第02部
【2023年09月16日14時02分11秒】
~野依音穏視点~
「それにしても、でかい家だよな~」
何とか私の部屋に来れた次元は来て早々にそんな事を言って来た。私は普段からここに住んでいる為、そんな事は思わない訳だけど次元は久し振りの訪問だったからか、そう思ったらしい。
「そう?」
「ああ。何と言うか『和』だよな。趣き深いと言うか、古き良き建造物と言うか」
「おじいちゃんの家だしね。それに、昔は野依家全員が住んでたらしいよ?」
「ほー。それでか」
そうなのだ。私の住んでいるおじいちゃんの家は客観的に見ると、一般的な家と比べればそれなりに大きい。2階建ての木造住宅で、妙に別荘みたいな落ち着ける雰囲気がある。
それに、何時建てられたのかは知らないけど『和』の基本的なイメージを沿って造られたかの様な外装、内装だ。だから、生活していると色々と困る事もあるけど、まあそんな事は今はどうでも良いよね。
「そう言えば、さっきおじいさんはいたけど、妹はいないのか?」
「或琥?うーん、あいつ何処行ったんだろうね。いっつも行き先も言わずに出て行っちゃうんだよ」
「妹って俺達の3歳下だから中学2年か。反抗期?」
「反抗期・・・・・かな。どうなんだろ。でも、せめて私は良いからおじいちゃんに心配を掛けて欲しくないんだけどね」
本当に、いつも何処行ってるんだろう。或湖の奴。昔は大人しい子だったのに、時間の経過とは恐ろしいものだ。人をこんなにも変えてしまうなんて。私や次元はほとんど変わってないけど。
「ねえ、次元次元」
「ん?何だ?」
「補修どうだった?」
「さっぱりですよ」
「さっぱりですか。と言うか、それって大丈夫なの?」
特に単位とか。次元はいつも授業中寝てるし、家でも多分、寝てるかゲームしてるだけだし、学生として最低限の事はした方が良いんじゃないのかな。念の為言っておくと私はそれなりに果たせている。中の中はあるはず。
「でも、次元って理系科目はそれなりに点は取れてたよね」
「あー、俺にも理系科目は点が取れていた、そんな時期もありました」
「何でそんな昔を思い出したかの様な言い方?」
「いや、だって俺全教科平均点ぴったりだし」
「そうなの?」
「整数値だけはな」
「それって逆に凄くない?」
寝てるだけでどうやって全教科平均点になるんだろう。しかも、整数値だけはぴったりって事は平均点が50.5点だったら、次元は50点って事かな。普通に、それはそれで凄いと思う。そんな感じで、次元は変な所で器用だったりもしる。
「そう言えば話は変わるけど、今日珠洲ちゃんに何て言って来たの?」
私は結構気になっていた事を思い出し、話を変えた。次元の妹の珠洲ちゃんは普段の次元への態度を見る限り(多分)ブラコンなので、私とか他の女の子が次元に寄り付くのを嫌っている。
私は珠洲ちゃんの事は、それはもう抱き枕にしたいくらい大好きだけど、珠洲ちゃんはいつも抵抗して逃げて行ってしまう。ちょっと悲しい。それに、時々反撃してくる場合もあるのでタイミングを選んで、ふにふにしに行かないと逆に私の身が危険に晒される。
「別に。適当に『ちょっと出掛けて来る』って言って来ただけだ」
「え?あ、そうなの?よくそれで珠洲ちゃんが外出許可したね」
「いや。もちろん珠洲には行き先を聞かれたが、俺が返答に困っていると湖晴が空気を呼んでくれたのか珠洲に『家事のやり方を教えて下さい』って言ってた」
「湖晴ちゃんが・・・・・?」
「ああ」
それは意外だ。湖晴ちゃんは次元に気が無いのかな?居候しているくらいだし、それなりに好意はありそうなのに。でも、今回は湖晴ちゃんには感謝しておかないと。珠洲ちゃんの足止めをしてもらってるんだから。足止めって表現も少しおかしいかもしれないけど、この場合はそれで良いと思う。
「今頃珠洲も大変だろうな」
「何で?」
「湖晴はかなりの天然だからな」
「?」
どう言う意味だろう。前にも次元は『湖晴は天然だ』って言ってたけど。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
・・・その頃[上垣外家]
「え!?アンタって家事した事無いの!?1人暮らししてたんじゃなかったっけ!?」
「特に私生活に影響は無かったですし」
「あ、そう。じゃあ、料理もした事無い?」
「そうですね。私生活では1度もありません。学校で習う範囲なら一応は出来ますけど」
「でも、それって大した物作れないじゃん。特に栄養面で」
「料理しなくてもご飯は食べられますし」
「主に何食べてたの?」
「(カップ)ラーメンとか(レトルト)カレーとか(コンビニの)お弁当ですね」
「・・・・・あのさ、別に( )を付けても面と向かって話してるんだから誤魔化しになってないの分かってる?あと、よくその食生活で生きてこれたわね」
「何か問題点が?」
「問題点も何も、そんな物ばかり食べてたら栄養失調になるでしょ」
「いえ、今までそんな事はありませんでしたよ?極めて健康体でした」
「でも何か前、ワタシ達の家に来たくらいの時だったっけ?血吐いてなかった?」
「あれは、その、持病みたいな類の物です」
「栄養不足が原因なんじゃないの?」
「原因は大体分かってるので、多分違います」
「あっそ。(まあ、確かに必要な所には栄養がちゃんと行ってるみたいだし)」
「何か言われましたか?」
「別に」
「で、今日は私は何をすれば良いんでしょうか」
「いや、それアンタが決める事だし。アンタが『家事を手伝いたい』って言って来たから、私は仕方なく教えようとしてるだけだし」
「・・・・・ツンデレですか?」
「ツンデレじゃねーし!何も聞く事が無いなら私はおにぃちゃんの行方を捜しに行くけど?どーせ、茶髪リボンの所にでも行ってるんだろうけど!あの茶髪リボンめ!見つけ次第殺す。見つけなくても殺す。次会ったら殺す・・・(ぶつぶつ)」
「・・・・・ブラコンですか?」
「そうだよ!私はツンデレじゃなくてブラコンだよ!・・・・・って、何言わせてんだ!だーかーらー!もう何も聞く事無いの!?」
「あ、1つありました」
「言ってみ」
「すみません。やっぱり良いです」
「・・・・・・・」
「それでは、家事を手伝いますか。あれ?ボタンを押したのに起動しませんね。掃除機ってボタンを押したら電源が入るんじゃなかったでしたっけ?故障ですかね?」
「えっと、うちのは旧式だからコンセントにプラグを指す必要があるんだけど・・・・・?」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
いやいやいや、想像も出来ない。珠洲ちゃんは家事を始め、何でもそつなくこなすしっかり者だし、湖晴ちゃんは超天才学校で飛び級するくらいの実力の持ち主だよ?そんな2人が、特に珠洲ちゃんが湖晴ちゃんの会話に苦戦するなんて事は無いだろう。
それはそうとして、まだ大事な事を聞いてなかった。
「そう言えば、次元」
「ん?」
「この間は何で私と何処かに行きたいって言って来たの?」
この事は私的にはそれなりに不可解だった。クラスや軽音部の友達ならまだしも、今回は次元だ。しかも、かなり急な事だ。何でそんなに急に私と何処かに行きたいなんて言って来たのか、何でそんなに急にそう思ってくれたのか。
私は素直に嬉しかった。でも、そこまで考えた次元の思考を少しだけ知りたくなってこんな変な質問をした。正直言って、する必要は無かったかもしれない。
「約束だったからな」
「約束?」
約束なんてしたっけ?したとしたら何時?
「いや、何でも無い。何となくだよ、何となく。ほら、俺達最近こうした時間無かっただろ?」
「それもそうだけど・・・・・」
何でだろうか、私は思ってしまう。『次元の受け答えが変』だ。1回言った事を訂正してから、言い直している。火曜日の時もそうだった。何なんだろう。
「次元。何か隠してる?」
私はついに聞いてしまった。聞くつもりは無かった。でも、そんな次元の態度を見ていると聞かずにはおけなかった。小学生の頃からの幼馴染みとして。
「隠すって、何を?」
「次元、今週に入ってから何か雰囲気変わったよ?受け答えも今みたいにちょっと変だし」
「そ、そうか?」
「そうだよ!」
私は何を言ってるんだろう。次元に隠し事をされるのが嫌だから?次元と離れたくないから?だから、こんな事を聞いてるんだろうか。
「隠し事じゃなくても、悩んでる事があるなら私に言ってよ!」
「音穏・・・・・」
次元はかなり驚いた様子で困っていた。それもそうかもしれない。言ってる私自身が驚いているのだから。すると、暫く沈黙が続いた後、次元が話し始める。
「俺は・・・・・俺は約束したんだ」
「誰と?何を?」
「誰とこの事を約束したかは今は言えない。だけど、俺は約束したんだ。『音穏を守ってみせる』ってな」
「・・・・・へ?」
・・・・・え?え、えええええ!?次元、何言ってるの!?『音穏を守ってみせる』って、それはもう本当に・・・・・!?
いや、でも、ちょっと待って。あの次元の事だ。表現をオーバーにしてるだけなのかも。もしくは『音穏を守ってみせる』って言うのは、何か一定の範囲内だけの事で、今この時がたまたまそれに当てはまっただけなのかも。
「で、でも、それが今回の事とどう関係あるの?」
「ん?いや、別に音穏の顔を見たいなーって思ったから」
「ーーーーー!」
それでも、そんな事言われたら・・・・・私は・・・・・!
「ちょ・・・・・!音穏、おい、ちょっと待て!何でそんなにクッションを投げて来るんだよ!」
「うるさいうるさいうるさい!次元のばかばかばかー!」
私って、素直になれない子だ。気付いたら、私は部屋置いてあったクッションの限りを次元に投げ続けていた。一応照れ隠しなんだけど、沢山投げ過ぎたかな?
「何で、何でそんな事簡単に言えるのよー!」
「え!?俺何か変な事言ったか?だから、クッションはもう良いから、ちょっと止めてくれって!」
次元は完全に無自覚だ。次元はやっぱり鈍感だ。今さっき自分が言った言葉の意味が全く理解出来ていない。どう考えても、さっきのはプ、プロポーズでしょうが!
「ちょ・・・このやろ・・・・・って、うわっ!」
「え?きゃあ!」
次元がクッションを投げ続ける私を止めに来ようとしたのか立ち上がってこちらに向かって来たけど、床に落ちていた球形クッションを踏んでこけた。そして、私の方に倒れた。
暫く経った後、私はそっと目を開けた。すると、そのすぐ目の前には私が良く知る幼馴染みの姿があった。
「え・・・・・?」
冷静にこの現場を見てみると、こんな感じだった。
私が仰向けで下、次元がその上を跨ぐ様に上。しかも、次元の両腕は私の両腕を掴んで押さえ付けている。しかも、2人の顔は吐息がかかる程近かった。それに、私の服は今倒れた時の拍子でそうなったのか、少しだけはだけていた。
「え、え、え・・・・・?」
「あ、えっと、その・・・・・」
次元もかなり困惑してる。私も胸がドキドキしている。どうしよう。こんな所、誰かに見られでもしたら絶対に誤解される・・・・・。
すると、次の瞬間私の部屋のドアが勢い良く開け放たれた。そして、1回のシャッター音が。
パシャ!
そこにはカメラを持ったおじいちゃんの姿が。
「「え゛?」」
「いや、良いぞ良いぞ。わしの事は気にせずに、ささ続きを」
折角の雰囲気が台無しだ。これじゃ。
と言うか、おじいちゃんは一体何を考えてるんだろう。私と次元をどんな関係にしたいんだろう。と言うか、何でカメラを持って嬉しそうにしてるんだろう。
って、ちょっと待って!おじいちゃん、まさか私と次元の会話をずっと聞いてたんじゃ・・・・・!
「おじいちゃん?」
「何じゃ?」
「今、カメラで何を撮ったの?」
「何って、孫と婿の営みの記録を・・・」
「だから、私と次元はそんな関係じゃなーい!」
結局、その後も私は次元と何事も無かったかのように話を続けたけど、途中でおじいちゃんによる邪魔(本人曰く、孫娘の嫁入り協力作業)が入り、あまり次元と2人きりの時間は無かった。
それでも、次元は帰り際に笑顔で『またな。音穏』と言った。私は久し振りに次元と2人で話せた事が嬉しかった。だから、私は笑顔でこう答えた。
「またね。次元」
あ。湖晴ちゃんとの関係について話すのを忘れてた。ま、いっか。明日もまた会えるんだし。その時に聞けば。




