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40.対決!! 地球人の代表者!(4)

次の日、きっ子は平常心を心がけながら数学の授業をこなし、四限目は自身が担任するクラスとなった。


覇気のない視線で黒板と教科書とを往復させている未來の後ろの席で、カナタは目をギラつかせながら黒板の数式を睨みつけ、ノートを書きなぐっていた。


間抜け面で外を眺めているか、居眠りしているか、そのどっちかだったのに……。カナタが数学なんてものを必死で勉強する姿はこれで見納めね。


きっ子は目を細め、心中で呟いた。


放課後。進路指導室で待っていると、カナタが入ってきた。続いて入ってきたのは優子、そして最後にツクヨマだ。


優子までついてくるという失態を非難して睨んだのに、微塵も動揺する様子がないので、未來ではなくツクヨマだと判断した。


「なに!? 私、忙しいんだけど!」開口一番、カナタが剣呑にいった。


「いいたいことは、昨日電話でいったとおりだ。アンドロメダのことはあきらめろ」


「絶対イヤッ! なんでサッキーにそんなこと指図されなきゃならないのよ!」


激しい口調だ。話を長引かせると、途中で帰られかねない。きっ子は早速、最終手段をとった。


「カナタのためにいってるんだ。アンドロメダをあきらめないと、未來に殺されるぞ!」


「一部、正確ではないことがあります」ツクヨマがきっ子とカナタの間にすっと入った。「蓮川カナタを駆除するのは、AI人格の未來ではありません。本体である私こと、銀河連邦星間安全保障委員会付けパトロール隊員、通称、銀河パトロール、二級隊員のツクヨマです」


「うへ?」カナタがツクヨマを見て、両眉を上げた。


「なに? ドッキリ?」優子がドスンと椅子に腰を落とした。「バッカナタからアンドロメダに行ってきたなんていう、長い長い与太話を聞かされるし、未來は未來でなにか隠してると思ったら……意味不明なこといいだすし」


ツクヨマは優子を無視して、カナタの前へ。息がかかるような距離だ。


「蓮川カナタ、危険なく記憶消去するために、アンドロメダへ行きたいという願いはあきらめてください。もし拒否するようなら、私はアナタを駆除します」


カナタは目をぱちくりとさせてから優子の方を向いた。


「優子、未來が変だ」


「アンタより変な人間なんて、いるわけないじゃない」


優子はそう軽口を叩くも、表情は硬かった。何かしら不穏なものを感じとったのだろう。


「みんなで私をバカにしてるの!? もう、帰る!」


ふんっと鼻を鳴らしてから踵を返したカナタは、ドアを乱雑に開く。廊下を初夏の力強い西日が照らしているわけではなく、ドアの外は真っ黒だった。


カナタは数秒間固まってから、振り返る。


「なになになに!」


「この部屋を地球の時空間から切り離しました。地球人の科学力では脱出することは不可能です」ツクヨマが淡々と応じる。


「先生!」


大きな音を立てて優子が立ち上がった。さすがに顔は白くなっている。


「まあ、簡単に話すと、私と未來は宇宙人なんだ。さらに未來は宇宙の警察みたいなものでーー」


「意味がわかりません!」遮って優子が叫ぶ。


「だったら、黙ってろっ! カナタの命がかかっているんだ!」


きっ子はカッと目を開いて優子を見据える。直前に視覚操作を切っていた。マネキンのような白すぎる肌に、銀髪と銀の瞳、きっ子の素の顔が優子には見えているはずだ。


固まった優子と無表情のツクヨマを押しのけて進み、きっ子はカナタの肩を両手でつかんだ。


「私たち宇宙人の科学力にカナタは触れた。そのことでカナタが地球の進化に影響をもたらすと、銀河連邦が判断しちゃったの。そんなことあるわけないのにね。でも、その判断がくだった以上、銀河パトロールであるツクヨマはあなたの記憶を消去しなくちゃならない。もしそれができないなら、カナタを殺してでも地球の不当な進化を止めるというの。だから――」


「いやよ」最後まで聞かずに、カナタははねつけた。


大きく息を吐いてから、きっ子は続ける。


「せっかく見つけた目標だものね。気持ちはわかるわ。教師としても、私個人の感情としても、本意ではない。でも、アンドロメダへの夢はあきらめなさい。あなたの命がかかってるのだから」


「い、やっ!」カナタはそっぽを向いた。


「最後まで聞け!」きっ子はカナタの胸ぐらをつかんで無理やり前を向かせる。「アンドロメダのことは忘れるんだ。そうしないと、殺されるんだぞ!」


「それでも、絶対イヤ!」


「説得は失敗したようです」背後からツクヨマの声がした。


「待て待て待て待てっ! こいつはバカだから、ちゃんと理解できていないだけだ!」きっ子は早口でいってから、なんとか優しい笑みを造り込んだ。「カナタ、いい? 落ち着いて聞いてね。確かに今、アンドロメダのことをあきらめたら、もうアンドロメダには行くことができないわ。でも、あきらめなくても、カナタは殺されてしまうから、アンドロメダには行けないの。わかる? つまり、どちらにしろアンドロメダはあきらめないといけないのよ。アンドロメダへの憧れを抱きながら生きるのが辛いというなら心配しなくてもいいわ。ちゃんと記憶は消してあげるから。ねっ、わかった? 私はカナタに死んでほしくないの。一緒に卒業式に出ようね」


「まあ、そうね。私も死にたくはない」


「やっとわかってくれたかぁー」きっ子は目をつむり、安堵の息を吐いた。


「死にたくはないけど、アンドロメダのことはあきらめない」


「へっ? なんで?」きっ子の思考は停止し、無意識にそう発していた。


「あのとき見たアンドロメダの星々は、地球人には遠すぎるように思えた。環境問題や核戦争とかで滅びちゃって、きっと地球人じゃアンドロメダには届かない。だから……だからこそ……私はあきらめるわけにはいかないの。私が地球人をアンドロメダに導かないとダメなの!」


「いつからお前は地球人代表になったんだぁぁ!」


ほとんどパニックになって、きっ子はカナタの胸ぐらをつかんだままブンブン揺さぶる。

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