表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Time:Eater  作者: タングステン
第二話 『Zn』
26/223

第13部

【2023年09月14日18時57分28秒】 


~豊岡阿燕視点~


「何なのよ何なのよ何なのよーーーーー!!!!!」


 私は今、駅前の地下街を顔を真っ赤にしてそんな事を叫びながら全力で駆け抜けている。通りかかった人達に何やら不審な目で見られているみたいな妙な感覚があったけど、そんな事なんて全然気にならないくらいに私は全力疾走していた。


 何故こんな事になったのか。それは、今日の学校での昼休みに上垣外にあった時にまで遡るけど、その前に私の過去に何があって私が殺人者になったのか、その経緯について話そうと思う。


 話を最後まで聞いてもらえれば分かると思うけど、私の『豊岡阿燕』と言う名前は偽名だ。私の本名は『豊岡那鞠(とよおかなまり)』と言う別の違う名前だ。真実を言うと『豊岡阿燕』は私のお姉ちゃんの本名だ。


 それでは何故私が『豊岡阿燕』を名乗って普通に生活しているのか。その事について話そうと思う。


 事の始まりは11年前に遡る。


 私はお姉ちゃんの事が大好きだった。お姉ちゃんと私は1歳差で身長はお姉ちゃんの方が少し高かったけどそれ以外の外見は非常に似ていた。でも、中身は全然別人だった。お姉ちゃんは普通な私とは違って何でも簡単にこなしてしまう、いわゆる天才少女の分類に入る人だった。


 当時はまだ6歳と5歳だから幼稚園生な訳だけど、お姉ちゃんは普通の小学生よりは出来が良かったと思う。これは別にお姉ちゃんを過大評価している訳ではなく、単純に事実だからこう言っておく事にする。


 私の家は正直に言ってしまうと、そこそこ裕福だった。その事に関しては今も変わらない。でも私の家、豊岡家はその反面教育にはかなり厳しかった。元々教育方針がスパルタなのだった。出来が普通な私は両親からの批判の的になった。


 当然の事だったけど、それでもやっぱり悲しかった。


『なっちゃん。大丈夫だよ』


 でもそんな中、お姉ちゃんはいつも私を庇ってくれた。何があっても何処にいてもすぐに駆けつけて、普通な私を助けてくれた。一応言っておくと『なっちゃん』とはお姉ちゃんが私をそう呼んでいたニックネームの様な物だ。


 お姉ちゃんは幼いながらも、ソフトボールがとても大好きだった。剣道もしていたみたいだけど、ソフトボールの方が好きだった様に思える。生れ付き体があまり丈夫でない私はいつも見ているだけだったけど、お姉ちゃんの楽しそうな姿を見るだけで充分に満足だった。


 そう、私の人生はお姉ちゃんあっての物。お姉ちゃんのいない人生なんて意味が無い。そう思っていた。


 お姉ちゃんはツバメのぬいぐるみが大好きだった。名前に(つばめ)の文字が入っているからなのか、とても気に入っている様子だった。


 だから、私はお姉ちゃんに誕生日プレゼントとしてツバメのぬいぐるみをあげる、とお姉ちゃんに約束した。お姉ちゃんも楽しみにしていた。


 だが、お姉ちゃんはその日を迎える事無く殺された。正確には誘拐された後行方が分からなくなり、暫くした後に正式に『死亡』と発表された。今からその事件について話そうと思う。


 その日は雨の日だった。


 両親は休日出勤で家にはいない。時々両親は休日でも仕事に出ていた。だからこう言う日は普段の厳しい教育が無いのでゆっくり休む事が出来た。もちろんお姉ちゃんも一緒にいて、1日中ずっと部屋の中で遊んでいた。


 しかし、それまでの私の幸せを『奴ら』は全て奪い去った。


 突如2階の窓が割れた音が聞こえ、そこから覆面の男4人組が入って来た。間違いなく、これは正真正銘の空き巣だった。お姉ちゃんと私はその男4人組から逃れる為にテーブルの下に身を潜めていた。


 家中が男達によって荒らされる。引き出しをぶちまけられ、金庫を抉じ開けられ、金目の物を全て奪って行く。私達はそんな光景を黙って見ているしかなかった。


『なっちゃん、泣かないで。お姉ちゃんがいるから』


 そんな時にもお姉ちゃんは私を励ましてくれた。お姉ちゃんがいればこの局面も切り抜けられる。私はそう信じて男達に見つからない様に、と願った。


 そんな時だった。男の1人が私達が隠れていたテーブルの下を覗き込んだ。当然の事ながら私達は男達に見つかった。そして、私達は両親から更に金を巻き上げる為の人質となった。私達は両手を縛られ、こめかみに拳銃を突き付けられて身動きの取れない状態となった。


 暫く経った。男達がやや騒がしくなった。おそらく私達の両親が身代金を支払ったのだろう。これでようやく解放される。そう思った矢先に覆面4人組男の1人が言った


「身代金を渡されたのは1人分だけだ。『姉を返せ』とさ。『妹は死んでも良い』らしいから、ここで殺す」


 私は頭の中が真っ白になった。何度も言うが、私の本名は『豊岡阿燕』ではない。『豊岡那鞠』それが私の本名だ。そして、当然だが私はお姉ちゃんよりも年下で妹だ。


 この時、私は悟った。うちの家ならいくら身代金を要求されてもある程度は払える。なのに、1人分しか男達に払わなかった。つまり、私の両親は出来が普通で年下の私、『豊岡那鞠』を見殺しにする選択をしたのだった。


 私はそう分かった時にどう思ったか。そんな事決まっている。『死にたくない』だ。誰だって死にたくは無いと思うけど、それでもこんな理不尽な連中に『私が普通だから』と言う理由だけで殺されるのは嫌だ、そう思っていると私は無意識の内にこう言ってしまっていた。


「『私が姉です』」


 次の瞬間、お姉ちゃんの幼い体が数m真横に跳んだ。男達による処刑が始まった瞬間だった。その映像は両親にライブ中継されている様で、男の1人がカメラを持っていた。


 私はその時に自分がしてしまった罪に気付いた。でも、それは既に手遅れの気付きだった。お姉ちゃんの処刑動画が自宅前に待機していた警察の方に流れたのか、警察が男達を取り押さえる為に家の中に突入しに来たのだった。


 それに気付いた男達はもう1回人質にしようとしたのか、お姉ちゃんを攫って何処かに逃げた。それが私がお姉ちゃんを見た最後の瞬間だった。


 そう。私は大好きだったお姉ちゃんを犠牲にして生き延びてしまった。何でこんな事になったのか、何でそんな事をしたのか、私は自分を責めて責めて攻め続けた。でも、お姉ちゃんは帰って来ない。


 数分後、警察に保護された私の元に両親が来た。両親は私を抱きしめた。私の事を『豊岡阿燕』と思い込み、『豊岡那鞠』を見殺しにした事に対して罪悪感を覚える事無く。私は『豊岡阿燕』ではなく『豊岡那鞠』なのに。


 でも、私は両親にこう言った。それが全ての悲劇の始まりとも知らずに。


「なっちゃん・・・連れて行かれた・・・・・」


 その瞬間から、『豊岡那鞠』は死亡し、私は『豊岡阿燕』を名乗ってお姉ちゃんの代わりに生きる事になった。つまり、私はお姉ちゃんを犠牲にしておきながら、お姉ちゃんの代わりとなってこの世界に生き残り続ける決意をしたのだった。


 それからは私も必死だった。少しでもお姉ちゃんの代わりになれる様に、お姉ちゃんではない事が両親にバレない様に毎日必死だった。でも、どれだけ頑張ってもお姉ちゃんの完全コピーにはなれなかった。両親は何度か私の存在を疑ったけど、その度に私は適当に言い訳をして誤魔化した。


 小学生になった。そろそろ私とお姉ちゃんの決定的な差が両親にバレてしまう。それは『運動』だった。私は生れ付き体が丈夫ではなかったので、激しい運動をするとすぐに倒れてしまう。だから、私は焦った。このままでは両親に真相がバレてしまう。


 そこで、私が思いついたのは『ソフトボール』だった。このスポーツならお姉ちゃんも大好きだったので、どれだけ打ち込んでも不審に思われない。しかも、私はその時まだ小学校低学年だ。別に上手とか下手とかを指摘されるような年齢ではないはず、そう考えた。


 私はその決心をしてソフトボールに打ち込み始めてからは運動も勉強も普通に保っているだけでも両親に叱られる事は無くなった。それは何でか。それは意外な事に私のソフトボールの上達率が高かったからだった。しかも、弱かった体も徐々に丈夫になっていった。


 小学生中学年になると高学年に混じってレギュラーを競う事も難しくは無かったし、何よりも楽しかった。今まで自分を縛り付けていた物を全て解き放って、好きな事だけに打ち込める。私はそんな状態に満足していた。


 中学生にもなると、私は近くの地域ではそこそこ有名になるくらいになった。『最強の1番バッター』とか呼ばれた事もあった。その時の私はお姉ちゃんの完全コピーにならなければならない、と言う使命なんてすっかり忘れて自分の好きなスポーツに全身全霊を掛けていた。


 高校はよく県代表になる強豪校の原子大学付属高等学校にした。ここではソフトボールの他にも剣道も有名みたいだったので、学校偏差値こそ高くないものの倍率はそれなりに高かった。でも、別に私は頭が悪い訳ではなかったし、成績も文句を言われる様な物ではなかったので、前期試験で合格する事が出来た。


 私は中学校のソフトボール部ではキャプテンを任されていたので、合格発表後の春休みも何度かクラブに顔を出していた。皆上達してきていた。私はこの時、お姉ちゃんの完全コピーになったと同時に自分なりの人生を歩む事が出来ている。そう確信した。


 でも、そんなある日の帰り道『奴ら』は再び私から大切な物を奪って行った。


 その日は晴れだった。時刻は既に6時を回っている。今は3月終わりなので、どちらかと言えば暗い天気だった。


 私はいつも通りに帰り道である商店街の方に歩く。すると、何やら警官が何人かいるのが見える。何があったんだろうか?でも、私は特に気にする事なく銀行の前を通った。


 その時だった。


「そこの君!逃げろ!」


 そんな、警官の切羽詰った様な一言の後、私は首を絞められて身動きが出来ない状態になった。そして、12年前の様にこめかみに銃口を押し当てられている。よくよく見てみると、私の事を心配そうに見る警官や野次馬の姿がちらほらと見えた。私は確信した。


(そっか、また人質にされちゃったのか・・・・・)


 私は人生で2回目の人質となった。自分の不運さと不注意っぷりに腹が立って来る様な気もした。でも、警察は目の前数メートルにいる。時間が経てばこの均衡状態は解ける事だろう。


 しかし、その均衡状態は最悪の形で解けた。


 警官の1人が強盗犯の1人に拳銃を向けている。威嚇射撃をしようとしているのかもしれない。でも、ちょっと待って欲しい。その警官が銃を向けている強盗犯は私を捕まえている。しかも、その警官の手は震えていた。


(待って!そのまま撃ったら私に当たる!)


 私は心の中でそう叫んだけどもちろん誰にも聞こえていない。大声で叫ぼうとしたけど、口を押さえつけられているのでそれすらも叶わなかった。


 そして、警官が発砲した。


 パンッ!


 グチャ。


 警官が発砲した銃の弾丸は斜めを向いていた私の右目を貫いた。と言っても正確にはそんな痛みが走ったと言うだけだ。実際には弾丸の摩擦で角膜を引き剥がされる様に掠っただけだった。それでも相当量の血が出ていた事だろう。


 その後、その事件がどうなったのかは詳しくは分からない。一応、後に聞いた話だと強盗犯はすぐに逃走し捕まらなかった事。私は痛みのあまり気絶していた為、すぐに病院に運ばれた事。私を撃った警官は拳銃の生産側の不手際が原因として特に罰則が無かった事。これくらいだった。


 次の日、私は変な夢を見て目が覚めた。その夢はお姉ちゃんが入れ替わった私を殺しに来て、再び入れ替わろうとする夢だった。なんて夢を見てしまったのだろうか。こんな夢初めてだった。しかも、妙に現実感がある不気味な物だった。


 嫌な汗をかいていて若干気分が悪かったけど、目を開けると両親が近くにいる事が分かった。両親は目が覚めた私を抱きしめて、『良かった良かった』と何度も繰り返した。どうやら私は生きて帰って来れたらしい。


 でも、この時の私は全然気付いていなかった。私の右目には眼帯が付けられ、その視力は既に無く、2度と回復しない事を。


 その事を医師から宣告されたのは、私が目を覚ましてから約1時間後くらいの事だった。当然の事ながら危険なのでソフトボール等の球技は止めるように、と言われた。私は何かの間違いだと思った。でも、何も間違っていなかった。間違っていたのは私のその考えだけだった。


 私は片目だけでもソフトボールは出来ると言う事を証明する為に、退院後すぐから自宅で猛特訓をした。でも、一向に上達しない。投げる分には大して問題は無かったけど、片目しか機能していないのでボールの焦点が上手く合わず、捕る時はボールは全部私の顔面に当たり、打つ時はバッドに掠りもしなかった。私がお姉ちゃんから引き継いだ最後の希望を失った瞬間だった。


 それからは私はそれはまるで生きる屍の様になっていた。お姉ちゃんを犠牲にしてこの世界に居座り、お姉ちゃんの完全コピーとして生きてきたはずなのに。そんな使命は右目の視力が無くなったと同時に消失した。


 でも、何時までも落ち込んではいられない。高校に入ったら何か別の事を始めよう。お姉ちゃんがいたから今の私の命がある。お姉ちゃんの犠牲を無駄にしてはいけない。そうだ、まずは友達を増やそう。私は使命ではなく、自分の為に友達を作る事にした。


 だけど、現実は上手くは行かない。そんなに都合良く作られていない。元々私は仏頂面であった事も関係して、眼帯を付けていた事もあり、何かと距離を置かれてクラスメイトに接されている様な変な感じがした。最初は何かの勘違いかと思ったけど、中学時代からの友達と私に対する対応が全然違う。私は確信した。『私には幸せになる資格なんて無いんだ』と。


 その後、私は誰にも心を開く事は無くなった。クラスメイトを始め、中学時代からの友達、両親全ての人に閉鎖的になった。私は自分の事が嫌いになった。元々戸籍上は私は死んでいてお姉ちゃんが生きているはずなんだけど、それでも私は『今の』自分自身の事が大嫌いだった。


 高校2年生になった。早いものだ。私は全ての人に閉鎖的にする生活にすっかり慣れてしまった。嫌な習慣だ。


 私はお姉ちゃんとの最後の瞬間を思い出した。私の目が失明した瞬間を思い出した。友達が出来ないもどかしさを思い出した。自分の人生を全て振り返った。


 何も残っていない。お姉ちゃんも、ソフトボールも、私自身も何も。私に生きる意味なんてあるのだろうか。そんな事を考えていた時だった。


 学校の帰り道、唐突に現れたフードを深く被った見知らぬ女性から、2つの事件の全容を聞いてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ