第08部
【2023年09月13日21時02分13秒】
都合良く『次の日の学校』とかになるかと思っていたのだが、そうはならなかった。ご覧の通り今は夕方に湖晴と会話してからおよそ3時間経ったその日の夜だ。色々とあったので、ここに余計な話を追加しておく。
俺と珠洲と湖晴で夕食を食べた後、湖晴の部屋を決めた。俺の部屋の隣に元々珠洲の部屋があったので、珠洲の部屋の更に横の部屋が湖晴の部屋になった。部屋決めは主に珠洲が主導権を握っていたが、俺は細かい事は気にしない派なので詳しくは明記しない。
俺の家は住んでいる人間が基本的に俺と珠洲の2人しかいない訳だが、昔は普通に両親も住んでいて、今でも夏休みには帰ってくるのでそれなりに部屋が余っている。ちなみに今回湖晴の部屋となったのはそんな空き部屋の内の1つだ。
部屋決めの後、湖晴が風呂に入っている間に珠洲に呼ばれた。おそらく、湖晴の事だと思うが俺と湖晴は特に変な関係ではない(過去改変をした事は内緒)ので何も恐れる事は無い。だから、俺は素直に珠洲との話し合いに打ち込めた。でも、その話し合いは何故か俺の部屋だったが。
「で、おにぃちゃん。本当にあの青髪白衣とは何とも無いんだよね?」
俺のベッドの上でごろごろしながら珠洲が俺に問う。俺は椅子に座って思った。答えはもちろん『YES』だ。俺と湖晴は表向きはただの友人だ。本当の所は友人ではなくタイム・トラベラー仲なのだが、珠洲にこの事を言ってもややこしくなるだけだ。だから、あえて言わないでおく。
「ああ。もちろんだ」
「それなら良いんだけど。でも、ワタシがクラブとかでいない間にイチャイチャしないようにね?」
「だからそんな関係じゃないから、安心しろ」
「うん。おにぃちゃんならそんな事は無いと思ってるよ。現に茶髪リボンにも今まで手を出した事なんて無いでしょ?」
「ねえよ!」
珠洲の中での俺の評価ってどうなってるんだろうか。日頃の生活でも俺はそんなに変態に見えるのだろうか。全く記憶に無い。
「まあ、一応ワタシからの話はもう終わったんだけどね」
「早いな。それだけか?」
「あ、もう1個あった」
「ん?そうか。言ってみろ」
「おにぃちゃんは何処でどうやって青髪白衣と知り合ったの?」
「・・・・・・・」
しまった。まさか、そんな事を聞かれるとは思ってもいなかった。冷静に考えても、俺と湖晴には全く接点が無い。性格、学力、境遇、性別・・・他にも色々とあるが、何1つとして噛み合っている物が無い。どうすれば誤魔化せるだろうか。
「言えない?」
珠洲に笑顔でそんな事を言われましたとさ。処刑まで残りおよそ10秒といった所だろうか、珠洲が俺の机から文房具(凶器)を取りに行こうとしている。
「いやいやいや!言える、言えるぞ!」
「そう。じゃあ、言ってみて」
延命の為に俺は再び自身の首を絞めてしまった。
その時に、俺はふとそれなりに説得力がありそう(良く考えたら全く無い)な言い訳を思い付いた。
「そうだ!俺と湖晴はネトゲ仲間なんだ!」
「ネトゲって、パソコンでやるゲームの事?]
「そうさ!そうに決まっている!いや、そうとしか考えられない!」
「おにぃちゃん友達いないのに?仲間いたの?」
率直に酷い事を言われた。確かにその通りだが、もう少し表現をオブラートに包んでくれても良いものを。・・・・・はて、前にもこんな事を思ったような気がする。別に良いか。取りあえず俺は珠洲に適当な言い訳をし続ける。
「現実世界と仮想世界は違うんだ!」
「何か、おにぃちゃん。その台詞だけ聞くとイメージ下がるから止めといて」
「友達いない俺にイメージも何も無い」
ついに開き直ってしまう俺。
「別に良いけどさ。じゃあ、まとめるとおにぃちゃんと青髪白衣はネットで知り合い、現実でも会って、そして、家を追い出された青髪白衣をウチに居候させている、と」
「ああ。そんな所だ」
何度も言うが、実際は全く違う。これは珠洲を誤魔化す為の言い訳だ。事実は『俺の家に湖晴が居候している事』くらいだ。
「おにぃちゃん」
「どうした?」
「最近、ネットで知り合った人を陥れる詐欺が流行っているらしいよ?」
「大丈夫だ。安心しろ」
俺は珠洲の台詞をすぐにシャットダウンした。
そう。俺はここまで来てようやく気付いた。良く考えれば、幾ら理論を展開しても珠洲はその天才的な頭脳で乗り越えてくる。つまり、俺がどんだけ言い訳をしてもこの会話は珠洲が諦めない限り永遠と続く。
そんな状態は是非とも避けたいので、俺は無理矢理話を180°回転して、全く別の話題を提供した。そろそろ本気で眠いしな。
「そう言えば、珠洲」
「ん?何?」
「何で音穏や湖晴の事を外見の特徴で呼ぶんだ?」
今までずっと気になっていた事を俺は珠洲に聞いた。
「別に。その方が分かりやすいし」
「まさか、自分の友達もそんな呼び方してるんじゃないだろうな」
「流石にそんな事してないよ。ワタシが心を許した人は普通に名前で呼ぶもん」
「そうかい」
特に理由は無かったらしい。珠洲が『心を許した人』の基準が良く分からないが、多分仲が良い人の事だろう。
そうなると俺はどう言う立ち位置なんだろうか。いつも『おにぃちゃん』と呼ばれているが、これは俺の本名でも外見の特徴でもなく、家族的な関係だ。普通に考えたら何も違和感は無いが、珠洲くらいの歳の妹が素直に兄の事を『おにぃちゃん』なんて呼ぶのは結構珍しい事だと思う。時間もあるし聞いてみるか。
「じゃあ珠洲。俺を『おにぃちゃん』と呼ぶにも訳があるのか?家族的な関係ではなく『心を許した人』以外の何かが」
「そりゃあ、あるよ。おにぃちゃんだもん」
「ほう。聞かせてもらおう」
「それはね、家族的な関係以前に『身も心も許した人』だからだよ」
「・・・・・・・ん?」
俺は珠洲の台詞を聞いた後、数秒間固まっていた。そして、今の珠洲の台詞が何かおかしい事に気付く。『身も心も許した人』と珠洲は言った。何か、余計な2文字が最初に入っている気がする。気のせいか?気のせいであって欲しいが気のせいではないな。
「それってどう言う・・・」
「言葉通りの意味だよ?『何時でも襲ってきてもOK!』って事」
「だから、そんな事しないって!」
「アハハ、おにぃちゃんってば可愛いなぁー。そんなあからさまに動揺しないでよー」
「珠洲が変な事言い始めたからだろ!?」
「えー。変な事じゃないじゃーん。別に今でも良いけど?」
「だからそれが変だって!俺はそんな事しないし!何だ、珠洲ってブラコンだったのか!?」
「うん。そだよ」
妹から爆弾発言をされてしまった。
「・・・・・あ、そうなの?」
「うん。大好きだよ。おにぃーちゃん」
何か照れる。妹がブラコンである事が発覚してしまった。だが、普通に可愛いくて、何でも出来る珠洲にそんな風に言われるとどうしても照れてしまう。珠洲が妹じゃなかったら、確実にOKしていた。しかし、現実とは厳しいものだ。少なくとも俺と珠洲は戸籍上は兄妹なのだから。
・・・・・とか考えていると、珠洲が顔を(俺の)枕に押し当てて笑いまくっているのが分かった。
「何笑ってるんだ?」
「アハハ。いやごめん。おにぃちゃん、やっぱり可愛いなぁーって思って。妹に『好きだー』って言われて素直に喜べる兄なんて中々いないよ?ワタシはやっぱり良いおにぃちゃんを持ったもんだ。うんうん」
「まさか!図ったな!?」
「フ、かかったな・・・・・なーんて。安心して、好きなのは本心だから」
「・・・・・・・」
何処からが本気で何処からが冗談なのか分からなくなってきたぞ。
「(まあでもその内、おにぃちゃんにも言って欲しいんだけどね。もちろん、恋愛的な意味で)」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、何でも無いよ。でも何時かは気付いてね?」
「『何に』かは分からんが。そうか、それなら良いんだが、珠洲は何時までここにいるんだ?」
「うーんと・・・明日の朝までかな?」
「それは止めておけ。夜は危険だ」
「えー。だってワタシが見張っておかないとおにぃちゃんと青髪白衣が何か卑猥な事をするかもしれないじゃん」
「何度も言うが、俺はそんな事しないぞ!?」
「アハハ。やっぱりおにぃちゃんは良いキャラしてるよ」
「何が!?」
そんな風に珠洲と雑談をしていたのだが、その雑談は廊下から走って来る居候少女によって中断、いや、終了に追い込まれた。
「次元さん!そう言えば今思い出したのですが、私が買って来たロボットの部品は何処へ!?」
風呂の最中に突然思い出したからなのか、泡だらけ全裸の湖晴がそこにいた。
確かに湖晴から預かっていたロボットのパーツは、まだ俺の部屋の隅にある訳だが、それでも風呂上りに回収しに来れば良いのに。
「おにぃーちゃーん?」
俺の背後から珠洲のどすの利いた声が聞こえてきた。
「おにぃちゃん!」
「次元さん!」
「わあああああ!俺はもう寝る!知らん!」
俺は2人とロボットのパーツが入った紙袋を俺の部屋の外に放り出し、会話を強制終了した。
俺は眠いんだ。珠洲の処刑活動と湖晴の天然行動に付き合っていたら、ネタは尽きないだろうが、俺の体力がマイナス値に振れてしまう。やはりそれでは困る。
明日はいよいよアプローチだ。体力も出来るだけ温存してなるべく回復しておきたい。
そして、俺は部屋の電気を消しベッドに潜り込み目を閉じた。ドアの外から珠洲の怒りのオーラを感じ取る事が出来たが、それでもやはり疲れていたのか平常心で眠る事が出来た。
次の日、朝起きてみると俺のベッドに珠洲と湖晴が潜り込んで眠っていたのは言うまでもないだろう。・・・・・言うまでもないかな?あまり気にしないでおいた方が得策かもしれない。




