第17部
【2021年03月25日18時20分59秒】
「やあ!ちょっと良いかな?」
「誰よ、あんた」
俺は豊岡を救う為、説得を試みている。
「このまま進むと危険だから、右にお曲がり?」
「何で」
俺は豊岡を救う為、説得を試みて・・・
「ほら、そこの銀行にね強盗が入ったんだよ。警察もいるし、行ったら危ないよ?」
「何言ってんの?今時銀行強盗なんて古臭い事する馬鹿なんている訳無いじゃない」
俺は豊岡を救う為、説得を・・・
「いや、だから、ちょっと俺の話を・・・」
「あー馬鹿馬鹿しいなぁ。このまま付き纏うようなら大声出すけど、良い?警察いるんでしょ?捕まっちゃうよ?」
俺は豊岡を・・・
「豊岡阿燕!」
「ふぇ!?何で私の名前を知ってるの!?」
俺は豊岡を救うんだ!豊岡の不運な境遇なから救い出す為に、俺はここ(過去)にいる。タイム・イーターのルール上、チャンスは1回しかない。だから、失敗は出来ないんだ!
「いいか!良く聞け!お前は過去に過ちを犯した!だが、その過去を何時までも引き摺っていたら前には進めない!乗り越えなければいけない!お前はここを進めば、出て来た銀行強盗犯に人質にされ、警官の放った威嚇射撃がお前の右目に当たり、失明する!」
「え・・・・・?」
「お前はそれによって自分の目的も使命も好きな事も全て失う事になる。だが、俺はそんな結末は絶対に認めない!俺はお前を救う為にここにいる!だから・・・・・だから、俺の言う事を聞いてくれ・・・・・」
「・・・・・・・」
俺は豊岡にある程度、豊岡にとって『未来』の出来事を話してしまった。だが、豊岡は俺の気迫に押されて話の流れは大体分かったものの、『未来』の事については、特に不思議に思ってはいない様子だった。それ以前に、気付いていなかっただけかもしれないが。
「あんたが誰なのかは分からないけど、私を救いたいのは分かったよ・・・・・」
「それなら良かっ・・・」
「でも・・・・・!」
俺は豊岡が俺の言葉を理解してくれた事に対して、安堵のため息を吐こうとしたが、豊岡は続けて話し始めた。
「私はお姉ちゃんの事は絶対に忘れない!」
「豊岡!」
豊岡はそう言って、走り去って行った。そう、『強盗の入った銀行がある方向』へと。
「待て!豊岡、そっちは・・・・・!」
どうすれば良い!豊岡はあと数mでその銀行の出入り口へと行ってしまう。出入り口に行けば、強盗犯が出て来て豊岡を人質にする。そして、豊岡は警官の放った威嚇射撃が不運にも命中しその右目は失明する!
そうなってしまったら俺がここに来た意味はなくなってしまう。それに、タイム・イーターの過去改変では2回目は無いんだ。豊岡を救う事は俺がどう足掻こうと出来なくなる!そんなのは駄目だ!何か方法を探して豊岡を止めなければ!
「次元さん!」
すると、湖晴が大声で俺を呼んだ。何か策があるのだろうか。
そうだ!湖晴の持つタイム・イーターの『時間停止』使えば、この状況はどうとでもなるじゃないか!都合良く故障なんてなっている訳無いだろうしな!
「湖晴!タイム・イーターで時間を止めろ!早く!」
俺は湖晴に大声で指示した。もう豊岡は出入り口前だ。早く対処しなければ!
「次元さん!それは出来ません!」
「何でだ!?」
「時間停止をしてしまうと電力不足で『現在』に帰れなくなります!」
何て事だ。故障ではなく、電力不足なんて可能性があったとは!
タイム・イーターがどうやって充電しているのかは知らないが、家庭用コンセントとかで済むのなら後でそれで済ませれば良い。そして、今は豊岡を救う!
「それくらい、後で何処かで充電しろ!」
「それも出来ません!私達は既に2時間もこの『過去』にいます。充電の為にこれ以上この『過去』に滞在し続けると時空転移の際の決まり『過去に長く滞在しては行けない』に違反してしまい、この『過去』が『現在』に与える影響が大きくなり過ぎてしまいます!」
「チッ!ルールが多すぎるぜ、全く!」
こんな所で最初の2時間が響くとはな!どうすれば良いんだ!タイム・イーターの力を使えないなら何を使えば!
・・・・・何かを使う必要なんてあるのか?何かを使わなくても『俺』を使えば良いんじゃないのか?そうだ、そうだよ!俺が止めに行けば良いだけの事じゃないか!
「きゃあ!」
その時、豊岡の叫び声が聞こえた。俺はその声の方向を見ると、そこには覆面の男の腕に首を絞められて身動きを取れなくさせられている豊岡の姿があった。
俺の中で何かのスイッチがONになった気がした。
気付くと俺は大声を上げながら、その現場へと物凄い勢いで走っていた。通行車両、野次馬、パトカー、警官を全て無視して、その現場へ!
「豊岡を離せぇぇぇぇぇ!!!!!」
俺は豊岡を捕まえていた強盗犯の顔を全力で殴った。それは不意打ちだったが、懇親の一撃だった。
ゴフッ!
その瞬間、その強盗犯に捕まえられていた豊岡が解放され、地面に叩き付けられる。
「豊岡!今の内に逃げろ!」
「・・・・・・・」
豊岡は今の状況が全く理解出来ていないみたいだった。それに、首を絞められていて苦しかったのだろうか、顔が真っ赤だ。早い内に逃げてもらわないと過去が変えられなくなるかもしれないので、俺的にはさっさとして欲しいものだが。
「豊岡!」
「はい!え、えっと・・・ありがとう・・・・・」
そう言って、豊岡は野次馬の中へと消えて行った。
さて、これで一件落着だ。俺の役目は終了した。これでようやく『現在』に帰って眠る事が出来る。
・・・・・と思っていたのだが、その俺の考えは破綻した。俺は何故か宙に浮いている。首根っこを捕まれた様な感覚と共に。
「よぉ、にいちゃん。格好付けやがって。何様のつもりだ?あぁん?」
大事な事忘れてたー。豊岡を逃がしたのは良かったけど、俺が逃げるのを忘れてたー。あれ?これって不味くね?この流れって、『俺が人質になる』とか言う流れじゃね?
案の上、俺はさっきの豊岡の入れ替わりとして人質にされた。抵抗出来ない様に両手を縛られ、首を絞められ、こめかみに拳銃を当てられている。これはまさに絶体絶命と言う奴だ。
その時、目の前10数mにいた警官の内の1人が少し前に出て来た。手には既に拳銃を持っている。
「あの人は・・・・・!」
そう、その人は『現在』で豊岡に撃たれて血塗れになっていた警官だったのだ。当然ながら今は無傷だが、おそらく豊岡を撃った様に俺の事を撃つつもりだ。本人にはそのつもりは無いんだと思うし、豊岡が撃たれる『過去』は回避された訳だが。
それでも、『現在』の豊岡はこの人が主な原因で苦しんだんだ。それは決して許される事ではない。
すると、何と言う事だろうか。その警官は俺の方にその手に持っている拳銃の銃口を向けて来た。
「ちょっ!待て待て待て!それ撃ったら、俺に当たモゴォ!」
「おら、うるせーぞ。黙ってろ!」
俺が警官に途中で止める様に言おうとしたが、俺の事を掴んでいる強盗犯に口を抑えられてそれは叶わなくなった。抵抗しようにもこめかみにも拳銃を押し当てられているし、それ以前に腕で首を絞められているので動いたら苦しいし、宙に浮いているので足が変な感覚だ。と言うか、この強盗犯凄い力だな。
しまった。警官は何時でも発砲出来る様に引き金に指を添えている。もう、今すぐにでも撃たれても全然おかしくない状況だ。豊岡を救えたのは良かったが、これでは元も子もない。
そう言えば、湖晴は何をしているんだ?まさか、野次馬に埋もれてしまってはいないだろうな。頼むから、せめて俺を助けてからにしてくれよ・・・・・。
その時、俺を拘束する強盗犯が拳銃を構える警官に言った。全く動じず、自分にその拳銃から発される弾丸が当たらない事を知っているかの様に。
「よぉ。俺らが仲間割れしてからもうどのくらい経つんだろーなー?」
「知らないな。そんな事。俺はその道からは手を洗ったんだ」
「そうかい。でも、それって『あの人』の指図かぁ?」
「何を・・・・・言っている!」
「ぎゃははは!やっぱりそうか!そうでもないと俺を撃てないもんなぁ?」
「うるさい!」
「おー怖い怖い。格好だけでも付けるのは構わないが、撃てないならもう逃がしてくれや」
「それは出来ない。俺は警官だからな」
「警官、ねぇ?元、強盗犯だったお前がねぇ?でも、お前が俺らを逃がそうと逃がさまいと、結局警察は捕まえる事は出来ない訳だがな!」
「10年前の様にはいかないぞ」
「ほう。何時からそんな事言える様になったんだろうなぁ?やっぱり『あの人』の指図、の様だな」
「違う!」
「良いって、良いって。あの人には俺から言っておいてやるよ『奴は何も出来ないゴミでした』ってなぁ!」
「黙れ!」
そして、俺はこの2人が何の事について何も分からないまま、ただ呆然と捕まっている事しか出来なかった。『あの人』って誰の事だろう。犯行グループのボスとかそんな存在だろうか。俺にとっては意味がある様で全く無い会話だったな。
次の瞬間、強盗犯に挑発された警官がその強盗犯、正確には『俺を拘束している強盗犯』に向かって発砲した。そして、その拳銃の銃口から発射された弾丸は俺の右目に真っ直ぐに進み、そして俺の目を貫・・・・・かなかった。
キィン!
俺が見たのは、左方から飛んで来た『タイム・イーター』がその弾丸を弾いている光景だった。何でタイム・イーターが?まさか、湖晴が!?
と思っていると、俺は強盗犯に拘束されている状態から解放され、全く別の場所に移っていた。近くには野次馬の姿は無く、遠くの方から銀行強盗の騒ぎが聞こえて来る。何でだ?
「次元さん!ご無事でしたか!?」
「あ、ああ。大丈夫だが、一体何を・・・・・?」
「説明はもう少し後です。今は事件現場の様子を確認しましょう!」
「ん?ああ。分かった」
俺はどうやらついさっき豊岡に忠告していた地点とほぼ同じ所に飛ばされていたらしい。おそらくこれはタイム・イーターの力だろう。そして、俺は事件現場を見る。
俺が見たのは、こんな光景だった。
俺と言う人質を失った強盗犯達はすぐさま警官達によって取り押さえられ、逮捕されていった。言葉にすると一瞬の出来事だが、実際には10数分間の事だ。取り合えず、これで今度こそ全て一件落着だろう。豊岡の過去も変えられたし、俺も撃たれなかったしな。
「それで、湖晴。さっきどうやって俺を弾丸から守ったんだ?」
「え、えーとですね・・・それは・・・・・」
何でだろう。どうにも湖晴の言葉の歯切れが悪い。何か問題でも起こったのか?
「・・・弾丸はタイム・イーターに当てる事で軌道を変更しました」
「俺を移動させたのは?」
「・・・・・・・」
「おい、まさか!」
「・・・はい。時空転移機能で『弾丸が当たったら起動』に設定して、次元さんとタイム・イーター本体を数分前の位置に飛ばしたんです」
「でも、それってつまり・・・・・」
「すみません・・・。燃料切れです・・・」
・・・・・・・終わった。俺の過去改変も、この世界の秩序も、全時空間の安定も。いや、待て!まだ何か可能性はあるはずだ!
「湖晴!電力は後どのくらい残っているんだ!」
「もう完全に0です。次に時空転移出来るだけの電力を溜めるには家庭用コンセントでは最低1ヶ月かかります。タイム・イーターの装備されているソーラー発電等も出来なくは無いですが、元々の表面積が小さい為、大して効果は無いでしょう」
家庭用コンセント対応なのな。つか、自家発電機能あったんだ。便利だな。今は役に立たないらしいけど。
「じゃあそうだ!発電所に行って・・・」
「行ったとしても、向こうからしたら私達はただの青年少女ですよ?許可が下りるはずもありません」
「じゃあ、どうしろって言うんだ!」
「完全に『詰み』ですね・・・すみません私のせいで、こんな事に・・・」
俺は別に湖晴を攻めているつもりは無いのだが、湖晴は既に半泣き状態だ。可愛いが、今はそんな事を考えている場合ではない。
その直後、湖晴の様子が突然おかしくなった。
「ーーーーー!」
「どうした湖晴!」
「何か・・・これが・・・・・」
俺が湖晴に聞くと、湖晴はポケットから俺が預けていた『謎の筒』を取り出した。この筒について分かった事を聞いたばかりだが、それでも何でそんな物持ち歩いてんだよ。落としたらどうする気だ。
「重くなってます」
「何だと?」
『重くなっている』?一体なんでそんな事が。
その次の瞬間、その筒から突然眩い閃光が走り、俺と湖晴はその光に飲み込まれた。
「あれ?ここは何処だ・・・・・?」
俺が目を覚ましたのは公園の中だった。大量の木、噴水、時計塔・・・ってここグラヴィティ公園じゃねえか!何でこんな所に俺はいるんだ?さっきの筒のせいか?
隣を見ると、湖晴がいた。湖晴は俺よりも早く目覚めていたらしく、タイム・イーターを見て固まっていた。
「おい、湖晴。これは一体どう言う事だ?ここは何時のグラヴィティ公園だ?」
「現在時刻は2023年09月14日21時30分13秒です」
「え?それって・・・・・」
俺達が豊岡を救うのに時空転移したのは9月14日の午後7時半くらいだったはず。と言う事は・・・・・
「戻って・・・来れた・・・?『現在』に?」
「そ、そう言う事になりますね」
「え、でも、ちょっと待て。タイム・イーターの時空転移はもう出来ないはずだろ?」
ついさっき、湖晴はタイム・イーターはもう時空転移機能を使えない、と言っていた。だから、俺達が今こうして『現在』にいるのはおかしい。ここは夢の中か?それともあの世か?
「おそらく、あの筒のせいでしょうね」
「あの筒のせい?」
「はい。ここに戻って来てからすぐに確認したのですが、何処にもあの筒が無いんです」
「まさか、あの筒にタイム・イーターの様な機能があった、って事か?」
俺が偶然にも、ここグラヴィティ公園で拾った物だぞ?そんなに上手い話があるものか。この場合はあったのだからこうなっているし、無ければ深刻なタイムパラドックスが発生していたかもしれないから問題無いのだが。
「内部にタイム・イーターに使用されている物質と同じ物を検出していましたので、可能性は無くは無いですね」
「そんな都合の良い話があって良いのか?」
「あったのだから仕方ないでしょう」
この事は湖晴に適当に調べておいてもらう事にしよう。俺は自分のするべき事をやり遂げる事が出来たのかを湖晴にまだ聞いてはいない。
「湖晴。豊岡の『過去』は改変出来ているか?」
「それは少しずつ調べて行くしかありません。タイム・イーターも使えませんし、今は家に帰りましょう」
「それもそうだな」
そして、俺達の豊岡を救う過去改変作業はようやく終わりを告げた。
「・・・・・あ!」
「どうされましたか?次元さん」
俺は大事な事を忘れていた。それは俺の命の根本に関わる事だった。さっき、湖晴は現在時刻は9時半だと言っていた。これは・・・・・不味い!
「珠洲にもう1回連絡入れるの忘れてたーーーーー!!!!!」
その後、俺達が家に帰って、珠洲に正座をさせられ、日が変わるまで怒られ続けのは言うまでも無い。




