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Time:Eater  作者: タングステン
第二話 『Zn』
24/223

第11部

【2023年09月14日17時01分44秒】


「なるほど。学校でそんな事が・・・・・」


 俺は帰宅後、自室にて湖晴に今日昼休みにあった事を全て話した。


 豊岡の過去をある程度は知る事は出来たが、様々な手段で殺されかけた事を。その内容は普通の人なら簡単に信じる事は出来ない物だろう。


 だが、今俺が話しているのは湖晴だ。過去改変活動を始めたばかりの俺がこんなにすぐにあんな目に会ったんだ。だとしたら、俺よりも過去改変活動歴が長い湖晴は今までもそんな経験は1回ぐらいはあるはずだ。だからこそ、湖晴は俺の話した事を真剣に真面目に聞き、信じてくれた。


 結局、誰がどんな理由で俺や豊岡を殺そうとしたのかは分からなかった。と言うか、本当に殺そうとしていたのだろうか。もしかすると、偶然が何度も重なっただけかもしれないし、生徒の悪戯が変な風に作用したのかもしれない。だが、その真相を確かめる術は無い。今言える事は1つ。『生き残れて良かった』だ。


「でもまあ、次元さんが無事で何よりです」

「右手は怪我したけどな」


 俺は電流を無理矢理遮断する為にガラスを利用した時に、右拳が少し切れてしまった。幸いな事に傷は大して深くは無い様子で、既に出血は止まり、直り始めている。俺は自分の体が丈夫で良かった、と改めて思った。あと、俺的にはあれでよく電流を遮断出来たな、と思う。


「それで、豊岡の過去改変の材料はさっき話した分で足りそうか?」


 豊岡の過去。それは酷く、辛い物だった。警察の不手際で右目の視力を失い、自分が大好きなソフトボールを2度と出来なくなった挙句、その眼帯のせいで何かと距離を置かれて接され、友達もろくに出来ない。聞いただけでも胸が苦しくなる、息が詰まりそうになる。そんな過去だった。


 聞き出した俺も俺だが、豊岡を救うには仕方無い事だ。これ以上豊岡の過去には深入りはしたくないので、ここまでの内容で足りてくれれば良いのだが・・・・・。


「はい。おそらく大丈夫でしょう。過去に飛ぶポイントは2年前の3月にあった、近所の銀行強盗を調べればすぐに分かるはずです」

「そうか。じゅあ、俺はちょっと寝てくる。あ、珠洲には明日の朝まで起こさなくて良いって伝えておいてくれ」


 学校でも充分に寝たが、全く足りない。俺は1日の大半を寝て過ごしていて、しかも起きている時は省エネで活動している。だが、最近は睡眠時間が減っている事もあり、今日はもう寝る事にする。今から寝れば、明日学校に行くまでに14時間は眠れるだろう。


 いつもせっかく作ってくれている珠洲には悪いが、今日の夕食は抜きにしてもらう事になるな。


「次元さん。少し待ってください」

「・・・・・何だよ・・・・・」


 俺が布団に包まって寝ようとしている時に、湖晴に引き止められた。もう寝させてくれよ・・・・・。俺の心の声だからもちろん聞こえてはいないだろうが、それでも俺は心の中で必死に『今は眠過ぎる』と言う事を訴えているのに、だ。


「実は報告しておかなければいけない事があります」

「そうか。じゃあ、お休み」


 報告なんてどうでも良いだろう。俺は強引に話を切り、布団に包まって眠りに着いた。


「次元さん!」


 ・・・・・と思っていたが、湖晴に布団を引き剥がされ、それどころではなくなった。湖晴はこう言う時だけ、やけに積極的になる。


「何だよ!別に明日でも良いだろ!?俺は寝る!」

「明日じゃあ駄目なんです!今なんです!今しかないんです!」


 湖晴にしては珍しく、大声を出して俺に訴えている。そんなに急用なのだろうか。


 ここで言い争っても更に睡眠時間が減るだけかもしれない、と俺は判断して湖晴の話に仕方なく応じる。


「分かったよ・・・・・。で、何だ?手短に頼む」

「はい。この前、正確には音穏さんの過去改変の直前の事を覚えていますか?」

「覚えてるよ」


 前置きはいらないから、どんどん話して欲しいな。特に今は。


「その時に次元さんが公園に拾った、と言う筒がありましたよね」

「確かにあったな」


 俺が最初は水筒、湖晴の話を聞いてからは水素爆弾だと思ったアレか。結局正体不明のまま湖晴に託したんだったな。確か。


「その筒が何なのかが判明したんです。聞きたいですか?」

「別に。じゃあ、お休み」


 今の俺に必要なのは筒の情報ではなく睡眠だ。よって、俺の答えはただ1つ。『どうでも良い。だから早く寝させろ』だ。


「聞いて下さいよぉ・・・・・」


 そんなに聞いて欲しい事だったのだろうか、何か湖晴が涙ぐんでしまっている。元々かなり可愛い顔の湖晴だが、涙ぐむと何か別の可憐さを感じてしまう。守ってあげたくなる様な、そんな感じの感情だ。


 そうだとしても、女の子を泣かすのは流石に気分が悪い。仕方無い。こうなったら最後まで話を聞いてやるか。


「・・・・・分かったよ。良いから話せ。聞いといてやるから」

「本当ですか?」


 グスングスンと半泣き状態の湖晴がやや上目遣いで聞いてくる。普段なら見る分には全然嬉しいが、今は困るので止めておいて欲しい。


「それでは、お話しましょう。あの筒について」

「おう」


 湖晴は少しだけ出ていた涙を白衣で拭き取り、いつも通りの落ち着いた雰囲気で話し始めた。


「まず、あの筒の構造についてです。筒の内部は完全な空洞になっていましたが、元々は次元さんがおっしゃっていた様に何かが入っていた事が分かりました」

「音がしてたしな」

「はい。ですが、筒の外部には出入り口が存在せず、特に損傷した跡も見受けられませんでした」

「でも、何かが入っていたんだろ?」


 俺が拾った時、筒の中から何か液体の様な物が移動する様な独特の音がした。しかし、湖晴に渡した時点ではそんな音はしなかった。俺の勘違い決め付けてしまえば早いが、そうだとは思えない。


「入ってはいました。ですが、それは次元さんが見つけてから、私に渡すまでの間に何時の間にか消失していました。それは何故なのか。答えは筒の内部に入っていた物質に関係してきます」

「内部の物質?」

「その内部の物質は調べてみた結果、タイム・イーターにより発生するワームホールの固定等に使用される物質と同じ物質である事が判明したんです」

「タイム・イーターの、だって?」


 それって結構大変な事じゃないのか?『タイム・イーターにより発生するワームホールの固定等に使用される物質』と同じ物質なんて。


 俺は全く持ってそんなに専門的な事は分からないが、これだけは断言出来る。タイム・イーターは普通の素粒子加速器ではない。それは大きさはもちろんの事、時空転移を始めとした様々な機能を見れば明らかだろう。


「この物質は先生が独自に開発した特殊な物で、世の中には出回っていないはずなのですが、何度調べても結果は変わる事はありませんでした」

「そんな物がどうして公園なんかに落ちてたんだ?」

「それはまだ分かっていません。ですが、もしかすると、先生がこの近くを通った時に落としたのかもしれません」

「その先生はそんな物持ち歩いて生活してんのか」


 危険すぎるだろ、その先生。俺はその物質が何なのかは知らんが、少なくとも危険ではないなんて事は無いはずだ。世間に出回っているならまだしも、出回っていないのなら、それなりに何か理由があるはずだしな。


「先生がこの近くを通ったと言うのは、可能性の1つとして受け止めておいて下さい」

「で、話は終わりか?終わったなら俺はもう寝させてもらうぞ」


 俺は今相当眠い。どのくらい眠いかって?もちろん、さっきよりは眠い。そうだな例えるなら、普段は一般的な睡眠時間の人が冬場のマラソン大会(3km)を走り終え、その日は一睡もせずに過ごし、次の日の1時間目の授業(古文)中くらい眠い、と言えば分かるだろうか。分からないか。


「筒の話は終わりましたが、次元さんにはもう少し働いてもらう事になります」

「え?」


 まだ何かあるのかよ。湖晴の『次元さんにはもう少し働いてもらう』と言う台詞の表現方法が少し引っかかるが、眠いのでスルーしておく。


「今から『豊岡阿燕さんを尾行します』」

「はぁぁぁぁぁ!?何で!?俺別にストーカー趣味とかねえよ!?」


 何をどうやったらそんな結論に達すると言うのか。今言った通り、俺にはストーカー趣味なんて無い。なら、まさか、湖晴にそんな趣味があるのか?そうだとしたら、かなりイメージ下がるぞ。


「いえ。ストーカーとかではなく。人を救う為にするんですが」

「あ?そうなのか?誰かを守る為に?」


 良かった。ストーカーではない別の目的があったらしい。今回も俺の杞憂だったらしい。湖晴に新たな属性を追加しなくても済みそうだ。


「殺された3人は元々1つの犯行グループだったんです。おそらくその3人が阿燕さんが通りかかった銀行に強盗として押しかけたのでしょう」

「それがどうしたんだよ」

「あと1人『狙われるはずの人』がいますよね?」

「・・・・・まさか!」


 湖晴の言う『狙われるはずの人』は確かに存在する。豊岡の復讐が、自分の夢や友達を奪った右目だとすると、普通はその原因を作った人が順に狙われていくだろう。多分、復讐とはそんな物だ。


 つまり、今既に殺されてしまったのは犯行グループの3人。そして、残る1人。豊岡の右目の視力を奪った張本人がいるじゃないか。


「はい。その通りです。『阿燕さんに誤って発砲してしまった警官が1人』残っています」

「!」

「どうされますか?このままだとその人は阿燕さんに殺される事でしょう。時期は何時かは分かりませんが、そう遠くは無いかもしれません。もしかすると、今晩の可能性もあります」

「・・・・・そんなの選択肢は1つしか無いじゃないか!」


 湖晴は元々俺に選択肢を与えるつもりは無いのだろう。だからこそ、俺を追い詰める様な言い方をする。それが1人の人生、豊岡に狙われている1人の人生を救う為の唯一の方法だから。


「ここで次元さんが動いても動かなくても、その先に待っている結果はこの『今の』世界であらかじめ決められていた事です。だから、どんな結末になろうが、次元さんが気に病む必要は無いんですよ?」

「・・・そうだとしても!俺は殺されるかもしれない人を見殺しなんかには出来ない。それに、豊岡にはもう誰も殺させはしない。本来、あんな子が殺人に手を染めてはいけないんだ」


 そうだ。俺は今晩殺されるかもしれない警官を守りたくてこんな事を言った訳ではない。俺は豊岡を救いたいだけなんだ。


 だって、考えてもみろ。今までは相手が犯行グループの人間だったからまだしも、次は警官だぞ?殺しにかかったら普通に捕まってしまうだろう。俺はそんな結末を絶対に認めない。それが社会の正しいルールだとしても。


「分かりました。では、参りましょう」


 そして、俺と湖晴は豊岡の現在位置をタイム・イーターで調べた後、そこへと向かう。


 目的地はここから(俺の家)からはかなり遠い場所だった。その場所とは、駅前の商店街の通りだった。

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