第02部
【2023年09月17日21時14分48秒】
ドンッ!
湖晴が『ファイナルオブレジェンドホール15/15』を設置し終わった瞬間、そんな轟音が聞こえて来た。
そして、パソコンの画面には俺のアバター(今は湖晴が操作中)を追い掛けて来た『Phosphorus』のアバターが崩れて行く地面に吸い込まれて行くのが見えた。
『ファイナルオブレジェンドホール』はその設置条件が多く、パーツが15個と言う膨大な量になっている事がネックになっている代わりに、個体差はあるものの1度対象範囲に入ってしまうと体力ゲージが数分間で無くなってしまう特殊効果、転移装置使用不可、落下の際に最深部に到達するまで行動不能と言った他の落とし穴には見られない特徴がある。
これらは『Phosphorus』にも当てはまる事で、おそらく脱出する事は不可能だろう。
「勝った・・・・・?」
これって、もしかして、あの『Phosphorus』に勝ったんじゃないか?『電光石火のリン』と言う異名を持つ勝ち星ランキングダントツトップのプレイヤーに。
「湖晴!スゲーよ!何でそんな事・・・」
「いえ。まだ終わっていませんね」
さっきまでは集中してキーボードで操作をしていた湖晴だが、俺が声を掛けると一瞬だけそんな台詞を言った。
まだ終わっていない?『ファイナルオブレジェンドホール』は豪快過ぎる名前から分かる通り、『SFADV』至上最強の落とし穴だ。たとえそれが『Phosphorus』だとしても脱出は不可能のはずなのに、だ。
「来ましたね」
「!」
『ファイナルオブレジェンドホール』発動から、その時間僅か65秒。崩落した地面から何かが勢い良く飛び出し、地上に着地した。それは紛れも無く『Phosphorus』のアバターだった。しかし、その体力ゲージは黄色ライン(残り2分の1以下)から赤色ライン(残り10分の1以下)になっており、落とし穴の最深部の環境がどれ程過酷であった事を物語っていた。
それにしても何て奴だ。あの『ファイナルオブレジェンドホール』をたったの65秒間で脱出するとは。あと数秒間埋まっていれば、落とし穴の特殊効果で湖晴が勝っていたのに。
「どうするんだ?こっちの初期体力は元々少ないのに、既に赤ラインだぞ?」
「大丈夫でしょう。それに、トラップは1度に2重に仕掛ける物ですよ?」
「え?」
次の瞬間、『Phosphorus』に向かって俺のアバター(今は湖晴が操作中)の背後から次々とミサイルが打ち込まれて行った。何時の間に仕掛けたのかは分からないが、湖晴の奴、落とし穴を脱出される事を想定して・・・・・。
俺よりも遥かに湖晴の方が戦略的だ。同じステータスのアバターを使用しているはずなのに、操作方法、操作速度、戦略でここまで変わるとは。
ピー!
その時、スタートの時と同じく笛の様な機械音が鳴った。これは、対戦終了の合図?そして、対戦結果がパソコン上の画面に表示される。
『ディメンション VS Phosphorus』
『YOU LOSE』
『TIME 00:10:01』
「あれ?負けた?何で?」
表示は何処からどう見ても『YOU LOSE』と書かれていた。湖晴が『ファイナルオブレジェンドホール』を仕掛け、それに『Phosphorus』が嵌り、体力ゲージを大量に削った挙句、脱出して来た『Phosphorus』に2つ目のトラップを発動し、勝負は決まった・・・・・はずだったのに。
「どうやら、タイムエフェクトが発生したみたいですね」
「タイムエフェクト?」
「はい。終了時間を見て下さい。10分1秒になっているでしょう?」
「ああ」
「おそらく対戦相手の方は対戦時間が10分を過ぎると『能力が解放される』様な設定をしていたのでしょう。だから、10分を過ぎた瞬間にこちらに攻撃を仕掛け、1秒で体力を削り切った、と言う事でしょう」
「マジかよ・・・・・・」
「マジですね」
今まで俺が戦って来た『Phosphorus』はあれで全力全開ではなかったのか。平均2秒で瞬殺して行く様な化け物だぞ?それの本気となったら、全く想像も付かない。実際、今もその瞬間を目撃出来なかったしな。
「それにしても、湖晴スゲーな。何でそんなに上手いんだ?」
「別に私は操作方法を記憶して、あちらの動きを真似してただけですよ?」
「いやいや、それにしても充分にスゲーよ」
「そんな事無いですよ」
あくまで謙虚に努めようとしている湖晴。だが、俺が対戦相手は『SFADV』勝ち星ランキングトップである事を話したらそれなりに驚くだろう。黙っておいて良かった。
「そんな事あるんだよ。これが」
「?」
「実は対戦相手ランキングトップの奴だったんだよ」
「え?そうだったんですか?」
普段はしない様な驚いた表情の湖晴。しめしめ、湖晴の珍しい表情を見る事が出来たぞ。
「ああ。つまり湖晴は、初見プレイでランキングトップの奴にあと1歩の所まで行ったんだよ」
「・・・・・通りでキーボード操作が忙しいと思いましたよ」
流石に思っていたのか。それもそうだよな。ブラインドタッチは当然の事ながら、キーボードを叩いている瞬間が全然見えない程早かったしな。俺なら3日間くらい筋肉痛になりそうな速度だ。
「何処であんなキーボードテクニックを取得したんだ?」
「・・・・・まあ、やっぱりロボットとかのプログラムをキーボードで書くのに時間が掛かるので、少しでも早くしようと思っていたらこんな速さになってました」
「ロボットか・・・・・俺も作ってみようかな」
前に言っていたアレか。それにしても、湖晴って性格が天然な事を除けば完璧なんじゃないか?偏差値80の学校を飛び級卒業し、ロボットのプログラムを書けて、そもそも記憶力と学習能力が高い。オマケに容姿も普通に良い。総合的に上中下の3段階で評価したら、上くらいには余裕で入るだろう。
そんな時、俺はある事が急に気になった。
「そう言えば、前に買っていたロボットのパーツってもう組み立てたのか?」
「いえ。まだですね。色々と過去改変の影響等の資料集めに時間が掛かりまして」
「そうか。また今度作る時に俺が起きてたら誘ってくれ。手伝うから」
「そうですか?ありがとうございます」
本音を言うと手伝いたい訳ではなく、俺が単純にロボットを作ってみたかっただけなのだが、ここは俺の評価を上げる為だけにこう言っておいた。
ポーン
そんな時、パソコンから何かを弾いた様な音が聞こえた。
何だろうか。まだ15分は全然経っていないから強制対戦ではないと思うが。まさか、別のユーザーからか!?
俺はやや困惑しつつパソコンの画面を見てみると、『個人トークに招待されています 招待元:Phosphorus』と書かれていた。
そうか、『Phosphorus』の奴、俺のアバターがいきなり強くなったからびっくりして個人トークに誘ってきたんだな。俺が操作した訳ではない、と言う事だけを伝えておこう。
「じゃあ、私はそろそろお部屋に戻っていますので」
「ああ。分かった」
「ありがとうございました。お休みなさい」
「お休みー」
湖晴が俺の部屋から出て行った後、俺は2度目の『Phosphorus』との個人トークに参加する。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
=『Phosphorus』さんと『ディメンション』さんの個人トーク=
001:Phosphorusさん ID:031515
白状しなさい
002:ディメンションさん ID:101010
はい?
003:Phosphorusさん ID:031515
さっきの対戦
どんなチート機能を使ったのか、バグを使ったのか知らないけど、それは良くないよ?
白状しないなら、この事をネット中にばら撒くから
それを見た他の人達はどう思うかしらね?
この私にそんな不正をしたと言う事実を一生後悔させてやるから
004:ディメンションさん ID:101010
ちょっと待てーーーーー!!!!!
俺は別にチートもバグも使ってないぞ!
俺の友人が代わりにプレイしてただけなんだ
変わり身を無断でしたのは悪かったと思うけど
005:Phosphorusさん ID:031515
・・・・・で、言い訳は済んだかしら?
後はこのENTERボタンを押せば、さっきの試合での不正の証拠映像映像とあなたの個人情報がネット上に流れる事になるけど
006:ディメンションさん ID:101010
待て待て待て!
俺は嘘なんか言ってないぞ!
さっきの対戦のアバターの動かし方思い出してみろよ、今までの俺と全然違っただろ?
007:Phosphorusさん ID:031515
・・・・・確かにそうだけど
でも、私のスピードに付いて来れる人はいないはずなんだけどね
じゃあ、貴方の個人情報は流さないでおくから、代わりにさっきプレイしてた人のID教えて
今からリベンジしてくるから
008:ディメンションさん ID:101010
リベンジも何も、勝ったじゃん
009:Phosphorusさん ID:031515
この私が10分もかかったのよ?
負けたも同じ
ほらほら、早く早く
010:ディメンションさん ID:101010
早くと言われても、あいつID持ってないんだけど
この場合どうすれば?
011:Phosphorusさん ID:031515
え?ID持ってない?
と言う事は今日1日貴方の代わりにプレイしてるだけって事?
元々何か別のネットゲームでもしてたのかしら
012:ディメンションさん ID:101010
いや、アンタが初戦の相手だ
直前に操作方法とか暗記してたし
013:Phosphorusさん ID:031515
ENTERボタンまで残り10秒
貴方の現実世界と仮想世界の人生が地獄にENTERするまで残り10秒
014:ディメンションさん ID:101010
だから、話を聞けって!
俺は何1つとして嘘を付いてないぞ!
015:Phosphorusさん ID:031515
と、言われてもね・・・・・(疑惑)
016:ディメンションさん ID:101010
疑われましても
017:Phosphorusさん ID:031515
まあ良いよ
今日の事は無かった事にしてあ・げ・る(誘惑)
018:ディメンションさん ID:101010
文字だけで誘惑とか書かれても
019:Phosphorusさん ID:031515
【悲報】ENTERボタンまで残り0秒
020:ディメンションさん ID:101010
え?押しちゃったの?
021:Phosphorusさん ID:031515
うん♪
022:ディメンションさん ID:101010
orz
023:Phosphorusさん ID:031515
大丈夫だよ
024:ディメンションさん ID:101010
何がですか・・・・・
人の個人情報ばら撒いといて
と言うか、そもそも何で俺の身元知ってるんだ!?
025:Phosphorusさん ID:031515
身元はともかく、私が付いてるから大丈夫(笑)!
026:ディメンションさん ID:101010
・・・・・
027:Phosphorusさん ID:031515
あ、ごめん
本気にしちゃった?
大丈夫大丈夫
私はそんな事しないから
028:ディメンションさん ID:101010
本当にですか・・・・・?
029:Phosphorusさん ID:031515
本当に大丈夫だから
敬語もやめてよー(泣)
030:ディメンションさん ID:101010
なら良かった
031:Phosphorusさん ID:031515
まあ、時間も時間だし、そろそろ切ろうか
続きはまた明日ね♪
032:ディメンションさん ID:101010
『また明日』?
また強制対戦仕掛ける気か?
そうならば、これからは1日に1回までして欲しいと言っておきたい
033:Phosphorusさん ID:031515
あー、そっちじゃなくて
034:ディメンションさん ID:101010
?どう言う意味だ?
035:Phosphorusさん ID:031515
『現実世界で』って事
036:ディメンションさん ID:101010
は?
037:Phosphorusさん ID:031515
まあ、会ったらすぐに分かると思うから
038:ディメンションさん ID:101010
何のこっちゃ
俺はもう寝る
039:Phosphorusさん ID:031515
ちょっと待って!
分かりやすい様に、一応合図を決めておこう?
何が良い?
040:ディメンションさん ID:101010
別に何でも良いよ
てか、何時会うんだよ
アンタは俺の顔を知ってても、俺はアンタの顔を知らないんだが
041:Phosphorusさん ID:031515
何時なのかはお楽しみ♪
じゃあ、会ったら私が貴方に抱き付いて『ずっと会いたかった』って言うから
よろしくー
042:ディメンションさん ID:101010
・・・・・
やな予感しかしないな
043:Phosphorusさん ID:031515
まあまあ、そんな事言わずに
じゃあ、そう言う事でね
明日が楽しみだなー(ワクワク)
-『Phosphorus』さんがログアウトしました
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
『Phosphorus』が更に分からん奴になってきたぞ。
『明日会える』ってどう言う意味だよ。それにしても、俺の個人情報がネット上に流出しなくて良かった。現実世界で『Phosphorus』と知り合いになっても弱みだけは絶対に握られない様にしないとな。何をされるか分かったもんじゃない。
それに、何で『抱き付いて意味深な台詞を言う事』が証明の合図なんだよ。確かに分かり易くはあるが、その光景を見た人に絶対に誤解されそうだよな。相手がオカマなら尚更。俺は『Phosphorus』に実際に会った事が無いから、オカマなのか正真正銘の女なのかは知らないが。
そして、俺はパソコンの右端に小さく表示されているデジタル式の時計を見た。
・・・・・もう9時半か。寝るか。
そうして俺はパソコンの電源を切り、部屋の電気を消し、布団に潜り込んで目を閉じた。




