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Time:Eater  作者: タングステン
第三話 『P』
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第03部

【2023年09月18日07時09分29秒】


 モゾッ


「・・・・・ん?」


 ・・・・・カーテン越しに外から部屋に明かりが差し込んで来ている。もう朝か。昨日は夕飯後にゲームなんてせずにさっさと寝ておけば良かっただろうか。まだまだ全然眠い。


 それに、さっき『何か』がモゾッと俺に当たった様な気がする。何だろうか。気になった俺はその『何か』の方向を向いた。


「・・・・・うわっ!」

「おはよう。おにぃちゃん」


 そこにいたのは俺の妹の珠洲だった。どうやら俺の隣で一緒に寝ていたらしく、キチンと全身が布団の中に収まっている。


 この状況が気になった俺は思わず、珠洲に聞いた。


「な、何してるんだ?」

「おにぃちゃんの可愛い可愛い妹がわざわざ起こしに来たんだよー」


 珠洲は無邪気な笑顔をしながら、そう俺に言った。自分で自身の事を『可愛い』と言うのはどうなのかは分からないが、この際どうでも良い事だろう。


「俺はてっきり珠洲が俺の布団に潜り込んで寝てたのかと思ったよ」

「まあ、そうなんだけどね」

「え?」

「12時くらいに潜り込んだんだけど、気付かなかった?」


 全然記憶に無い。俺は12時なんて昼間意外には見た事もないしな。


「すまん、覚えてないな。俺は9時半には寝たから」

「それもそうだよね。おにぃちゃんは『その時間には絶対に起きない』もんね」

「じゃあ、そろそろ起きるか・・・・・って、おい!珠洲!どんな格好してるんだ!」


 俺が布団を出て着替えに行こうとした時、ふと『現在の』珠洲の姿が見えてしまった。その珠洲の格好。それはいわゆる『裸Tシャツ』と呼ばれる格好だった。


 ここで言う『裸Tシャツ』とは、学生服の下に着るシャツを裸の上に羽織っていると言う状態だ。しかも、今の珠洲はTシャツの下に何も着ていなかった。別に見ようと思って見た訳ではないが、珠洲のほっそりとした体のラインが見えてしまった。


 しかも、よく見てみると珠洲が着ているそのTシャツはもしかしたら普段俺が着ている物かもしれない。サイズが大きいし、そもそも珠洲が通っている中学の指定のシャツとデザインが違う(色とか校章とか)。


「で、何でそんな格好をしていらっしゃるんでしょうか・・・・・?」

「もー、おにぃちゃんったら、少しくらい発情してよー。せっかく可愛い妹が裸エプロンならぬ、裸Tシャツをして起こしに来てあげてるのにー」


 珠洲はプンプンと聞こえて来そうな感じに少し頬を膨らませてそんな事を言い始めた。その表情が世間一般の評判では品行方正・才色兼備・文武両道の珠洲の物とは思えず、俺は何となく微笑ましくなった。


 ・・・・・って、そんな事を考えている場合では無かったな。


「何で俺が発情しないといけないんだ!?」

「前にも言ったと思うけど、ワタシは何時でも襲ってきてもらってもオッケーなんだよ?」

「・・・・・」

「それなのに、おにぃちゃんが中々行動に移らないから、こうやってせっかくきっかけを作ってあげてるんだよ?むしろ感謝して欲しいくらいだよ」

「・・・・・」


 ついこの間知った事なのだが、珠洲本人曰く珠洲は『ブラコン』なのだと言う。『ブラコン』はご存知の通り『自分の兄弟の事が好き』と言う意味の言葉だ。世界ではどうなのかは知らないが、現代日本では中々珍しい属性だ。特に現実世界では。


 しかも、珠洲は何がしたいのか全く分からなく、さっきみたいに『何時でも襲ってきても良い』とか言う事を言って来る。俺としては流石に妹に手を出す訳にはいかないので、珠洲の台詞と行動を理性で回避している。


 一応、珠洲は戸籍上は妹だしな。言い方は悪いかもしれないが、世間的にも近親相愛は不味い。


「さー。そろそろ起きるかー」

「そう?襲わない?」

「襲わねぇよ!」


 何でそんなに誘惑してくるんだ。


「じゃあ、もう朝ご飯は出来上がっているから何時でも食べに来てね?」

「ああ。分かったよ」

「2度寝はダメだよ?」

「分かった分かった」

「なら良かった。ワタシは先に行ってるねー」


 そうして、珠洲は裸Tシャツのまま布団を抜け出し、リビングへと向かった。


 あ、俺のTシャツ返してもらえてない。まあ、食後にでも返してもらえば良いか。


 その後、一応Tシャツは返してもらえたが、それにはほんのりと珠洲の香りと暖かさが残っていた。何となくこれは兄として、珠洲の貞操が心配になるぞ。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 平日は毎朝通っているはずだが何となく久し振りな気がする、音穏とのグラヴィティ公園を通っての登校。ここグラヴィティ公園はかなり広めの公園で、現在は通勤中のサラリーマンや俺達と同じ原子大学付属高等学校の制服を着ている生徒がちらほらと見える。


 そして、俺には今現在俺の隣を歩いている、小学生の頃からの幼馴染みの野依音穏(のよりねおん)と言う女の子がいる。音穏は軽音部に入っていて、常に活発的な女の子だ。


 だが、そんな音穏は以前(過去改変前)に研究所連続爆破事件と言う重犯罪事件を起こしてしまった事がある。だが、俺はここグラヴィティ公園で偶然にも出会い、そして助けたタイムトラベラーの湖晴の力を借りて、音穏のその辛い過去を僅かながら捻じ曲げる事で、『現在』で起こった研究所爆破事件を起きない様にした。


 そう言う意味では、この公園は思いで深い場所と言えるだろう。俺の平凡な生活が終焉を迎えた主な原因でもあるが、音穏や阿燕の人生を救済する事が出来るチャンスを与えてくれた湖晴に初めて出会った場所だからな。


 そして、俺が色々と思い出に浸っていると、例の如く、隣を歩く音穏に話掛けられる。


「ねえ、次元。昨日は珠洲ちゃん、何か言ってた?」

「いや、別に何も」


 音穏が気にしているのはおそらく、昨日珠洲は試合があって皆で一緒に温水プールに行けなかった事についてだろう。珠洲自身は何も言っていなかったが、やはり昨日から少しだけ態度が変だった。


 いつもは俺が学校に行く時は見送りをしていたのに、今日は見送りに来なかったしな。俺としては、珠洲は海外出張の多い両親の代わりに家事のほとんどをしてくれているので、忙しくて見送りに来れないと言うのも理由の1つだとは思うが。


 それでも、やっぱりいつもと違う事は気になるし、何よりも見送りが無いのは寂しいものだ。


「本当に?」

「心配するな。あと、音穏は別に悪くないだろ?」

「そうかもしれないけど・・・・・」


 意外と音穏は物事を自分のせいだと決め付けたり、物事を過度に意識し過ぎる節がある。今は特に具体例は上げないでおいておくが、自分を責めている人を見るのは中々気分の良いものではない。ここは、軽くフォローを入れておくか。


「そんなに気にす・・・」

「せっかく珠洲ちゃんの水着姿を見れると思ったのに」


 ・・・・・ん?


「・・・・・」

「ん?どうしたの、次元?」

「いや、別に何でもない・・・・・」


 音穏が大の珠洲好きである事を忘れていた。と言うか音穏の奴、珠洲を誘ったのはそれが目的だったのか?


 そんな感じで、音穏はこんな風に時々百合属性を発動し始めるから俺は驚いてしまう。それにしても、何で音穏ってこんなに珠洲の事が好きなんだ?珠洲は友達以外の女子を嫌う傾向にある。そして、音穏も例外ではないのに、だ。嫌われているかどうかは問題ではないのかもしれないが。


「冗談はさておき」


 冗談なんかい!


「珠洲ちゃんが傷付いていたらどうしよう、ってずっと思ってたんだよ?これでも」

「音穏がそう思ってくれてる、って事だけは俺が珠洲に伝えておく。それで良いだろ?」

「うん!ありがとう!」


 音穏は笑顔でそう言った。


 さて、音穏が珠洲の水着姿を見たがっていたのはおそらく本音だろうが、この事を言ったら俺と音穏が珠洲に殺されかけないので、言わないでおいておこう。


 そう言えば、俺が珠洲の水着姿を見たのは俺が中学生、いや、小学生の頃だろうか。なので、全く記憶に無い。良い思い出も悪い思い出も時間が経つと忘れてしまうのが、人間と言う生き物だ。


「そう言えば、次元の隣の席に転校生来たよね」

「ん?ああ、そうだったな」


 そう言えば、金曜日に俺と音穏がいる2年2組に転校生が来た。長髪で、大人しそうな子だ。確か、杉野目施廉(すぎのめせれん)とか言う名前だった様な気がする。


 だから、俺が『か』で窓際の1番後ろの席で、転校生は『す』だから隣の席になったと言う訳だ。高校は1人席なので、隣の席と言ってもある程度は席同士で絶妙な空間がある訳だが。


 それで、何で都合良く俺の隣が空いていたかと言うと、1学期末に『す』のクラスメイトが転校して行ったからだ。そう言えば、俺の前の席も空いていたな。1学期始めから空いていたから病気とか不登校とかそんな理由だろう。


「で、どんな感じの子?」

「いや、俺いつも通り1日寝てたから話して無いんだが」

「えー。でも、少しくらいは見たでしょ?隣なんだし」


 音穏は何でそこまで転校生の事を知りたがるんだ。音穏としては人脈を増やしておきたいだけなのかもしれないが。


 と言うか、隣だからと言っても寝ていたら見れないだろう。あ、でもそう言えばずっと分厚い本を読んでいた様な気がする。授業中も。


「確か、本読んでたな」

「本?」

「ああ。参考書並みにかなり分厚いやつ」

「へー。文系女子ってタイプの子なのかな」


 転校生はあれで文系女子なのか?見た感じそんな風には見えなかったが。これはあくまで俺の直感でしかないがな。


「クラスの男子には人気があったみたいだけど?」

「そうなのか?」


 確かに自己紹介が終わった瞬間にクラス中(主に男子)から歓声が上がっていたり、休み時間に話しかけられたりしていたが。あれは人気があるって事なのか。


 と言うか、音穏も充分人気あるだろうが。自覚無いのか?


「『そうなのか』って次元も男子でしょ?」

「そうだが・・・・・。俺はあまりそう言う事を考えるよりも寝ていたいからな」

「そうですかい」

「そうですよ」


 何故か敬語になる俺と音穏。


 俺は色恋よりも睡眠を重視する派だ。と言うか、寝ないと多分死ぬ。『花より団子』ならぬ『花より睡眠』だ。こんな言い回し、全然上手くもないな。さあ、忘れよう。


 そして、音穏に無理矢理話を180度変えられる。


「そうそう。今日はなんとビッグニュースがあるんだよ」

「ビッグニュース?」


 芸能人にでも会ったのか?


「なんとなんとなんと、あの子が帰って来るんだよ!」

「あの子って誰だよ」

「土曜日の午前中に病院に行ったら『明日退院出来る』って言ってて、『月曜日から学校に行けそう』って行ってたからね」

「だから誰だよ。あの子って」


 先に誰なのかを言ってくれないと話が進まないぞ。


「覚えてない?中学でも同じクラスになった事あるんだけど」

「いや、その前に誰の事を言っているのかを教えて欲しいのだが」

栄長燐(えいながりん)ちゃんだよ!」

「栄長燐?」


 ・・・・・あー、思い出した。確か、1年くらい前に交通事故で大怪我を負った、学園のアイドルと呼ぶに相応しい容姿で、ファンクラブも出来ていると噂の同じクラスの女の子の事か。


 俺は全く記憶に無いが、今さっき音穏が言った通り中学でも同じクラスになった事があるらしい。音穏と栄長はそれなりに仲が良かったらしく、音穏は度々お見舞いに行っていた。俺は行った事が無いが。


 そう言えば、俺が湖晴に会う前、音穏が自分の異変を隠す為に『私、帰りに燐ちゃんのお見舞いに行って来るから』とか言ってた様な気がする。まあ、あれも過去改変前の出来事だから、この『今』の世界では無かったはず出来事なのだが。


「燐ちゃん、やっと学校に来れて嬉しいだろうなー。私も嬉しいし」

「そんなに仲が良いのか?」

「そりゃもうね。まあ、燐ちゃん可愛いし人脈広いから、1年間のタイムラグなんてすぐに取り戻しちゃうと思うけど」

「へー」


 1年間のタイムラグをすぐに取り戻せるくらい可愛くて人脈が広いと聞くと、どうしても想像が出来ない。どんな奴だったっけ。


「男子の次元的にはどうなの?そこら辺」

「どうと言われても。顔覚えてないし」

「そっかー。まあ、会ったら話しくらいしてあげてよね」

「機会があればな」


 俺はあまり人と話すのが得意ではない。俺は過度なロングスリーパーで、学校でも大半の時間を睡眠活動に費やしている為、クラスメイトとの友好関係を築く時間が他よりも圧倒的に少ないからだ。


 ましてや、全然覚えていない女の子と話すとなると少々不安にもなる。話している時に手が震えて、膝がガクガクしそうだ。


「機会は私が作るし、話題は私が提供するからご安心あれ!」

「はいはい。そりゃどーも」


 そんな事を話して俺と音穏はようやく学校に着いた。いつも通り、遅刻ギリギリの時間での登校だ。まあ、俺達が通う原始大学付属高等学校は遅刻にはそんなにペナルティが下されない為、もう少し遅く来ても大丈夫な訳だが。


 他の生徒はやや急ぎ気味で、おそらくそれぞれのホームルーム教室に移動している。そんな光景を視界に入れつつ、俺達は自分達のホームルーム教室へと向かう。


 そう言えば、栄長『リン』って音穏の話以外でも何処かで聞いた事がある気がする。まあ、気のせいだろう。

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