「燐ちゃんの事、本当に覚えてない?」

「んー。覚えてないな」

「そっか。まあ、これからまた仲良くなれば良いよ」


 俺としては極めてどうでも良い事なのだが、音穏がどうしても話を進めたがる。


 するとその時、一瞬人込みの中に紛れている栄長と目が合った気がした。そして、栄長は周りにいるクラスの生徒達に『ごめんね、ちょっと道空けてくれる?』と丁寧に言って、俺と音穏の方向へと歩いて来た。


「あ、燐ちゃんこっち来たよ。燐ちゃーん。席ここでしょー?」


 そう言って、音穏は俺の1つ前の席をポンポンと叩く。


「え?そうなの?」

「そうだよ・・・って、次元知らなかったの?」

「まあな」


 良く考えてみればそうか。俺が『か』で栄長は『え』だからな。間に『お』のクラスメイトがいなければ、前と後ろの席にもなるだろう。


「音穏ちゃん。ありがとう」

「うん!」


 ようやく人込みを抜けて栄長が俺達の方に来た。その時に、栄長は少し驚いた様な表情をして、俺の隣の席で今も読書をしている杉野目の方を向いて言った。


「あら、何で貴方がここにいるのかしら?」

「上の指示よ」

「そう。でも、『次元くんに何かしたら』私は黙っていないから」

「その辺は安心してもらっても良いわよ。別に私は『何かをする為にここに来た訳じゃない』から」


 この2人、何の話をしてるんだ?と言うか、そもそも杉野目と栄長は知り合いだったのか。でも、2人共何やらピリピリとした雰囲気で話しているから、仲が良い訳ではないのかもしれないが。


 そして杉野目との会話を済ませたのか、栄長が俺と音穏の方向、より性格には俺の方向を向いた。


「次元くん・・・・・」

「ん?」


 そして、栄長は小さな声でそう呟くと、急に俺に『抱き付いて』こう言った。


「『ずっと会いたかった』」


 ・・・・・・・。


「・・・・・え?」


 俺は固まっていた。その状態を目撃していた音穏も固まっていた。その状態を目撃しているクラスメイト(およそ40人)も固まっていた。


 それもそのはずだ。退院後久し振りに学校に来た、アイドル的な美少女の栄長燐に、俺みたいないつも寝ていて特徴・特技が皆無な男子生徒が『抱きつかれていた』のだから。


「え、えーっと・・・・・これ、どう言う状況?」


 俺は気まず過ぎる教室内の雰囲気に嫌気が差し、何とかこの状況を打破する為に呟いた。すると、最初に口を開いたのは栄長だった。


「会いたかった・・・・・。私は『ずっと会いたかった』んだよ?次元君」

「それってどう言う・・・」

「「「えええええーーーーー!?」」」


 俺は栄長の言っている言葉の意味が全く分からず、どう言う意味なのかを尋ねようとするが、クラス内に響き渡る驚愕の声によって掻き消された。


 そして、クラスメイト達が好き勝手に色々と話し始める。俺に話し掛ける者はいないが、栄長に今の状況と台詞の意味を聞く者は多かった。


「え、栄長さんこれは一体どう言う状況!?」

「燐ちゃんいきなりどうしたの!?何で次元n!?」

「栄長さん、『ずっと会いたかった』って!?」

「「「燐さまぁぁぁーーー!!!早まってはいけないぃぃぃーーー!!!」」」


 ・・・・・何かまた最後に変なのが入ったぞ。取り合えず今回も無視の方向で。


 それにしても一体これはどう言う事だ。俺は栄長と面識が無い。俺が栄長について知っている事は音穏から聞いた『中学が同じ』で『1年前に事故で入院』していて『学園のアイドル的な存在で人気がある』事くらいだ。俺との接点は限りなく無い。


 それなのに、何故か栄長は恥らう事無くクラスメイトの目の前で俺に抱き付き、そして、『ずっと会いたかった』と言った。


 ・・・・・ん?『ずっと会いたかった』だって?この台詞、何処かで聞いた様な気がする。


 あ、そうだ。思い出した。昨日『Phosphorus』との個人トークで『Phosphorus』が明日会った時の合図として決めた物だ。


 あれ?と言う事は・・・


「・・・・・栄長。もしかして、栄長が『Phosphorus』なのか?」


 そして、クラスメイトの応対に忙しそうにしていた栄長はそう言った俺の方を向き、笑顔でこう言った。


「うん。そうだよ。久し振り、ディメンションさん」


 マジか。こんな人気者の女の子が『Phosphorus』だったのか。と言う事は今までの対戦で俺を平均2秒で倒してきたのも、ネットの掲示板で俺に攻略情報を提供してくれたのも、個人トークで俺の個人情報を流そうとしたのも、全部この子がした事なのか?


 俺は目の前の状況に思考が停止して、唖然としていた。これが事実だとしても、信じられるだろうか、こんな事が。


 ガラッ


 そんな時、教室のドアが開いて現国の教科担当の先生が戦場の様に殺伐とした雰囲気の教室に入って来た。


「そろそろ授業始めるぞー・・・ってお前ら、集まって何してるんだ?」


 その瞬間、教室内にいる全生徒の視線が現国の教科担当の先生に向けられる。


 今日はあまり良い1日にはなりそうもないな。

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