3.運命の人(3)
イジメに関しては優子にも覚えがある。
もともと優子は県下トップの進学校にも問題なく受かると教師に太鼓判を押されていたにもかかわらず、カナタと同じ平均以下の高校に入学した。努力せずとも学年トップの学力に、見た目も家柄もいいとなれば、嫉妬の対象になるのは必然だ。陰湿な嫌がらせを受けた時期もあった。それを笑って吹き飛ばせたのは、バカ一直線のカナタの影響も大いにある。
『バカはバカなのだからバカと割り切って相手してやらないといけない!』
優子はそんなスローガンをかかげて、自身にヘイトを持っていそうなクラスメートにすりよっては、宿題の面倒をみてやった。教師に責められている時には、多少無茶な論理になっても擁護してやった。皆が嫌がる作業も率先してやった。
二学期の中盤にもなればイジメはなくなり、そのまま二年生になると以前のクラスメートに推薦されて当然のようにクラス委員長になった。三年生でも推薦されてしまい、二年連続だ。
今や私はカースト上位にいる。未來ぐらいは守ってやれる力があるはずだ。そう、優子は自負している。
「行こう。カナタはバカだから、自分がひとりで探すといったのも忘れて、なぜ手伝わないんだ、って怒りだすからね」
案の定、一つ先の交差点でカナタは振り返り、「遅い! なにグズグズしてんのさ!」と、怒鳴りだした。
カナタの好きに歩かせているうちに、一時間が経った。カナタは街ブラする気などなく、一心不乱に『北極星の母』を探していた。
「さすがに疲れた。どっかでお茶休憩しようよ」優子がいった。
「いいだしっぺの優子の奢りだからな!」カナタは血走った眼で返す。
臨時ボーナスをもらったリッチマンはどこにいったのやら……。
「わかったわかった。なんでもいいから一旦、休憩」
優子はスマホを操作した。目の前の信号を左に折れて、百メートルほど行けば喫茶店があるようだ。
優子が先頭に立って、スマホが示した道を進んだ。カナタはその間も愚痴り続け、未來はなんといったものかと困りはてているようだった。喫茶店の立て看板が見えだしたあたりで、「でかした、優子!」とカナタが急に駆けだす。
ナニゴトかと驚いた優子だが、今カナタを虜にするものはひとつしかない。『北極星の母』だ。優子と未來も走って追いかけ、立て看板の隣でパイプ椅子に座る老婆を発見した。
「探したぞ。やっと、見つけた!」カナタは呼吸を荒げながら、老婆の正面に立つ。
本当にいたんだ! と優子は驚いた。
カナタには悪いが、『北極星の母』を持ちだしたのは、恋愛話でカナタをイジるためであって、本当にいるかは半信半疑だった。というのも、『北極星の母』の噂は、優子たちが通う高校から近い女子大と短大のSNSでしか見かけないもので、実際に占ったという人は片手で数えるぐらいしかいないのだ。
『#北極星の母』で検索してヒットするのは、『凄い占い師がいるらしい』との噂話が大半で、テレビに映ったわけでも雑誌にのったわけでもない。信憑性の落ちるネットの情報だ。
もしカナタが先に『北極星の母』の噂を持ちだしたなら、優子は都市伝説だと一笑しただろう。
だが今、噂の人物が現れた。真っ白な髪を後ろで束ね、『北極星』とマジックで書いた鉢巻きをしめた老婆だ。パイプ椅子にちょこんと座っているだけというのも、噂の通りだった。
「占ってよ!」カナタは『北極星の母』を見下ろし、指差した。「私、石油王になりたいの! どうすればいい!?」
「あっ、違います。赤い糸で結ばれた運命の人について、占ってあげてください」優子が割り込んだ。
「なんだっていい。最終的に石油王になれるのならね!」挑むような表情で、カナタはいう。
「やれやれ、無礼な娘じゃのう。まあ、いい。占ってやろう。前に座れ」
SNS情報ではタロットカードを使うでもなく、手相を見るでもなく、額を触るだけで占うのだという。いわれた通りにカナタはしゃがんだ。『北極星の母』が手を伸ばせば、額に届くだろう位置だ。だが、彼女はおもむろにパイプ椅子の上に立つ。そして、のけ反りながらジャンプ。見上げるカナタの額をめがけて、頭を振り下ろす。
ガチンと音がして、カナタはひっくり返った。状況はよくわからないが、「ダイビング・ヘッドバット」と、優子は呟いていた。




