第15部
【2023年09月14日19時23分08秒】
「何だ!?何の音だ!?」
すっかり暗くなった夜空の真下、俺と湖晴は突然路地裏から響き渡る銃声音に困惑していた。ここはいわゆる裏道の様な所で周りには誰もいないので、今の銃声音を聞き取る事が出来たのは俺と湖晴だろう。
「次元さん!」
そんな時、湖晴が何かに気付いた様子で俺の名前を呼んだ。
「これは少し不味い事になったかもしれません・・・・・!」
「何!?どう言う事だ!?」
何が不味い事になったと言うのだ。この状況は普通に考えたら明らかにかなり不味い状況だと思うが、湖晴はそれ以上に不味い状況を悟っていた様子だった。湖晴は『何かが全て終わる。その終わりを悟る』そんな雰囲気を出していた。
そして、湖晴は俺にその台詞の意味を教える為にタイム・イーターを見せた。タイム・イーターの画面を見てみると、豊岡の現在位置が表示されている画面である事に俺は気付いた。そして、その現在位置は・・・・・
「この路地裏・・・・・!」
俺は湖晴をそのまま置き去りにして、今見たタイム・イーターの表示を思い出しつつ豊岡の元へと走る。そう、タイム・イーターは豊岡の現在位置を『今さっき銃声音がした方向にある路地裏』と示していたのだ。
銃声音がした所に豊岡がいたと言う事は、豊岡が発砲したと言う事だろうか。でも、何でだ?ついさっきまでは俺と普通に会話をしていたのに。
それに、俺も『早く家に帰る様に』と言ったはずだ。別にこの台詞を豊岡が聞く保証は無いが、それでもついさっきまでの豊岡の雰囲気は昼休みの時とは違い、何か別の優しい物だった。それなのに・・・・・!
もうどれくらい走っただろうか。俺達は路地裏のすぐ近くを通っていた為、距離的には路地裏通りの道だけのはずだが何故か以上に長く感じる。俺自身が焦っている証拠だろうか。軽く数100mは走った様な感覚に襲われる。
パンッ!
そして、2回目の銃声音が聞こえた。
「豊岡ぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺の声が豊岡に届いてくれれば。そう考えて俺は腹の底から大声を出した。
どんな過去があったとしても、どんな理由があったとしても豊岡にはもう誰も殺させない、俺はそう誓ったはずなのに。
俺は何故豊岡から目を離した?俺は何故湖晴にタイム・イーターで監視しておく様に言わなかった?そして、俺は何故『早く過去改変をしなかった』?もっと早く過去改変をしていれば豊岡がこんなにも苦しむ必要は無かったはずだ。なのに、俺は自分の事ばかり考えて早く対処しなかった。
そして、俺は路地裏の最深部に着いた。
「豊・・・岡・・・・・?」
俺はそこで繰り広げられる光景を信じたくは無かった。信じられるはずも無かった。湖晴から聞いていたから真相は知っていたはずだった。でも、そんな事は全然役に立たなかった。
そこにはつい30分前まで俺と会話していた女の子が右手に拳銃を持ち、血塗れになって立っていた。そして、その女の子の視線の先にはぐったりと壁にもたれて倒れている警察制服を着た男がいた。
俺は暫くその惨状を見て、固まっていた。これは何だ?どう言う事だ?何が起きた?俺の中でそんな言葉がぐるぐると目まぐるしく回り、そして何かが崩れ去って行く音が聞こえた気がした。
すると、豊岡は俺がここにいるのに気付いた様子で俺の方を見た。豊岡の右目は眼帯で隠れて見えないが、もう片方の左目は何か生きる希望を失った様な絶望しきっている目だった。そして、豊岡は俺に話しかける。
「・・・あれ?上垣外・・・?ははは、何でこんな所にいるの?」
「・・・・・俺は路地裏から銃声が聞こえたから・・・」
「そっか・・・。銃声って以外と反響するんだね・・・」
何で普通に話している?
「上垣外は知ってたんでしょ・・・?私がこんな事をしているの」
「知ってた・・・知ってたさ・・・・・でも!」
何で俺は豊岡に何も言ってやれない?俺が無能だったからか?違う。
「でもな!俺との約束はどうなったんだよ!」
「約・・・束・・・・・?」
俺は豊岡を『救ってみせる』と言った。そして、ついさっきも家に帰る様に言った。それは何故だったのか。そんな事決まっている。『豊岡にはもう誰も殺させない為』だ。でも、豊岡はそれに気付く事は出来なかった。
言ってしまえば、ただそれだけの事だ。俺に伝える力が足りなかっただけだ。
だが、俺はこんな結末は絶対に認めない!俺は湖晴から頼まれているからとか、音穏の時の借りを返したいとか、そんな事が理由で豊岡と話して来た訳じゃない!俺はただ単純に不幸な境遇に晒されてしまった1人の女の子をその境遇から解放したい。そう言う思いで行動してきただけだ!
だから、俺は豊岡に話しかける。語りかける。豊岡の目の前にいる警官はぐったりとしているが、まだ息はある様に見えた。その人が豊岡に何をしてしまったのかは俺はもう知っている。だが、豊岡には絶対に殺させはしない。
そして、説得する。
「そうだよ!俺との約束だよ!豊岡の姉ちゃんにあげる為のぬいぐるみを捜してやるって言ったろ!」
「・・・ぬいぐるみ?・・・別に良いよ、そんなの・・・」
「『そんなの』とか言うな!」
「だって!」
俺は豊岡との約束で最も最近にした物をチョイスして豊岡を説得する。この硬直した場を早く何とかしなければ、そこにいる警官は大量出血で死ぬだろう。そうしたら、豊岡の罪がまた1つ増える。
しかも、いくら路地裏と言っても誰かがさっきの銃声音を聞いていたのなら、通報はするだろう。そうなってしまったら、豊岡を救う事は絶対に出来なくなる。湖晴が言っていた様に、『現在の』豊岡が捕まってしまったら、過去改変をしても影響が出ずに豊岡が犯罪者のままになっている可能性もある。そんな結末は絶対に避けなければならない。
そして、豊岡は続けて俺に言う。
「だって・・・前の3人とこの男を殺してもお姉ちゃんは帰って来ない・・・何をしても何をしても何をしても・・・・・!」
「だったら・・・何で!こんな事を!」
「こいつらはね、上垣外。グルだったんだよ・・・」
「グル?」
グルと言う事はつるんでいたと言う事だろうか?でも、そんな事あるのか?犯罪グループと警官がグルなんて事が。
「そう、私のお姉ちゃんを殺した時も、私の右目を失明させた時も全て仕組まれた事だったんだ!」
「何!?」
犯罪グループが豊岡の姉を、警官が豊岡の右目の視力を、奪って行った訳ではなかったのか?4人が4人、豊岡の過去に関係していたと言うのか?
「12年前、私の家に強盗が入った。その時の強盗犯がこいつを含む4人だった。そして、こいつは私のお姉ちゃんを攫って行った。そして、今から2年前その強盗犯3人が銀行強盗をし、その時に威嚇射撃を私に撃ったのがこの男だ!それに・・・それに・・・・・!」
豊岡は完全に我を忘れている。俺がここに来たが為に不安定な精神を触発させてしまったのかもしれないが、それでも、止めなければならない。豊岡の過去の全容が分かってしまった今だからこそ、止めなければならない。救わなければならない。
豊岡は顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら言った。
「お姉ちゃんは何処かで生きてる・・・そのはずだったのに・・・そう信じて3人も殺してきたのに・・・・・!こいつはこいつは・・・平然とあんな事言いやがってぇぇぇぇぇ!!!!!」
豊岡は右手に持つ拳銃を地面に倒れ込む警官に向ける。そして、その引き金を・・・、
「次元さん!」
その時だった、今まで何をしていたのかは分からないがようやく湖晴が事件現場に現れた。そして、俺の名前を読んだ後、すぐに続けた。
「阿燕さんを『隠して下さい』!」
「え?」
豊岡を隠せ?一体何があってそんな事を?そう思っていると、湖晴の後ろから拳銃を構えた警官が数人現れた。
「そこの少年!伏せろ!」
その中の1人がおそらく俺に言った。『伏せろ』と言われても俺には今の意味が全く分からなかった。そして、俺がその指示を聞いて伏せる前にその警官が発砲した。
パンッ!
グチャ。
ドシャ。
3つの効果音が何を表しているのか俺には最初は分からなかった。俺は警官数人から目を離し、後ろで地面に倒れこむ警官を狙う豊岡を見た。そこには豊岡が立っている・・・・・はずだった。
豊岡は倒れていた。周りは血の海になっている。
「豊岡ぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺は豊岡の元に駆け寄る。豊岡が撃たれたのはおそらく通報を受けた警官数人が事件現場に来て、そこで要注意人物を行動不能にさせる為だろう。でも、当たり所が悪かったのか、弾丸はどうやら豊岡の腹部を直撃した様だった。血が辺りに染み渡っていく。流血は止まる気配を見せない。
「何だよ・・・何なんだよ・・・・・!どうしてこんな結末にならないといけないんだぁぁぁ!!!」
どうしてこんな事に。俺が豊岡を監視していれば、俺がもっと早く過去改変をしていれば、こんな事にはならなかった。俺がしっかりしていなかったばっかりに!
「湖晴!」
「はい!」
俺は湖晴を呼ぶ。湖晴もどうやら俺の言いたかった事が分かっていた様で、既に手にタイム・イーターを持っている。
「俺はこんな結末を認めない!俺は過去を変える!」
『現在』で豊岡が死んだら、この世界での豊岡の死は回避出来ない事になる。『現在』で豊岡が捕まったら、この世界で豊岡は犯罪者となる。だから、今しかない。過去へ飛んで過去改変をするなら、今だ!
チャンスは1回だけ。それは音穏の時と同じだ。だが俺はやり遂げる。豊岡を不運な境遇から解放する。俺は豊岡を『救う』!
「次元さん!何時でも行けます!」
警官数人は俺達が何を話しているのか分かっていない様だったが、そんな事はどうでも良い。俺は今は過去に飛んだ後、何をすればいいのか。その事について考えれば良い。
その時、俺の腕の中で血塗れになっている豊岡が小声で呟いた。
「上・・・垣外・・・私はあなたの事が・・・・・す・・・」
俺は豊岡の言葉を聞き取る事は出来なかった。その直後、辺りが眩い閃光に包まれ、俺と湖晴は『現在』から時空転移させられ『過去』へと飛んだ。
そして、俺の豊岡を救うタイムトラベルが始まる。




