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Time:Eater  作者: タングステン
第二・五話 番外編三
37/223

第03部

【2023年09月17日13時28分50秒】


「で、どうしたんだ?」


 湖晴に手を掴まれて引き止められた俺は、取り合えず元いた席に座り直し、湖晴の用件を聞く。今さっき冗談のつもりで言ったのだが、腹がまだ空いている事も関係しているらしい。実際の所、本題はその事ではないとは思うが。


「少し、相談事をしてもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ。俺なんかで構わないのなら」


 相談事って何だろう。見た感じ湖晴は悩みを抱えて生活している様には見えない。今日だって、音穏に気絶させられた事(何されたんだ)を除けば楽しそうにしていたしな。


「・・・・・私は・・・ここにいても良いんでしょうか?」

「どう言う意味だ?」


 『ここにいても良いのか』だって?確かに湖晴は突然現れた割には誤解を生む様な発言をしまくったり、居候を申し込んで来たりと色々と手間のかかる困った奴だが、別に『ここにいてはいけない』とは1度だって言った事は無いはずだ。


 今日この温水プール施設内にいるのも、音穏や阿燕から誘われたからだろう。入場料金も水着代も昼飯代も自分の金で払っていたみたいだし、何も問題は無いだろう。そんな金が何処から沸いてくるのかは知らんが。


「私はここにいてはいけない人間なのではないでしょうか?」

「待て待て。さっきから何を言ってるんだ?」


 何か湖晴の様子が変だ。表情は暗いし、やや俯いているし、そもそも雰囲気がいつもと何か違う。何故か勝手に話を進めようとしている。音穏や阿燕と何かあったのだろうか。でも、さっきまで見てた感じではそんな会話は無かった様に思えるが。


「私は本来は『過去改変を30回済ませる為』だけに次元さんに協力を頼みました」

「そうだな」


 そう言えばそんな事を言ってた様な気がする。湖晴と最初に会った時に『23回目が終わった』とか言っていた。それから音穏、阿燕の過去を改変したから、現在は25回が終了したと言う事か。


「そして、音穏さんと阿燕さんは共に『過去改変対象者』でした」

「そうなるな」

「私は『この世界の秩序を守る為』だけにあのお2人の人生を大きく変えてしまいました」

「別に悪い事じゃないだろ」


 湖晴とタイム・イーターが無ければ今頃音穏は連続爆破犯、阿燕は連続路地裏殺人犯となり、その人生は少なくとも良い方向にはならなかっただろう。そう言う事では湖晴には感謝している。


「悪い事とかそう言う問題じゃないんです!」


 しかし、湖晴は珍しく大きな声を出してそれを否定した。何が不味かったのだろうか。何が問題だったのだろうか。俺の理解が追い付く前に、湖晴は話を続ける。


「私はあの『お2人の為』ではなく『この世界の秩序を守る為』に過去改変をしました。そして、それを次元さんにも協力して頂きました。それが良い方向に進もうと、悪い方向に進もうとそんな事は関係無いんです」

「どうして」

「金曜日、お2人に『日曜日に温水プールに行かない?』と聞かれて私は本当はお断りするつもりでした」

「何で」

「だって、私はお2人の人生に大きく『干渉』してしまった、次元さんに『干渉』させてしまった張本人なんですよ?そんなの・・・・・会わせる顔がありません」

「でも、あの2人は湖晴に来て欲しかったんだろ?」

「え・・・・・?」


 もしかして、湖晴は何か勘違いをしているのではないだろうか。


 湖晴はおそらく自分が過去改変した事を間違い、もしくは悪い事だと思っているのかもしれない。元々は湖晴から俺に協力を頼んだ事だが、それでもやはり何か引っかかる事でもあるのだろう。


 だから、俺は言う。湖晴は勘違いをしていて、音穏と阿燕はその事を知らず、2人共ただ純粋に『湖晴と仲良くなりたい』と思っている事を。


「そうじゃないと、湖晴がここにいる理由が説明出来ないじゃないか。あの2人が『どうしても』って言って来たから、これ以上自分があの2人の人生に『干渉』するのは不味い事だと分かっていても、ここに来た。そうだろ?」

「・・・・・はい」

「別に湖晴が気に病む事じゃない。これから湖晴はそこら辺を割り切って考えた方が良い。過去改変作業は過去改変作業、プライベートはプライベートってな」


 何処かの誰かの言い回しっぽいが、おそらく湖晴に今かけるべき言葉はこれで良いだろう。それにしても、湖晴がそんな事を気にするとは思ってもいなかった。てっきり何も考えずに、純粋に生活しているだけだと思っていたが、そうではなかったらしい。考えを改める事にしよう。


「それもそうかもしれませんね。・・・・・でも」

「ん?」


 しかし、湖晴はまだ自分を責める。正確には違うのかもしれないが、ここまでの鬱な話を聞かされていたらそう思ってしまう。


「本当は私は怖かっただけなのかもしれません」

「怖かったって何が?」

「私は以前・・・まあ色々とありまして、人に裏切られる事に耐性が無いんです」


 『逆に人に裏切られる事に耐性がある人なんているのか?』なんて事は今は言わない。『過去に何があったのか?』なんて無神経な事は聞かない。その台詞を言ってはならない事くらい俺にだって分かる。それに俺自信、人に裏切られたりする事はされたくないし、したくもない。だが、湖晴が話したいなら俺はそれを聞き届ける。


「だから、私は優しく接してくださるあのお2人に裏切られる、つまりは遠ざかれる事を恐れていただけなのかもしれません」

「・・・・・」

「別に『孤独が嫌だ』とか、『1人では生きていけない』とかそう言う事ではないんです。『誰にも嫌われたくない』んです。だから私はあのお2人が私に接してくれる様になる前に関係を絶ちたかっただけなのかもしれません」


 『孤独が嫌な訳ではではなく、嫌われたくない』と言う事。つまりは言い換えると『近付いてもらいたい訳ではないが、遠ざかって欲しくない』と言う事になる。手に入らなくても良いから、手に入れたら絶対に手放したくない。そう言う解釈で合っているだろう。


 なるほど。それなら俺でも少し分かる気がする。俺も似た様な境遇だ(と言っても俺の場合、自分でそれを作ってしまったのだが)。俺は日頃から起きている時間が少ない為学校の友達はいない。だが妹の珠洲、幼馴染みの音穏には絶対に嫌われたくない。何時までも仲良くしていて欲しい。もちろん、これには湖晴や阿燕も含まれる。



 つまり、湖晴の言う『裏切られたく無い』と言う感情は俺のそう言う『思い』と似た様な物なのだろう。


「安心しろ」

「え?」

「あいつら、音穏と阿燕は裏切らない。そもそも誰かを見捨てる様な奴らに見えるか?」

「見えないですけど・・・・・」

「あの2人は過去改変前はそれなりに心に傷を負っていた。でも、過去改変によってそれは消え、今みたいに普通に生活出来ている。これも全部湖晴のお陰なんだ」

「でも・・・・・!私は・・・」

「湖晴がどう思っていてもあの2人は救われたんだ。罪を犯さなくても済む世界になったんだ。それに、2人共元々はとっても良い奴らだ。そんな2人が誰かを見捨てる訳無いだろ?」


 湖晴がいなければ今の音穏と阿燕はいない。過去改変をしていなかったら、そんな事を考えるのは嫌だが、それでも湖晴がいなければ今の平和な生活は無かったんだ。


 そして、湖晴はやや不服そうに頷いて同意する。


「そう・・・ですね・・・・・」

「不満か?」

「いえ。私のした事が少なくとも間違ってはいなかった事、音穏さんと阿燕さんは私を裏切らない事は分かりました」

「なら良いじゃないか」

「ですが、」


 しかし、湖晴はまだ続ける。


 俺は湖晴がどれだけ悩んで今日と言う日を迎えたのかを理解した。今日は湖晴にとっては楽しむべき日であり、同時に何かのけじめを付ける日でもあったのだ。


「この事は前例が無いんです」

「前例?」

「はい。過去改変に成功したとしても、あのお2人の様に過去改変前と大きく異なる世界にはならなかったんです」

「それって・・・・・?」

「私は次元さんに出会うまで23回の過去改変作業をして来ました」

「最初に言ってたよな。うっかり」

「その23回のほとんどが『失敗』と言っても過言ではない結果になっていたんです」

「何?」


 今度は何だ?以前湖晴がして来た23回の過去改変作業は『失敗』だった、だって?でも、過去改変作業の回数にカウントされていて、この世界に別状が無いと言う事は過去改変対象者は救われたと言う訳ではないのか?


 それに湖晴は『前例が無い』と言った。成功の前例と言う意味だろうか。その後、湖晴はいつもの様に淡々と事実を的確に述べて行く。


「ある人は通り魔事件の犯人でした。被害に会った人は17人。過去改変後、その人は通り魔にはなりませんでしたが親族を全員殺して自殺しました。そして、その親族の人数も17人」

「え・・・・・?」


 通り魔が親族と心中・・・・・?人数も同じ・・・・・?


「ある人は様々な施設に爆弾を設置して施設を破壊していく事を楽しんでいる人でした。過去改変後、その人は爆弾魔にはなりませんでしたがテロリストの1人となり、後に警官に射殺されました」

「・・・・・・・」


 爆弾魔がテロリストになり、警官に射殺された?


「ある人はいわゆるデスゲームの『主催者』でした。デスゲームはご存知でしょう。ああ言う事は空想上だけの出来事ではなく、裏社会で平気で行われています。賭け事と同じですね。過去改変後、その人はそのデスゲームの『参加者』となり、最初に死にました」


 俺はあまり見ないが『デスゲーム』はよくアニメやドラマでしているから知っていると言えば知っている。でも、あんな事が現実に実際に起きているだって?しかも、過去改変を終了したら『主催者』が『参加者』に入れ替わるとは。


 それにしても、何だ?今の3つの実例は。通り魔が親族を皆殺しにして、爆弾魔がテロリストになり、デスゲームの主催者が参加者に。どれも全く解決していないじゃないか。


 その3つの例の過去改変対象者がどの様な理由でそんな事をしたのかは分からないが、それでも、全く解決になっていない。どちらかと言うと、それってむしろ悪化してるんじゃないのか?


 湖晴がどんな方法で情報を集めて、どんな方法で解決したのかは知らない。でも、何でそんな事に・・・・・。『この世界の秩序』を守る為なら、そんな結末になっても良いのかよ。俺は認めたくない。俺は認めない。


「お分かり頂けたでしょうか?タイム・イーターは過去改変を可能にし『世界の秩序を守る事』は出来ますが『過去改変対象者の未来は保証出来ない』んです」

「・・・・・あの2人は大丈夫なのか?」


 ここで俺はふとあの2人、音穏と阿燕の事を思い出した。湖晴の今の話だと、2人も危ない。


「先程も言いましたが、音穏さんと阿燕さんのは前例が無いんです。なので、おそらくは大丈夫でしょう。因果律の変動数値もMAXになっていましたし、今の所、学校の件以外で命の危機に遭遇された事もないでしょう?」

「ああ。そうだが・・・・・」

「でも、これだけは一応伝えておきます」


 湖晴は一端間を置いて、次に言う台詞を強調した。


「『過去改変ってそんな程度の物』なんです」


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 俺と湖晴の話し合いの後。取り合えず湖晴は自分の心に抱えていた問題を俺に全部話してすっきりしたのか、あの台詞を放った後、すぐに音穏と阿燕の元に走って行った。


 3人共楽しそうだ。来場客が少ないのが幸いしたのか、施設内にあるウォータースラーダー等の遊具を思う存分使えているみたいだった。


 その頃、その光景を眺めつつ俺は考え込んでいた。


 どうしても湖晴の話していた内容が引っかかる。湖晴は2人の人生を大きく変えてしまった事に対して罪悪感を覚え、2人とはなるべく接触しない様にしようとしていた。その理由は『湖晴自信が嫌われたくない』と言う事。それに『過去改変は過去改変対象者の未来は保証出来ない』事。


 俺なんかがいくら考えてもこの事に対する明確な答えは出ないだろう。だが、俺は今自分がしている事、つまりは湖晴の過去改変作業を手伝っている事を間違いだとは思っていない。これがあったから音穏も阿燕も平穏な日々を取り戻せたんだ。悪い訳が無い。


 ポヨンッ。


 その時、俺の頭に何かが当たった。これは・・・・・ビーチボールか?


「次元ー。それそろ閉館時間だから帰るよー」


 遠くの方から音穏のまだまだ遊び足りなさそうな声が聞こえて来る。もうそんな時間か。施設内の時計を見てみると、時刻はすでに4時55分を少し過ぎた所だった。


 帰るか。


 そうして、俺の日曜日は潰れた。でも、今回は色々と収穫が会ったと思う。3人の魅力的な水着姿を見れたり・・・・って違う違う!湖晴の話の事だ!過去改変についてや湖晴の心境について聞けたのは大きかったな。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 そして、俺達は温水プール施設を出て、バスで帰った。阿燕を送り、途中まで音穏と一緒に帰った。そして、音穏が帰った後、湖晴と共に自宅へと戻る。


「そう言えば、珠洲はどうしてるかな」

「そうですね。もう帰っているのでしたら、すぐに謝った方が良いかもしれませんね」


 しっかり遊んだからか、すっかり機嫌が直った湖晴がそう答える。


「と言うか、何で事前に教えてくれなかったんだよ」

「音穏さんが『次元にあらかじめ言うと、絶対逃げるから当日まで黙ってて』と言われましたので」

「・・・・・でも、それをすると珠洲の機嫌が悪くなるのは明らかだろう。音穏はそんな事に気付かなかったのか?」

「いえ。単純に私が珠洲さんに事前に言うのを忘れていただけです」

「・・・・・もうどうでも良いです、はい。終わった事だし。家に帰ったら寝るかな」


 そうして俺と湖晴は家に帰った。


「お帰り。おにぃちゃん」

「わっ!珠洲!げ、玄関で何してるんだ?」


 俺が玄関のドアを開くとそこには珠洲がいた。珠洲は顔は笑っているが、何か変だ。それに夕食を作っている最中にここに来たのか、手に料理包丁を持っている。


「別に?そろそろかなーと思って」

「そ、そうか?あ、そうだ。今日はすまん、珠洲!」

「何が?」

「『何が?』って、射撃部の試合あったんだろ?」

「あったけど、おにぃちゃんも大変だったの分かってるから。良いよ、気にしなくて」

「なら良いんだが・・・・・」


 案外珠洲が怒っていない?珍しいな。俺としては3日くらい正座させられるかと思っていたのだが、そんな心配はいらなかったらしい。珠洲もあと半年で高校生だ。精神的にそれなりに成長したのだろう。


「じゃあ、俺部屋に行ってるから」

「うん。分かった。お夕飯の時には起きて来てね?」

「了解ー」


 そして、俺は自室、湖晴は珠洲の手伝い(皿洗い等)をする為にキッチンへと向かった。


 俺は自室に戻る直前、珠洲の部屋のドアが開いている事に気が付いた。珠洲も女の子なんだから、自分の部屋の戸締りくらいしておけよとか思いつつ、俺は珠洲の部屋のドアを閉める為にその前に行く。


「・・・・・ん?」


 その時、俺は見た。いや、不意に見てしまった。


「これは・・・・・」


 珠洲の部屋の入り口に置かれているゴミ箱の中に『最優秀選手賞:上垣外珠洲』と書かれた表彰状がぐちゃぐちゃの状態で乱暴に突っ込まれているのを。

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