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Time:Eater  作者: タングステン
第二話 『Zn』
27/223

第14部

【2023年09月14日18時59分47秒】 


~豊岡阿燕視点~


 学校の帰り道、突然現れたフードを深く被ったその女性は話し始めた。私の過去にあった『2つの事件の真相』を。この人は一体何者なのか。そんな事なんて全く気にならない程の衝撃的な内容だった。


「豊岡阿燕。お前の姉は『生きている』」

「何ですって!?」


 この人は何でそんな事を知っているのか、そんな事よりも私は死んだと思っていたお姉ちゃんが生きている、と言う事に対して驚きと喜びを感じていた。


「どう言う事!?お姉ちゃんはまだ生きているの!?何処にいるの!?」


 私はその人にお姉ちゃんに関する情報を聞き出した。もう1度だけで良い。お姉ちゃんに会いたい。ただそれだけだった。許してくれるかは分からないけど、お姉ちゃんに謝りたい。


「私は知らない。だが、奴らなら知っているだろうな」

「『奴ら』?」


 『奴ら』とは一体誰の事だろうか。私はお姉ちゃんを引き取ってくれた人を知っていない。と言うか、お姉ちゃんは私と名前が入れ替わり、死んだ事になっていたのでそんな事知るはずも無かった。だったら『奴ら』とはどんな人達の事だろうか。


「12年前の強盗誘拐犯だ」

「!?」

「奴らがお前の姉を誘拐したのだろう?」

「何故・・・その事を・・・!」


 何処から何処までをこの人は知っていると言うのか。戸籍上はこの私『豊岡那鞠』が誘拐された事になっている。だから、お姉ちゃんが誘拐されたのは私しか知らないはず。それなのに、この人はさらっと言い放った。あの強盗犯が私のお姉ちゃんを誘拐したと言う真実を。


「あなたは一体何者なの!?」


 私はようやく核心に触れた。お姉ちゃんの居場所も大事だけど、それ以前にこの人の素性を知っておく必要がある。


「私の事は後に分かるだろう。それとも、構わないのか?お前の姉は意外と近くにいるかもしれないのだぞ?」

「え?」


 近くにいる?私の?もしかしたらお姉ちゃんも私の事を探してくれているのかもしれない。そうだ、そうに違いない。だったら私も全力でお姉ちゃんを見つける必要がある。それがお姉ちゃんの完全コピーとなった私の使命だから。そして、お姉ちゃんにきちんと謝らなければいけない。


「教えて。お姉ちゃんは今何処にいるの?あなたは知っていなくても他の誰かは知っていないの?」


 この謎のフードの人が知っていなくても、お姉ちゃんが生きているのなら誰かは知っているだろう。そう考えた結果のこの台詞だった。


「先程も言ったがお前の姉とお前の右目を奪った4人なら知っているはずだ」

「それって・・・どう言う事・・・・・?」


 お姉ちゃんを誘拐した男達と私の右目の視力を奪った警官はグルだったと言うの?でも、そうすると、人数は5人になってしまう。つまり、どう言う事なんだろう。


「お前に発砲した警官とお前を押さえ付けていた銀行強盗犯は、12年前にお前の家に入った空き巣と同一の4人組だ。知らなかったのか?」


 そんな事全然知らなかった。私はその4人がこの世に存在したが為に人生をめちゃくちゃにされたと言う事になる。こんな理不尽な事があって良いものなのか。私は心の底からその4人組を恨んだ、妬んだ、殺意が沸いた。


「その4人に聞けばすぐに分かる事だろう。ただ、そう簡単に見つけられるものではないだろうがな」


 そう言い残して、私が気付いた時にはその人はいなくなっていた。今の会話は夢の中の出来事だったのか、現実世界の出来事だったのかそんな事すら区別がつかなくなる様な内容だった。


 そして、私はその4人を探し出してお姉ちゃんの場所を聞き出し、復讐する事を決意した。


 数ヶ月間私はネットの情報や警察の回線に進入したりして調べて行った。すると、3人の犯罪グループの拠点と1人の警官の勤めている交番の場所が分かった。


 凶器には拳銃を選んだ。こいつらには私達と同じ苦しみを味わってもらう。そんな思いで拳銃を選択した。意外な事にインターネットショップに安く大量に販売されていた。


 数日後、犯罪グループの1人に出会う事に成功。私は拳銃でそいつを脅しながら、お姉ちゃんの情報を聞き出す。しかし、そいつは『そんな奴は知らない』と汚い泣き顔で言った。何度威嚇射撃をしても、そいつは同じ台詞を繰り返すだけだった。


 パンッ!


 その瞬間、私に返り血が飛ぶ。私は全身血塗れになった。目の前の男の頭部は今の弾丸で破裂し大量の血が溢れ出ている。これは即死だろう。


 拳銃で脅されているのに真実を喋らないとは中々挑戦的な奴だ。そんな奴には死んでもらった。流石に入れ替わっているとは言え、バレたらバレたで面倒だし。それに、別に1人くらい死んでも全然問題ない。あと3人いるんだし、その内の誰かは喋るだろう。


 だが、私の不幸はここでも続く。犯罪グループの1人を始末した後、残り2人にも聞き出したが結局『知らない』と言うので処分した。ここで私は何かがおかしいと感じ始めた。


 そう言えば、何でこいつらは仲間割れをして警官と犯罪グループに分かれたんだろう?その原因には何かトラブルがあったのではないだろうか。そうだろう、そうでもないと犯罪者のグループが仲間割れなんてする訳がない。そのトラブルは『お姉ちゃんの生存に関する何か』であると私は結論付けた。


 そして、残る1人警官の男に聞き出しに行こうと計画していた日の学校の昼休み、私は中学時代からの友達の薗頭姫瀬乃(そのがしらきせの)に教室中に響き渡る様な大声で呼ばれた。一体何があったと言うのか。私はやや慌てながら、姫瀬乃の元に行った。


 そこには姫瀬乃と見覚えの無い男子がいた。そして私は今まで体験した事の無い不思議な感情に心が支配されていく感覚になりながらこう思った。


(え・・・?何この人・・・。格好良い・・・・・)


 ここで開き直って改めて言ってしまうと、その感情はおそらく『恋』だった。つまり、私はその初対面の男子に一目惚れしてしまっていたのだ。私はお姉ちゃんと入れ替わっている為、実際の年齢はこの男子の方が年上だけど、それでもそう思ってしまったのだから仕方無い。何か運命的な物を感じた。


 でも、私はいつも通り閉鎖的にその男子に接した。私には幸せになる権利は無いから。


『俺は君と話がしたいんだ!』


 私が話す事を拒んでいるとその男子は私にそんなプロポーズ的な台詞を言って来た。唐突なそんな言葉だったので、私は顔が赤くなってしまった。その顔を隠そうと思って適当に返事をしていると、気付いたらグラウンド前のベンチに座らせられていた。


 どうしてこうなった。


 その男子の名前は上垣外次元と言うらしい。変な名前だ。苗字も名前もかなり珍しい。


 上垣外はどうやら私と話がしたいらしい。何で私なんかと?仏頂面で眼帯をしていて不気味な私と?そんな事を思っていると、上垣外は私に話題を振ってくる。


『クラブには入ってないのか?』


 クラブには入っていない。と言うか、右目を失明している私が入っても他の人に迷惑を掛けるだけ。だから帰宅部なんだけど、上垣外は知らないか。私は仕方なく、クラブに入っていない事を言う。そしたら、上垣外は続けて、中学時代の時に入っていたクラブを聞いて来た。何でそんな事を聞くんだろう。


 私は何故かその後も、上垣外に質問された事にしっかりと返答してしまっていた。私がクラブに入っていたけど今は入れない理由、右目を失明した経緯。私の過去の大半を。


 すると、上垣外はこう言ってくれた。


『何でそんな事で豊岡が苦しまないといけないんだ!』


 予想外の一言だった。今までも私は私の過去について何人かに話した事があった。でも、大抵の人の場合は気不味くなるだけで、そんな風に心の底から私に同情してくれる人は上垣外が初めてだった。素直に嬉しかった。私の過去を理解してくれるかもしれない人がこんなにも近くにいたんだ、と私は始めて自分の幸運を称えた。幸運と言う経験をしたのはもしかしたらこれが初めてだったかもしれない。


 でも、上垣外は私の本性を知っていた。私が今までに3人の犯罪者を殺して来た事を。私は頭の中が真っ白になった。上垣外は私に自首させる為にここに来たんだ。そう確信した。でも、違った。上垣外は私を訴えるつもりは無いと言い、しかも私の事を『救う』と言ってくれた。


 上垣外が何処から何処まで私の事を知っているのかは分からない。でも、私がその台詞によって喜びと疑念を感じて、その場から走って逃げ出した。


 その数秒後だった。後数mで校舎内に入れると思っていた時、背後から上垣外の切羽詰った様な大声が聞こえて来た。何事かと思ってふと頭上を見ると『何かが』私目掛けて落ちて来ている。


(嘘・・・・・)


 私はここで死ぬのか、と一瞬考えたけどそれでも私にはまだやり残した事があると思い出した。


(まだお姉ちゃんに会えていない・・・・・!)


 そして、辛うじてその『何か』を避ける事に成功した。その時に膝を擦り剥いてしまったみたいだ。ちょっとだけ血が出ている。と同時に足も打ったみたいで、暫くは歩けそうも無い。どうしよう、困った事になった。


 でも、上垣外はすぐに私の元に駆け付けてくれた。私のピンチに駆け付けて来るその影はまるでお姉ちゃんみたいだった。私は1度は上垣外の手を跳ね除けて助けを借りなかった。それでも、上垣外は動けない私を無理矢理背負って、保健室に運び始めた。その背中は何か特別な温もりを感じられた。


 私の不運はここでも炸裂する。保健室には辿り着けなかった。拳銃、火事、爆発、電流と言った様々な事柄が私と上垣外を殺そうとする。私達は何とかその全てから逃れる事に成功し、生き延びた。上垣外の柔軟な考えがあってこその生存だと思った。


 ようやく、話が『現在』に近付いて来た。


 さっきも言った通り、今日は最後の1人にお姉ちゃんの居場所を聞き出しに行く日だ。考えたくはないけど、もしこの取り組みが失敗に終わった時の為に私はお姉ちゃんへの12年遅い誕生日プレゼントを買ってから、聞き出しに行く事にした。


 場所は何処が良いだろうか。都心に行くとそれなりに品が揃っていると思うけど、あまり遠い所には行けない。時間がかかるし、今日はとにかく時間が無いから。だから、駅に近い地下街を利用する事にした。


 ここなら家から近くて、ぬいぐるみ専門店も何故か2つある。きっと買う事が出来るそう思っていたけど、やはりここでも私は不運だった。捜していたツバメのぬいぐるみは置いてなかった。


 仕方無いのでこのまま帰ろうと思っていた時、突然私の目の前に昼間のあの人が現れた。


『『・・・・・』』


 私とその人、上垣外は顔を見合わせる。本当に何のつもりなんだか。殺人犯である私を通報する事すらしないで、挙句の果てストーカー行為までするなんて。


 暫く私は上垣外と会話をした。こいつの一言一言は何か心にグッと来る物があった。格好良いし、優しいし、私の事を見てくれている。そんな風に思えた。


 しかも、私がお姉ちゃんの事を話せば一緒に悲しんでくれて、ツバメのぬいぐるみを買いに来たけど結局売っていなかったという事を話すと『俺に任せておけ』と言ってくれた。少しお節介の様にも思える台詞ばかり言うけど、上垣外は私の今までの人生の中で優しくしてくれた2人目の人だった。


 そして私は今、上垣外からのそんな優しい言葉を聞いて、照れて顔が赤くなったのを隠す為に全力疾走で家に帰っている。正確にはその帰り道の真っ最中。


 上垣外と言う私の理解者が現れたと言う事に喜びを感じ、その彼に言われた通り今日はもう家に帰る。お姉ちゃんの事は諦めたくはないけど、それでももう殺人はしない。もう全て終わり。それで済んでくれれば良いけど、そうなれば良いな。


 私は駅前の交番の前を通りかかった。そう言えばここにはあの4人組の1人がいたはず。今さっき私はもう全て終わりにしようと思っていた所だけど、せっかく近くにお姉ちゃんの居場所を知っているかもしれない人がいるんだ。聞かない手はない。


 交番に入ろうとした時、後ろから声が聞こえる。


「君、どうしたのかな?」


 後ろにいたのは普通の警官だった。でも、こいつは以前調べた通り犯罪グループの1人だ。その時に見た資料に載っていた顔写真と全く同じ顔だ。


 当然ながらそいつは私の事を覚えてなんていない。だけど、こいつにも多分何か事情があったんだ。だから、今はこいつのした罪についてはあえて触れず、人探しと言う名目でお姉ちゃん、戸籍上は『豊岡那鞠』の行方を聞く。


「ちょっと、人探しをしていまして」

「そうかい。言ってごらん。力になれるかもしれない」

「『豊岡那鞠』さんの行方をご存知ですか?」


 次の瞬間、その警官の表情が急に険しくなった。


「君、何でその子を捜しているのかな?」

「ただの知り合いですよ」


 戸籍上はお姉ちゃんは妹な訳だけど、それを言うともしかしたらこの警官は気付いてしまうかもしれないし、余計にややこしくなってしまうかもしれない。そう考えて、あえて『知り合い』と言う近い様で遠い関係に設定しておいた。


「ご存知ですか?」


 私は警官に尋ねる。


「ああ、知っているよ」


 警官はそう言った。


 やった!やっと、最後の最後でお姉ちゃんの情報を手に入れる事が出来る!やっと、お姉ちゃんに会える!そう思っていた。しかし、警官は私に絶望を与える台詞を吐いた。


「ああ、知っているよ。その子なら12年前、誘拐された後に何処かに『売られた』よ。ごめんね力になれなくて。僕が知っているのはここまでなんだ」


 私の中で何かが途切れた音が聞こえた。


 そして、私はポケットに入れてあった拳銃を取り出しその警官に向け、引き金を引いた。 

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