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Time:Eater  作者: タングステン
第二話 『Zn』
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第16部

【2021年03月25日17時55分39秒】


 眩い閃光に包まれた俺と湖晴はタイム・イーターの時空転移能力で過去にタイムトラベルして来た。


 はて、ここは何処だろうか。俺の視線の先には星がちらほらと見える。どうやら俺は空を向いている様だ。・・・・・って、何で空なんかを見ているんだ?俺は。俺は過去改変をする為に過去に来たはず。こんな所で寝ている場合ではないのだが。


 それにしても、周りに街樹があるのでここは何処かの道端だと思うのだが、何でか後頭部が全く痛くない。むしろ、何か枕の様な物を敷いて俺が眠っていた様なそんな感覚だ。


 つまり、一言で言うと今の状況は早く豊岡を救うべく過去改変の為の行動に移らなければならないのに、俺の後頭部の下の何かが気持ち良くて中々動く事が出来ない状態だった。


 そう言えば、湖晴は何処に行ったのだろうか。俺の視界には空と街樹と高層ビルしか映っていない。まさか、何かトラブルがあって別々の時空間に飛ばされた訳じゃあないよな。そうだとしたら洒落にならないぞ。


「あ、次元さん。起きられましたか」


 すると、俺の頭上から湖晴の声が聞こえた。俺は真上を向くとそこには湖晴の可愛らしい顔があった。だが、湖晴の発達した体の一部がその可愛らしい顔を見せるのを妨害していたが、今はその事は黙っておく。体の何処の部分とは言わない。


 ・・・・・ん?俺の『頭上』から声がした?


「あれ?これってどう言う状況?」

「次元さんはまた時空転移の際のエネルギーに耐え切れず気絶されていました。でも、大丈夫ですよ。今回は元々それなりに時間はありましたし、今も事件まで時間は充分にあり・・・」

「いや、それは悪かったと思うが、湖晴。俺とお前は今、『どう言う状態』なんだ?」


 俺の後頭部の下の柔らかい何か、俺の頭上から湖晴の声、湖晴の発達した体の一部が湖晴の可愛らしい顔を見せるのを妨害、そして、俺は空が見える様に仰向けになっている。これって、つまり・・・・・!


「湖晴さん。これってもしかして『HIZAMAKURA』と呼ばれる状態の物ではないですかね?」

「何で敬語になって表記をアルファベットにしたりするんですか?これは何処からどう見ても膝枕ですよ」


 ・・・・・・・。


 俺は冷静になってよく考えた。路上で白衣の美少女に膝枕される仰向けの青年、その光景はシュールであり、端から見たら簡単に殺意が沸いてくる物だろう。


 それに、俺自身、湖晴に長時間膝枕をさせていたと思うと何だか申し訳ない気持ちになると同時に、恥ずかしくなってきた。


「ごごごごめん!今退くから!」

「そうですか?もう大丈夫なら良いんですけど」


 俺は大慌てで湖晴の膝から頭を離し、湖晴の正面で土下座をしそうな勢いで正座をする。『意味☆不明!』と呼ばれても何も言えない様な俺の奇妙な行動だった。


 湖晴は相変わらず、頬の1つも赤く染めていない。せめて少しくらい羞恥心を持って欲しい。俺だけが恥ずかしがっていると、男としてそれはそれは情けない気持ちになるし、それ以前に湖晴の貞操が心配になる。湖晴よ、男に簡単にこんな事するなよ・・・・・誤解されるぞ。


「俺、どのくらい気絶してた?」

「そんなに長くはなかったと思いますよ?」

「そうか・・・それなら良かっ・・・」

「ざっと、2時間くらいですかね」

「長いじゃん!」


 俺は更に恥ずかしくなった。何処のタイムトラベラーが時空転移の際の重力で2時間も気絶しているんだよ。いくらなんでも気絶し過ぎだ。何処のどいつだよ、全く。ここの俺だよ、畜生!


「それよりも湖晴。俺をそんなに長時間『HIZAMAKURA』していて膝は大丈夫か?ここは普通にコンクリートだぞ?」

「何でまたアルファベットなんでしょうか?まあ良いですけど。はい、大丈夫です。前にもお話しましたが私、怪我が治りやすい体質なんですよ。だからコンクリートで付いた擦り傷程度なら一瞬で治癒されます」

「そうか。何か悪いな。わざわざ気遣わせて」

「いえいえ。お気になさらずに」


 そう言えば、湖晴はそんな体質だったな。でも、その一見便利そうに見える体質のせいで子供を生む事が出来ないと言っていた様な気がする。女の子の湖晴としては、それを知った時はショックだっただろう。


 俺も既に嫌になる程経験したが、タイムトラベルを繰り返すならそれなりに危険な場面に遭遇する。普段、俺は主に音穏からよく叩かれている為、一般的な同学年の男子よりは体は多少は丈夫だ。


 だが、湖晴はそんな俺の治癒能力とは比べ物にはならない程、怪我の完治が早い。初対面の時も拳銃で撃たれていたにも関わらず、30分後にはケロッとしていた。今思えば、あの時の弾丸は何処から飛んで来た物だったんだろう。今はどうでも良いか。


「そうだ!」


 そこまで考えて、俺は今の自分のするべき事を思い出した。


「湖晴!豊岡を巻き込んだ事件は後何分だ!」

「そうですね・・・・・あと、30分くらいですかね」

「そうか・・・・・。音穏の時より20分あるとは言え、俺が気絶していなければあと2時間あったんだよな・・・・・」


 どうしても自分の事が情けなく感じる。今回でタイムトラベルはもう2回目だ。気絶なんてしなくても良い様になりたいものだ。前回は湖晴がずっと起こしてくれていたから、10数分で起きれたものの、今回は湖晴は起こさなかった。と言う事は、今回はそれほど急いで行動する必要は無いと言う事だろうか。事件場所が近いとか、何か一定のタイミングが必要とか。


「では、そろそろ行きますか」

「行くって、何処へだ?」

「それはもう決まってますよ」


 そして、本来の目的地を湖晴が言う。


「『阿燕さんの所へ』ですよ」


 数分後、原子第十二中学校校門前。


「湖晴、何でここに?」

「ご存知無いと思いますけど、ここは阿燕さんの通っていた中学校なんですよ。さっき次元さんが気絶されている時に調べました。次元さんが気絶されている時に」

「それはもう本当にすみませんでしたごめんなさい許して下さい」


 やっぱり湖晴も怒っているのだろうか。何故か俺が気絶していたと言う事実を何度も繰り返して来る。そして、その度に俺の心が削れて行く様な感覚がある。地味な精神ダメージを少しずつ味合わせられているみたいだ。


「それで、ここに来た理由ですが、その前に阿燕さんが殺人者になった理由を思い出して下さい」

「理由?右目の視力が無くなった事による趣味や実生活に及ぼされた弊害だろ?俺が知る限りは」


 豊岡が殺人者になった理由それは、自身の右目の視力を奪った人達を殺す事。つまり、復讐だ。他にも、豊岡の姉が関係している様な事を豊岡は言っていたが、根本的な理由はやはり右目の件だろう。


「その通りです。つまり、阿燕さんの右目を守る事が出来れば過去改変は成功するはずです」

「豊岡はそれで救われるかもしれないが、そんな事許されるのか?それだと、影響が大きく出過ぎるんじゃないのか?」

「一応過去改変の際の決まりには違反していませんし、おそらく大丈夫でしょう」


 おそらくかよ。適当だな。


 そう言えば、過去改変をする時って何かルールがあったんだよな。『人の死をキャンセル出来ない』と『過去に長く滞在してはいけない』と『2回同じ過去には行けない』だった様な気がする。


「いや、でもちょっと待て。豊岡の右目が無事と言う事は、豊岡は殺人者にはならない。つまり、強盗犯3人は死なない。そうなると、過去改変の際のルール『人の死はキャンセル出来ない』に違反してるだろ」

「いえ。違反しません」

「何で」

「過去改変の際の決まり『人の死はキャンセル出来ない』はタイムトラベラーが直接的に手を加えた場合のみに適応されるんです」

「そうなのか?」


 それは初めて聞いた。意外と細かい決まりがあったんだな。確かに『人の死はキャンセル出来ない』だと大雑把過ぎるもんな。何か他の制約があっても別に不思議ではない。・・・・・人は駄目でも犬とか猫なら良いのだろうか。駄目かな。


「例えば、『過去』に来た次元さんが車に撥ねられそうになっている人Aさんを助けたとしましょう」

「俺、登場!」

「でも、『現在』ではAさんはその時に車に撥ねられ、既に死んでいます。これをすると深刻なタイムパラドックスが発生する可能性があります」

「タイムパラドックスが起きると、どうなる」

「映画やドラマと同じと考えてもらえれば良いですよ。つまりは『この世界の規律が完全に崩れ去り』ます」

「詳しく頼む」

「全時空が崩壊した後、世界が再構成されるんです」

「何か、良く分からない世界になって来たな」


 タイムパラドックスとかそう言う事はSF映画とかドラマでよく見かける。だが、実際にそんな事を言われると全く親近感が沸かない。むしろ混乱する。全時空が崩壊とか世界が再構成とか、想像も出来ない。


「まあ別に、さっき言った様な事をしなければ良いだけの話ですし、心配する必要もないでしょう」

「それはそうかもしれんが、まだ俺はその強盗犯がどうなるかを聞いてないぞ?」


 そうだ、話が逸れていたが俺は湖晴に、過去改変前の豊岡が殺して来た人達が過去改変後にどうなるのかを聞いていない。いくらルールに違反していないとは言え、死んだはずの人が生きているんだ。少なからず影響が出て来るだろう。


「どうなるも何も、死んだままですよ」

「え・・・・・?」

「過去改変をしても直接的に『現在』で死んでいる人に干渉していない限り、その人達は死んだままです」

「でもそれだと、やっぱり豊岡がその3人を殺したって事になるんじゃないのか?」

「いえ、過去改変後の阿燕さんには動機はありませんので阿燕さんは3人を殺しません。3人は何か別の方法、つまり事故死や自殺などの要因で同時刻に死亡します」

「そんなに上手く行くのか」

「それがこの世界のルールなんです。私達にはどうしようもありません」

「そうか」


 案外無慈悲な世界だ。でも、そうでもしないと世界中の人の全員が全員、死んで欲しくない人を生き返らせる。そして、その度に世界の秩序が乱れて、俺には想像も付かないくらい大変な事になる。湖晴なら何か知っているのかもしれないが、その事は後で聞けば良い。今は豊岡の過去を変える。ただその事に集中すれば良い。


 しかし、湖晴はまだ話を続ける。


「それに、音穏さんの時もそうだったんですよ」

「何?」


 『音穏の時』だと?どう言う意味だ?どうしてここで音穏が出て来るんだ?全く関係無いだろう。


「まさか、音穏さんが研究所連続爆破をした時の死傷者が0人だと思っていたんですか?研究所爆破ですよ?当然、何人かは死にます。実際、過去改変前の研究所連続爆破で死んだ人はそれなりにいましたが、過去改変後の同時刻で研究中のトラブルやその他の要因で死亡しています。だから、音穏さん・・・」

「止めろ!」


 俺は大声を出して、湖晴を止めた。


 今、湖晴が言っていた事は事実なのかもしれない。だが、もう終わった事じゃないか。過去改変前に音穏が殺した人は過去改変後にも死ぬ。ただ、その死に方が違うだけだ。だから、音穏は何も悪くない。『今の』音穏は何も知らない、知らなくて良いんだ。だからこそ、俺は事実を平然と語り始める湖晴を止めた。


 暫く驚いていた湖晴だったが、何で俺が怒ったのかを認識したのか、俺に謝って来た。


「すみません。言い過ぎました。怒らせるつもりではなかったんです」

「良いよ別に。悪気は無かったんだろ」


 湖晴は何でだろうか、感情の一部が欠落している様な気がする。今の解説の時もそうだが、日頃の生活でもそんな場面が多々ある。湖晴自身悪気があってそんな事を言ったんじゃあ無い事くらい分かるが。


 だが、音穏の事となると話は違って来る。俺は音穏の過去を改変する事に成功した。そして、それはもう終わった事だ。何時までも引きずる様な事でもない。だから俺は湖晴に怒鳴った。


「はい。もちろんです」

「なら気にするな。9月11日に俺は音穏を救ったんだ。『前の』音穏が研究所連続爆破事件の犯人だとしても『今の』音穏は誰も殺していない。だから、豊岡も誰も殺させはしない!」

「では、阿燕さんを助けましょう」

「ああ」


 俺は湖晴に音穏の件についての弁明と豊岡の件に対する意気込みを伝え、湖晴の合図が来るのを待つ。


「・・・・・あ、阿燕さんが出て来ましたよ」


 湖晴の小声と共に、中学校の校門から1人の少女が出て来るのが分かった。豊岡だ。あまり身長は変わっていない様に見えるが、眼帯をしていない事を除けば完全に同一人物だ。髪は『現在』よりは短いな。ソフトボールをしているからか。


 豊岡はやはり部活の帰りだろうか、バッドのケースや大きめのバッグを持っている。この後、まさか自分の人生を左右する様な出来事が待っているとも知らずに。


「で、これからどうするつもりだ」

「はい。阿燕さんの目を守るには阿燕さんを人質にさせないと言う事が最重要事項になります」

「そりゃあな」

「その為にどうすれば良いのか。それは阿燕さんを尾行し、強盗の入った銀行に近付けさせない様に説得する事です」

「またストーカーですかい」


 何度目だよ全く。『上垣外次元、同一人物に人生で2回目のストーキング行為。尚、1回目は忘れられる模様』ってか?何だよ途中の補足は。


「ストーカーではなく尾行ですよ」

「・・・・・ちょっと待て今気付いたが、その説得って」

「もちろん次元さんにお願いします」

「デスヨネー」


 また俺の出番だ。通算成績では湖晴の方が働いているから、ここで俺が起用されるのは普通の事だが、それでも俺は豊岡と結構話している。学校、店、事件現場の3箇所だ。今回のを入れると4箇所目になる。


「それでは阿燕さんを『尾行』しましょう。ここから例の銀行まではおよそ4分。3分くらいの地点で次元さんの出番です」


 徒歩1分は大体80mくらいだ、ってテレビでやってた様な記憶がある。・・・・・何でわざわざ俺はこんな事を言ったんだろうか。まぁいいか。


「そんなに近くで大丈夫なのか?」

「むしろ近くないと効果が無いでしょう」

「何故」

「その銀行強盗の現場の近くで説得すればその現場を見せながら説得する事が出来ます。いくら見ず知らずの男性から話しかけられたとは言え、流石に何か事件が起きている場所に行きたがる人はいないでしょう」

「行くとしたら、刑事志望か犯人志望だな」

「例が両極端なのは置いておきましょう。と言う訳で、次元さんよろしくお願いします」

「分かったよ」


 我ながら上手い事を言ったつもりなのだが、湖晴に簡単にスルーされた。


 そんな事を気にしている場合ではない。現在、俺達は豊岡を尾行ストーキングの真っ最中だ。俺が豊岡を説得する予定地まで残りおよそ100m。


 失敗は絶対に出来ない。俺は豊岡を救うんだ。だから、意地でも豊岡を事件現場に行かせる訳にはいかない。


 そして、その時は来た。

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