39.対決!! 地球人の代表者!(3)
「カナタを殺すっていうのか!」きっ子はツクヨマの胸ぐらをつかみ、声を荒げた。
「そのとおりです。未開惑星に不法な進化が起こるリスクがあった場合、その対象を駆除することは法的に認められています」ツクヨマはなんら動揺することなく淡々と返す。
舌打ちのあと、きっ子はツクヨマから手を離した。
「やるよ、やればいいんだろ! 私が必ずカナタを救ってやるよ!」
「提案に承諾したということで、承知しました。では、残りの連絡事項を伝えます。日本時間夜の三時以降に電話連絡があった場合、AI人格『未來』ではなく、私が出ますので、要件があればどうぞ。また、先ほどの接触でサイル・ト・ルー・キコの遺伝子情報はすでに犯罪者データベースに登録済みです。どこに逃亡しても、こちらの操作で瞬時に刑務所へワープが可能です。その場合、執行猶予の提案も無効となります」
「遺伝子情報を取られた以上、どこに逃げても無駄なのは知ってるよ!」きっ子は恨めしそうにツクヨマを睨む。
返ってきたのは、「えっ、先生、あの、私……」と、うろたえる姿だ。ツクヨマではなく、未來であることは一目瞭然だった。そして未來は、「えと、あの、失礼します」とオドオドしながら部屋を出た。
きっ子はイスに座りながらも手足を放りだし、「未來は……AIだったのか……」と呟く。
ずしりと身体が鉛になったかのようなやるせなさを感じながらも、頬を数回叩いて気持ちを切り替えた。そしてカナタに電話をかける。
「なに? もうすぐバイトなんだけど」
「進路のことなんだけどさあ。いや、勉強するのはいいことなんだが、さすがにアンドロメダに行くとか、無茶苦茶じゃない? もっと現実的な夢を持とうよ」
「アンドロメダのことがなかったら、私が勉強なんてするわけないじゃん。バカじゃないの?」
電話が切られた。負けじときっ子はかけなおす。
「なによ! バイトだっていってるでしょ!」
「いや、その、アンドロメダのことなんだけどね」
「なにが不満なのっ! 勉強するっていってんだから、私がなにを目指そうとサッキーは困らないでしょ! お金返さないといけないからバイトもするけど、サッキーが見つけてくれた塾にも行くわ。たとえ東大に落ちることになったとしても、私は勉強がしたいの! しなくちゃいけないのっ!」
「その、けどね……人生、勉強だけが全てじゃないんだし」
なにをいわされとるのだ、私は……。そうきっ子がうなだれていると、「あっそう」で電話を切られた。負けじとかけなおすも、カナタが出ることはなかった。
もうバイトは終わってるはずだ!
夜十時に自宅のマンションに着いたきっ子は、さっそくカナタに電話をかけた。カナタが出たので説得を試みたが、放課後のやり取りと大差ないまま、「勉強の邪魔するな!」と電話を切られた。
再度かけるも、もう出てはくれなかった。
やはり明日中にカナタを説得するなど不可能だ。いや、何年あっても無理だろう。
「どうしたものか……」とぼやいたきっ子は、もう最終手段に出るしかないと決心した。アンドロメダをあきらめないとツクヨマに殺されてしまうことを、教えてやるしかないのだ。
だがそれには、未來の正体を明かす必要がある。友達は人間ではなく、誰かにプログラムされたAIだとばらす必要がある。
AI人格に慣れていない地球人にとっては酷なことだろう。できればそんなことはしたくない。だが、命には代えられない。それに、傷付くとしても一時的なことで、どのみち未來の正体は、アンドロメダの記憶と共に消し去ることとなるのだ。
あれやこれや思案していると、夜の三時になった。きっ子は未來の電話番号にかけた。
「ツクヨマです。用件をどうぞ」
放課後に聞いたとおり、応答したのはツクヨマだ。
「カナタを説得するために、このままじゃアンタに殺されるってことバラすけど、問題ある?」
「その記憶も消去することになるので、問題はありません」
「問題はないってか! 軽くいってくれちゃうわね。友達に殺されるかもしれないってのは、相当ショックなはずよ」
「それは『未來』であって、私自身は蓮川カナタの友達ではありません」
「そうかいそうかい。で、アンタも来てくれるんでしょ。そうじゃないとカナタは信じないし」
「もちろんです。こちらとしても、そのほうが都合が良いです」
「アンタの都合?」
「はい。蓮川カナタ説得の失敗を確認できれば、すぐに駆除を実行できますので」
そんなことになったら、アンタの首をへし折ってやるからな! その想いは心の中だけにとどめた。
「あっそう。じゃあ、明日ね」
「はい。では放課後、昨日と同じ部屋に蓮川カナタを連れて向かいます」
電話が切れた。きっ子は寝室のベッドに転がり、大きく息を吐く。
これで、説得は確実に成功するはずだ。カナタがどれほどアンドロメダに恋い焦がれていようが、命がかかっている以上は選択肢がない。命あってこその夢や希望だ。
死んでしまったら、なにも為すことはできないのだから。




