第01部
【2023年09月16日13時53分09秒】
~野依音穏視点~
「そろそろかなー」
唐突だけど、今私は自宅にいる。と言ってもここは私の本来の家ではない。私の本来の家はお父さんとお母さんの死と共に、他人に譲り渡された。だから、住む場所が無くなった私と私の妹は父方のおじいちゃんの家に住まわせてもらっている。
おじいちゃんは私達に何不自由させる事無く、優しくしてくれた。私達は活発少女の私とちょっと捻くれ者の妹と言う、相反する姉妹だったけどおじいちゃんは1度だって、嫌そうにする事はなかった。これは多分これからも、ずっとその先も続く事だろう。つまり、おじいちゃんはそのくらい優しくて思いやりのある、人生の大先輩なのだ。
また、私には小学生の頃からの幼馴染みが1人いる。上垣外次元と言う、1日の大半をナマケモノ並の睡眠量で過ごし、友達が1人もいなくて、特徴が全く無い幼馴染みが。
睡眠量や特徴の事は取り合えず置いておいて、次元は友達は全くいないけど妹の珠洲ちゃん、居候の湖晴ちゃん、以前次元が強盗犯から助けたと言う阿燕ちゃん、そして幼馴染みの私と言った女の子4人に囲まれていて、これがいわゆる『ハーレム状態』である事に本人は全く気付いていない。
気付いていてわざと気付いていないふりをしているのか、それとも本気で気付いていないのか分からないけど、それでも次元は根本的な所で良い奴だ。両親が死んで、ここに引っ越して来てすぐくらいの頃に私は虐められていた経験がある。でも、次元はそんな私を助けてくれた。いや、正確には助けようとしてくれた。結局の所、2人共傷だらけだったし。
でも、今現在私はそんな次元の事を好いている。それは何時からだったのだろうか。次元の事を知った日だったのか、次元に助けられた日だったのか、次元と仲良くなってからなのか。本当の所は分からない。だけど、これだけははっきりと分かる。『私は次元の事が大好き』なのだ。
あんまりこんな事をグダグダと話していても私が恥ずかしくなってしまうので、何でこんなに次元の事を話しているのか、について話そうと思う。
それは火曜日の事だった。私は前の日に階段から落ちて足を捻挫してしまっていて、次元も何か朝から様子が変で、結局2人共遅刻してしまったそんな日の学校での昼休みの事だ。
休み時間に次元に『学食に行ってみないか?』と言われたのでついて行き、私は持って来たお弁当、次元は学食の受付で買って来たオムライスを持ち、席に着いた所から会話は始まる。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「次元。今日は珠洲ちゃんのお弁当はないの?」
「ん?ああ、そうか『ここ』の音穏はその会話を聞いていなかったんだったな」
「?何の事?」
「いや、何でもない。気にするな。今日珠洲の中学は創立記念日らしくてな、それで友達の家に泊まりに行っているらしい」
「で、適当に買って置くように言われたのに買い忘れた、と」
「・・・・・勘が良いな。その通りだ」
「次元ったら、物忘れが始まるのには早すぎるよ?」
「忘れていた訳では無いんだが、ちょっと色々あってな」
「ふーん」
次元は今朝から様子が変だった。急に泣き始めて、私に抱き付いて来たり。普段なら絶対にして来ない様な事だ。何があったんだろう。私は別にもっとしてくれても全然良かったんだけどね。道端だと世間体もあるし、学校には遅刻しそうだったし(結局遅刻したけど)。
もしかすると、私が『何かを忘れている』のかな?でも、分からない。それは何なんだろう。何か辛い記憶なのは分かる。でも、思い出せない。何かが起きたのは分かる。でも、今は何も起きていない。
次元は多分この事の真相を知っているんだと思う。でも、私は『今は』そんな事は次元には聞かない。聞ける機会なら沢山あるけど、この事はおそらく次元にとっても辛い記憶なのだと思うから。
そんな事を考えながら2人でお弁当を食べていると、次元がオムライスを食べるスプーンを止めて、話し掛けて来た。
「そうだ、音穏。ちょっと良いか?」
「何?」
「土曜日って空いてるか?」
「土曜日?うーんと・・・軽音部は土日は休みだから、多分空いてるよ?何で?」
「そうか。だったら、何処かに行かないか?」
「ど、何処かって?」
何処かって、何処だろう。と言うか、次元にしては珍しい。自分から『何処かに行こう』って言って来るなんて。
・・・・・いや、よく考えてみれば、こ、これはもしや・・・・・!デ、デートのお誘い!?次元が!?そんなはずはない!次元は天然鈍感怠け者男子よ!?そんな次元が私の気持ちに気付いて、そんな事を言う訳がない!
「何か今、物凄い悪口を言われた気がするのだが」
次元が何か言ってたけど、取り合えず無視!
・・・・・でも、もし次元にその気があったら?次元も私と同じ様な感情を抱いていたら?だったらだったらだったら・・・・・。
「別に何処でも良いんだ。音穏の行きたい所で構わない」
「す、珠洲ちゃんに怒られない?」
「珠洲は・・・・・まあ、適当に誤魔化して来るよ」
「そう。だったら・・・」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
・・・・・そして、今に至る。え?話が繋がってない?そんなの気のせい気のせい。だって、私は次元に『何処に行きたい?』と聞かれて『私の家に来て』と答えたのだから。
最後に次元が私の家に来たのは何時だっただろうか。中学生の頃だったかな。もっと前だったっけ?と言うか、中学・高校生の頃は私が軽音部に入ったのと、次元の睡眠欲が過剰になった時期だから、朝と夕方しか顔を合わせてなかった。今でもそんな感じだけど。
別に何処かに行っても良かったんだけど、それだと何かの邪魔が入りそうだったのでその選択肢は消した。そして、さっき言った通りの理由で『私の家に呼ぶ』と言う選択肢を追加した。
まあ、そんな理由で私は次元を家に呼んだ。何をするかは決めてないけど、取り合えず次元に来て欲しかった。私の気持ちに気付いてくれなくても良い。だけど、私は久し振りに幼馴染みとして次元と2きりになりたかった。
そう言えば、今日は家におじいちゃんはいるけど妹の或湖の姿が見えない。全く、何処行ってんだか。おじいちゃんも『知らない』って言ってたし、時々行方不明になる反抗期真っ最中の困った妹の野依或琥だった。
そろそろ次元来るかな?午前中はこの間の実力テストの補修があって、14時頃からなら来れるって言ってたから、丁度良い時間帯かもしれない。
私は洗面所の鏡で服装を確かめる。大丈夫かな?何かおかしい所無いかな?髪は撥ねてないし、髪のリボンは曲がってないし、服もしわになってないし、スカートはギリギリだし。うん、多分大丈夫。スカートの何がギリギリなのかは言わない。
今日はちょっと次元にアピールしようと思う。最近は何かとライバルが増えて来たし。珠洲ちゃんは次元の妹だから禁断の恋に発展しない限りライバルの範囲外だとして、問題は阿燕ちゃんと湖晴ちゃんの2人だ。
阿燕ちゃんは明らかに次元に好意を寄せている。昨日は何かまた次元の様子が変だったけど、それでも次元は阿燕ちゃんの事を強盗犯から助けるなんて事を過去にしているらしい。これが恋に発展しない訳が無い。私だって次元に助けられてから好きになったんだし。多分。
それに、阿燕ちゃんは普通に可愛い。女の私でもそう思える。身長を含めて全体的にやや小さめだけど、むしろそれがポイントの向上に繋がってる場合もあるらしい。しかも、阿燕ちゃんは次元と話している時はとっても楽しそうにしている。
そんな訳で阿燕ちゃんは私のライバル1号なのだった。
そして、問題の2人目、湖晴ちゃんだ。湖晴ちゃんはどうやって次元と知り合って、どうやって珠洲ちゃんの許可を得て居候しているのか全く不明だけど、それでも充分にライバルの圏内に入る。
取り合えず今私が知っている湖晴ちゃんの情報は英理親和学園と言う超天才学校に通っている時に飛び級していた事、一身上の都合(?)で次元の家に居候させてもらっていると言う事だ。
また、湖晴ちゃんはとんでもない『武器』を持っている。私もそれなりに自信はあったけど、それを遥かに上回る『武器』を。それはずばり『胸』だ。湖晴ちゃんの最大の武器である胸は私が今まで見てきた中で多分1番大きい。
あんまりこんな事を話していると私が変態とかに思われてしまいそうなので、そろそろ止めておくけど、これだけは言っておきたい。『あの子なら何時でも次元を落とせる』。湖晴ちゃんにその気があれば、だけどね。
そんな訳で湖晴ちゃんは私のライバル2号なのだった。
こんな感じで今日私は張り切っている。今は9月半ばだから少し寒いけど、やや胸元の空いたキャミソールとギリギリ見えない(何が見えないかは言わない)くらいのスカートを履いている。
私だってそれなりに自信はあるんだ。これで次元が何も反応しなかったら、多分それは次元が鈍感過ぎると言う事実を明確にするのに最適な大事件となる事だろう。
ピンポーン。
「あ、来たかな」
チャイムが鳴り、次元が来た事に私は気付く。私は玄関に行き戸を開けると、そこには私の大好きな幼馴染みの姿があった。
「いらっしゃい。次元」
「・・・・・・・」
あれ?何か反応が薄い、と言うか固まってる。
「どうしたの?何で固まってるの?」
「ん?あーいや、その、何だ。・・・・・服、似合ってるなーって思って」
「そ、そう?ありがとう」
次元にしてはよく気付いてくれたな、と思う。でも、次元が少しでもそう思ってくれている事が私には嬉しかった。若干、胸元や太股らへんに視線を感じるけど、次元も男の子だ。仕方無いと言ったら仕方無いと思う。
そしてまあ、私は『おしゃれして良かった』と心から思えるのだった。普段もそれなりに気は配ってるけどね。
「さあさあ、上がって上がって。前に来たのは結構前だったけど、間取りはほとんど変わってないよー」
「そうか。まあ、俺の家もだけどな。と言うか、間取りってそう簡単に変えられるもんじゃないだろ」
「うーん。そうかもしれないけど、よく変わる家もあるらしいよ?まあそんな事はどうでも良いよ」
「それもそうだな。じゃあ、お邪魔しまーす」
「どうぞー」
そうして、大分久し振りに次元は私の家に来た。補足しておくと、次元は手ぶらだった。まさに、自分の体しか持って来てない状態。いやもちろん、服は着てるけどね。
そして、次元が靴を脱いでいる時に、家の奥の方からおじいちゃんが来た。
「あ、おじいちゃん。次元来たよ」
「おー、そうかそうか。よくおいでなすった」
「お久し振りです。お邪魔します」
「挨拶が出来る良い子じゃ。うんうん」
「じゃあ、私の部屋に行ってるから、おじいちゃんは入ってきたら駄目だよ?」
別に変な事をするつもりは全く無いし、次元もそんな事しないはずだから心配しないでもらいたいけど、それでも今日は次元とは2人きりが良い。久し振りに家にまで来てもらったんだから。
「分かっとるわい。可愛い孫娘とその彼氏の間を邪魔しようなんて思ってないわい」
「か、か、か、彼氏!?ちょっ!何言ってるのおじいちゃん!私と次元は幼馴染みなの!だから、彼氏彼女とか言う関係じゃないの!」
「そうなのか?そこんとこ詳しくどうなんじゃ、彼氏さん」
「え、俺!?何で俺に話が!?」
「じ、次元!さっさと部屋行こう?」
「あ、ああ」
これは非常に不味い。おじいちゃんと次元は何度かあったはずなのに、おじいちゃん忘れちゃったのかな?次元がその、私の・・・・・か、か、か、彼氏だなんて!そうなれば良いけど次元には多分その気は無いし、そうなるとしても何年後か分からないし。
だから、勘違いをしているおじいちゃんを放って次元を部屋に案内しようとすると、再びおじいちゃんが話し始める。
「そうか!分かったぞ!」
「何が分かったの?おじいちゃん」
「2人の関係じゃ」
「良かった・・・やっと誤解が・・・」
「しばし待っておれ、今すぐ寝室に布団を引いて来てやるぞ」
「何の為に!?」
「何の為も何も。いや、だって上垣外君が彼氏じゃないのなら、婿しかないじゃろ?だったら・・・」
「違う違う違ーう!次元は彼氏じゃないし、お婿さんでもない!幼馴染み!そして、もう良いから!もうそれ以上は何も言わなくて良いからーーーーー!!!!!」
取り合えず、そんな感じで次元は私の家に来た。




