第18部
【2023年09月15日08時19分14秒】
『過去』に行き、豊岡を変えに行ってから1晩経った次の日。タイム・イーターは(俺の家で)充電中の為、まだ使えない。だから、俺達が『過去』で行動した事は『現在』にどう影響しているかは分からない。
湖晴と身近な所から探して行ったが、特に何も以上は見つからなかった。でも、今朝の新聞では『路地裏警官傷害事件』とかその類の記事は無かったので、おそらくある程度は変える事は出来たんだと思う。
俺はその事を明確にする為、学校で豊岡にアプローチする事にした。もし、豊岡が俺の事を覚えていたら過去改変は失敗していて、覚えていなければ過去改変は成功している事になる。
俺の事を覚えている、と言う事はその世界の俺が豊岡にアプローチしに行ったはずだからな。豊岡が覚えていないのは俺としては少し切ないが、それでも豊岡の過去は救いたい。
それに加えて、今日は普通に学校がある。なので都合も良い。
そう言う訳で、俺は今音穏と一緒に登校して来た所だ。そう言えば、壊れた校舎が元に戻っている。それもそうか。豊岡の過去が変わっているのなら、あの事件は起こらない訳だしな。
現在位置は過去改変前に豊岡と会話をした通りだ。今はクラブの朝練だろうか、グラウンドの方から声が聞こえて来る。
「で、次元。昨日は帰りが遅かったらしいじゃない?」
「まあな」
「何してたの?」
「買い物だ」
「湖晴ちゃんと?」
「ああ。湖晴が駅前の地下街に行ってみたいって言って来たから、案内してたんだ」
「ふーん」
俺は適当に音穏の質問を受け流して行く。音穏は疑惑の表情を浮かべているが、一応は信じてくれたみたいでそれ以上は深くは追求して来なかった。
補足しておくと、音穏はもう足は治ったらしく杖を突いていない(直っていない時もほとんど突いていなかったが)。なので、俺と同じスピードで歩く事が出来るので今日はいつもより少しだけ早く登校出来た。
それにしても、直りが早い奴だな。いくら捻挫とは言え数日で治るんだからな。俺は捻挫なんてする程動いていないので、捻挫とは無縁だ。
「でも、珠洲ちゃんに心配掛けちゃいけないよ?」
「分かってるよ。こっちも色々と大変だったんだ」
「湖晴ちゃんに何かあったの?」
「うーん、まあな。湖晴はしっかりしてそうに見えて実はかなりの天然だからな」
「へー、そうなんだ。前は天然っぽくは見えなかったけどねー」
「音穏の方がしっかりしてるよ。多分」
「わ、私!?私の方がしっかりしてる!?本当!?何か照れ・・・」
「すまん。何かの間違いだゴフッ!」
やはり湖晴よりも音穏の方がしっかりしていると言う、偽りの事実を訂正するべく俺は言葉を放とうとしたが、途中で音穏にエルボーをお見舞いされ、いつもの様にその場に蹲ってしまう。
腹痛が収まった俺は音穏と校舎へと向かう。そろそろ始業の時間だ。遅刻は勘弁してもらいたいのでさっさと教室に向かう事にする。
その時だった。ついさっきまで朝練していたクラブが活動を終えたのか、ユニフォーム姿の生徒達がグラウンドからぞろぞろと校舎へと向かっていく。そして、その集団の中に俺は見覚えのある顔を見つけた。
「豊岡・・・・・」
その見覚えのある顔は豊岡だった。過去改変前と異なり右目に眼帯は付けておらず、髪も少しだけ短い。でも、充分にその人物は豊岡であると思った。確信した。
すると、あちらも『俺に気付いた』様でこちらに向かって来る。
「おはよう。上垣外。音穏」
「おはよー。阿燕ちゃん」
「・・・・・え?」
これはどう言う事だ?どう言う状況だ?どう言う場面なんだ?何で豊岡は俺を覚えている事に加えて、音穏の事を知っている?まさか、過去改変に失敗した?それで、おかしな方向に影響が出たのか?
でも、今朝の新聞には殺人事件に関する記事は無かったはず。校舎も壊れていなかった。しかも、豊岡は眼帯をしていない。過去改変は確実に行われている。だったら、何なんだ?
「どうしたの上垣外?さっきからずっと固まって」
「え?」
「そうだよ次元。阿燕ちゃんだよ?豊岡阿燕ちゃん。忘れちゃったの?」
「いや、ちょっと待て。何で豊岡は俺の事を覚えているんだ?」
「何で豊岡?いつも阿燕って呼んでたじゃん」
「え、そ、そうだっけ?」
何か俺の記憶と2人の記憶にずれがある。何かが変わり過ぎている。過去改変に成功したら、豊岡・・・この世界の俺は阿燕と呼んでいるんだったな。で、阿燕は殺人者にならない。そして、俺との関わりも切れるはずだった。なのに、何で俺に加えて音穏とも仲良くなっているんだ?俺が過去で行動したのは『阿燕に話しかけ、阿燕を強盗犯から救出しただけだ。
阿燕に聞いてみるか。それからでないと、どの程度過去が変わったのかが分からない。
「突然だが、阿燕。俺達って『どうやって知り合った』んだ?」
「随分突然な質問ね。どうやって何も、上垣外が助けてくれたんじゃん」
「俺が阿燕を・・・・・?」
「そうそう。2年前に人質になった私を上垣外が助けてくれた」
そう言う事か。本来は俺は阿燕を『引き止める』までが仕事だったのに、阿燕はそれを聞かずに走り去ってしまった。だから、止むを得ず俺が救出に行った。予定よりも阿燕と『過去』で関わる時間が増えてしまったがばっかりに、阿燕の記憶に強い印象を与えてしまったのか。
「それで、高校に入学してみてびっくり。なんと、上垣外も同じ高校だったんだよ」
「で、その時に次元と一緒にいた私とも仲良くなって今に至るって事だよ」
「「ねー」」
女子2人は笑顔で顔を見合わせている。仲はそれなりに良い様でなによりだ。なるほど、過去改変の影響の全容が見えて来たぞ。全ての事柄に筋が通っている。過去改変はおそらく成功だ。だが、俺は阿燕に1つ聞かなければならない事がある。
「阿燕」
「何?」
「ソフトボール。今でもしてるのか?」
「してるよ。今もその朝練の帰り」
これで確定だ。俺の過去改変は『成功』した。豊岡は右目の視力を失う事無く、殺人者にもなっていない。それに加えて、ソフトボールも続ける事が出来、俺や音穏とも友達になっている。これが俺が望んだ以上の結末だ。悲劇的な結末なんて物は避ける事が出来た。俺のした事は無駄ではなかったんだ。
キーンコーンカーンコーン。
その時、予鈴が鳴った。
「やばっ!遅刻だー!しかも、私まだ着替えてないし!」
「次元!私達も急がないと!教室上の階なんだし!」
「そうだな。じゃあまたな、阿燕」
「うん。またね、上垣外」
阿燕は俺に笑顔でそう言った。
俺は音穏に加えて、阿燕の過去も変える事に成功した。そして、俺が望んだ以上の世界になった。これ程嬉しい事があるだろうか。湖晴にも報告すると同時に、礼を言った方が良いかもしれないな。
俺の過去改変活動はまだ2回。それでも、俺はこの世界の厳しさや無慈悲さを知ってしまった以外にも、大きな優しさを感じる事が充分に出来た。
俺達の物語はまだまだ続く。俺自身の存在証明をするまでは。
そして、俺と音穏は階段を急いで上がり、教室に着いた。今日は珍しく朝ホームルームがあるらしく、1時間目はいつもより5分遅く始まる為、遅刻にはならなかった。そして、担任が俺達が席に着いたのを確認すると、特に注意する事も無く淡々とホームルームを始める。
「今日は急だが、転校生を紹介する」
その台詞の後にクラスにざわめきが起こる。中には『女子ですかー?』『男子ですかー?』とか言う声も聞こえて来る。もちろん俺はその質問には参加していない。
何で金曜日なのに転校生なんか来るんだよ。せめて月曜日にしろよ。とかどうでも良い事を俺は思いつつ、早速眠りに就こうかと考えていると、ドアが開き転校生が教室に入ってくる。と同時にクラス(主に男子)全体から歓声が上がる。そこにいた転校生は何処かで見た様な気がする、長髪で大人しそうな印象を受ける女の子だった。
「杉野目施廉です。よろしくお願いします」
『Time:Eater』 第2話 完
『Time:Eater』第2話を最後まで読んで頂いてありがとうございます。作者のタングステンです。今回の話は序盤がグダグダと進んでいて、あからさまな伏線が大量に貼られていたのですが、いかがだったでしょうか。作者的には第1話の後書きで書いた事は少しは果たせたのではないかと思っています。それでも、やはり致命的な誤字脱字がある事についてはここでお詫び申し上げます。これにて『Time:Eater』第2話は終了となりますが、第1話の時と同じ様に設定まとめや番外編を挟んだ後、第3話へと続きます。これからも出来る限り毎日投稿出来る様に努力しますので『Time:Eater』をよろしくお願いします!
今回は次元が良い人過ぎたな(笑)。




